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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年02月02日

文学座『湖のまるい星』01/26-02/05紀伊國屋サザンシアター

 劇団八時半の鈴江俊郎さんの脚本目当てで観に行きました。残念ながら演出が・・・合ってないというか、わかってない・・・ように、思いました。私は結末が知りたかったし脚本目当てだったので最後まで観ましたが、途中休憩のときに帰られる方もチラホラいらっしゃいましたね。文学座のお客様は厳しい目を持ってらっしゃいます。
 チラシの下の白い部分は穴が空いているのです。湖に映るまるい星が、穴になっているっていうのは面白いですよね。

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 湖のあるリゾート地のペンションが舞台です。その湖は、誰もが「死」をふんわり思い浮かべてしまうような、神々しいくらい美しいけれど、霧が掛かっていて陰鬱で、誰も死んでいないのに「自殺の名所だ」という噂がたつような、この世とあの世との間にあるような、湖である・・・・という設定なのです。いい感じですよね~。そんな湖のほとりのペンションって、すごいドラマとか物語が生まれそうですよね。だけど、そのムードを感じられませんでした。

 鈴江敏郎さんの脚本は、現実にはありえないよねって思うような空想的なところがあって、セリフはロマンティックで、時には乙女チックともいえる可愛らしさがあります。その一見やわらかい言葉や設定の中に、グサっと胸に突き刺さり、お腹の底まで重く入りこんでドシンと碇をおろすような、社会に対する辛らつで厳しい視点があって、それゆえの本物の優しさがじんじんと伝わってくる脚本だと思います。阿佐ヶ谷スパイダースでの二人芝居、劇団八時半での鈴江さん演出作品、新国立劇場での松本祐子さん演出作品を拝見する限りでは、鈴江さんの脚本ならではの重みを感じることができたのですが、今作では伝わってきませんでした。

 ここからネタバレします。

 ペンションオーナーの娘(尾崎愛)は命がけで従業員の明神(粟野史浩)に恋しているのに、明神にはあられもなくフラれて、恋が叶わない。書けない作家(早坂直家)は編集者の女(目黒未奈)を抱きたいのに、イン○テンツだから一線を越えられない。ペンションに居る人たちは皆、望みが成就しない状況にもがいています。悩みがすごく滑稽で笑えるのと、それが叶わないことで苦しむ姿に共感するのとが重なるのが面白いと思うのですが、そのバランスがぼやけていて意図がわかりませんでした。
 目の前には湖をはじめとする美しい自然があって、人々は、自分が生きていなくても自然は豊かに生い茂り、地球は回っているという現実に心をさいなまれます。これがオーナーの娘(尾崎愛)のセリフにそのまま表れていたんですが、登場人物全員で群読しちゃったのは・・・どうなんでしょ。松本演出でもラストはそうでしたが、意味が全然違いますよね・・・。

 行方不明になっていた作家が戻ってくると、彼は執筆が出来るようになっています。彼は「森の中の木に抱きついていたら、天から(書く力が)降りて来た」と言います。叶わない夢を夢見て、手に入らないものを欲し続けて、それを公言し、実行すると人間はトブんですよね。平たく言うと「たたけ、さらば開かれん」ってことかな、と。
 パンフレットの鈴江さんの文章より引用いたします。
 『私にとって、あの日のノックは、ある明確な「幸せのイメージ」なのだ。一瞬すべてを忘れる。一瞬、記憶も消える。一瞬、大きな驚きと。そして発見と。自分が成長する、その証拠。
 くよくよ悩んでる大人の皆さん。とべ! ほしいと思え! 「ボール!」……この奇跡のような湖が、皆さんにそういう幸せの一瞬をもたらしてくれますように。祈っています。』
 う~ん・・・こんな奇跡を感じたかったな~。

 柔道合宿に来ている大学生4人組はもったいなかったですね・・・。男3人全員(植田真介/細貝弘二/清水圭吾 )が1人の女(愛佳)にぞっこんで、皆で彼女を取り合いしているのだけれど、抜け駆けするのは避けている・・・なんていう相当面白いグループだと思うのですが、普通にやっちゃって浮いてました。ありえない設定を受け入れる気になるような、何らかの仕掛けが必要だったんじゃないでしょうか。

 美術は奥村泰彦さん。木々の奥にある湖と山の景色がきれいでした。でも、どこかに影になるような暗い場所を作った方が良かったのではないかと思いました。山の配置以外がシンメトリーになっているのもあんまり・・・。上下の出入り口になる木枠は良かったですね。
 照明が活躍していませんでした。ずっとペンションの地明かりが続いてクライマックスの大文字焼きのところだけ青くなるっていうのは、もったいないんじゃないでしょうか。登場人物は普通の会話の中で相当きっついことしゃべってるんですから、そこは照明でもっと空気を作れたと思います。

 文学座は好きな俳優さんが多いので、新劇の劇団の中では一番多く拝見しています。だから「あ、あの役者さんは今回はこんな役で出てるんだな」とか、まるで歌舞伎か宝塚のように楽しむ自分がいて、ちょっと困ってます(苦笑)。それにハマるのは避けたい・・・。

 粟野史浩(あわの・ふみひろ)さん。ペンションのオーナーについてきた元部下の明神役。粟野さんのことは去々年から何度か拝見して()注目していました。今回もうまいつっこみ(早口なのが残念)が聞けましたし、堂々と女に冷たくする演技もクールで良かった。
 愛佳さん。3人の柔道部員(?)に愛される愛ちゃん役。オープニングの剣道の稽古に本気の熱が感じられて良かったです。アグレッシブに怒る演技が魅力的でした。
 それにしても「私はモテるのよ」と自分で言う女がたくさん出てきましたね。役者さんは演じづらいんじゃないかな(笑)。でも、そういう女、好きです。男なら誰かれ構わずモーションをかけまくる人妻を演じる塩田朋子さんは、貫禄もあるし美しいし、説得力がありました。娘との対話シーンはあんまりでしたけど。

出演=松下砂稚子/赤司まり子/塩田朋子/名越志保/目黒未奈/築野絵美/愛佳/尾崎愛/早坂直家/外山誠二/石川武/粟野史浩/植田真介/細貝弘二/清水圭吾
作=鈴江俊郎 演出=藤原新平 美術=奥村泰彦 照明=古川幸夫 音楽=上田亨 音響効果=望月勲 衣裳=中村洋一 アクション指導=渥美博 舞台監督=寺田修 演出補=今村由香 制作=白田聡/川上裕子 票券=松田みず穂
前売・予約開始=2005年12月24日(土)一般5500円 ユースチケット3800円 (25歳以下、取扱い文学座のみ) 中・高校生2500円(取扱い文学座のみ) 11ステージ
公式=http://www.bungakuza.com/maruihoshi06/index.html

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Posted by shinobu at 2006年02月02日 11:25 | TrackBack (0)