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2014年05月09日

演劇集団 砂地『3 crock~河竹黙阿弥作「三人吉三廓初買」より~』05/09-12吉祥寺シアター

 演劇集団 砂地は船岩祐太さんが演出・代表をつとめる団体です。新作『3 crock』の上演時間は約2時間、休憩なし。

 6/11-15、6/18-22にワークショップオーディションを実施されます。⇒告知エントリー

 「CoRich舞台芸術まつり!2014春」審査員として拝見しました(⇒92本中の10本に選出 ⇒応募内容)。※レビューはCoRich舞台芸術!に書きます。下記にも後日転載します。※転載しました(2014/05/10)。

 ⇒CoRich舞台芸術!『3 crock~河竹黙阿弥作「三人吉三廓初買」より~

 ≪あらすじ≫
 偶然、鉢合わせた3人の悪党。なんと全員が吉三(きちさ)という名前だった。兄弟の契りを交わした3人だが、親の代から続く因縁に取り込まれていく。
 ≪ここまで≫

 ■因縁に抗った末にたどり着いた一瞬の静寂

 ブラックボックスのほぼ何もない空間で照明を暗い目に徹底した、緊張感が張りつめる2時間でした。ロフトや奈落などの劇場機構を効果的に使っており、特に舞台奥の真っ黒な空間は廃墟、闇社会、死後の世界、ダークマター(暗黒物質)などを連想させ、意味の上でも奥行きのある劇空間になっていました。

 有名な歌舞伎作品を近未来(?)を舞台に翻案し、現代服を着た俳優が現代の言葉遣いで語り、今どきの日本人の身体で演技をするストレート・プレイです。複雑極まりない人間ドラマを2時間の群像劇に収めるのは、作劇の手腕が試されるところだと思います。私の場合、『三人吉三』はコクーン歌舞伎しか拝見していないのですが、登場人物の背景を記憶で補うことができたので、物語の理解の助けになりました。何も知らない観客には少々難解だったんじゃないかと思います。これからご覧になる方はあらすじ等を頭に入れておくといいかもしれません。

 悪党3人とその親類などが、知らずに手を染めた悪事の連鎖に翻弄されていく因果応報の物語ですが、人々の間に起こるドラマをじっくり見せるというよりは、世界や運命といった大きなものに対して抗う姿を強調する演出だったように思います。セリフは怒号で発っせられることが多く、登場人物それぞれが世界全体に向けて、不器用ながらも命がけで怒りをぶちまけているようでした。話し合う相手がいる場面でも、自分から強い意志を発しておきながら、相手からは受け取らないので、一方通行のすれ違いが累々と積み重なっていきます。私は人間同士の細やかな交流を観たいタイプの観客なので、物足りなさも感じてはいましたが、最後に3人の吉三がある境地に達した時は、こうなるべくして訪れた結末であることをスっと受け入れて納得できました。

 ネタバレになるので詳細は後述しますが、ライブ感のあるシャープな空間づくりに独特の感性が感じられ、作品の芯となる強いイメージを最後まで貫くのは、作・演出の船岩さんの個性だと思いました。船岩さんが古典戯曲を翻案せずに演出されるのを、いつか観てみたいと思いました。

 当日パンフレットの表紙に文字だけの人物相関図がありましたが、もっと詳しいものが欲しかったです。出演者の写真とプロフィールはあるのに、演じる役名が載っていなかったのも残念でした。舞台が暗いので顔の判別がつきづらいから、特にそう感じたのだと思います。※役名は帰宅してから公式ブログ等をたどって調べました。

 ここからネタバレします。

 素手もしくは拳銃、刀、ジュラルミンケースを持って戦うアクションは、最初にお坊吉三とお嬢吉三の2人が見せてくれましたが、難易度の高いアクションに挑戦されていたせいか、目指す完成度に届いていないようでした。観客に「完成度が低い」という印象を与えてしまうよりは、たとえばスローモーションやストップモーションを加えたり、思いきった抽象性を持たせたりして、俳優の錬度に合わせた見え方を目指してもいいのではないかと思いました。和尚吉三を演じる小野健太郎さんが加わったことで、一気に見栄えのするアクションになってホっとしました。

 ステージは面側と奥側に分かれており、2つの部分をくっきりと区別するように、床には舞台の上下(かみしも)を横切る大きな穴が開いていました。穴の下に水が仕込まれていたのか、場面によっては照明の光が反射して劇場の壁に揺れる水面が映ります。和尚吉三の父・伝吉が水死体を引き上げていることや、伝吉の妻が赤ん坊とともに川に身投げしたこと、他にも三途の川や津波などのイメージも反映されているのだろうと思いました。

 穴の一部分には、面側と奥側とをつなぐ橋のような板が掛かっていて、登場人物はその上を歩いて移動します。面側で殺された人物が、ゆっくりとその橋を渡って奥側へと移動すると、死者になるのです。死者が生前と変わらない状態で生者に語りかける場面がとても面白かったです。特に伝吉(高川裕也)が自分の罪について語る演技が印象に残っています。奥側に居る伝吉に照明が当たり続けるのも、彼から生じた因縁を強調していて効果的でした。

 兄弟の契りを交わしたけれど、お互いがお互いの仇であると知った3人の吉三は、警察の追っ手も迫る絶体絶命の状況で、それぞれに銃口を向け合います。しかし、帰る場所もなければ目指す場所もなく、今からどうしたらいいのかもわからないという境地にたどり着き、3人はとりあえず銃を下ろしました。何かを探し求めてひたすら前進してきた3人が、全ての因縁と罪に気づいて“ゼロ”になり、ともに立ち止まった瞬間だと信じられました。思えばあの時だけ、人間同士の純粋な交流があったのかもしれません。感動的な刹那だったと思います。その後、警察がやってきて3人は再び銃を向け、撃ち合って死んでしまいます。それもまた至極自然な結末だと思えました。

 小さなろうそくの火を使った演出が良かったです。真っ黒な空間に灯る火がパーテーションの役割を果たしたり、死者を弔うための火にもなります。火で空間を分けることで結界を張っているようにも見えました。

No.10 「CoRich舞台芸術まつり!2014春」最終選考作品
【出演】和尚吉三:小野健太郎、お坊吉三:野々山貴之(俳優座)、お嬢吉三:とみやまあゆみ、十三郎:日下部そう、おとせ:中村梨那(DULL-CORORED POP)、八百屋久兵衛:NIWA(庭山智之・ワニモール)、木屋文里:浦川拓海(ラッパ屋)、一重:小瀧万梨子(青年団)、おしず:林愛子、長沼六郎:尾﨑宇内、和尚吉三の父・伝吉:高川裕也
原作:河竹黙阿弥 作・演出:船岩祐太 美術:松村あや 照明:松本大介(松本デザイン室) 音響:杉山碧(La Sens) 衣裳:正金彩(青年団) 擬闘:亀山ゆうみ 舞台監督:森山香緒梨 演出助手:浅井裕子 プロンプター:國松卓 宣伝美術:コンドウダイスケ 制作:河本三咲 プロデューサー:小池陽子 主催:演劇集団 砂地
★公演後アフタートークあり
5月10日 ゲスト:鈴木弘輝(社会学者)
5月11日 ゲスト:高川裕也(俳優)、小野健太郎(俳優)
【発売日】2014/03/23 全席指定席 一般:3800円 学生:3000円 当日:4000円
http://www.sunachi.net/?page_id=527

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年05月09日 22:23 | TrackBack (0)