2013年05月20日
のこされ劇場≡『枝光本町商店街』03/23(土) 、03/30(土)枝光本町商店街アイアンシアター
のこされ劇場≡は市原幹也さんが演出・主催される北九州の劇団で、枝光本町商店街の中にあるアイアンシアターのレジデント・カンパニーです。⇒2010年9月に伺った時の写真レポート
「CoRich舞台芸術まつり!2013春」審査員として拝見しました(⇒99本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載しました(2013/05/21)。
★2013年5月に市原幹也さんがアイアンシターの芸術監督を退任し、のこされ劇場≡はレジデントカンパニーではなくなりました。⇒のこされ劇場≡の公式サイト ⇒アイアンシアターの公式サイト
【劇場入り口】
【劇場入り口の嬉しい看板】
⇒CoRich舞台芸術!『枝光本町商店街』
■私もいつか地層になる。商店街で、時空を超える演劇的体験。
電車、モノレール、飛行機、バスを乗り継いで、最寄駅から徒歩でアイアンシアターに辿り着きました。長旅でした。劇場に着くと、まず今回の散歩型演劇についての説明と、参加者の簡単な自己紹介。いわゆる劇場での演劇公演とは全く違うオープニングはとても新鮮で、非日常への切り替えスイッチが一瞬で入りました。
枝光という街を媒介にして、自分の生まれ育った街の思い出を引き寄せ、重ねるような体験でした。今、ココを生きている生活者と交流し、彼らの語る過去と現在が鮮やかに記憶に刻まれ、私の過去とともに血肉になったように思います。
公演が終わった帰り道、街に隣接するテーマパーク「スペースワールド」を横目に見ながら、私自身と街を全部飲みこんで、周囲の全てが地層になったような感触を味わいました。それは遠い、遠い未来の視点から世界と私を見つめる行為です。枝光の土地と一体になれたから、遥か遠くへと思考をジャンプさせることができたのだと思います。
【劇場内の展示品】
ここからネタバレします。
和菓子屋さんでは、昔の枝光には遊郭があって300人のおいらんがいたという話を聴きました。そして名物もなかの実習を受け、完成品をご馳走になりました。八百屋さんでは元気で陽気なお父さんに歌を詠んでもらいました。お肉屋さんで美味しい自家製コロッケを買い、からあげをご馳走になりました。そば屋「鶴亀」ではおそばを…食べたわけではなく(笑)、枝光本町商店街アイアンシアターがこの商店街で行ってきた活動の記録を見せていただきました。枝光にやってきた劇団、ダンサーの写真や、商店街が採り上げられたテレビ番組の映像など盛りだくさんで、壁には多数の展示物もあり、店内はまるで資料館のよう。店主の井上敏信さんは枝光の歴史も研究されており、製鉄所があった時代の白黒写真から、当時の風俗についての詳しい講義もしてくださいました。洋装店さんでは、古いアルバムの中から枝光の街の変化がわかる写真を見せていただきました。製鉄所の街として大いに栄えた枝光は今や過疎の街ですが、商店街をめぐる割安バスの運行を始めたことで、買い物客が増加しているそうです。
【生そば 鶴亀の店内】
街歩き演劇の最終地点は廃屋になりかけた元料亭。宿泊可能な和室や広い調理場などには、家財道具が放置されたままで、当時の生活の香りが残っていました。小さな台所の食器棚に、私の大阪の祖母の家にあったのと全く同じ食器があり、見覚えのあるデザインのガラス戸もあって驚きました。戦後の高度成長期に作られた商品たちは、日本全国津々浦々に広まったんですね。そして流行遅れになり、棄てられて失われていった。炭鉱の廃坑や製鉄所の閉鎖とも重なります。
建て増ししたビルの屋上に登ると、枝光の街が一望できました。80代になるまでそこに住んでいたというオーナー女性の名前は「ゆきこさん」。最後は案内人だった劇団員の役者さんが、屋上で「ゆきこさん」を演じ、料亭の外に出た参加者たちに手を振るという「お芝居」が用意されていました。今はもういない「ゆきこさん」を通じて、掘り起こされた料亭の歴史と記憶を共有することができました。
料亭はいつか取り壊され、「ゆきこさん」との出会いは参加者の記憶の中だけに残ることになるのでしょう。そば屋「鶴亀」で見た白黒写真に写っていた木造の劇場の跡には、製鉄所の購買部が出来て、製鉄所がスペースワールドになった今では、スーパーマーケットが営業されています。人が死んで、物も建物も朽ちて無くなれば、商店街の人たちと過ごした優しい時間も、忘れら去られ消えてしまいます。でも、土地だけは、そこにあり続けるんですよね。
アイアンシアターから枝光駅へと向かう帰り道、向かって左にスペースワールドを見ながら、枝光中央商店街での旅を思い返した時、自分が地層の中に埋もれて行くような感覚を覚えました。地面から上空までが地層になったように感じたのです。同時に、海底に沈んだ幻のアトランティス大陸も思い浮かべました。海底に沈む私、やがて土になる私…それが積み重なって蓄積されていく、地球の歴史。街歩きから宇宙規模にまで想像は広がり、身体的にも不思議な体験をすることができました。
【劇場公式みやげのひょうたん最中】
以上のように、演劇の効果として得られた体験には非常に満足だったのですが、演技や演出についてはもっと練る必要があると思いました。お散歩演劇といえば岸井大輔さんの『ポタライブ』、リミニ・プロトコルの『Cargo Tokyo - Yokohama』、廃屋めぐりだと飴屋法水さんの『わたしのすがた』などを私は拝見しています。街の探索がメインだったとしても、お芝居として用意されたのが最後に「ゆきこさん」を演じることだけだったのは、取って付けたようで物足りなかったです。できれば旅の最初や途中にも、仕掛けや伏線を張るなどの演出が欲しかったですね。役者さんの演技やせりふも改善の余地があると思いました。
