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2005年06月26日

KERA・MAP #004『ヤング・マーブル・ジャイアンツ』06/25-07/03吉祥寺シアター

 KERA・MAP第4段には700人から選ばれた35人が出演。吉祥寺シアターのこけら落とし公演の第2作目です。
 休憩なしの2時間45分でしたが、退屈せず楽しく最後まで拝見しました。やっぱり35人って大人数ですね(笑)。

 全員に役とセリフを与えてそれぞれに少しでも見せ場を作っているため、この長時間になるのだと思いますが、嫌な気持ちには全くなりませんでした。別になくてもいいシーンもありましたが(笑)、脱線してもちゃんとどこかに収まる(または収まらないなりの結末がある)脚本で、大人数だからこそ見せ場になる演出も多々あり、感心しました。
 吉祥寺シアターは2階、3階部分にキャットウォークがあり、それを使っていたのも楽しかったです。

 配布された豪華パンフレットに“20代の若者が集まった企画”ということが強調されていますが、過酷なオーディションを勝ち残った方々ばかりですし、色んな劇場でよく観かける役者さんが多かったので、全体的に若い人が多いとは思わなかったなー。若さならではの熱さとかほとばしりも特になかったし。そういう意味ではおとなしすぎた感もあります。

 700人のオーディションをするだけでも相当な労力だと思いますし、KERA・MAP #003の『砂の上の植物群』も終わったばかりです。ケラリーノ・サンドロヴィッチさんが激務の中、自らこんな企画を立ち上げて若者と一緒に創作して、ちゃんと商品にしてくれたのを見せ付けられ、帰り道は私、かなりの反省モードに入っちゃいました。もっと頑張らなきゃって。

 ここからネタバレします。

 中心になるのは消崎由香(宗清万里子)と健太郎(野部友視)の姉弟。交通事故で両親を亡くしたので二人暮しをしている。由香は前の恋人とのいざこざで自分で自分の左目をフォークでえぐり取ってしまった。今は職場の上司と不倫をしており、性格的にかなり問題があるOLだ。健太郎は14歳の中学生で、クラスメイトを脅して金を巻き上げる不良。リストカットをするのが癖になっており、自殺未遂で入院するのも回を重ねている。
 健太郎の学校、入院先の病院、由香の職場などを舞台に、二人を取り巻く人々との不思議ワールドが続々と生まれていく。

 オープニングと途中に挿入されたダンスは見ごたえがありました。特にオープニングは徐々に増えていくダンサーに圧倒されて、全員が舞台上に出てきた時は宝塚のラインダンスを最前列で観ている気分でした(笑)。振付(金崎敬江)は日常の動作やちょっとコミカルなポーズなどの組み合わせなど、ベターポーヅ作品で観られるダンスにも似ていました。違う振付で踊っている数個のチームが重なり合ったり、すれ違っていくのが見事です。
 舞台の面側で演技が続けられる中、薄いスクリーンの向こうの舞台奥で数人がダンスするシーンでは、スクリーンに映し出される動画や文字映像とも合わせられ、空間全体を使ったダイナミックな演出を観られました。最後に3階のキャットウォークに立った由香がセリフ(「気づいたら死んでいる」だったかな?)をつぶやいて、暗転・・・かっこ良かったです。

 結局すべてが由香の作り出した架空のお話だったというのは安易といえば安易ですが、どこまでが劇中の事実なのか空想なのかがわかりづらくなっているのが面白いです。ラストに無数の由香と健太郎が現れて、劇場から現実(建物の外)へと去っていくのを眺めながら、ちょっとブラックで恐ろしかったけど、楽しい夢を見させてもらったなぁと思いました。

