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2015年06月06日

アーツカウンシル東京「タニノクロウ パブリックトーク~ドイツ公立劇場でのレパートリー作品の制作をめぐって~」06/05アーツカウンシル東京

 ドイツの公立劇場でレパートリー作品『水の檻』を製作してこられた、庭劇団ペニノのタニノクロウさんら3人が登壇するフォーラムを拝聴しました。刺激的で充実した内容でした。
 タニノさんと美術・衣装担当のカスパー・ピヒナーさんの話しかたや、存在のしかたが美しくて、とても心地よい時間でもありました。率直で、自立していて、他者(参加者)と対等に接する姿勢にも感動。アーティストは地球の宝だと思いました。

 【登壇者】
  タニノクロウ(劇作家・演出家、庭劇団ペニノ主宰、『水の檻』作・演出)
  カスパー・ピヒナー(舞台美術家、『水の檻』舞台美術・衣装担当)
  日比野啓(成蹊大学文学部准教授、演劇研究、『水の檻』通訳担当)
  ※モデレーター・通訳:萩原健

 『水の檻』については以下が詳しいです。感動的な内容です。ぜひお読みください。
 ⇒「死者への鎮魂と慰撫と ── タニノクロウ作・演出『水の檻』」(日比野啓)

 以下、私がメモした内容を掲載します。フォーラムの内容のごく一部であり、正確性の保証はできませんので、そのおつもりでどうぞ。

 ■ドイツの公立劇場からの依頼

 タニノ:『水の檻』は2011年の原発事故をきっかけに、自分を日本人と思いこんで、狂ってしまったドイツ人男性が主人公の一人芝居。彼の職業は日本研究者。最初の依頼が、福島のことを描くこと、日本らしいもの、一人芝居という3点だった。かなりきつい。最初は断った。(他の知人から)「国際共同製作でいい作品なんて観たことない。ドイツの公共ホールはでかいマシン(機械)だから、その中でいい作品ができるわけない」と、なかば脅されてたのもあって。でも熱心に依頼をして来られたから、スカイプで英語で話をしてもわからないので、出向いた。今考えるとそれが良かったと思う。※創作開始の前に何度もドイツに通われたそうです。

 タニノ:クレフェルトの街の大きさは長野県の松本と同じぐらい。公共ホールがあるのも同じ。
 日比野:オペラとバレエがあるのも同じですね。


 ■自分のやり方を貫いた

 タニノ:今回の国際共同製作で、何を発見したのか、持って帰ってきたのか(が重要)ですよね。
 日比野:タニノさんは俺流を貫いた。やっかい者として最後までやり通した。ドイツの公共ホールというシステムの前に、そういう存在として立てた。
 タニノ:たしかに、戦った、ということはある。
 日比野:形式的なこと、儀礼的なことを取っ払った関係で居られた。
 タニノ:本来は劇団でないと面白いものは作れないと思っていた。(私は)考え方が古いんです。今回はいい作品を作れる関係があった。そういう時間を持てた。
 日比野:少人数の稽古場だった。個人的な関係を結んで作品を作ることになった。家族のように。稽古が終わると毎日飲みに行った。




 ■公立劇場はそれぞれ

 タニノ:稽古はいつも通りにできた。ドイツの劇場にはスタッフも場所も何でもそろっている。レパートリー・システムなので、俳優はほかの複数の公演に出演しながら稽古をした。1時間半もある一人芝居なのに、最初の1週間でセリフを全部覚えてた。
 でも劇場に入ってからの10日間は戦場だった。ドイツの公共ホールでいい作品を作るためには、どの劇場がいい、とかあるのか?
 ピヒナー:運に尽きる。どこの劇場も似たシステムだけれど、そこに居る人が異なるから。劇場によって違う。

 タニノ:クレフェルトの劇場にとって、我々2人はどんな存在だったんだろう。
 ビヒナー:エイリアン(異星人)。


 ■ドイツでの評判

 タニノ:『水の檻』の評判は実際のところどうだったんでしょうか?
 萩原:残念ながら全国紙では取り上げられませんでしたが、地方紙(州の新聞)では複数の劇評が出ていました。ドイツは新聞が良く読まれているので影響力があります。有名なラジオでも取り上げられていたので、良かったのではないか。
 ピヒナー:ドイツはラジオ、テレビ、新聞の影響力は同じぐらい。


