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しのぶの演劇レビュー
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2014年04月23日

範宙遊泳『うまれてないからまだしねない』04/19-27東京芸術劇場シアターイースト

 山本卓卓さんが作・演出される劇団範宙遊泳の新作です。東京芸術劇場eyes plusに選ばれてシアターイーストに進出。上演時間は約2時間。

 舞台中央面側の床に設置されたプロジェクターから舞台奥の壁に大きく映写する文字や映像と、俳優とのコンビネーションという手法においては、今年2月のTPAMで拝見した『幼女X』と同じだと思います。だからどうしても比べてしまったところもありましたね。『幼女X』の方が映像と肉体との拮抗があって面白かったです。

 ※『幼女X』は5月にマレーシアで、現地俳優によるマレー語での上演が決まっています。

 ⇒CoRich舞台芸術!『うまれてないからまだしねない

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 一瞬だけ空が緑色に輝いてからというもの
 地球には異変が起こりはじめた。
 すべての犬が散歩に行かなくなり、猫は左にしか曲がらなくなった。すべての花は自ら捩じれて茎にこぶ結びをつくるようになり、カエルはそれまでの倍以上跳ね上がるようになった。
 電柱の足場のボルトはどうしてだろう確実に以前より延び、すべての道路標示はさらさらと粉になって方方へ消えた(まるで旅に出るみたいに)。
 老人は皆風船のように膨らんで空に浮かび、いつか若者はそれを針で突いて割るだろう。
 すべてが着実に、ただし誰にも気付かれないように、そうなっていく。そして誰も気付かないうちに、着実に、地球から何もかもが消え去っていく。
 本当に誰もそれに、気が付かなかった。
 ≪ここまで≫

 範宙遊泳にも出演歴のある、フランスに留学中の女優の竹中香子さんのブログを思い出しました。「ミニマルで、シンプルな、簡単に言うと「映画的な」、リアリズムな演技形態にこそ、必須なのが、圧倒的な存在感。」なのだと思います。この作品で俳優はいわゆる“リアリズムの演技”しかしていなかったわけではありませんが、俳優自身の年齢相応の登場人物を、現代の話し言葉で演じていました。あの空間と映像演出に対して肉体の存在感が弱かったなぁと思います。

 この作品に限ったことではないのですが、人生や生死を扱う若い作家の作品で最近よく思うのが、生から死までの時間が短いということ。震災で津波も原発事故もありましたから、死を考えるのは当然だし必要なことだと思います。でも、日本は深刻な高齢化社会であることも事実ですよね。子供が生まれて自立しても親はすぐに死ねるわけじゃなく、驚くべきことが起こり続けるのが人生であるなぁ~…と、アラフォーのおばちゃんである私は日々実感せざるを得ません。まだ生きている、生きなければならない、いつ死ねるかわからないといった贅沢な不安も、生死の間に埋め込んでもらいたいなと思いました。

 ここからネタバレします。

 お芝居における映像と文字の使い手というと天野天街さんだと思います。『真夜中の弥次さん喜多さん』でも雨が「ザーザー」降りましたが、今作では視覚的な効果だけを狙ったのではなく、登場人物として「ザァザァ」という文字を使ったのかもしれません(トークでの発言から)。ただ、私には絵、動画、光(照明効果)にしか見えないんですよね。人物として認識できるのはプロジェクターの操作をしてる人であって、画像じゃないというか。私はロボット演劇も(アンドロイド演劇も)得意じゃないんです。人が見たい、人と人の間に起こることを体験したいと望むタイプの観客です。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫ おぼろげな記憶をもとにしたメモです。正確性はお約束できません。
 出演:山本卓卓 森達也(映画監督/作家) 

 森:大学でも教えてるんだけど、学生は新聞も本も読んでない。テレビも見てない。何を見てるかって言うとネットだよね。もちろんネットで本も新聞も読んでるのかもしれないけど。

 山本:SNSが発達して、文字やテキスト自体が生き物だという感覚があるんじゃないかと思う。

 森:この作品は…全部がいろんなメタファーなんですよね。

 山本:誰もが楽しい、悲しいと思うような、観客が同じ感想を持つ演技はさせないようにしている。ある演技を見て笑う人もいれば、泣く人もいる。そんな演出をする。

eyes plus
出演:大橋一輝、熊川ふみ、埜本幸良(以上範宙遊泳)、伊東沙保、大石将弘(ままごと)、椎橋綾那、田中美希恵、名児耶ゆり、波佐谷聡、福原冠
作・演出・映像/山本卓卓 美術監督/たかくらかずき(範宙遊泳) 楽曲製作/千葉広樹 美術/中村友美 照明/山内祐太 音響/高橋真衣 舞台監督/櫻井健太郎 衣裳/藤谷香子(FAI FAI) 演出助手/木村和博(いきずり) 制作助手/柿木初美 つくにうらら(カミグセ) 川口聡(範宙遊泳) 制作/宮永琢生(ままごと) 坂本もも(範宙遊泳/ロロ) 主催:範宙遊泳 助成:アーツカウンシル東京
【休演日】4/21【発売日】2014/02/15【一般】予約:3000円/当日:3500円 【学生】予約:2500円/当日:3000円【高校生】1000円 【中学生以下】500円
http://hanchuyuei.com/top.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年04月23日 14:22 | TrackBack (0)