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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年07月18日

新国立劇場演劇『請願-静かな叫び-』06/22-07/8新国立劇場 小劇場

 イギリスの劇作家ブライアン・クラークさんの代表作です。日本で有名な作品だと劇団四季で上演されている『この生命は誰のもの?』があります。
 草笛光子さんと鈴木瑞穂さんの二人芝居というだけで必見ですよね。

 舞台は1980年代イギリスの最高級住宅街の中にある邸宅の、上品で家庭的なリビング。作品の内容は、簡単に言ってしまえば80代の夫と70代の妻との“本音トーク”です。

 オープニングは、老夫婦が“いつものように”新聞を読んでいるシーンなのですが、それがあまりに自然で暖かくて、それだけで胸がいっぱいになりました。演技ってこういうことなんじゃないかなって思うんです。そこにただ居るだけで全てが伝わってくるというか、「そこに居る」ということがスタートでありゴールなのではないでしょうか。

 退役軍人である夫エドムンドは、妻エリザベスが核兵器反対の署名をしたことに驚き、彼女を責めます。しかしながらエリザベスには堅い決意があり、エドムンドに自分の思いを伝え互いに語り合おうとします。実は彼女はガンに侵されており、余命3ヶ月だということも告白するのですが・・・。

 酸いも甘いも知り尽くし、人生の辛酸も舐め尽くし、喜びも悲しみも共に味わってきたと信じてきた老夫婦でしたが、実は違う惑星に住んでいたのかと思うほど別々の考えを持って暮らしていたことが、白日の下にさらされていきます。二人の哀しみと慈しみ、そして何度も訪れる驚きと気づきに、私は振り回され、突き動かされ、涙が止まりませんでした。
 
 作者のブライアン・クラークさんは、ご自身の絶対的な核反対の気持ちが地盤になっているとは言えど、一方的に軍人を馬鹿にしたり、軍国主義の時代を軽蔑したりすることはなく、それもまた、私達人間の歴史だと受け入れた上で、今の切実な思いを伝えようとしてらっしゃいます。私達の子供の将来、そのまた子供の未来について考えながら、毎日を生きていかなければと思いました。

 草笛光子さん。がん患者の闘病生活の中から人間の尊厳を描いた『W;t(ウィット)』@パルコ劇場でも感服でしたが、今回もまた日本を代表する女優さんであることを見せ付けられました。草笛さん主演のお芝居は今後も絶対に見逃せませんね。
 鈴木瑞穂さん。いかにも頭の堅そうな軍人気質のおじいさん役なのですが、すごくキュートなんです。『ニュルンベルク裁判』(@紀伊国屋サザンシアター)での威風堂々たる悪役の印象もそのままに、母性本能をくすぐる男の子の魅力もあわせ持っていらっしゃる、すごい男優さんだと思いました。

作:ブライアン・クラーク
翻訳:吉原豊司 演出:木村光一 美術:石井強司 照明:沢田祐二 音響:斉藤美佐男 衣裳:植田いつ子 ヘアメイク:林裕子 演出助手:山下悟 舞台監督:三上司
出演:草笛光子 鈴木瑞穂
新国立劇場:http://www.nntt.jac.go.jp/

Posted by shinobu at 2004年07月18日 17:23