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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年01月28日

東京ネジ『フロウフユウ』01/27-30王子小劇場

 岩手の盛岡から東京に進出してきた、女の子ばかりの劇団だそうです。
 女の子らしいポエティックな空間で、漠然とした、だけど世界を覆いつくすほど巨大な空しさ、寂しさを、ストレートに表現していました。
 今週末の日曜日までです。技術的にはまだこれから、という感じですが、すごく頑張っているし、個性のある作品だと思います。お時間あれば、ぜひ。

 舞台は2060年代の日本。雪が降らなくなってもう約40年。ある家族のお話。母みつる(佐々木香与子)は50歳だというのに超若いルックスで、趣味はギャンブルと買い物。娘のみつこ(龍田知美)は30歳。15歳の時の失恋のせいで人を好きになれないでいる。母は、みつこが中3の時にみつこの担任の先生と突然結婚した。だからこの15年間は、母、新しい父、みつこ、息子のみつお(明石修平)、そしてお手伝いロボットのアイちゃん(宇田川千珠子)の5人暮らしだ。みつことみつおには、温度や体温を自覚できないという共通の障害があった。
 みつおには紐子(ひもこ:佐々木なふみ)という30歳の彼女がいる。ある日、紐子がみつおとのデートに出かけようとした時、突然陣痛が始まった。生まれてきたのは、大きな大人の女(サイトウミホ)と男(田村圭一)だった・・・。

 2階までしっかりと作られた幻想的でキュートな舞台装置で、3つの全く異なる世界のエピソードが始まり、オープニングから驚かされました。古い言い方で前衛的、といいますか、わかりづらい始まり方だったのでちょっと心配になったのですが、徐々に3つが合わさっていき、数々のどんでん返しに引き込まれていきました。
 
 母みつると同じように70歳なのに20代のような姿のままでいる、みつるの母親、つまり祖母のくみこ(佐々木富美子)のが出てきて、「ケサラン・パサランを返して!」と行って来たところで秘密がどんどん明かされていきます。“ケサラン・パサラン”って私にとっては化粧品でしかなく、イメージはずっと化粧パウダーだったんですが(苦笑)、本当は「白い羽のような、ふわふわした、幸せを運んでくるもの」のようですね。この作品では“何でも望みをかなえてくれる魔法の羽”でした。

 母と祖母はケサラン・パサランに不老不死を願ったため、年を取らない身体になっていたのです。また、祖母からケサラン・パサランを奪って逃げた母は、ケサラン・パサランで何でも望みを叶えて30年間生きてきました。だから、娘と息子も実は彼女が願って作ったモノで、人間ではなかったのです。さらに、母が結婚したお父さんは、娘が15歳の時に失恋した教師ロボットだったことも判明します。

 ケサラン・パサランの効力が(なぜか)消えていくにつれて、母は手に入れたものをどんどんと失っていきます。教師ロボットには寿命がきて、不老不死ではなくなった祖母は若い彼氏と新しい人生を歩み始め、お手伝いロボットのアイちゃんは修理から帰ってきたら記憶が全部消えていました。娘と息子はケサラン・パサランの羽が舞い吹雪く中、母の前から姿を消します。このシーンは圧巻でした。観客にマスクが配られていたのはこのためだったのですね(そういうアナウンスが全くなかったのは問題ですが)。
 みつおの彼女の紐子も、ケサラン・パサランの力を借りて“具現人格”という病気のために現れていた男女を消しますし、みつおも彼女が知らない間にいなくなります。望んだだけで何でも手に入った人生だったけれど、突然全てが泡のように消え、たった一人になってしまった母が「これは長い夢だった」と言ってエンディング。

 簡単に望みが叶うことの空しさ、思いが叶わないときの悲しさ、何かを失うことのつらさなど、寂しく切ない気持ちを表現すると同時に、家族や恋人を愛し、大切に思う暖かい気持ちも伝えようとしていました。

 衣裳のセンスがとても良いです。普段着にちょっとした工夫を加えて登場人物のキャラクターもわかりやすく表せていました。
 音は音楽も効果もまだまだですが、意図は理解できました。
 舞台は、カーテンがうまく動いていなかったり、階段が危なっかしかったり、観ていて不安になるところは沢山あるのですが、王子小劇場の高い天井を使って最大限に冒険しているのがわかりました。
 
 制作(受付)とか、舞台転換とか、技術と経験が物理的に不足しているところが目立ちますし、脚本については言葉がまだ練り足りない(率直過ぎる)と感じました。演出にも穴があります。でも、それこそこれから公演を続けていけば克服できることばかりです。やりたいことを頑張ってやっているのが伝わってきたので、終わった時はすがすがしい気持ちでした。

 明石修平さん(bird's-eye view)。みつお(息子)役。カ、カ、カッコ良過ぎます・・・・もう、スターですよ、スター!『ハウルの動く城』で言うと間違いなくハウル。もうっ、とにかく必見!
 龍田知美さん。みつこ(娘)役。しっとり、押さえた演技が素晴らしいです。片思いをしていた彼に告白するシーンは切なくて泣きそうになりました。久しぶりに小劇場エンタメ系で良い女優さんに出会えました。どこかで拝見したなぁと思っていたら(劇)べっちん『鬼ロック'04』に出てらっしゃいましたね。あの時も心に残る方でした。

王子小劇場賛助公演
作:佐々木なふみ 演出:佐々木香与子
出演:佐々木香与子 佐々木富貴子 佐々木なふみ 龍田知美(以上、東京ネジ) 平野圭(ONEOR8) 明石修平(bird's-eye view) 宇田川千珠子 浦井大輔(コマツ企画) 田保圭一 サイトウミホ
舞台監督:長谷川ちえ 舞台美術:袴田長武 照明:工藤雅弘(Fantasista?ish) 音響:島崎諒(JAPWORKS) 衣装:藤川亜紀子 宣伝美術:大倉英輝 混 制作:柴田優子
東京ネジ:http://tokyoneji.amnesic.org/

Posted by shinobu at 2005年01月28日 01:10 | TrackBack (2)