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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年11月17日

青年座『パートタイマー・秋子』11/15-20本多劇場

 永井愛さんが青年座に書き下ろした傑作の再演です。演出は『見よ、飛行機の高く飛べるを』と同様に黒岩亮さん。メルマガ10月号11月号でもご紹介しておりました。初演のレビューはこちらです。
 やっぱり面白い!これは大人だけが見るのはもったいないです!ぜひ若者も本多劇場に集ってください!!

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 《あらすじ》 公式サイトよりそのまま引用。(役者名)を追加。
 舞台は、とある町の小さなスーパーマーケット「フレッシュかねだ」従業員控え室。
 樋野秋子(高畑淳子)はつい半年前まで中堅企業の部長夫人として恵まれた生活をしていた。が、不況による倒産で夫は失業し、再就職の難しさにいささかやる気をなくしている。行き先不安を感じた秋子は、ついにパートタイマーとして働く決意をした。が、秋子が選んだのは、高級住宅地にある自宅から遠く離れた町の小さなスーパー。心は部長夫人のままパート先に向かう秋子。物語はその第一日目から始まる。
 まもなく秋子はこのスーパーの信じられない実態を目の当たりにすることになる。陰謀と策略が渦巻く中、「フレッシュかねだ」起死回生を狙った“激安セール”は成功するのか。そしてその裏側にあるものは・・・。
 《ここまで》

 このチラシのビジュアルだと商業演劇っぽいドタバタ喜劇のように見えますが、決してそうではありません。単純な笑いももちろんありますが、観てる方が恥ずかしくなる苦笑が盛りだくさんです。そしてその笑いの中に日本社会への痛烈な皮肉もちりばめられており、ガハハと笑いながら自分も身につまされ、胸がギュルンと苦しくなる社会派コメディーです。
 ラストの秋子(高畑淳子)と貫井(山本龍二)の対話に涙、涙でございました・・・(泣)。

 このお話の舞台はスーパーマーケット“フレッシュかねだ”ですが、これは家庭、学校、町内会、会社など、人間が集まる場所ならどこにでも当てはまるお話です。
 店長(横堀悦夫)・貫井(山本龍二)を筆頭とする“フレッシュかねだ”改造推進派と、自分たちだけのわがままパラダイスを守るための現状維持および店長解任を目論むパートおばちゃん連合との、狭い世界の熱い戦い。いじめ、裏切り、贈賄・収賄、派閥争いなど、人間の心の汚い部分が生み出す悪行の吹き溜まりが“フレッシュかねだ”なのです。

 2度目なので言葉をより深く味わうことができ、今回は21年間無遅刻・無欠勤の小笠原さん(藤夏子)の言葉が特に心に留まりましたね。
 小笠原さんは決して自分の気持ちは言わずに、「どうなんだか・・・」という曖昧な言葉で口を濁してきました。“赤っ恥セール”に参加するのかどうかを決めるようにと店長に詰問されて、はじめて自分がとっていた態度について考え、秋子に告白します。
 「何かを言ったら、何かが起こってしまう。それが怖かったの。だからといって、何も言わなかったら、それは本当にこのフレッシュかねだのことを思っていたとは言えないわよね・・・(セリフは意味を踏襲して創作)」。

 これは今の日本人のことを表していると思います。「まじめに、まともに生きているのだから自分には非がない。自分が生きていく分の責任だけは果たしているし、迷惑はかけていない。それどころかしっかり働いて社会に貢献しているのだ」・・・と自分に言い聞かせて、できるだけ自分の意見や感想を言わずに、なるべく事を起こさないように、かたくなに現状を維持し続けること。それは誰か(なにか)と無関係でいることを選ぶという、いわば愛情の反対の表現なのではないでしょうか。マザー・テレサいわくの「愛情の反対は憎しみではありません。それは無視です。」ということだと思います。
 最近、意見を言うこと自体が愛情表現じゃないかなって考えています。有言実行は理想ですが、有言不実行の方が無言不実行よりも、ずっと、ずっと暖かいと思うのです。

 主役の高畑淳子さん、山本龍二さんは言うまでもありませんが、役者さんは皆さんその役柄になりきってらっしゃいます。森塚敏さんは少しセリフがおぼつかない、の、かな・・・??、と感じる瞬間が少しありましたが、やはり演技は良かったです。森塚さんがまたこの役を演じられているのが嬉しかったです。

 ※店長(横堀悦夫)が小笠原さん(藤夏子)向かってに「肝心なところで何も意見を言わないのは、“小笠原流”ですか!?」とやじるシーンがあります。
 小笠原流礼法は室町時代から続く日本の礼儀作法でして、私、少しかじっていたことがあるのです。ちょっぴりウンチクを書かせていただきますと、小笠原流礼法は「自分の意見を言わない」ことを特に奨励したりはしてはいません。物についても言葉についても「丁寧に、真ん中に、置く」というのがありまして、上品に、誰も傷つけることなく、しかし自分自身でもあり続けるという、それはそれは素晴らしいお作法でございます。

≪大阪、東京、ほか演劇鑑賞会など≫
出演=高畑淳子/山本龍二/横堀悦夫/津田真澄/小林さやか/土屋美穂子/藤夏子/井上夏葉/手塚秀彰/石母田史朗/小豆畑雅一/森塚敏
作=永井愛 演出=黒岩亮 装置=柴田秀子 照明=中川隆一 音響=井上正弘 衣裳=三大寺志保美 宣伝美術=早田二郎・中山千絵 舞台監督=安藤太一 制作協力=山中寿子(スタッフユニオン) 製作=紫雲幸一
一般5,000円 ゴールデンシート4,000円 ユニバシート3,500円 チェリーシート2,500円
公式=http://www.seinenza.com/performance/181/

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Posted by shinobu at 2005年11月17日 12:14 | TrackBack (0)