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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年10月22日

ピチチ5(クインテット)『はてしないものがたり』10/20-23明石スタジオ

 福原充則さんが作・演出されるピチチ5。私、大ファンなんです♪ 今回が第3回公演(過去のレビュー→第1回第2回)で、今までと同じスタイル(短編集)ではあるけれど、何ランクもレベルアップした演劇世界でした。

 豆粒以下で、くだらなくて、死んだ方がましかもしれない私達の日常を、体当たりの一瞬間で笑い飛ばしながら描ききり、自分と他人、男と女、生きてるってどういうことなのか・・・という哲学的境地にまでたどり着いています。

 次回公演がいつになるのかわからないそうです。今日の夜と明日の昼・夜で終わってしまいますので、ぜひぜひ高円寺へお運びください。見逃さないで!

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 いい意味で期待を大きく裏切られる、感動の小劇場演劇でした。あきれ笑い、切なさ笑いなどを引き起こす短編コントを観られるのかなと思っていたのですが、それをすっかり超越した劇空間を提示していたように思います。
 私的な意識をギュっと抑制したコント会話もあれば、思いっきり大声で叫んだり、ステージ上で一人で七転八倒したり、体と声の限界を見せる演出もあります。演劇という、肉体と言葉を使った表現手法に対して果敢に戦いを挑んでいるような気がしました。

 ひきこもり、ニート等と呼ばれて異常、病的だと認識されがちな現代の若者の生活を、堂々と開き直って描き、その生々しい世俗から直接ファンタジーの世界に飛びます。「飛ぶ」というと空へ飛翔するとか遠くへ行くようなイメージがありますが、決してその意味ではありません。私達が暮らしているありきたりな日々の繰り返しの中の一瞬が、想像力によって突然、夢とか、宇宙とか、ありとあらゆるものに変身するのです。それが“はてしない物語(ネバーエンディング・ストーリー)”の意味ですよね。

はてしない物語
ミヒャエル・エンデ作 / 上田 真而子訳 / 佐藤 真理子訳
岩波書店 (1982.6)
通常24時間以内に発送します。

 ここからネタバレします。

 第一話「三人の開拓者」
 4人の会社員の飲み会の帰り道。石北さん(高木珠里)と帰る方向が一緒だった高梨(山下純)は、石北さんが気安く自分の肩に触れたり、通勤電車が一緒だという話をし始めて逆上する。「なんで肩に触るんだよっ!好きになっちゃうじゃないかっ!!」

 「人を好きになるのに理由はいらない」「カバンの斜め掛けはエッチOKのサイン」とか、名言と迷言が連呼されます。“ハリネズミのジレンマ”というと聞こえがいいですが、モテない男たちの強情っぱりで独りよがりな世界が情けなくって可愛い。
 “恋愛”というものを描ききっていた気がするんですよね。片思いから両思いになってエッチして、お互いの気持ちが離れていったらお別れする。それを3秒で終わらせていました。

 女が大好きなのだけれど片思いや失恋はつらすぎる。とうとう「女なんかいなければいいんだ!」と逆ギレして、男だけの国を作ろうと頑張る。でも結局は「玄人女性さえいればいい」という境地にたどり着く・・・。無様だなぁと思いつつ、素人女性としてはちょっと複雑な気持ちも(笑)。


 第二話「嘘だと言ってよ、ハリー」
 終電を逃してしまい、2人のサラリーマン(野間口徹&山本圭祐)が駅に止められていた自転車の鍵を壊して盗もうとしている。そこに自転車の持ち主(植田裕一)が現れて・・・。
 
 皮ジャンを着た自転車の持ち主=ロックな人(植田裕一)が、実はサラリーマン(山本圭祐)が昔あこがれていたミュージシャン、ハリーだったということがわかります。でも今の彼の姿に絶望して、ファンを辞めて去っていくまでがちょっと長かったかな。サラリーマンが去った後に、ロックな人の愛車(高木珠里)が自転車幽霊として登場するのが、バカバカしすぎて面白かったので。


