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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年11月30日

青年座 下北沢5劇場同時公演『空』11/25-12/05本多劇場

 作:福島三郎&演出:宮田慶子の必見コンビ作品。
 メルマガ号外を出しました♪12/5(日)の昼公演で千秋楽です。どうぞお見逃しなく。
 【チケット予約・お問い合わせ】
  →劇団青年座 03-5478-8571

 下北沢の駅近くの5つの劇場すべてにおいて青年座の演劇が上演されているって、ものすごいことだと思います。下北沢がひとつの家のようなイメージ。幸せだな~。

 2054年の春から冬への四季が、それぞれ第1幕、第2幕となる4幕劇です。舞台の設定を聞いた時はなんだか暗そうだな~と思っていたのですが、蓋を開けてみると笑いが沢山の近未来SFメルヘンでした。
 大人の大らかさと優しい笑いで観客を包み込んでくれますが、実は作品自体のテーマから何から全部が社会風刺となっています。

 日本政府は日本中のホームレスをすべて社会復帰させたのだが、そこからも脱落していく人々がいた。彼らはライフ・ドロッパーと呼ばれ、多くは政府の手が及ばない地下に潜って生活をし始めた。
 舞台は東京の地下の元・永田町駅。住み着いているのは女ばかり十数人のライフ・ドロッパーたち。約50年にわたって老いも若きも互いにいたわりあい、平和に暮らしてきたが、ある日、ボランティアだと名乗る若い女がやってきて、彼女らの生活に異変が起こり始める・・・。

 暗くて、小難しくて、殺伐としていて、グロテスクな作風が多くなっている今の演劇界で、ストレートな愛情が溢れる脚本を、非常にわかりやすい演出で上演すること自体に、福島さんと宮田さんの意志を感じずにはいられません。

 うまくいき過ぎだと感じる展開や、やや予定調和かと感じる対話シーンがありますが、そのような誰もが容易に理解できる物語の中から、福島さんの切なる憂国の心が伝わってきます。宮田さんは、天まで続く長~い階段を一段ずつ確実に踏みしめて、めげずに上っていくような、根気のあるきめ細やかな演出をされます。ひょっとすると軽く受け止められそうなお話が、宮田さんの力で、嘘臭くない、一本筋の通ったコメディーになっていました。

 私達は「好き」「愛してる」「気持ちいい」など、心をそのままに表す言葉をなかなか話さないようになっています。この作品では、聞いている方が照れくさくなるぐらいに率直で優しいセリフがいっぱいでした。舞台の登場人物(特にライフ・ドロッパー役)が余計なものを加えず、かといって何も省くことなく、心そのままの言葉を語ることが、観客の心を癒してくれます。

 私が最近観た『ピローマン』『イケニエの人』『喪服の似合うエレクトラ』は皆、“家族および身近な人々の間の不信(裏切り)”を描いています。上述の作品とは作風が違いますが、この作品でもテーマは同じでした。演劇は世相を敏感に反映しますよね。勇気を出して、心のままの言葉を口にしたいと思いました。なかなか難しいかもしれませんが、それが平和への一歩のような気がします。

 ここからネタバレします。

 仲間を確認するための合言葉が「空」→「見たことない」から「空」→「見てみたい」に変わったことで、ライフドロッパーたちの心の変化を表したのは、見事な仕掛けだと思いました。このセリフ、実はちょっとダサイというか、あからさますぎて照れちゃう展開になりかねないですよね。でもじーんとしたんですよね~。他にもそんなシーンが沢山ありました。脚本はもちろん、演技と演出の力でしょう。

 青年座の女優の演技合戦を堪能いたしました。役者さん一人一人が、自分の演じるキャラクターをきちんと自分で解釈し、作り出していることがわかりました。ダッシュ役の緒方淑子さんだけちょっぴりおぼつかなかったかな。

 一歩も外(上)に出たことがなく、両親のことも知らず、男にも出会ったことがないという人物を演じるのは大変なことです。その役のリアリティを求めるのはヤボなことで、役の心を伝えることができれば、それがリアルなのだと思います。総理大臣キヨ役の高畑淳子さんとオトメ役の増子倭文江さんがその役でしたが、お二人とも文句なしでした。

 佐野美幸さん。ボランティア団体「神様のちょっかい」のメンバー役。レースふりふりのぶりっこルックが超ウザくて最高(笑)。くせになるキャラクターで、会場中を虜にしてらっしゃいました。

 ロボットの“スズキ”はキュートでしたね。あれはリモコンで動くラジコンカーが仕込まれているのかな?首はどうやって動いているんでしょう?

 青年座HPのキャスト一覧に出演者のトリビア情報が載っていて、こまめに読むと結構面白いです。女医役の五味多恵子さんが「52歳の今、人生で初めての婚約中」というのが素敵!

出演:高畑淳子 長谷川稀世 増子倭文江 小林さやか 椿真由美 松乃薫 五味多恵子 緒方淑子 片岡富枝 佐野美幸 那須佐代子 津田真澄
作:福島三郎 演出:宮田慶子 装置:加藤ちか 照明:中川隆一 音楽:いがり大志 音響:高橋巌 衣裳:前田文子 舞台監督:福田智之 製作:紫雲幸一
青年座:http://www.seinenza.com/

Posted by shinobu at 23:22 | TrackBack