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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年05月26日

G-upプロデュース『Deep Forest』05/24-06/05新宿スペース107

 期待の新人脚本家ほさかようさんの新作を、サードステージのプロデュース公演等で有名な板垣恭一さんが演出されます。最近だと『お父さんの恋』も板垣さんの演出ですね。
 G-upプロデュースはキャストがすごく豪華なんですよね。俳優の所属劇団名を挙げますと(特に所属をしていない方は除いて)、演劇集団キャラメルボックスNYLON100℃扉座Chintao Record絶対王様tsumazuki no ishiという多彩さです。さらに主演の楠見薫さんは元・遊気舎(所在地は大阪)ですから非常に意外な組み合わせです。

 さて、作品は一言で表すならグリム童話『ヘンゼルとグレーテル』を題材にしたダーク・ファンタジーです。去年拝見したほさかさん作の『金魚鉢の中で』がサスンペンス・ホラーだったので、今回もその色が濃いのかしらと思っていたのですが、全く種類が違いましたね。こんなにボロボロと泣いちゃうとは思いませんでした。

 話の筋道はとてもストレートでセリフもわかりやすく、ちょっと子供向けかも?と思うぐらいでしたが(そもそも童話ですしね)、主役の魔女ローザ役の楠見薫さんを通じて人間の素直な感情がびんびん伝わってきて、魔女のお話というよりは残酷な運命に翻弄されながらも必死で生き抜いた、ローザという一人の女を描いているように思われました。

 私が拝見したのは初日でしたので序盤はリズムにうまく乗れていないようでしたが、技の有る役者さんの確実に楽しいネタやアドリブ(?)も上手く効いて来て、中盤以降からクライマックスにかけては、息を呑む展開と迫真の演技でお話の中にどっぷり浸かりこみました。場面転換のタイミング、そして照明効果の巧みさに舌を巻きました。

 ここからネタバレします。これから観に行かれる方は読まれない方が良いですよ。

 深い森の奥に盲目の女ローザ(楠見薫)がたった一人で暮らしている。道に迷った子供が2人、助けを求めて女の家にやってきた。名前はヘンゼル(山中崇)とグレーテル(新谷真弓)。ローザはグレーテルを見て彼女にそっくりな少女、一人娘のエデン(新谷真弓)のことを思い出す。ローザは昔、エデンと2人で幸せに暮らしていたのだ。

 ヘンゼルとグレーテルがやってきた現在と、ローザとエデンが暮らしていた昔とが入れ替わるように演じられます。新谷さん演じる2人の登場人物は、演技はもちろんのこと衣裳の変化で区別されていました。

 深い森の中に住む魔女が登場して、中世ヨーロッパの魔女狩りを想起させるような出来事が起こるあたりは、私達が昔からテレビアニメや絵本、教科書などで慣れ親しんできた、比較的わかりやすいオーソドックスな筋立てです。

 黒い上下の服を着た謎の男(細見大輔)はおそらく「悪魔」で、ストーリーテラーという重大な役割を果たしていましたが、少し存在感が薄いように思いました。彼は自分の大好物である人間同士の憎しみ合い、殺し合いをむさぼるために、魔女ローザと娘のエデンを操っていた超悪者なのですが、それほど悪いヤツに見えなかったんですよね。細見さんが人間味のあるハンサムだからかもしれないですが(笑)、どうしても正義の味方っぽいというか、それほど殺し合いとか好きじゃなさそうに見えました。もっともっとギラギラしてる方がいいんじゃないかな。
 
 真っ白い舞台装置は床が円形に張り出しており、舞台奥と上手側にその円形ステージを包むように大きな壁が巻かれています。2つの壁にはそれぞれ四角い窓とドアの大きさの穴が空いていて出はけ口になっており、その窓とドアに照明が当てられて、外枠だけがボーッと白く光っているのが美しかったです。色んなシーンでそれが生きていました。
 チラシを見直してみたら、ビジュアルが舞台の内容としっかりリンクしていますね。真っ白な空間に丸いステージ、中央にぽつんとたたずむ赤い魔女。関係あるのかどうかわかりませんが(笑)。

 ローザの女友達のベル役の判美奈子さん(扉座)はいつも通り、ハイクオリティーのコメディエンヌでした。疫病が蔓延しているのは魔女のせいだとシュプレヒコールを挙げる連中から、ローザとエデンを救い出そうとするシーンにはシビレましたね。

 グレーテルとエデンの2役(?)を演じた新谷真弓さんは、少女を演じていることがすんなり受け入れられました。笑いの呼吸も絶妙だし大きな怒りや悲しみを表す時も安定していて、技術を感じます。

 やっぱり今回の目玉はローザ役の楠見薫さんだと思います。あらゆる気持ちが表情からダイレクトに伝わってきました。娘のエデンさえも殺そうとしたような、コントロールができなくなった怒りも凄かったですが、家族にも他人にも惜しむことなく注ぎ込まれる無償の愛情がとんでもなく大きくて、優しかったです。そしてそれが観客にも向かっていることがわかりました。大好きな女優さんになりました。

 ジャンルは全く違いますが、同じく童話を元にした舞台作品の『シンデレラストーリー』(現在上演中)思い出しました。『シンデレラストーリー』は、アンデルセン童話の『シンデレラ』の「なぜ??」と突っ込みたくなるところを、鴻上尚史さんが筋の通ったお話に作り変えています。例えばシンデレラのお父さんはなぜ家にいないのかとか、シンデレラの靴だけはなぜ夜の12時を過ぎても消えなかったか等の謎を解いていくのです。
 この作品の場合は魔女を主役にして『ヘンゼルとグレーテル』のサイドストーリーを創作し、原作と一致している事実の理由付けをしています。観終わって思い出していくと、色々細かく書き込んである脚本です。2回観ても面白いかもしれません。

 ・なぜ魔女(ローザ)の家は「お菓子の家」だったのか
  →娘(エデン)が屋根の上に母親特製の七色キャンディーを飾っていたから。
 ・屋根の上から宝石がたくさん見つかったのはどうしてか
  →娘が母親からプレゼントされるたびに屋根の上に隠していたから。
 ・原作では「魔女はかまどに放り込まれて焼き殺された」となっているが、今作では・・・
  →魔女がヘンゼルを突き飛ばした拍子にヘンゼルが持っていたランプが床に落ち、その炎が燃え移って、魔女は家ごと焼け死んだ。

作:ほさかよう 演出:板垣恭一
出演:楠見薫 細見大輔(演劇集団キャラメルボックス) 新谷真弓(NYLON100℃) 伴美奈子(劇団扉座) 井之上チャル 川渕良和 山中崇(Chintao Record) 小橋川健治(絶対王様) 松嶋亮太(tsumazuki no ishi) 浅野智 久水広太 若林亜紀
舞台監督:田中政秀(Team Cowboy) 舞台美術:秋山光洋 音響:小笠原康雅(office my on) 照明:正村さなみ(RISE) 演出助手:山崎総司(Playing unit 4989) 演出部:奥村亜紀 衣装:名村多美子 宣伝美術:石曽根有也 撮影:松井秀樹 音楽:仲野慶吾 制作:伊藤恭子 プロデューサー:赤沼かがみ 企画製作:G-up
前売 4200円 当日4500円
G-up:http://www.g-up.info/

Posted by shinobu at 2005年05月26日 01:26 | TrackBack (0)