 第三話「吉崎、かく語りき」
 日本語がおぼつかない中国人(高木珠里)がレジにいる100円ショップ。店長(三浦竜一)もバイトの吉崎(吉見匡雄)も、やる気がない。100円ショップ、惣菜屋のおかず仕分け現場、居酒屋という、立身出世が全く見込めない職場でのうだつの上がらない若者達の仕事っぷり。
 中学生にオヤジ狩りされて殺された吉崎(吉見匡雄)が、店長のもとに幽霊になって現れて言った。「32年間生きてきて、一番楽しかったのはオナニーです」。

 吉崎の遺言(?)を受けて、店長は晴れ晴れとした心持ちで「そうか、オナニーだったら気持ちいいし、俺にでも出来る!」と叫びます。華やかな人生をあきらめてしまった若い男の子たちが、このままでも幸せになれる道というと、まず今の自分を肯定することです。その一番簡単な方法がオナニーのポジティブな肯定なんですね(笑)。そしてそれは想像力への賛辞でもあります。


 第四話「ほんとだよ」
 引っ越しのバイトをする男達。やる気がないから休んでばかり。無理やり仕事を始めてもチームワークはゼロ以下。でも美人が前を通る時はみんなそろって凝視するから息がぴったり合う。当然、美人は自分達には目もくれない。もしかすると美人は俺達が生きている世界には居ないんじゃないか?本当は存在しないんじゃないか?

 美人は自分達の世界に居ない。逆に言うと自分達は美人達の世界に居ない。そして「俺達は幻なのか?」という自己否定に陥り一気に落ち込むのですが、それもつかの間。すぐに「だったら借金も帳消しだね♪」と都合よく受け取りなおします。そして「どこへでも連れて行ってあげるよ」と本物のファルコンが登場し(下手の壁から巨大なぬいぐるみが出現)、想像力の翼は無限に広げられるのですが、ぐるりと考えをめぐらせて戻ってきたのは「自分の家に帰りたい。僕達の六畳一間へ連れて行って、TSUTAYAとコンビニ経由で!」という、等身大の密室。結局そこに逆戻りしてくる救いのない男たちの、希望に満ちたうすら笑顔が情けないし、微笑ましい。
 
 短い時間に無限の広がりと引きこもり部屋を行ったり来たり。
 白いイヌのぬいぐるみがスライス状に伸びてファルコンになった時は、恐ろしいし面白いしで、心がヘンになりそうでした。


 出演者の中で紅一点の高木珠里さん。“紅一点”だなぁと思ったのは最初の「三人の開拓者」だけで、後は完全に溶け込んでらっしゃいました。体当たりの演技でしたね。
 野間口徹さん。無神経な先輩サラリーマン、無礼な居酒屋店員、やる気のない引越しアルバイトなど、それぞれの表情や声色が今も思い出せるぐらい印象的でした。

出演=植田裕一(蜜)/碓井清喜/野間口徹(親族代表)/三浦竜一/三土幸敏(くねくねし)/吉見匡雄/山下純(こどもとあそぶ)/山本圭祐/高木珠里(劇団宝船)
作・演出=福原充則 舞台監督=中西隆雄 音響=高塩顕 照明=河上賢一 舞台美術=岩田暁/横畠愛希子(マンションマンション) 宣伝美術=岡屋出海 演出助手=永渕倫  制作=三村里奈(MRco.)
前売2000円/当日2200円 全席自由席・日時指定・整理番号付★学生割引1000円<劇団予約のみ。当日受付にて学生証提示>★大人割引1500円<35才以上。劇団予約のみ。当日受付にて身分証提示>
公式=http://www.ne.jp/asahi/de/do/pichi.html

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Posted by shinobu at 2005年10月22日 17:11 | TrackBack (0)