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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2004年12月05日

Studio Life『パサジェルカ-女船客~秘した過去が手招く旅路~』12/02-12シアター1010

 作・演出の倉田淳さん以外は全員男性という男優集団スタジオ・ライフ。いつもすぐに前売り完売する劇団なのですが、今回はさすがに会場が北千住だからか、まだ残席があります。
 『パサジェルカ』とは“女船客”の意味だそうです。

 時は1960年代前半。ドイツからリオデジャネイロへ行く豪華客船の中で、リーザ(林勇輔)はある女に出会った。あれは自分がアウシュビッツ収容所で看守をしていた時に、囚人だったポーランド人のマルタ(及川健)。「まさか生きていたなんて」。最愛の夫ワルター(笠原浩夫)にも話していなかった14年前の過去が暴かれていく。

 華やかなStudio Lifeの世界を期待していたので、アウシュビッツ収容所での回想シーンが作品のほぼ全部に渡ったのにはちょっと驚きました。女子収容所を舞台にした2人の女(リーザとマルタ)の物語で、『BENT』ほど残酷で悲しくはなく、救いもありましたが、やはり強制収容所内での出来事をつづっていくのを観るのはつらいですね。でも広島と長崎に原爆が落とされたことと同じように、私達が決して忘れてはいけない歴史的事実です。

 1939年9月のナチス・ドイツによるポーランド侵攻から第二次世界大戦は始まりました。戦争が終わろうとする頃にはナチス・ドイツによる被占領国17カ国の中に約1000ヶ所の強制収容所があり、囚人として関わりを持った人の総数は約1800万人、そのうち生還したのは半数以下でした(パンフレットより)。特にアウシュビッツでは終戦間際の頃には、1日に2000人以上がガス室で殺されていたそうです(本編のセリフより)。
 『パサジェルカ』の原作者であるゾフィア・ポスムイシさんはポーランド人で、実際にアウシュビッツに強制収容された経験の持ち主です。『パサジェルカ』は“ホロコースト文学の古典”と呼ばれ、少なくとも14ヶ国語に翻訳されています(パンフレットより)。

 ここからネタバレします。

 倉田さんの演出はオープニングがいただけないんですよね。のっけから女装をした男が「あはははは」「うふふふふ」と不自然に笑いながら出てきちゃったり、むやみに踊ったりするので、引いちゃいます。でも今回も原作が傑作と名高い小説なので、ストーリーが絶対的に面白いんです。言葉を聞いているうちに集中することが出来るようになり、中盤以降はお話の展開にドキドキわくわくしながら完全に引き込まれていきます。
 倉田さんは、この作品のためにアウシュビッツ収容所に実際に行かれています。そのせいか、役者さんの演技にはむらがあるものの、収容所のシーン全体の空気にはリアリティが感じられました。パンフレットに取材内容および写真が載っていますので、観に行かれる方はぜひ読まれると良いと思います。

 美術は可動式の柱を数本使ったシンプルなものでした。場面転換が多いためとはいえ、ちょっと「組み立て式」な感じがし過ぎでしたね。『ニュルンベルク裁判』でもありましたが、囚人が貨物列車で運ばれてきた様子や、死体の山などの実際の写真が舞台奥のスクリーンに映し出された時には、体がこわばりました。でも、見るべきですよね。何度でも。決して忘れないために。

 看守と囚人たちが客席に背中を向けてクラシックの演奏を聴いており、彼らの後ろでこっそりとマルタとマルタの婚約者のタデウシュ(山本芳樹)が見つめうシーンは美しかったですね。その2人をリーザが引き離すのも良かった。このシーン以外でも、看守のリーザが囚人のマルタのことを好きだったのがよく伝わってきました。それもすごく上品に。これは林さんの演技のたまものかも。

 タデウシュが殺された後、マルタが病床で語ったセリフが心に響きます。「私にはもう失うものは何もないのです。人間は生きることに執着しすぎると、奴隷になります」。

 林勇輔さん。主役のリーザ役。声が本当に美しい。オープニングはちょっとつらかったですが、しゃべりだすにつれて徐々に女性に見えてきて、中盤以降は完全に女性だと思って観られました。歩き方や凛とした後ろ姿に女の色香を感じられました。林さんだったから、しっかりと世界が作られたのだと思います。リーザ役がたった一人で語り部を担当し、ほぼ出ずっぱりなので、この役がきちんとしたレディーで、かつナチスの看守でなければ成り立たないのです。Abyssバージョンでは曽世海児さんがリーザ役なのですが、噂によるとこちらも良いそうですよ。
 及川健さん。マルタ役。病気のシーンは本当にげっそりされていて、リアルでした。目の力がすごいなと思いました。

