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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2005年09月07日

(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場『ニセS高原から【蜻蛉玉組】』08/28-09/27こまばアゴラ劇場

 やっと本日、はじめて『ニセS高原から』を拝見しました。私の中でのトップ・バッターは今企画唯一の女性演出家、島林愛さん率いる蜻蛉玉(とんぼだま)組。
 実は平田オリザさんの『S高原から』も観たことが無いので、正真正銘、知識ゼロで伺いました。

 装置は4チームとも同じなんですね。青年団バージョンの過去の舞台写真がこちらで見られます。

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 ≪あらすじ~公式サイトよりそのまま引用≫
 近未来、夏。高原のサナトリウムの面会室が舞台。
 このサナトリウムには、不治の病におかされた患者たちが多く入院しています。下界から隔離されたサナトリウムでゆっくりと流れていく時間。死を待つということの意味が、その時間の中で淡々と語られていきます。
 患者たちと、そこを訪れる面会の人々や医師たちとの死や時間に対する観念の差異を微妙に描きながら、軽妙な会話を交えて、サナトリウムでの何も起こらない静かな午後が描かれていきます。
 ≪ここまで≫

 第一印象は「うん、普通に楽しく最後まで拝見しました」ってところです。このチームの個性は、原作の登場人物の性別をすべて逆にしていること。兄妹が姉弟になっていたり、入院している男をその彼女がお見舞いに来るのを、病気の女を彼氏が、となっています。

 音楽は鳴りませんし小さな声で普段話す言葉のように会話をしますので、青年団っぽいと思いました。でも、行動や仕草が突飛で明らかに“オカシイ”人物が登場し、そのキャラクターに軸をシーンを作っているところも多く見受けられました。その点では青年団の作風とは違います。

 演出家ご自身曰く、蜻蛉玉は比較的“乙女チック”な作品を上演されているそうですが、今作では新たに付け加えられたシーン(ネタバレなので後述します)で蜻蛉玉らしさを発揮し、全体では“乙女チックさ”を控えたそうです。たしかに“乙女チック”という言葉が出てくるまでそのような感覚は全く持ちませんでした。その蜻蛉玉らしいシーンが一番のみどころだと思います。

 「彼氏が来てくれるのを待っている病気の女」という設定も良かったです。圧倒的に無力な姿が痛々しく、病気のパワーを見せ付けられました。演出家が女性で私自身もそうだからより感情移入したのかもしれませんし、こればかりは他バージョンを観ないとわからないんですけどね。

 さて、ぐるりと考えを巡らせた末の私の感想は⇒ 眼のつけどころは非常に真っ当で、真面目で、若いのに立派だと思う。女性ならではの細かい配慮も嬉しい。しかしながら、その演出意図を観客に確実に届けられていたとは思えない。また、青年団の作風に似ているため本家本元と比較せざるを得ない。どうしても物足りなさが残る。
 私は『S高原から』初見だったから最後まで普通に楽しんで観られたのではないか。もし主な流れを知っていたら退屈したのではないか。
 でも今日は楽しめたので結果オーライでございます。
 
 ここからネタバレします。

 サナトリウムで働いている医者や看護婦は、親切そうな顔や素振りをしておいて、実は呼んでもなかなか来てくれないし、患者やその家族、友人のことを考えているようで、本当は通り一遍の対応しかする気がありません(それぐらい多忙だし、慣れないとやっていけないからでしょう)。これは入院患者が多い大病院と同じ現象で、サラリとしながら非常に上手く描けていると思いました。

 付け加えられたのは、入院して4年目になる福島という女が、ソファーに横になったまま夢を見るシーンです。その夢には入院患者の吉沢(姉に追いかけられている弟)が出てきて、2人で闘牛の真似事をします。福島が赤い布(スイカを包んでいた風呂敷)を振り、吉沢がそれに向かって突進します。そのシーンの照明は海の中=胎内を表現したかったそうですが、そうは取れませんでした。うっすらと夢のシーンになったわね、と思う程度でした。
 その夢から覚めてソファに寝そべっている福島に、吉沢の姉がにじり寄ってきて「弟にヘンなことを吹き込まないで!」みたいなことをつぶやくんです。それがねー・・・エッチでした。夢に出てきた福島と吉沢の間に、恋とか愛みたいなものがあったかもしれないと想像できたから。サナトリウムの中に、人間味のある、例えばセックスとかそういう生々しいものの匂いが感じられて、空間がねっとりと膨らんだのです。私だけの妄想かもしれませんけどね。

