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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年04月15日

明治大学演劇学専攻二年主催・新入生歓迎公演『岸田國士オムニバス集「日本の女」』4/14-16キッドアイラックホール

 お友達が関わっているのでお邪魔しました。
 大学のクラスの発表会を外小屋でやるなんてすごいですね。

 岸田國士(きしだ・くにお)さんというと、演劇界では戯曲賞もあるぐらい有名な劇作家です。私は宮田慶子さん演出の『紙風船』を拝見したことがあるだけで、今回が2度目でした。

 普通の人々の日常の会話劇が3篇。セリフは本当に一言一言味わい深くて、岸田さんの戯曲をぜひ自分でも読みたいと思いました。

 大学2年生というと19歳とか20歳ですよね。きっと学科で勉強されたのでしょうが、よくこんな難しい作品に挑戦する気になったよなーと思いました。演劇学科の生徒が有志でやるなんて、真面目だし立派だなーと思います。
 また、発表会とは思えない規模でした。美術、照明、音響、衣裳、映像、宣伝・・・普通の演劇公演でしたね。アフタートークで先生(教授?)が出てきて、作品を褒め殺ししちゃったのは残念でしたが、すごいことだと思います。こんな生徒に出会えて、幸せな先生だなー。

 作品については私は楽しめなかったのですが、このようなイベントが実現していることに意義があると思います。私自身、岸田國士さんに興味も持たせていただきました。明治大学演劇専攻の学生さんたちの将来に期待したいです。

作:岸田國士 演出・舞台監督・照明プラン・宣伝美術:谷賢一 出演:演劇学専攻二年生有志
上演作品:『驟雨』『葉桜』『空の赤きを見て』(いずれも岸田國士作)
公演サイト:http://www.playnote.net/archives/000095.html

Posted by shinobu at 23:43

tpt『アントン・チェーホフ四幕喜劇 かもめ』03/25-4/11ベニサン・ピット

 木内宏昌さん(劇団青空美人 主宰)が新たに脚色した(違いはわかりませんでしたが)脚本を使って、熊林弘高さんが演出するtptの『かもめ』です。なにしろチェーホフの『かもめ』ですから期待も高まるわけで。
 残念ながら私は面白みを感じられませんでした。

 私は『かもめ』という世紀の大傑作をちょっぴり趣向を変えてやるなんて、必要ないと思います。誰が何度やっても新しい『かもめ』になるのですから、奇をてらうことはないのです。どうせ実験的にやるならク・ナウカ・プロデュース『かもめ第2章』ぐらい大胆にやらないと。アイデア勝負に持ち込むなんて危険だと思います。勇気があるとも言えますが、tptでこの座組みでやるネタではないと思います。

 まず、舞台が真っ黒でした。つやのあるピカピカの床に客席が組まれて、そのまま舞台とつながるイメージで同じく真っ黒な舞台面、壁、ドア、幕。そこに赤い豪華なカーテンと上から吊られる同じく赤い布が鮮やかです。美術を担当されたグレタ・クネオさんが「漆黒の舞台」とパンフレットで書かれていましたが、シンプルというよりは安直ではないかと思います。さまざまな黒(ぴかぴかの黒、シックな黒、木の黒など)を多用していると言えど、黒であることには変わりないです。それほどバリエーションがあるようには感じられませんでした。

 舞台奥の中央に透明の壁とドアで中が丸見えのトレープレフ(藤沢大悟)の部屋があり、そこにはピアノが置いてあって、ピアノを弾いたりもの書きをするトレープレフの姿がずーっと見えています。トレープレフが頑張っている姿が観客にアピールされ続けるわけですけれど、逆効果だと思います。トレープレフの苦悩が実際に目には見えていないからこそ、観客は最後に深く思い知らされるのです。それに椅子を机代わりに膝立ちでものを書いてるなんて、かっこ悪いです。そんなので長時間執筆なんて出来そうにないし。
 ピアノの音が不快でした。同じ曲を何度も流すのは良くないです。トレープレフが全く弾いていないのが顕著にわかりますし。これもピアノの部屋を丸見えにしていることの弊害ですよね。

 衣装(原まさみ)も完全に美術とシンクロする形ですね。1,2幕は全員白に統一。そして3,4幕では黒装束。トレープレフは白いシャツとズボンで全幕通します。マーシャ(中川安奈)も自動的に全幕通して黒装束になるのは、ある意味ではストーリーに沿っているとも取れますが、アイデア止まりだと思います。初歩的な不整合として、トレープレフの衣装が同じままで長い金髪にも変化がないので、時間の経過が感じられませんでした。彼を時間を超越した存在として描くのが目的だったのならば、役者さんが役不足だったと言わざるを得ないと思います。

 前述の通り、美術も衣装も演出も完全にトレープレフ(藤沢大悟)中心で描かれたのですが、そのトレープレフが弱すぎます。語尾がいつも同じニュアンスになるのが耳障りです。いかにも舞台役者の新人さん、という感じ。大変残念です。新人を育てるということも大切なことですが、それならば演出を変えるという方向があっても良かったのではないでしょうか。
 また、二人のヒロイン(アルカージナとニーナ)をとりこにする若手小説家トリゴーリン(木村健三)も甘かったと思います。まず声が小さくて篭っていてセリフが伝わってこないのですから、問題外とも言えます。

