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しのぶの演劇レビュー
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2014年09月07日

新国立劇場演劇研修所8期生試演会①『親の顔が見たい』09/05-10新国立劇場小劇場

 稽古場レポートを書かせていただいた、新国立劇場演劇研修所8期生試演会①『親の顔が見たい』初日を拝見。上演時間は約1時間35分、休憩なし。

 戯曲の言葉に素直であろうとする真摯な姿勢が見て取れる上演でした。とても面白い戯曲ですので、1500円から3100円というチケット価格帯はお買い得です。学生料金は1000円。同研修所のfacebookページは頻繁に更新されていていますので、ご興味ある方は「いいね!」をどうぞ!

 ★稽古場レポートにも書きましたが、9/10(水)14時開演の回の後、19時から新国立劇場中劇場で『三文オペラ』の初日の公演があります。ハシゴ観劇できますのでお時間のある方はぜひ。同研修所の修了生が7人も出演されています。

 ↓小劇場にはいつも巨大なポスターが設置されますが、今回はチラシで工夫されていました。9期生による製作です。

 ⇒CoRich舞台芸術!『親の顔が見たい

 あらすじなどは稽古場レポートでどうぞ。

 ツイッターに書きました通り、素直に戯曲を味わい、ハラハラして楽しめました。でも、研修生の試演会ですから当然と言えば当然ですが、何か物足りないな~という気がしたんですよね。一緒に観た人の感想を聞いたり、帰宅してから劇団昴版の映像を観た母とも話をして、考えてみました。

 ここからネタバレします。

 舞台となるカトリック系私立女子高校「星光(せいこう)学園」のモットーは「真理友愛」。でも友を殺し嘘をつくのですから正反対ですね…こわいこわい(冷汗)。劇作家の皮肉が利いています。

 会議室に閉じ込められた人々が殺人事件の推理をする会話劇の傑作といえば『十二人の怒れる男』。『親の顔~』がこの戯曲を下敷きにしているのは明らかです。そうなると、やはり肝心なのはどんでん返しだと思います。今回の上演では、最初から「個室に軟禁されている5人の女子高生たちが犯人である」ことが前提となっているように感じました。それだとどんでん返しにはなりません。親たちが「自分の娘がいじめなんてするはずがない」「娘以外に犯人がいる」「自殺した生徒(または親)に問題があった」と本気で信じている方が、お芝居として面白いんじゃないかと思うんですよね。観客は親たちの一途で巧みな話術にたびたび懐柔されるんだけど、遺書が届く度に「やっぱり5人が犯人だ…」と思い直す。そうやってもっと観客(=私)をだまして、揺さぶって欲かったです。

 また、「この親にしてこの子あり」を体現して欲しいとも思いました(当日パンフレットで演出の西川さんが「子供たちの顔が見えてくるか?」と書かれています)。同じく畑澤戯曲の高校演劇『ともことサマーキャンプ』では、1人の俳優が女生徒とその親の2役を演じる仕掛けで、見た目は親娘が一体になります(二重人格だけど)。「自分の娘は犯人ではない」という盲信は完全に思考停止状態ですから、自分がいじめたクラスメートが自殺してもそれを他人事にしか思えない娘たちと同じです。「ねえナツキ(担任)、腹減った、ピザ取って」と全く悪気なく軽口をたたくぐらいの、堂々とした無神経さが、親たちにもっとあって良かったんじゃないかしら。あと、できれば親たちにもっと親近感を持ちたかったですね。笑えるところはもっと能動的に笑いを取りに行っていいんじゃないでしょうか。

 後でわかりたいのに先にわかってしまって残念なところは他にもありました。たとえば教師夫婦について。頭が切れて弁舌なめらかで、初対面の集団の中でやすやすとリーダ―シップを発揮する高校教師が、実はDV夫だった。このことは、終盤の妻の発言で初めて発覚して欲しいんです。でも妻に対する夫の高圧的な態度、そしてそれに耐える妻の演技から、中盤ぐらいでほとんどバレていました。そこもどんでん返しぐらいに驚かせてくれたらな~。

 ただ、ここが重要なんですが、そんなどんでん返しなんかなくたって、面白いんです。それがこの戯曲の凄さだとも思います。※晩成書房から出版されています。
 いつもどおり色々と好き勝手に書いていますが、一観客の素人考えですし、そもそもの演出意図からすると的外れかもしれません。きっとこの戯曲はまた上演されるでしょうから、その時にも考えようと思います。韓国で映画化されたら観に行きま~す!

【出演】森崎次郎(同窓会長の夫):永澤洋 森崎雅子(同窓会長):荒巻まりの 長谷部亮平(教師):坂川慶成 長谷部多恵子(教師):滝沢花野 辺見重宣(いじめ加害者の生徒の祖父):関輝雄 辺見友子(いじめ加害者の生徒の祖母):南一恵 八島操(シングルマザー):西岡未央 柴田純子(いじめ加害者の生徒の母で、夫に電話するが出ない):鈴木麻美 井上珠代(自殺した生徒の母):泉千恵 中野渡正治(校長):梶原航 原田茂市(学年主任):薄平広樹 戸田菜月(自殺した生徒のクラスの担任):池田碧水 遠藤亨(新聞配達所の店長):堀元宗一朗 
作:畑澤聖悟 演出:西川信廣(新国立劇場演劇研修所副所長) 美術:小池れい 照明:林悟 音楽:上田亨 音響:黒野尚 衣裳:中村洋一 ヘアメイク:片山昌子 演出助手:岩澤侑生子 舞台監督:村田明 制作:新国立劇場
【発売日】2014/07/04 A席3,100円 B席2,500円 学生料金1,000円 Z席(当日券)1,500円
http://www.nntt.jac.go.jp/play/performance/140905_005443.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2014年09月07日 22:16 | TrackBack (0)