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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2001年06月26日

ピーター・ブルック演出『ハムレットの悲劇』06/23-07/03世田谷パブリックシアター

 20世紀を代表する演出家ピーター・ブルックさんの「ハムレット」です。シーンを削ったりセリフもところどころ変わっていました。

 ・・・すごい。演劇とは何か、を考えさせられました。

 極シンプルな舞台上に特に何ということもない衣装を身に着けた役者が立っている。舞台の一歩外側にはそれを見ている役者。脇には音楽を奏でる人が一人。そして客席には観客。それだけでそこにはお芝居があるのですよね。

 様々な人種の役者をキャスティングし、国籍不問の衣装、音楽を使うことによってもともと「ハムレット」に含まれる英国のイメージや、当時の社会環境の説明などが消えるので、「ハムレット」という戯曲の持つ根幹の『意味』だけに焦点を当てて観ることが出来るようになります。

 冒頭の亡き父王の亡霊のシーンで泣けてきたのは初めてでした。こんなこと想像もしなかった。少なくとも私が観たことがある「ハムレット」では、ハムレットは陰気で優柔不断な人でした。でもこの「ハムレットの悲劇」において彼は、勇敢でたくましく、知的で誇り高い立派な王子様でした。どうしても腑に落ちなかった彼の行動の全ての意味が明らかになり、納得させられました。意味を伝えることに成功しているのだと思います。

 ハムレット役のエイドリアン・レスターさんに終始、目を奪われてしまいました。デンゼル・ワシントンを若くして、しなやかさと知性をプラスして(デンゼルさん、ごめんなさい!)しかもブラピっぽい無邪気さも持ち合わせているような奇跡的な人。必見です。

 3階席のてっぺんまで満員のパブリックシアターでアンコールが4回、ブラボーの連呼でした。

 ここからネタバレします。

 ピーター・ブルック氏は日本の伝統芸能の影響も受けている人だそうです。確かに舞台のスタイルとしては日本の能や歌舞伎に似ていたと思います。

 ・舞台上(ストーリー上)にいなくなった登場人物が、舞台上からそのまま歩いて立ち去る。
 ・死んだということを表すために、その人物に頭の上から布をかぶせる。
 ・役者がストーリー進行中に堂々と小道具を片付けたりする(黒子のように)。

 観客も役者も演奏者もスタッフも、「今、お芝居をしているのだ」ということを自覚してその時間を共有していました。
 ここぞとばかりに鳴る音響効果や雰囲気を助長させるような、過度な照明などは一切ありませんでした。全ては観客の感受性、想像力にまかせられていたと思います。ただし、シェイクスピアの戯曲「ハムレット」に書かれた意味については、しっかり主張していました。

 「あとは、沈黙」で死ぬ時、要所要所にお茶目なユーモアがちりばめられていて、「ウィットとはこのことか!」と目からウロコの思い。
 誇り。生きる意味。生きているのか死んでいるのか、その深い溝。選択。
 ホレーシオが生き残って語り継がなければならなかった意味。

 以下、プログラムより抜粋。
「新しくあるための新しさを求めるなど論外です。この作品に隠れる神話、基礎構造こそ、私たちがともに探ろうとしているものです。」(ピーター・ブルック)

「ハムレットの悲劇」:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/01-2-8-1.html

Posted by shinobu at 2001年06月26日 21:34 | TrackBack (0)