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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年04月14日

こまつ座『太鼓たたいて笛ふいて』04/02-29紀伊国屋サザンシアター

 こまつ座は井上ひさしさんの作品を上演するプロデュース形式の演劇団体です。
 2002年の初演は、読売演劇大賞最優秀作品賞、紀伊国屋演劇賞個人賞・読売演劇大賞最優秀女優賞・朝日舞台芸術賞(大竹しのぶ)、読売演劇大賞最優秀男優賞(木場勝己)、毎日芸術賞・鶴屋南北戯曲賞(井上ひさし)、という数々の賞に輝いています。

 先日、森光子さんが菊田一夫演劇賞劇賞特別賞を受賞されたされた『放浪記』(1700回を超える上演)は林芙美子さんの若かりし頃から描いた作品ですが、この『太鼓たたいて笛ふいて』は林さんが売れっ子小説家になった後から始まります。

 「戦さは儲かるという物語」に乗っかって従軍作家となり、戦争を宣伝する作品を発表していた芙美子だったが、さまざまな戦場での従軍経験から徐々に考えが変わっていく。敗戦直前の昭和20年になると「太鼓たたいて笛ふいてお広目屋よろしくふれてまわっていた物語が、はっきりウソッパチだとわかった」芙美子は「こうなったらキレイに敗けるしかない」と言うようになる。

 オープニングがいつもより硬かったのですが、それは東京公演初日だったからかしら。どんどんとこまつ座ワールドにどっぷり。そして涙たっぷり。戦中・戦後を命がけで走りぬいた一人の日本人女性の生き様が、童話のように綴られる音楽劇です。ストーリー、セリフ、歌、音楽、そして演出など全てが極上。今ここでこの作品に触れられている自分の幸運を感謝したいです。小・中学校で伝統芸能鑑賞会などがありますが、こまつ座観劇もそれに入れればいいのではないでしょうか。

 こまつ座おなじみの劇中歌は楽しいし、優しいし、美しいし、歌というものがこの世界に存在する理由を教えてくれるかのようです。
 『椰子の実』の朗読(大竹しのぶさんによる)だけでなぜ涙が溢れるのでしょうか。後で歌になって再び流れた時は、木田勝己さんが明るく歌うのを聞いて自分も思わず口ずさみそうになりました。途中から替え歌になったのでそんなはた迷惑は掛けずに済みましたが(笑)、そんな気持ちにさせてくれるライブ感覚なのです。
 『ひとりじゃない』は名曲ですね。宇野誠一郎さんの作曲で井上さんの詩がすばらしい。そりゃー子供も元気になります。私が客席でおいおい泣けるぐらいだから。
 『滅びるにはこの日本、あまりにすばらしすぎる』ではひたむきな憂国の想いを込めて日本の美しさを歌いあげられます。私はその情景を思い浮かべつつ、大竹さんと神野さんの美しい二重唱のハーモニーに体をゆだね、これまた涙が止まりません。

 大竹しのぶさんが「伝われ!」と体中で祈るように演じてらっしゃるのが伝わってきました。はい。伝わってます。私はあなたを感じています。な~んて、涙をこらえることも忘れて彼女に魅入っていました。松本きょうじさん、阿南健治さんが出てきておどける姿にも涙。他の出演者やスタッフさんについても同じです。全身全霊でこの作品を伝えようとしている底なしの優しさに、思い出すだけでまた、涙。

 ※セリフや曲名は、『太鼓たたいて笛ふいて』井上ひさし著 新潮社 1300円(税別)ISBN4-10-302327-9 C0093 より引用しています。

作:井上ひさし 演出:栗山民也
出演:大竹しのぶ、木場勝己、梅沢昌代、松本きょうじ、阿南健治、神野三鈴、朴勝哲(ピアノ演奏)声の出演:辻萬長
音楽:宇野誠一郎 美術:石井強司 照明:服部基 音響:斉藤美佐男 衣裳:宮本宣子 振付:西 祐子 歌唱指導:宮本貞子 宣伝美術:和田誠 演出助手:大江祥彦 舞台監督:増田裕幸 制作:井上都、高林真一、谷口泰寛 ヘアー:林裕子 スタジオAD
紀伊国屋ブルテンボード:http://www.kinokuniya.co.jp/05f/d_01/hall.html
こまつ座内:http://www.komatsuza.co.jp/kouen_kako/chirashi/taiko_s.html