 絵描きの女が「絵を描きたくても体力が持たない。ただ生きていたい。死にたくないから絵は描けない」というセリフ(正確ではありません)に共感しました。体力の無さには抵抗できないんですよね、人間は動物だから。また、その女がエレファントカシマシの「昔の侍」を歌うのが泣けた~。健康そのものの彼氏(赤アルファロメオに乗ってるボンボン)も「昔の侍」をハミングしてたので、上手い対比になっていましたね。また、男は部屋から出て行く時には「ルパンⅢ世のテーマ(歌詞あり)」を歌っていて、それは笑えた(笑)。

 ポストパフォーマンストークで島林さん「高原の隔離されたサナトリウムにずっと居る人たちは(患者も職員も)狂っている。徐々に現れる不条理からその世界はどんどんと壊れていき、最後の福島の死につながる」とおっしゃっていました。なるほど面白いですね。そういう壊れた空気はところどころ伝わってはきましたけれど、残念ながら大きなうねりにはなっていませんでした。悲しい事件が起こっても、その次の時間までの間の健康な人たちの会話などで、ブツブツと途切れていました。

 ≪ポストパフォーマンストーク≫ (2005/09/10追記)

演出家4人が全員揃っていました。豪華で嬉しかった。また、4人とも個性が激しいので(笑)眺めてるだけでも私にはけっこう楽しい時間でした。演出の島林愛さん。チラシ写真のロングヘアからボブぐらいに髪を切られていて清潔感もアップ。はきはきしゃべって元気で、そして可愛らしい。若いっていうだけじゃなくて本当に可愛かったです。

 客席からの質問がいくつかあったのですが、平田オリザ版をご覧になっているご年配の方からのご指摘のおかげで、変更されたところがわかりました(「風立ちぬ」が抜けていることなど)。平田オリザVS血気盛んな若者という図は容易に想像できましたが、トークでは年季の入った観客VS若手演出家という面もあり、充実した空間だなって思いました。

 あと、鋭い指摘があったんです。「ラストシーンで福島は死ぬのに、なぜカーテンコールで彼女がソファから立ち上がって一人で礼をするのか。自分は福島が横たわった状態で暗転し、明転した時には舞台上に誰も居なくなっているだろうと予想していた。」私は全然気づきませんでしたけど、おっしゃるとおりだなぁと思いました。これを受けて島林さんは「私は役者のカーテンコールの時の顔が大好きなので、あの顔を見せたかった。だから明転した時は福島ではなく、女優として立っていると私は思っている」とのこと。なるほど、カーテンコールの時の顔が好きという気持ちはわかりますが、作品の詰めとしては甘い気もします。まあ、全体の完成度をもっと上げられた時にまた考えられるといいんじゃないかな。

 ブルーベリージュースは本当にブルーベリーをミキサーで混ぜて作っているそうです。それは確かに“乙女チック”ですね。私は大賛成。どぎつい紫と果汁が絵的に効果があったのももちろんですが、あれはオレンジジュースじゃ表現できない隔離感でした。わざわざブルーベリーを育てて収穫して、それを生ジュースにしているんですものね、あのサナトリウム。ものすごく心が行き届いてそうだけど、実はかなりの自己満足。そういういやらしさが感じられて良かったです。

~「S高原から」連続上演~
原作=平田オリザ 演出=島林愛(蜻蛉玉) 舞台美術=杉山至×突貫屋 照明=《五反田団・蜻蛉玉・ポツドール》岩城保《三条会》佐野一敏(三条会) 音響=薮公美子 宣伝美術=藤原未央子 制作=榎戸源胤(五反田団) 尾形典子(青年団) 木下京子(ポツドール) 斉藤由夏(青年団) 田中沙織(蜻蛉玉) 演出助手=《ポツドール》福本朝子 プロデューサー=前田司郎 主催=(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場 企画制作=五反田団・三条会・蜻蛉玉・ポツドール/(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
【蜻蛉玉組】出演=井上幸太郎/打田智春(蜻蛉玉)/大竹直(青年団)/北村延子(蜻蛉玉)/小松留美/佐藤恵(蜻蛉玉)/島田曜蔵(青年団)/島田桃依/鈴木智香子(青年団)/主浜はるみ/夏目慎也(東京デスロック)/西山竜一(無機王)/日比大介(THE SHAMPOO HAT)/望月志津子(五反田団)/安村典久/鷲尾英彰 ※キャストは50音順
前売・予約・当日共=2,000円 セット券=6,000円※予約のみ・枚数限定 こまばアゴラ劇場電話予約のみ取り扱い 03-3467-2743
公式=http://nise-s-kogen.com/

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Posted by shinobu at 23:52 | TrackBack