REVIEW INTRODUCTION SCHEDULE  
Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
mail
REVIEW

2004年09月05日

Studio Life『ドリアン・グレイの肖像』09/01-15紀伊国屋サザンシアター

 前売り完売が常識になった男優集団スタジオライフ。美形俳優を眺めるだけでも楽しいのですが、海外の文学作品や日本の少女漫画を、男優のみを使って原作に忠実に舞台化する劇団として、とても貴重です。
 今回はオスカー・ワイルド原作の小説の舞台化。宝塚歌劇団でも上演したことがあるそうですが、私は初めてです。

 今回は、萩尾望都連鎖公演『トーマの心臓』&『訪問者』@シアターサンモール以来の感動かも!! やっぱり耽美派文学が似合いますよね、スタジオ・ライフ! けっこう泣いちゃいました。
 今回も脚本・演出の倉田淳さんのまっすぐに作品(原作)と向かい合う勇気と、作品に対する並々ならぬ敬意を感じました。俳優さんを追いかけたい気持ちもありますが、倉田さんのおかげでスタジオライフは見逃したくないんですよね。

 あらすじ(少々ネタバレ)を書きます。
 ドリアン・グレイ(山本芳樹)は誰もがその麗しさに目を奪われるほどの美貌の持ち主だ。画家のバジル・ホールワード(岩崎大)は、ドリアンこそが自らの芸術の源であると言ってはばからない。バジルの描いたドリアンの肖像画は、ドリアン本人が絵の中の自分に嫉妬するほど、彼の外面と内面の美をそのままに描き出していた。
 しかしドリアンは、バジルの友人ヘンリー・ウォットン卿(笠原浩夫)の影響を受けて、次第に刹那的な快楽に身を持ち崩していく。悪行を繰り返しながら十数年経っても、なぜかドリアンは昔と変わらない美貌と持ち続けていた。実はその裏で、肖像画の中の彼の姿がどんどんと醜悪なものに変わり果てていたのだ。

 日本でも有名な童話『幸福の王子』もオスカー・ワイルドの作品ですが、ドリアン・グレイはまさにその反対ですね。王子の像は自分の体に貼られた金箔を貧しい人に分け与え続けたために、どんどんとみすぼらしい姿になってしまいますが、最後(死ぬ時)はその善行を讃えられ、ツバメと一緒に神様から祝福を受けます。たしか天国に召される王子の心臓は金色に輝いていた・・・というような描写があった気がします(本にもよりますが)。
 一方ドリアンは、十数年にわたる堕落した人生においてもその美しい風貌を保つのですが、彼の肖像画は、彼が重ねた年齢と汚れてしまった心、そして犯した罪をしっかりと映し出すのです。やってしまったことは決して無かった事にはならない。年をとるごとに増える皺(しわ)と同じように、目に見える形で体に刻まれるものなのです。

 今、自分よりも若い人を見てしみじみ感じるのですが(う~ん、私も年を取りました~)、“若い”ということは、それだけで眩しいぐらい素敵なことですね。自分が学生だった頃はそういうことには気づきませんでした。ヘンリー卿の言うとおり「若い頃にはその若さの価値がわからない」ものなのです。バジルが全身全霊を込めてキャンバスの中に閉じ込めたドリアンは、何も知らないおバカさんの子供だったかもしれないけれど、確かに輝いていました。
 純真無垢で、善良だったことがその美しさの源だったのではないかと思います。私たちは様々な経験を重ねながら年をとっていく内に、若い頃ほどは人を信じられなくなったり、将来に希望を持てなくなったりします。だから人間は、善良であることを常に心がけて生きていかなければ、その宝物をいつの間にか失っていくのではないでしょうか。
 先日メルマガ号外を出しました『高き彼物』も同じテーマで書かれた作品だと思います。近頃そういう作品によく出会います。

