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2014年04月21日

ゲンロン『相馬千秋×東浩紀 司会:上田洋子 ポスト311の「トーキョー」――東京五輪の文化プログラムをどう世界に開くか』04/19ゲンロンカフェ

 東浩紀さんが経営するゲンロンカフェでのトークショーに伺うのは2月以来2度目(⇒前回のレビュー)。今回のゲストは相馬千秋さんです。司会はロシア文学者の上田洋子さん。なんと休憩なしで4時間半!

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 私はいつもどっぷりと演劇界に入り込んでいるので、“アート”“批評”などの世界から演劇を見る視点をお持ちの方々のお話は、とても刺激的です。また、私自身もちょうど日本における「公共」の意味について興味を持っていたのでタイムリーでした。以下、私がメモしたことです。

 ≪メモしたこと≫ ※ごくごく一部ですし、間違いはあると思いますのでお許しを。

 東:フェスティバルに祝祭はやっぱり必要ではないか。大きい音が鳴るとかビカビカ派手に光るとか。盛り上がることが大事。

 相馬:「r:ead」では中国、韓国、タイ、日本の4か国語の通訳を用意している。大変だけれど、そこは死守している。
 東:東アジア圏の交流の際、お互いのことを知らなさすぎる。共通の話題がないから歴史認識を話すことになってしまう。フェスティバル・ボムの対談でもいきなり歴史認識の話題になった。

 相馬:F/Tは毎回数万人を動員していたが、有料のチケットでリピート鑑賞するコアな観客は5000人ぐらいだったと思われる。でもそれは世界的にも(他のフェスティバルでも)普通のこと。
 東:西洋でハイカルチャーを好きな人はお金持ちが多い。でも日本でハイカルチャーを好きな人は貧しい。
 東:巨万の富を持っている人が文化を支えるのは普遍の真理。
 東:お金はあるけど時間がない人にリーチするのがIT。ゲンロンカフェはネット中継(1本800円)があるから運営できている。

 東:日本のアートはハイコンテクスト。記号と文脈の蓄積でできている。共通の認識がある人しか楽しめない。わかる人にしかわからない。たとえば今の仮面ライダーは歴代の仮面ライダーが勢ぞろいする。エヴァンゲリオンはコンテクスト抜きで図像で評価すると笑われる。日本の良さを紹介するのは難しい。

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 相馬:震災以降に決心したこと。何も言わないより、言った方がいい。何もしないより、した方がいい。
 相馬:(3.11のような)きわめてラディカルな断絶が起こった時、自分が自分であるという物語を、文学や演劇がつむいでくれる。

 東:アートの仕掛けで死者と対話する。鎮魂する。再生する。
 相馬:アートは死者も、まだ生まれていない命も対象にできる。まだまだ可能性がある。

 東:「福島第一原発観光地化計画」の表紙は梅沢和木の絵。一人にとって大切なものが、みんなが見るとクズ(それが彼の絵が示していることの1つ)。大切なものがゴミクズになっていく。たとえばガレキ。それを受け入れることが追悼。

 東:日本が国内の死者を弔おうとすると、韓国や中国から怒られる。国外の死者を弔おうとすると、右翼に怒られる。日本は追悼の失敗をしてきた。東アジアでは(戦死者のための)葬式すら行われていない。我々はあれだけの死という犠牲のもとに平和の世界に生きているのに。
 東:日本は戦後、死者をうまく追悼できていない。しかも今はブログやツイッターなどで死者が生き残ってしまう。

 東:戦後、日本には若くて元気な人向けの文化しかない。これからの未来がある人に向けたものしかない。死者に向けたものがない。自分は42歳だが、震災後、見たいと思うアートがあったかというと、ない。歌舞伎や時代劇には矛盾、苦しみ、悲しみ、死などがあったはず。
 東:日本のポップカルチャーやサブカルチャーは「人が死なない」前提になっている文化。あの世界には死がない。キャラクターは蘇るし。

 東:日本は成熟期に入った。ゆるやかな衰退期とも言える。日本は負け方、降り方を学ばなければ。

 相馬:演劇で行われることは虚構だけど、身体はリアル。日本のサブカルチャーのカウンターとして舞台芸術が機能するかもしれない。

 相馬:息子が生まれて、ジャニーズ系のアイドルや羽生結弦選手に興味を持つようになった。うちの子もあんな風になれたりするかなって想像するから(笑)。
 東:いい傾向だと思う。アートも人間であれば誰でも経験していること(子育てとか)に入り込むべき。僕は自分の娘がAKB48に入るとか絶対考えないけど(笑)。

 東:ヨーロッパは送り手と受け手を種別してしまう。西洋の演劇は舞台と舞台の外側を固く分けている。テンポラリーにカオスを作ることしか考えられない。発信者の空間だけを守るのではなくて、発信者と受信者の両方を考える。

 東:日本の祭りはみんなが演技者であり、同時に観客である。日本の文化の場合は表現者と鑑賞者が一体になっている。たとえばカラオケもコミックマーケット(コミケ)も。公共性を担うのは表現者だけじゃなくて、鑑賞者もだ。

 上田:昔はお能も稽古をするものだった。
 東:俳句も短歌もそうだよね。参加型アート。
 相馬:日本の習い事文化はすごい。

 東:観客がつくる公共性というものがある。無償のボランティアによって運営され、50万人以上集めるようになったコミケこそ公共。行政が提供する公共イベントとは違う。国家や自治体がやっていない公共性がある。西欧的であろうとしなくていい。メセナではない民からの集金システムを考えるべき。この国の公共性は官ではなく民にある。

 東:祝祭空間においてのみ公共性が発揮される。公共性の定義とは、自分の立ち場を度外視してしゃべること。酒を飲んだりしてね。そうでないと(たとえば組織の人間であることを前提にすると)利害を考えてしまう。

 東:(西洋から来た)演劇は見る者と演じる者に分けてしまう。(ルソーの考えはそれとは違って)ルソーは「ダランベールへの手紙」で公共性について書いている。丘に集まって盛り上がること、そしてそこに木を植えること。ルソーは媒介が嫌い。直接性が好き。貨幣や言語も嫌い。


 ≪トーク終了後の打ち上げで話題になったこと≫ 

 「演劇には複製はない。これだけ複製が氾濫する時代に、それはアドバンテージかもしれない。複製があることで富を生み出していた音楽などを逆転する。」

 「ゲンロンに相馬千秋がゲストに呼ばれること自体が、フェスティバルトーキョーの価値のひとつ(演劇がアート界から注目を集めることになった)。」

 「クレーマーと向き合うしかない時代になった」
 「公と関係することは、もはやリスクかもしれない」
 「経営を特別視しない」


出演者:相馬千秋 東浩紀 司会:上田洋子
前売/2600円(1ドリンク付き)◆==ゲンロン友の会/学生証提示で2100円に!==◆講義後はバータイムになります。お楽しみ下さい!お席はチケット購入順ではなく、当日ご来場になった方から順にご案内致します。
http://peatix.com/event/30561


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年04月21日 19:43 | TrackBack (0)