 笠原浩夫さん。リーザの夫ワルター役(ブラジル駐在西ドイツ大使館新任参事官)。なんだか上滑りしていた印象です。「ははは」とよく笑うのも薄っぺらいし、そもそもリーザを愛しているようには見えませんでした。苦悩が感じられなかったんですよね。悩む役はあまりお似合いじゃないのかも。冷徹非道で自信過剰の男(もしくはロボット)とか、そうじゃなければ完全に三枚目の道化役だと良いのかもしれません。筋が一本ビシっと通ったのが素敵なので。
 山本芳樹さん。マルタの恋人タデウシュ役。ひげを生やしてらっしゃったし、非常に男らしい男役だったので、しばらく山本さんだとわかりませんでした(笑)。とてもセクシーでした。

原作/ゾフィア ポスムイシ 脚本・演出/倉田淳
美術:松野潤 照明:森田三郎・森川敬子 舞台監督:北条孝・土門眞哉・西村朗(ニケステージワークス) 音響:竹下亮(OFFICE my on) ヘアメイク:角田和子・片山昌子 衣裳:竹原典子 美術助手:渡辺景子 宣伝美術:河合恭誌 菅原可奈(VIA BO, RINK) デスク:釣沢一衣 岡村和宏 揖斐圭子 制作:稲田佳雄 中川月人 赤城由美子 CUBE STAFF プロデューサー:北牧裕幸・高橋典子 制作:北里美織子 宣伝:米田律子 製作:(株)足立区コミュニティ・アーツ 制作協力:CUBE 企画・制作:Studio Life

Cliff<断崖>ヴァージョン
【出演】リーザ(ワルターの妻):林勇輔  マルタ(アウシュビッツの囚人):及川健 タデウシュ(マルタの婚約者): 山本芳樹 ワルター(ブラジル駐在西ドイツ大使館新任参事官):笠原浩夫 ブラッドレイ: 牧島進一 マリエ・マンデル他:佐野考治 シュルツ他:前田倫良 船長:船戸慎士 事務所長他:寺岡 哲 ハウゼ:青木隆敏 書記他:奥田 努 女カポ他:藤原啓児 ヴェルナー他:河内喜一朗 篠田仁志・下井顕太郎・萬代慶太・大沼亮吉 松本慎也 関戸博一 吉田隆太 荒木健太郎 三上俊

Studio Life:http://www.studio-life.com/

Posted by shinobu at 23:01 | TrackBack

青年座 下北沢5劇場同時公演『諸国を遍歴する二人の騎士の物語』11/25-12/5下北沢駅前劇場

 別役実さんの作品で、湯浅実さんと森塚敏さんが出演されるので観に行きました。
 下北沢駅間劇場でこのキャストって、めちゃくちゃ貴重ですよね。貴重といえばOFF OFFシアターで女優さんが23人出演中というのもすごいんですけど(笑)。

 乾いた風が吹きすさぶ荒野に、ぽつんと「移動式簡易宿泊所」がある。そこに医者、看護婦、神父が仕事を求めてやってきた。とうとう待ちに待った客がやってきた、と思ったら、それは老いた2人の騎士とその従者2人だった。

 まず、駅前劇場の装置がすごかったです。いつも客席がある方に舞台があり、舞台がある方が客席になっていました。劇場入り口は開演中も扉を開けたまま、下手の出はけに使われました。舞台の床には、劇場ロビーへも引き続いて白い布が敷き詰められていています。客席の段がそのまま装置に生かされているのも面白いです。

 大道具や小道具、衣裳はどことなくおもちゃのような風合いがあり、絵本の中の世界をイメージさせます。騎士たちがまとっている鎧は、ぺっしゃんこにつぶした空き缶をつなげた、一見ゴミにも見えるようなもので、マントはぼろぼろの汚れたカーテン(及び、のれん)でした。兜のかわりに鍋やバケツを被っています。この他に劇中のセリフにも「風車」等が出てきますので、ドン・キホーテがモチーフになっているのは明らかですね。
 でもこの物語に登場する二人の騎士はドン・キホーテとは性格が正反対なのです。とりあえず究極のマイナス思考(笑)で、次々と人を殺していきます。しかも自分では手を下さずに。

