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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年11月17日

新国立劇場演劇『二人の女兵士の物語』11/08-11/21新国立劇場小劇場

 “THE LOFT~小空間からの提案~”という企画の第3弾(第1弾は『胎内』、第2弾は『ヒトノカケラ』)です。
 燐光群の坂手洋二さんの作・演出で小島聖さんと宮島千栄さんが出演するオムニバス形式の二人芝居でした。

 美女2人がじゃんじゃん着替えて出てきてくれるコスプレ・ショーとして存分に楽しみつつ(笑)、坂手さんの硬質で壮大な舞台空間を味わえました。エンターテインメント色の強い作品でしたね。でもスズナリでの燐光群公演と同じ空気があったと思います。タッパが高いので音の響き方はちょっと違いましたけど。

 ステージは鋭角に尖った三角形で、長い辺の両側に客席がしつらえられています。客席に挟まれた舞台面はかなり細いので、対面の観客の顔がはっきり見えます。THE LOFT企画の最後にして初めて小さな空間を味わえた気がします。

 舞台面は黒鉛色のアスファルトのような質感で、巨大な“棒”が斜めに突き刺さっています。装置としてはそれだけなので極シンプルな造りなのですが、この“棒”がクセモノです。
 計8話のオムニバス形式ですので、話の内容によって見え方さまざまに変化します。棒といっても真っ直ぐのポールではなく、表面がウロコのようだったり、階段になっていたり、さらには長い鉄の棒が何本も刺さっていたりします。また、エピソードごとに回転して傾斜の角度が変わりました。私には船の帆、木(時に神木)、男性器、地球の自転軸、等に見えましたね。また、あの棒はかなり重たいもののようです。女優さんが横に刺さった鉄の棒にぶらさがって逆上がりが出来るぐらい頑丈でした。美術は種田陽平さんです。映画界でもご活躍だそうで(『KILL BILL vol.1』プロダクション・デザイナーなど)、スタッフのコラボレーションとしても面白いですね。

 最初は1960年代の学生運動の自称・革命戦士が「総括」をしている場面から始まります。雪の降る寒空の山中で、妊娠8ヶ月の女(宮島千栄)を木に縛り付けて(小島聖)が攻め立てます。「うわー、ハードだなぁ~、さすが坂手戯曲」と思いながら2人の女優のガチンコ演技バトルを見ていたのですが、次に来たのが「運動場」というタイトルの短編。なんと小島聖さんがトライアスロン(話の中ではキング・アスロン)のユニフォームを着ています。足ほそ!手なが!・・・悩殺!!そして赤いジャージ姿の宮栄さんとほとんどレズ芝居!観ててすっごく緊張しちゃいましたっ。オタク言葉だと「萌えー」って言うのでしょう(笑)。

 燐光群でもよく取り上げられる現代の社会問題(不倫、保険金殺人、虚偽報道など)をテーマにした短編が多かったですが、いつもに比べると軽やかで笑いも多く、予想外の気楽さで観られました。でも、最後のエピソードで一気にシリアスになりました。
 ラストも学生運動の女戦士のエピソードなのですが、最初のエピソードではしっかり妊娠8ヶ月の頃の大きさだった女(宮島千栄)のお腹が小さくなっているのです。そして「子供は消えてしまった」と言い出します。ここからの急展開は難解で私には細かいところまで解釈しきることはできませんでした。
 突然すべてが夢の中の物語のようになり、一つ一つ独立していたエピソードが一体化して、宇宙の中の地球に生きるすべての「女」を表しているように感じました。舞台は地球という名の船になり、観客もその乗客になりました。
 そうなるとやはりあの“棒”は、船の帆でもあるけれど、男性を表してると思います。

 エピソードとエピソードの間には役者が着替えるための時間であろう、かなり長い暗転があります。その間に流れる音は役者の声をサンプリングしたものでした。「愛してる」「愛してない」、「好き」「嫌い」など、二極対立を表す言葉がラップ・ミュージックのように連呼されます。ゴゴゴゴーっという低い爆発音のようなノイズ音とも重ねられますので、音楽ではなくて効果音、もしくはセリフとして受け止められました。新しいような古いような、けっこう冒険している演出だと思いました。

 ※最前列の観客には青いバスタオルが置いてありました。水がかかるのかな?と思ったのですが、対面の観客の視線対策なんですね。スカートを履いた女性のための心遣いです。さすが新国立劇場!

作・演出 :坂手洋二
出演:小島聖 宮島千栄
美術 :種田陽平 照明 :小笠原純 音響 :島猛 衣裳 :前田文子 ヘアメイク :林裕子 演出助手 :大江祥彦 舞台監督 :森下紀彦
新国立劇場内:http://www.nntt.jac.go.jp/season/s243/s243.html

Posted by shinobu at 22:00 | TrackBack

劇団鳥獣戯画『3人でシェイクスピア』11/16、11/17、12/8、12/9~(とびとびロングラン)プーク人形劇場

 シェイクスピア全37作品を90分でやってしまうという荒業。原題は“The Complete Works of William Shakespeare(abridged)”です。5月からプーク人形劇場でとびとびロングラン公演をしています。来年の3/11までありますね。

 ものすごくがっかりしました・・・。なんか・・・やる気ないんだなーって思って、途中休憩で帰りました。だから『ハムレット』だけ観てません。(前半だけで36作品終わったので)
 