 ■タニノさんとカスパーさんとの信頼関係

 タニノ:会話は英語で行った。自分にとって英語は情報でしかないから、本当にわかるまでに時間がかかる。タイムラグがある。カスパーも自分と同じ立場(劇場職員ではなくゲスト)であると理解するまでにも、とても時間がかかった。

 タニノ:カスパーと話す時は「日本はどんな国なんですか?」といった、いわゆる外国人と話す時の定番の質問などは全くなかった。最初から個人として話をした。「あなたは何者なんだ?」と。お互いに100%自由。朝から晩まで2人でしゃべりっぱなし。英語だけれど、他の人が聞いても理解はできないと思う。2人で新しい言葉を作っていった。やっぱり(いい作品に必要なのは)コミュニケーション。

 タニノ:カスパーとはもう話すことがなくなるほど長い時間一緒に過ごした。同じものを見て、どう思うのかを。会話の7割は自然について。太陽の照り方、川の色味、あの虫が鳴いてる、風向きが変わった、それを感じてる?山の音が聴こえるのかどうか…。ただ会話をしただけじゃない。友達になろうなんて思ってない。いい作品を作るために我々の関係を研ぎ澄ませて行った。お互いの感覚を戦わせて行った。それが我々のコミュニケーションの根本だった。

 カスパー:出会った時に戯曲があったわけではない。感覚的なすり合わせから始まった。そこから人物像など、作品の手がかりを集めた。




 ■美術を他者に任せたのは初めて

 タニノ:戯曲は登場人物になったつもりで書く。だからト書きにはその人物の目に入るもの全てを、細かく書いている。見たものの形は全て書いてある。例えば障子とか、障子の隙間から漏れる音とか。すごく細かい。書き終わって演出する時になると、そんなのどうでもいいと思ってるだけど(笑)。
 『水の檻』の場合、美術の70%ぐらいはカスパーの新しいアイデアの蓄積。台本では古い日本家屋の描写を細かく書いてあった。
 次回公演でも美術は自分以外の人に任せます。

 タニノ:(「ペニノっぽい美術だ」という指摘に対して)ユーモアがベースになって、形になっていく(だから『水の檻』の美術もペニノっぽい)。


 ■演劇を始めて15年経ってようやく…

 タニノ:戯曲は10か月前に欲しいと言われて、(遅れて)半年前にできていた。演劇を始めて15年になるんですが、やっと気づいた。稽古開始の時に台本があるのはいい!(笑) 今までは装置を作って、そこに役者さんたちに入ってもらってから、(自分が)思いついた言葉を言ってもらって、台本を作ってたんだけど。

 タニノ:毎回公演が終わると死にたくなる。あれもできなかった、これもできなかったと思うから。日比野さんに会うのも『水の檻』の公演が終わって以来初めて。携帯も何もかも切って、ずっと山にいたから。その間に次の作品の台本書けちゃった!いいこともあるもんです(笑)。

 ⇒庭劇団ペニノ新作公演『地獄温泉 無明ノ宿
  期間:2015年8月27日(木)~30日(日)
  会場:森下スタジオ・Cスタジオ

 ⇒庭劇団ペニノ『庭劇団ペニノ新作をお得に楽しむ会
  期間:2015年8月20日(木)~24日(月)


 ☆シアターガイド 2015年05月号、06月号に、「タニノクロウ ドイツ滞在制作記」(前編・後編)あり。

シアターガイド 2015年 05 月号 [雑誌]

モーニング・デスク (2015-04-02)


シアターガイド 2015年 06 月号 [雑誌]

モーニング・デスク (2015-05-02)

東京芸術文化創造発信助成 平成26年度~28年度長期助成対象団体 活動状況報告
6月5日(金)19:00~ 参加費無料
ドイツの公立劇場で約2ヶ月の滞在製作を行った3名によるトーク。
https://www.artscouncil-tokyo.jp/ja/events/6122/


※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2015年06月06日 13:13 | TrackBack (0)