 喜劇であることにこだわりを持って演出(熊林弘高)されたようですが、私が心でひそかにクスっとできたのは、冴えない教師のメドベジェンコ(深貝大輔)だけだったように思います。彼が何か口を開くたびに期待しましたし、期待以上の言葉と表情をくださいました。
 アルカージナ(佐藤オリエ)の演技で結構笑いが起こっていたようでしたが、私は一度も笑えませんでした。アルカージナについてはセリフをしゃべっていない時の演技の方が細かいし、心もこもっていて良かったと思います。
 執事のシャムラーエフ(花王おさむ)は一生懸命なのが痛々しくって面白かったです。私が今まで見た中で一番リアルな“執事”だった気がしました。

 演出で良かったのは、トリゴーリン(木村健三)とニーナ(郡山冬果)がモスクワでの再会を約束した後、第3幕から第4幕への転換で赤い布が下手から上手へとゆっくり移動し、時間の経過を表現したところです。あれは斬新だしシンプルで美しかったと思います。

 郡山冬果さん。ニーナ役。がさつで全く魅力の感じられない少女として登場してきて驚いたのですが(トレープレフとの恋愛を全く感じなかった)、最後にトレープレフと話すシーンで、その力を見せつけてくださいました。「私はかもめ、いいえ、そうじゃない」というセリフの繰り返しがあるのですが、わざとらしく感じなかったのは郡山さんが初めてかもしれません。

staff 作/アントン・チェーホフ new version/木内宏昌 演出/熊林弘高
美術/グレタ・クネオ 照明/笠原俊幸 音響/長野朋美 衣裳/原まさみ ヘア&メイクアップ/鎌田直樹 舞台監督/萬寳浩男
cast アルカージナ/佐藤オリエ ニーナ/郡山冬果 トレープレフ/藤沢大悟 トリゴーリン/木村健三 ソーリン/安原義人 ドールン/中嶋しゅう メドベジェンコ/深貝大輔 シャムラーエフ/花王おさむ ヤーコフ/桑原勝行 ポリーナ/花山佳子 マーシャ/中川安奈
tpt : http://www.tpt.co.jp/

Posted by shinobu at 15:29

チャリT企画『ドウニモタマラナイ』4/14-18早稲田大学大隈講堂裏劇研アトリエ』

 チャリT企画は早稲田大学演劇研究会のアンサンブル(内部劇団)で、chari-T(楢原拓)さんが作・演出をする劇団です。私は初見で、劇研アトリエに初めて行きました。
 今年のパルテノン多摩演劇フェスティバルにも出場します(4/23 19:00開演)。

 とある駅前の道端が舞台。自衛隊のイラク撤退を求める署名集めをしているヤマンバ女子高生、待ち合わせをしているのに一向に会えないOLらしき女2人、ギター1本で尾崎豊を歌っている音痴の若者、サークルの新歓コンパの集合を一人待ち続けている大学生、カラオケ屋の勧誘、自転車を大量に運んでくる謎のサラリーマンなど、さまざまな人々が行き交います。そこに少しずつ異変が起きて・・・。

 1時間弱で終わるコンセプチュアルな作品でした。役者さんが何度も何度も着替えて多くの人々の往来を表現していますが、全員が携帯電話を持っているのが象徴的です。何もなかった道にどんどんと放置自転車が増えていくことや、女子高生をDVDデッキだと思って操作する家族が出てきたのはすごかったです。リモコン操作をしたりDVDソフトを入れようとしたりして、最後に電源を切ると彼女がフリーズしたのも面白かったなぁ。

 他人を思いやる心のない人、自分自身のことを自覚しない人、他人との係わり合いを拒否する人、自分の目先の楽しみにしか興味のない人、ゴミを放置する人、ロボット化する人・・・現代の人間のありのままの姿を、人格のない通行人を通して描いているのにとても好感が持てました。宇宙人(?)が出てくるのには未来と夢が感じられました。幕切れはあくまでもブラックに、ということだと思います。
 時事ネタを扱うのが常のようで、イラク情勢もからんで初日と千秋楽では内容が変わっている可能性もあるそうです。そういう姿勢の劇団が大学構内で活動しているのはステキだなーと思います。

 ただ、アイデア勝負というか、批判的な考えを提示するにとどまっているので、もう一歩欲しいなと思いました。また、会場ではたくさん笑いが起きていましたが私はほぼ笑えなかったです。笑えなくてもいいと思いますしね。気持ちよく観させて頂きました。

構成・演出/chari-T
出演/吉本菜穂子・松本大卒・山本和香子・内山奈々・伊藤伸太朗・高見靖二・楢原拓・千葉淳・熊野善啓・鴫山知広・恩田和典
音楽/ヨダケンイチ 照明/伊藤孝 音響効果/佐藤春平 (Sound Cube) 小道具/清水克晋(SEEMS) 音響スタッフ/高橋秀雄・上野雅(SoundCube) 宣伝美術/BLOCKBUSTER スチール/金丸圭 ビデオ撮影/柴山一人(Y.P.K) 音響操作/赤津光生 照明操作/三浦英幸 スライドCG・WEB/楢原 拓 舞台装置/S二 舞台監督/甲賀 亮 制作/田中有希子
チャリT企画:http://www.chari-t.com/

Posted by shinobu at 12:19