 前売り3,000円のお芝居ですよね。そういう自覚あるのかなぁ。役者さんが明らかに疲れている様子でした。セリフも何もかもいい加減。慣れてダレるならロングランなんてしたらダメだと思うんですけど。男優さん(赤星昇一郎・ちねん まさふみ)、ちゃんとヘアメイクして欲しいです。えと、白髪染めぐらい普通の人でもするんじゃないでしょうか?女優さん(石丸有里子)はさすがにメイクしてらっしゃいましたが、あのピンク色の頬紅は・・・人形をイメージ?昭和の匂いがするようでした。
 全体的にかなり子供向けでした(なのに子供に向かって「できちゃった結婚」とか「エッチする」とか色々言ってましたけど)。プーク人形劇場だからでしょうかね。これを下北沢ザ・スズナリでやってたかと思うと驚きです。
 
 そもそもPLAYNOTE.NETでこの戯曲の存在を知り、絶対観たい!って思ったらちょうど東京でやってたんです。ラッキーだと思ったんですけどねぇ、その時は。

 演出はほとんど戯曲のままやっているようですね。残念ですが日本では意味不明なものもありました。客いじりもしらじらしくて痛かったです。タイタス・アンドロニカス料理番組は面白かった。

作:Jess Winfield, Adam Long and Daniel Singer
訳:小田島雄志/長谷川仰子 演出:知念正文 音楽:雨宮賢明
出演:赤星 昇一郎/石丸 有里子/ちねん まさふみ
公演サイト:http://www.linkclub.or.jp/~giga/3_file/3.html
劇団鳥獣戯画:http://www.linkclub.or.jp/~giga/

Posted by shinobu at 21:35 | TrackBack

青年団リンク・地点『三人姉妹』11/10-21アトリエ春風舎

 噂の三浦基(みうら・もとい)さんの演出を初体験しました。
 「今までにない」とか「斬新だ」等の当たり前の表現だけでは言い表せない衝撃でした。チェーホフの『三人姉妹』を観たこと(読んだこと)がある人は、絶対に観た方が良いです。両方とも経験のない人は、戯曲を読んでから観るとめちゃくちゃ面白いと思います。私も一度読み直してから行けば良かったな~。

 私、『三人姉妹』は悲しすぎるからちょっと苦手なんです。数種類の『三人姉妹』を拝見してきましたが(松本修演出@世田谷パブリックシアター、岩松了演出@シアターコクーン、等。あなざ事情団演出@アトリエ春風舎は例外?)、寒々しくて息苦しい上にすごく共感するから、観終わった後に暗い気持ちになって疲れるんです。
 でも、チェルフィッチュの岡田さんの日記ブログで「この演出でジェイムス・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』も舞台化できちゃうよ」的なことが書いてあったので、観に行く決心をしました。先日、栗山民也さんが一番お好きな戯曲だとも耳にしましたしね。

 劇場に入った時から3人の女優が舞台上にいました。3人とも台や机、箱の上に乗っています。静かに暗くなっていき、最初の第一声が聞こえた時に何かがはじけました。セリフ、ではないのです。音、声、言葉、歌、叫び、そしてまた音。日本語の発音ルールを守らない発声で、しかしあいうえおの音としてははっきりと聞こえる、今までに聞いたことのない生の日本語でした。早口になったり、ささやき声になったり、オペラ歌手ばりに歌いあげたり。言葉のニュアンスもセリフの意味どおりではありません。少なくとも私が知っている『三人姉妹』の中に出てくるセリフとはかけ離れた感情が載せられていました。バカにしたり、威張ったり、あきれたり、愚痴ったり・・・etc.。

 ストーリーは時系列のとおりに進んでいきました。舞台上には上手からオーリガ(長女:安部聡子)、マーシャ(次女:兵藤公美)、三女(イリーナ:角舘玲奈)。皆、ほぼその場所を動きません。アンドレイ(長男:島田曜蔵)がすごいおデブさんで(青年団のお馴染みの俳優さんですが)、下手客席前の猫足のバスタブの中から出てきたのには爆笑。彼もまた姉妹と同じようにその場所から離れられません。モスク“バ”に行けなかった家族。

 私は何度か涙が溢れ出すのを止められませんでした。一箇所明白に覚えているのは、アンドレイのバスタブを妻のナターシャ(申瑞季)がお買い物用カートで容赦なくガンガンと叩きつけるシーン。そうなんだよね、ナターシャはものすごい暴力を振るったんだよね、彼に。

 どう表現したらいいのかわからないので、私の知る範囲の比ゆをしてみます。ク・ナウカの謡うような語りもあるし、青年団(平田オリザ)の死をまとう静けさもあるし、岩松了の内向的な不条理もあるし、大人計画(松尾スズキ)の限界を超える生々しさもあるし。
 難解なことを大胆にやりきって、決め細やかな優しさもあります。お説教もしません。全然えらそうじゃないです。凄いです。ただ、全てを味わうには私の心と脳みそにもうちょっと余裕が必要でした。

 2003年9月にソウルで初演、その後11月に東京、2004年5月に京都と、この短い期間にもう4演目ですね(あれ?もう一回東京でやってなかったかな?)。それほどの話題作であり人気作なのでしょう。私も時間があったら戯曲を読み直してからもう一度観たいぐらいです。

 劇作家兼演出家のAshleycatさんの、この作品についての素晴らしい劇評が読めます。これを読めばわかる!!
 → Ashleycat's Eternal Second banana.

演出:三浦基 原作:アントン・チェーホフ 翻訳:神西清
出演:安部聡子 太田宏 大庭裕介 奥田洋平 角舘玲奈 島田曜蔵 申瑞季 兵藤公美 山内健司
舞台美術:杉山至×突貫屋 照明:吉本有輝子 照明オペレーター:伊藤泰行 音響:田中拓人 音響オペレーター:大竹直 衣装:すぎうらますみ 宣伝美術:京 制作:田嶋結菜 総合プロデューサー:平田オリザ 主催 :(有)アゴラ企画・青年団
青年団:http://www.seinendan.org/

Posted by shinobu at 01:14 | TrackBack