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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年10月29日

イキウメ『散歩する侵略者』10/25-30サンモールスタジオ

 面白いという噂を聞いていて、やっと初見のイキウメ。劇団名が・・・ちょっとコワイですよねぇ?でも・・・メルマガ号外まであと一歩の傑作でした!とうとう明日まで!どうぞお見逃しなく!!

 愛が溢れ出すのに悲しくってたまらない、本格派SFドラマ。脚本が最高に面白く、演出もスピーディーで完成度が高いです。そして役者さんも十分に上手い!※舞台写真はこちら(2005/11/08追記)。
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 ≪あらすじ1≫
 夫のシンジ(有川マコト)の様子がおかしいと妻のナルミ(岩本幸子)は気づいた。記憶はちゃんと残っているし意識もしっかりしているのだが、言葉の概念を全く忘れ去っているのだ。病院に行っても原因は不明。実はそういう患者が急激に増えているらしい。突然「散歩に行く」といって行方不明になるシンジは、帰って来るごとに人間らしくなっていった。
 シンジらが住む街では、ひそかに軍備が進められているようだ。フリーターの少年たちの中には「戦争がおこる!バンザイ!」と退屈な日々に変化が訪れるのを喜ぶ者もいた。ある日、残忍な無理心中事件が起こって・・・。
 ≪ここまで≫

 シンプルで抽象的な舞台美術でした。装置の移動などは一切なく、照明、セリフ、演技で場面転換させます。作・演出の前川知大さんのブログバームクーヘンの写真は、舞台を天井から見た様子を表しています。灰色のバームクーヘン型のベンチ2つが正方形の舞台の中央にあり、出はけ口は一箇所、ドアの大きさの枠組があるのみ。スピーディーで効率の良いシーン運びでした。堂々と立って言葉をきっちりと伝えられる役者さんが揃っていたので、その演出も成功したのだと思います。

 公演は本日夜で終了ですので、ここからネタバレします。

 ≪あらすじ2≫
 地球侵略をもくろむ“宇宙人”が3名、調査のために地球に降り立っていた。その内の1人がシンジに乗り移っており、彼は散歩しながら人間たちと話をして、自分が知らない概念を相手から収集していた。想定外だったのは、シンジが概念を得る代わりに相手の人間がその概念を失ってしまうことだ。 
 昔は寡黙だったシンジだが、“宇宙人”になってからはナルミに何でも話すようになっていた。どんどんと人間らしくなっていくシンジにナルミはさらに惹かれていく。しかし別れの日は目前に迫っていた。老婆を惨殺した無理心中事件も“宇宙人”の1人が人間の身体を知るために起こしたもので、情報収集が完了し次第、3人とも地球から去ることになっているからだ。
 ≪ここまで≫

 シンジがナルミのもとを去る時、最後にナルミが「愛」の概念をシンジに与えます。「今、あなたにコレをあげられるのは、私しか居ないから」というナルミ。ナルミから「愛」を奪ったシンジは顔を真っ赤に紅潮させ、体中を震わせながら「なんてものをもらっちまったんだ…!」と涙を流します。(※セリフは完全に正確ではありません。でも2度ご覧になった方が教えてくださいましたのでおそらく正解です。ありがとうございます!)

 私達が使う「言葉」はそれが表す「意味」だけではなく「感情」、「概念」といった目には見えないものと一体になっています(音、声などについてはここでは述べません)。「言葉」を持ったまま、その「概念」を奪われたら人間はどうなるのか。失われることによってその実体を改めて知らしめて、人間の関係、つまり「私」と「あなた」の間に存在する大切な何かを、劇場の中に具体的に表すことに成功していました。
 これこそ生身の人間同士が舞台に居て、言葉を発し、体を触れ合い、具体的な関係を持つから表現できること、つまり演劇だからこそできることだと思いました。

 ただ、目に見えない、言葉には表せない「愛」というものを、舞台の上に具体的に存在させることに成功した、奇蹟のラブシーンで、終幕にしてもらいたかったな~。

 シンジに「所有」という概念を奪われたために、考えをすっかり翻して反戦運動をはじめる若者のエピソードとからめて、ナルミがシンジに最後のお願いをするのがラストシーンでした。
 ナルミ「宇宙人が侵略しに来てるんだよ、戦争なんてしてる場合じゃない。何を奪えば、どんな概念を奪えば人間は戦争を止めるのかなぁ。ね、シンちゃん、奪ってよ。」(セリフは正確ではありません)
 マスコミやインターネットを利用してシンジが人類から何らかの概念を奪う様子が、プロジェクターから映される映像やナルミの独白で表現されます。それが実際に起こったかどうかははっきりさせていないので、あくまでもナルミが望んでいることを表しただけなのですが、そこまでやらなくても良かったんじゃないかと思いました。
 自分が何かを感じたり気づいたりして、誰かに伝えたいと思ったなら、それを多数意見の中に埋もれさせず、自分を誤魔化さないで発信しよう、という主張だと私は受け取りました。心の底から共感できるメッセージですが、もうちょっと控えめだった方が良かった思います。

 役者さんは「全員が文句なく上手い」というレベルには達していませんでしたが、作品の邪魔になるような人は居ませんでした。これからこの劇団がどうなっていくのか、注目したいと思います。
 客演の有川マコトさん(絶対王様)。だんだんと人間らしくなっていく宇宙人を自然に体現。ラストの涙溢れながらのセリフも素晴らしかったです。
 イキウメ看板女優の岩本幸子さんはreset-N『Valencia』での好演が印象に残っていました。セリフのせいもあるかと思いますが、ちょっとわざとらしさが鼻につくことがありました。十分お上手だったんですけどね。

 インタビュー“イキウメられる心地よさ、を是非堪能してほしい!”

 ※開演前に主宰の宇井タカシさんの当日パンフレットの文章を読んだ時点で、これはすごいと思いました。以下、部分を抜粋します。

 ≪当日パンフレットより抜粋引用≫
 ボクシング史上、最も偉大なチャンピオンの一人、モハメド・アリ。
 彼が長い闘病生活の後、アトランタオリンピックの聖火台に立った時に
 放った言葉は「ME AND......YOU」でした。

 想いや気持ちを届けたい。 
 それだけで、これほど短く、深く、尊いメッセージはなかなか見つかりません。
 
 今回のイキウメはそこをさらに遡ります。 
 「私」、「あなた」という存在を存在たらしめる「言葉」。
 私達はもしかしたらこの「言葉」によって「私」を信じ「あなた」を感じることができるのかもしれないということ。
 この言葉の力を解体することで、イキウメが皆さんの世界と繋がる試みをこの作品に託しました。
 ≪ここまで≫

-惜しみなく愛は奪う-
出演=宇井タカシ/國重直也/森下創/岩本幸子/緒方健児/岡部由美/池上ゆき/浜田信也/盛隆二/有川マコト(絶対王様)
脚本・演出=前川知大 舞台監督=小野八着(JET STREAM) 舞台美術=土岐研一 照明=松本大介 音響=鏑木知宏(KURSK.sound) 衣装=吉岡麻衣 振付=粟国範子 映像=三浦哲哉(Topteam-Theater) 楽曲提供=303 宣伝美術=高井真 制作=吉田直美 協力=佐山泰三
前売り2,500円 当日2,800円※日時指定・全席自由(整理番号付)
劇団=http://www.ikiume.net/

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Posted by shinobu at 2005年10月29日 23:17 | TrackBack (0)