 健太郎をだまして金をむしりとる美少女転校生、夏川香江役の初音映莉子さんが目を引きました。ぶりっ子ぶりが独特でした。

 あと、全裸になった人いっぱいいましたね(笑)。女の子まで脱いだのには驚きました。

KERA・MAP連続公演2 吉祥寺シアターオープニングステージ第二弾
出演=天野史朗、荒木秀行、荒巻信紀、井澤正人、いせゆみこ、市川訓睦、伊藤修子、猪岐英人、今井あかね、井本洋平、岩崎正寛、植木夏十、岡田昌也、緒川桐子、金崎敬江、眼鏡太郎、小林由梨、駒木根隆介、小宮山実花、近藤智行、主浜はるみ、鈴木里実、鈴木菜穂子、関絵里子、永田杏奈、音室亜冊弓、野部友視、初音映莉子、林雄一郎、三嶋義信、皆戸麻衣、宮本彩香、宗清万里子、横塚進之介、吉田真琴(五十音順)
作・演出=ケラリーノ・サンドロヴィッチ 舞台美術=福澤諭志+至福団 舞台美術=中根聡子 照明=関口裕二(balance,inc DESIGN) 音響=水越佳一(モックサウンド) 映像=上田大樹 冨田中理(iNSTANT WiFE) 衣裳=渡辺まり ヘアメイク=武井優子 振付=金崎敬江 振付助手=香川亮(air:man) 演出助手=相田剛志 端由紀子 宣伝美術=草野リカ(alon.) 制作助手=市川美紀 土井さや佳 寺地友子 制作=花澤理恵 主催=シリーウォーク (財)武蔵野文化事業団
前売り¥3,900(全席指定) 当日¥5,900(共に豪華パンフレット付き)
★完売しています。追加公演決定→6/30(木)14:00開演 前売3900円 当日5900円
シリーウォーク内:http://www.sillywalk.com/nylon/part-time/0505_8.html#kera2
(財)武蔵野文化事業団:http://www.musashino-culture.or.jp/theatre/

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Posted by shinobu at 21:15 | TrackBack

シャウビューネ劇場 来日公演『火の顔』06/24-26世田谷パブリックシアター

 『ノラ』に引き続きシャウビューネ劇場の公演です。父、母、姉、弟そして姉の恋人が登場する5人芝居でした。ある家族のお話。残念ながらポストパフォーマストークには伺えず。
 ドイツでも日本と同じような事件、というか、家族があるんですね。

 登場人物の役割や一人一人の気持ちについて言葉で説明してくれるし、ストーリーを順番に追っていくわかりやすい作品だったため、『ノラ』の時とは違って、演出や俳優、作品の空気感やビジュアル面よりも、脚本に書かれた家族の姿について考えがめぐりました。

 陰鬱だし、夢なんかないし、率直に言って不快なお話です。それにどこかで聞いた事がある事件、想像したことが有る感情が多いので、引き込まれることはありませんでした。だからストーリーやセリフに主に集中して観劇することになり、ドイツでもこんな家族が、こんな事件があるんだなと思うと、私達が今生きている世界はオンタイムにつながっていて、同じようなことに悩んで苦しんでいるんだと感じました。

 ここからネタバレします(公演は終了しています)。

 エンジニアの父親に専業主婦の母親。思春期を迎えたあまり年の離れていない姉と弟。姉と弟は近親相姦の関係で、親子間のコミュニケーションは絶望的に断絶しています。
 父親は家では新聞ばかり読んでいて家族のことは無視。母親は子供達を溺愛しているつもりだけれど、何か事件があったらいつも他人のせいにします。姉は恋人を作って改めてセックスを初体験するけれど、それも自分の人生を変えるための手段で、愛のためではありません。弟は爆弾を作って学校で爆発させ、顔中大やけどの重傷を負い、学校も退学になります。
 子供たちはますます両親を無視する方向へ、親達はそんな子供達に恐怖を覚え、ますます彼等から心を遠ざけていきます。

 上下(かみしも)に細長い八百屋舞台で、勾配はかなり急に作られています。舞台上に家具が置かれているだけのシンプルな空間で、下手はテーブルとイスが4脚ある居間、中央にはダブルベッドが一台、上手は洗面所で白い小さなシンクが一つ。舞台面側を2枚のパネルが移動してステージを隠し、場面転換します。その際、ビルの壁などの画像がプロジェクターでパネルおよび舞台全体に映し出されます。
 上下に役者が移動するだけで時間が経っていたり、部屋が変わっている演出がスピーディーでかっこ良かったです。音楽は『ノラ』同様、大音量でロックがかかりました。姉と恋人の初めてのセックスシーンでたしかそういう音楽がずーっとかかってたと思います。大切な愛の営みであるはずのセックスが、ただの刺激や流行、好奇心を成就させるだけのものに成り下がっていることが伝わってきました。

 中学生の頃に読んだ大友克洋の漫画にあったんですよね。一人のおばあさんがある小学生男児と知り合うんですが、その男児はベッドルームで寝ていた両親を撲殺して、その死体を放置したまま何事もなかったように暮らしているんです。2人がお別れする時、おばあさんが「あの子のことを結局なにも知ることができなかった」とつぶやきます。男児の家では死体が腐って腐乱臭が充満しており、おばあさんとさよならした男児は、動かなくなった両親に「ねえ、起きて」と話しかけつつ、嘔吐する。たしかそんなラストシーンでした。
 もう10年以上前(もしかすると20年以上前)の漫画です。ドイツの20代の作家が同じような結末の作品を書いたと思うと、ドイツと日本のように、資本主義やそれに基づく合理主義が行き届いている国に住む人たちに、共通に起こっている現象なんじゃないかなって思いました。さらに大それたことを申しますと、道徳(モラル)がないことがこの不幸の原因なんじゃないかなって、私は思います。