 遍歴する二人の騎士(湯浅実さんと森塚敏さん)が出て来ると、シーンと静かな中に異様な空気がなだれ込んできました。一瞬たりとも見逃したくないので、目と耳を思いっきり集中させて舞台にかぶりつきました。でも、その他の役者さんについては、演技がむやみに棒読みだったり、大げさな動作だけで中身がなかったりしたので、騎士がいない時は眠ってしまいました。悪い意味で新劇っぽい演出というのでしょうか、形ばかりで内容が薄いように思えました。

 別役実さんといえば不条理演劇です。正直なところ、意味はよくわかりませんでした(途中で寝ちゃったのもあるけど)
 でも、力強さを感じました。「生きる意味の喪失」という言葉も今となってはもう使い古され、慣れ親しんでしまいましたが、それを別役さんの視点から表現したものなのかな、と思いました。(下記、気になったセリフを書きます。完全に正確ではありません)

 騎士「わしらを殺さなきゃ、君はわしらに殺されるよ」
 神父「なぜ私が殺されなきゃいけないんですか?私はまだ死にたくない」
 騎士「だから、なぜ? なぜ死にたくないと思うんだね?」

 騎士「殺すことはすなわち生きること」

 森塚敏さんが圧倒的な存在感でした。おとぼけ演技が凄い。もう神々しいほどです。

 ぜひ他の演出で、また観てみたい作品です。

劇団青年座創立50周年記念公演
作:別役実 演出:伊藤大
装置:伊藤雅子 照明:中川隆一 音楽:和田啓 音響:高橋巌・城戸智行 衣裳:三大寺志保美 舞台監督:尾花真 演出助手;千田恵子 
出演:湯浅実・森塚敏・円谷文彦・岩崎ひろし・高松潤・井上夏葉・田中耕二・加藤満・ひがし由貴 演奏:和田啓
青年座:http://www.seinenza.com/

Posted by shinobu at 18:26 | TrackBack

青年座 下北沢5劇場同時公演『深川安楽亭』11/25-12/5ザ・スズナリ

 純・時代劇でした。
 山路和弘さんと檀臣幸さん目当てで観に行きました。実は若手の高義治さんにもちょっと注目しています。

 舞台は江戸時代。浪人まがいの男達がたむろしている「安楽亭」という居酒屋。かたぎの生き方ができない彼らは、危い橋を渡って生き抜いている。ある日、富次郎という傷ついた若者がかつぎこまれてきた。富次郎の身の上話を聞いた安楽亭の男達は、彼のために一肌脱いでやろうと、ある仕事を引き受けるが・・・。

 座席が中央最前列だったんです。なのに途中で寝てしまいました。ごめんなさい。なんと1時間45分経ったところから、やっと盛り上がったんですよね。そこからは目当ての俳優さん達の極上の演技合戦でボロボロに泣かされ、シビれさせていただきました。山路和弘さんと檀臣幸さんの川辺のシーンなんてお宝モノやね。

 どうも演出にはうなづけないところがありました。特に音楽がちょっとダサイかな、と。上手の客席側に花道のように舞台がせり出していて、そこが川辺になったりするのは世界が広がってよかったですね。でも、ベンチシートの観客からは見づらかったな。

 山本龍二さんの迫力に、私はまるでヘビににらまれた蛙の心持ち。最前列は刺激がありすぎました(笑)。

 千秋楽ということで、カーテンコールで今回の舞台装置を作ってデビューをした装置プランナーの阿部一郎さんが紹介されました。50周年記念公演で若い才能が新たに誕生したことを観客にお披露目するのは素敵ですね。

劇団青年座創立50周年記念公演
作:山本周五郎 脚本:小松幹生 演出:高木達 装置:阿部一郎 照明:野地晃 音響:高橋巌・城戸智行 舞台監督:古川慶弘 演出助手:齋藤理恵子 演出部スタッフ:阿部一郎 他
出演:名取幸政・永幡 洋・山路和弘・平尾 仁・大木正司・山本龍二・井上智之・檀臣幸・大家仁志・山賀教弘・矢崎文也・五十嵐明・小豆畑雅一・山崎秀樹・川上英四郎・高義治・野々村のん・柳下季里
青年座:http://www.seinenza.com/

Posted by shinobu at 17:16 | TrackBack