 舞台美術もスタジオライフ作品において久しぶりの大ヒットでした。白い紗幕のカーテンを多用し、19世紀末のロンドンの貴族の世界を、清楚な美しさで表現していました。ローマンシェイドのカーテンが上がると、屋根裏部屋がぐるっとスライドして出てくるのがダイナミックで嬉しかったな~。そういえば『歓びの娘 鑑定医シャルル』とジャンル的に似ている装置だった気がします。同じく紀伊国屋サザンシアターで、最後に秘密の部屋が出てきましたよね。

 役者さんについては、最初の方はちょっと硬かったですね。手のひらを上に向けて、両手を同時に肩の高さまで挙げる、「Oh,ワッカリマセ~ン」という外人ポーズを取ることが多く(山本さんと笠原さん)、ちょっと笑っちゃうこともありました。わざとなのかしら?(笑) そういう不自然な動作も後半になるとすっかり馴染んで、気にならなくなりました。これからもっと、こなれていくのだと思います。

 山本芳樹さん。ドリアン・グレイ役。今まであまり良いと思ったことが無かったのですが(ごめんなさい)、今回は素晴らしかった!妖精のように美しいことが不可欠な役どころを、無理なくやりきってくださいました。動きが少々一辺倒なのが気になったこともありましたが、他の俳優がセリフを言っている時のリアクションや、独白の時の細やかな感情の変化をしっかり作られていて、引き込まれました。

 林勇輔さん。女優のシヴィル・ヴェイン役。スタジオ・ライフで私が最も感動させられる役者さんです。今回もやっぱり・・・登場して最初の一声を聞いただけで、体がしびれて涙がこぼれました。シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』のジュリエットのセリフで、あんなに素直な愛が伝わってきたのは初めて。歌もお上手な方なんですよね。その美声が悲劇のヒロイン役にぴったりでした。

 吉田隆太さん。後半に少し登場するヘンリーのいとこ(だっけ?)のグラディス役。これが2度目の舞台とは思えないほど堂々とした女役です。ドレスは女性用をそのままお召しだそうで・・・どういう細さなんでしょうか(汗)。

 私が観に行ったのはAzureバージョン(ダブルキャストなのです)。主役のドリアン・グレイ役の高根研一さんが急病のため、山本芳樹さんも変更になっていました。高根さんがお元気になったら、まぼろしのキャスティングになるかも。
 噂によるとCrimsonバージョン、かなり良いらしいです。時間があれば行きたいーっ!
 チラシに大きくアップで写っているのは、Crimsonバージョンに出演されている小野健太郎さんです。

原作/オスカー・ワイルド 脚本・演出/倉田淳
美術:松野潤 照明:森田三郎・森川敬子 舞台監督:北条孝 土門眞哉(ニケステージワークス) 音響:竹下亮(OFFICE my on) ヘアメイク:角田和子・片山昌子 衣裳:竹原典子 美術助手:渡辺景子・鈴木菜子 宣伝美術:河合恭誌 菅原可奈(VIA BO, RINK) 宣伝写真:峯村隆三 宣伝ヘアメイク:小口あずさ・nico・長谷川亮介・松嶋直子(Nanan)デスク:釣沢一衣 岡村和宏 揖斐圭子 制作:稲田佳雄 中川月人 赤城由美子 CUBE STAFF プロデューサー:北牧裕幸・高橋典子 制作:北里美織子 宣伝:米田律子
【Azure】 高根研一 笠原浩夫 林勇輔 深山洋貴 佐野考治 寺岡哲 奥田努 牧島進一 篠田仁志 下井顕太郎 大沼亮吉 石飛幸治 藤原啓児 河内喜一朗 ほか
【Crimson】山本芳樹 楢原秀佳 及川健 深山洋貴 篠田仁志  寺岡哲 小野健太郎 牧島進一 佐野考治 下井顕太郎 荒木健太郎 石飛幸治 藤原啓児 河内喜一朗 ほか
スタジオ・ライフ:http://www.studio-life.com

Posted by shinobu at 2004年09月05日 01:34 | TrackBack (1)