※3月30日の回終演後には作品や街について、観客の皆さんとおしゃべりをする、ポスト・パフォーマンス・トークのアフターイベントがあります。(進行:市原幹也)
出演:沖田みやこ(のこされ劇場≡)、水摩直美(みずま菓子舗)、田中幸治(ふるーつ&やさい・たなか)、三木進(三木呉服店)、井上敏信(生そば鶴亀)、他、商店街の皆さん
一般:1800円 学生:1500円
*未就学児・低学年の小学生は、保護者同伴でご来場ください。 *受付時に、荷物のお預かりや、傘の貸出を行っています。 *なるべく歩きやすい服装でご来場ください。 *公演中のお買い物の代金は、参加料金に含まれておりません。 *チケットの事前発行はいたしません。料金は当日受付で精算となります。
http://nokogeki.com/blog/blog.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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悪い芝居『キャッチャーインザ闇』03/20-26王子小劇場
山崎彬さんが作・演出・出演される京都の劇団“悪い芝居”。団体名の由来は「悪いけど、芝居させてください。の略」とのこと。山崎さんは『駄々の塊です』で岸田國士戯曲賞にノミネートされ、『嘘ツキ、号泣』で第17回OMS戯曲賞佳作を受賞されています。上演時間は約1時間50分。終演後に音楽ライブあり。
「CoRich舞台芸術まつり!2013春」審査員として拝見しました(⇒99本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも転載します。
⇒CoRich舞台芸術!『キャッチャーインザ闇』
■やりたいことをやる、ストレートな実行力
オープニングの暗闇までは興味をそそられたのですが、声が聴こえた途端に興ざめしてしまいました。若い役者さんが客席に向かって大きな声を出し、身体を元気に動かす様子を見どころとするタイプのお芝居で、演技の精度が低く、残念ながら全体的に集中できませんでした。作・演出・出演(ジャパン役)の山崎彬さんは、『駄々の塊です』で岸田國士戯曲賞最終候補にノミネートされ、『嘘ツキ、号泣』ではOMS戯曲賞佳作を受賞されています。せめて言葉だけでも味わえないかと自分なりに努力はしたのですが、役者さんが叫べば叫ぶほど、セリフが耳に入って来ませんでした。
衣装は派手な装飾と際どい色使いで工夫が凝らされていました。キャラクターをわかりやすく表す配慮は良かったと思いますが、安っぽさが気になっていまいました。テカっとまんべんなく白く照らす照明のせいで、粗が見えてしまったせいもあります。そう、LEDの照明がとても苦手でした。装置や俳優だけでなく、劇場の壁も客席もすべて白々しく照らしてしまうのです。闇と対比させる効果を狙ったのかもしれませんが、青白くて明るい光に照らされ、隅々まで晒されることにはリスクもあります。
劇団でバンド活動もされていて、毎公演終了後に無料で短いライブを披露しているとのこと。私が観た回の後もライブが行われていました。やりたいことをやるというストレートな実行力は作品にも表れていましたし、三都市ツアーを敢行する力を備えてるのも素晴らしいと思います。劇団独特の魅力があり、ファンを獲得していることにも納得でした。チラシのイラストがアーティスティックで、形も質感も独特で目を引きました。タイトルもキャッチコピーにもそそられました。
ここからネタバレします。
3つのエピソード(目が見えるようになった全盲女性とその夫と愛人の三角関係、女性アイドル短距離ランナーたちの闘い、先生と生徒2人の過去と夢の物語)は、それぞれに“闇”をモチーフにしていたようです。ギャグが多い目なのは関西らしさなのでしょうか。三段落ちもいいですけど、なるべく一発でキメて欲しいです。
終盤の無言で走り回る場面は面白く、集中して拝見できました。各エピソードの登場人物が全員出てきて、ステージ上だけでなく劇場通路、ロフト、ロビーまで使って、空間全体をカオスにしたてあげ、スリルもありました。
出演:大川原瑞穂、池川貴清、植田順平、呉城久美、宮下絵馬、森井めぐみ、北岸淳生、山崎彬、田川徳子(劇団赤鬼)、大塚宣幸(大阪バンガー帝国)、福原冠
【脚本・演出】山崎彬 【音楽】岡田太郎【舞台監督】大鹿展明/涌本法明[BS-Ⅱ]【美術】進野大輔【照明】西崎浩造[キザシ]【照明操作(新潟公演)】中島美沙希[キザシ]【音響】中野千弘[BS-Ⅱ]【音響操作・演奏】岡田太郎【衣装】植田昇明[kasane]【演出補】畑中華香【演出助手】高橋紘介・川上唯【アートワーク】久保友作【宣伝美術】松本久木【WEB】植田順平【制作】有田小乃美【制作協力】寺井ゆうこ[LOTUS]
【発売日】2013/01/01 一般前売2900円/学生前売2400円/高校生以下1000円 当日券500円増 ★早期観劇割引 一般2500円/学生2000円 未就学児童入場不可
http://waruishibai.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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