Posted by shinobu at 17:38

ペンギンプルペイルパイルズ『スマイル・ザ・スマッシャー』4/7-14ザ・スズナリ

 ペンギンプルペイルパイルズは、今最も注目されている若手劇作・演出家と言っても過言ではない、昨年度の岸田國士戯曲賞を受賞した倉持祐さんが作・演出をする劇団です。

 視覚的ナンセンスな空間でちょっと大げさめで生々しい動きをするヘンな登場人物が倉持さんの不可解なテキストとからみあい、不気味とも言える独特の世界を形作ります。しかし作品全体からは一貫した強いメッセージが感じられるという、非常に高度なテクニックが実現しているお芝居だと思います。

 架空の街。何かの勲章をもらった男とその妻は、特別に区民集会所に住まわせてもらっている。というのも、町全体の建物をどんどんと壊して新しいものに建て替えるという街の方針のため、住む家がないからだ。その夫婦の息子は高台にある病院に入院していて、毎日男は見舞いに行っている。二人の前にに奇妙な男が現れて・・・。

 「時間は未来には進むけれど、過去には行かない。時間は一方通行である。決して後戻りできない。」この考え方には私は賛成、というか、納得です。それが人間や他の動物、植物など生命に与えられた神様の恵みであるように思えてなりません。
 「時間は決して戻らない。だから、後悔しても仕方がない。やりたいと思うなら、まずやってみろ。」そう、倉持さんがおっしゃっている気がしました。
 階段は、登ってみろ。決闘も、やってみろ。やりたいなら自分からやらなきゃ。

 舞台には、幻想なのか現実なのかわからない曖昧な空間が、エッシャーのだまし絵的リアルさと遊び心で表現されます。
 ほぼ明転のまま区民集会所のロビーと病院の待合室が入れ替わるのは、とても楽しいし上手い場面転換だと思います。こういうのを見せてもらうと、舞台は無限の可能性がある創造空間だと感じられてすごく面白いです。
 照明で集会所と病院の区別をつけているのですが、それが非常に繊細でよかった。黄色い壁に緑の照明がうっすらと照らしつけるのは不気味でいいですね。
 音楽はいつものSAKEROCKさんのオリジナル曲のようですが、民族音楽チックでちょっとヘンなリズムとメロディーが、不思議な世界に入りやすくしています。また、音(音響)が全くない時にも何かざわざわした感覚が舞台を支配しているのは、倉持さんの演出の特徴だと思います。

 窓の上からもくもくと煙が噴出して床におち、その煙の中から男(小林高鹿)が登場するのは最高です。
 壁から手が出てきたりベンチの隙間にゴロンと人が消える、へっぽこイリュージョンに心踊りました。

 小林高鹿さん。不気味なセールスマン役。めちゃくちゃセクシーでした。初めてこんなに見とれてしまった。怪奇な人物を男の色香ばつぐんに見せ切ってくださいました。
 ぼくもとさきこさん。黒い服の少女役。演技派なんだってことを改めて実感しました。いるだけで存在の面白さが香り立つ方だと思っていましたが、演技も素晴らしかった。長髪で良かったです。


作・演出:倉持祐
出演:小林高鹿 ぼくもとさきこ 玉置孝匡 松竹生 笹木泉 水谷菜穂子 山本大介
舞台監督:山本修司 橋本加奈子 照明:岡村潔 舞台美術:中根聡子 演出助手:水野愛 宣伝美術:岡屋出海 人形製作:イトウソノコ 宣伝写真:引地信彦 音楽:SAKEROCK 衣裳協力:田中美和子 ヘアメイク高橋素子 制作:渡部音子 土井さや佳
ペンギンプルペイルパイルズ:http://www.penguinppp.com

Posted by shinobu at 12:16