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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年12月11日

新国立劇場演劇『喪服の似合うエレクトラ』11/16-12/05新国立劇場中劇場

 文句なしに今年の目玉公演です。前売チケットは発売初日に完売だったとか。
 公演サイトでも謳っているように「新国立劇場が自信をもってお送りするキャスト・スタッフが揃ったこの秋最大の話題作」です。

 ギリシア神話をモチーフに書かれたユージン・オニールの戯曲です。あらすじはこちら。2000年に新国立劇場で上演された同じくユージン・オニール作の『夜への長い旅路』には非常に感動しました。海辺の家に朝日がさしてくるオープニングが忘れられません。

 今回は4時間にわたる大作(休憩2回を挟む)で、正直なところ、疲れました・・・。
 ギリシア神話を基に、人間の根源的な愛憎のドラマを描ききった脚本は、体にズシンと響いてくるような重厚感です。いやがおうにも舞台の上に立つ生身の役者に、高度な技術が要求されます。なのに、どうしても引き込まれなかったんですよね、演技に。なぜセリフを早口で一気に発し切ってしまうんだろう。力技でザーっと流してしまっているように感じました。もっとひとつずつを丁寧にじっくりやってもいいと思うんですが。いくら上演時間が長いとはいえ。
 マールイ劇場『かもめ』をNHK芸術劇場で見て以来、私は役者さんについて辛口になっているかもしれません。今回は日本の演劇界を代表する俳優ばかりだと言っても過言ではないキャスティングです。だからこそ、残念。

 時系列のとおりに進む物語で、第1幕、第2幕は特に期待したような面白みがなく、第3幕でやっとわくわくできたという状態でした。だから、全てが第3幕のための準備だったように思えてしまいました。第3幕がそれまでと比べてあまりに毛並みの違う演出だったせいもあります。どこかのブログで読んだのですが(忘れてしまいました。すみません)、初日はすごく良かったらしいですね。第3幕の大竹しのぶさんと堺雅人さんのコメディータッチな対話がなかったりして、全体を通して一つの印象があったようです。

 自分の家族が信じられないことって、もしかすると人間にとって究極の不幸なのかもしれません。常に目の前の人を疑っていなければならないなんて、生きた心地がしません。南北戦争時のお話なのでアメリカの国旗が何度も劇中に登場しますが、テロにおびえる現在のかの国のことを思い浮かべずにはいられません。

 母親の恋人を殺し、その母親をも自殺に追いやった長女(大竹しのぶ)とその弟(堺雅人)の前に、2人に心を寄せる善良な兄妹(中村啓士と西尾まり)が現れます。嘘を背負う者の弱さ、醜さは、善人の清らな瞳に映し出されてさらにみじめです。清らかな心にはかなわないですね。これこそ人間の強さだと思います。私も強くありたいです。

 装置は回り舞台で合計3つの空間に分かれています。マノン家の屋敷の玄関、父の部屋、そして寝室やリビング、船の甲板などに変化する広いめの空間が、回転して場面転換します。なぜか「どこかで見たことがある」という感触がずっとぬぐえない美術でした。オペラで観たのかな・・・。目新しさがないことだけでマイナスイメージを持つなんてこと、私は嫌なのですが、何かもっと奇抜さというか、個性があっても良かったのではないかと思います。ツルっとし過ぎていた印象です。
 顔がくりぬかれた肖像画が天上から無数に吊り下がってきたのは意味もあって良かったですね。

 ラストに新国立劇場・中劇場の最大の個性である、あの巨大な奥行きを利用して、マノン屋敷が舞台奥へとずんずん沈むように遠ざかっていくのは、もの凄い見せ場です。でも、劇場の機能を見せびらかしているように感じて興ざめしてしまいました。ちょっと笑えてきちゃったんですよね、ラストなのに。屋敷が一番奥に到着するまでずっと照明が明るく照らし続けましたが、途中で徐々に暗転して暗闇の中に静かに消え失せさせてしまった方が良かったのではないでしょうか。明かりの色が変化していったのには気づきましたし、きれいだとも思いましたが、やっぱり「やりすぎ」感がぬぐえませんでした。
 カーテンコールで、遠くにそびえる屋敷からマノン家の面々およびその他の人物全員が、しっかり歩きながら舞台前面にやってきたのは荘厳でした。

 大竹しのぶさん。姉役(主役)。1幕と2幕はずっと同じようなテンションで味気なかったです。3幕は弟役の堺さんとのやりとりが楽しかった。
 堺雅人さん。弟役。細かいこだわりが感じられる演技でした。熱さもあって、遊び心もあって、私はかなり好きです。堺さんが出てくるのを楽しみに待っていました。
 津嘉山正種さん。父親役。不器用さと悲しみが伝わってきました。リアルでした。
 三田和代さん(母親役)と吉田鋼太郎さん(母親の愛人役)は、お二人とも早口で、なんだか空回りしていた印象。サラっと通り過ごしてしまう存在でした。残念。

作 :ユージン・オニール 翻訳 :沼澤洽治 演出 :栗山民也
出演:大竹しのぶ 堺雅人 吉田鋼太郎 津嘉山正種 三田和代 西尾まり 中村啓士 丸林昭夫 池田直樹
美術:島次郎 照明:勝柴次朗 音響:山本浩一 衣裳:前田文子 ヘアメイク:林裕子 演出助手 :豊田めぐみ 舞台監督:三上司
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s237/s237.html

Posted by shinobu at 2004年12月11日 11:45 | TrackBack (0)