 姉の恋人役の金髪白人男性が、セックスシーンを客いじりもしつつコミカルに見せてくれたり、全裸になっておちんちんいじりまくったり(笑)、けっこう笑えました。なんか全裸になるお芝居が多くって、最近。すっかり慣れちゃったよ(苦笑)。あんまり好きじゃないんだけど。

"Feuergesicht"
出演=父親:ヴォルフ・アニオル/母親:グンディ・エラート/オルガ:ユーディト・エンゲル/クルト:ローベルト・バイアー/パウル=マルク・ヴァシュケ
作=マリウス・フォン・マイエンブルク 演出=トーマス・オスターマイアー 美術=ルーフス・ディドヴィシュス 衣裳=アルムート・エッピンガー 音楽=イェルク・ゴラシュ ドラマターグ=ティルマン・ラープケ
両公演ともにA席5,000円/B席3,000円/ジャーマン(G)シート(字幕の見えづらい席)4,500円/学生A席4,000円各種割引あり
劇場内:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/05-2-4-4.html
公式サイト:http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/jouhou/schaubuehne/

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Posted by shinobu at 19:04 | TrackBack

世田谷パブリックシアター『エレファント・バニッシュ』05/25-06/08世田谷パブリックシアター

 世田谷パブリックシアターの今年の目玉作品のうちの一つ。とりあげる演目が次々と話題を呼ぶ、すごい劇場ですね。

 イギリスの人気劇団コンプリシテの芸術監督サイモン・マクバーニーさんの新作。しかも村上春樹の小説をモチーフに、というからにはチケットも売り切れるわけです。マクバーニーさんは日本が好きだそうで、三島由紀夫や谷崎潤一郎なども読んでいらっしゃいます。

 最新の映像技術を駆使したスタイリッシュな舞台パフォーマンスでした。舞台奥の壁全体に映像を映し出し、舞台上ではドアや窓、TVにも映像が鮮明に映し出されます。机、冷蔵庫、TV、ふすま等のあらゆる装置と役者さんがシステマチックに動き、舞台奥の映像とあいまって、舞台全体が動くオブジェのようでした。映像と人のバランスが面白かったです。それだけで退屈しませんでした。

 かなり多用されていたのが可動式の白いドア。動くと同時に映像もちゃんとついてくるんです。ドア自体にプロジェクターがくっ付いているみたい。舞台奥の壁全面にゾウの体が映写されていた時、その、ちょうどゾウの目の部分にゾウの目が写っているTVが重なったのには感心しました。舞台上でビデオカメラをまわして撮影した映像を、そのまま壁面の映していると思ったら事前に録画されたものが映っていたりしました。ある種のイリュージョンですよね。

 あれ、全部計算してるんだろうな~って思うと気が遠くなります。そして本番のオペレーションがすごいと思いました。一体何人でやっているんだろう・・・・。やっぱり装置の動きは全てコンピュータ制御らしいです。バグが出まくって開演1時間押しの日があったとか?あなおそろしや。私が観た回では、あからさまなミスは1箇所だけだったので運が良かったのかも。

 エピソードは3つ。村上春樹さんの文章ほぼそのままに表現されていました。私は、夫婦がマクドナルドを強盗するエピソードが一番好きでした。海の映像が舞台全面に映し出され、まるで水の底にいるような心地。上からロープで吊られた堺雅人さんが、空中(水中?)を自由自在に浮かびながら冷蔵庫の上にぽ~んと飛び上がったり、敷居の上に乗ったりするのは見事。あれ、上手と下手で手動でロープをひっぱっているんですよね。その様子を敢えて見せているのがデジタルとアナログの好対照でした。面白い。

 世田谷パブリックシアターって、近未来的な装置がとってもよく似合いますよね。『ロベルト・ズッコ』の金属質な感じが良かったのを思い出しました。

 吹越満さん。かっこいいおじさんでした。言葉がはっきりしていて聞きやすかったです。
 高泉淳子さん。スタイルいいな~♪子供っぽい声と対照的。
 堺雅人さん。気持ちよく体に入ってくる、凛とした声。セリフがさわやかなそよ風のように心に届きました。ぐるぐる宙で回る動きもただ回るだけではなく美しかった。運動神経抜群。
 宮本裕子さん。もっと目立って欲しかったな~・・・。立ち姿が美しかった。

 物販にものすごい人だかりでした。客層が演劇関係だけじゃないことが顕著ですよね。アイドル興行以外で、パンフや本の物販に人が群がるのを久し振りに見ました。私も蜷川さんの対談集『反逆とクリエイション』を買ってしまいました。

世田谷パブリックシアター : http://www.setagaya-ac.or.jp/sept/

Posted by shinobu at 00:51 | TrackBack