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2006年06月11日

ガラシ×ク・ナウカ『ムネモシュネの贈りもの ~「記憶」をめぐる物語~』06/11-18ザ・スズナリ

 ク・ナウカと、インドネシアのジョグジャカルタを本拠地に活動するテアトル・ガラシとの合同作品です。演出はユディ・タジュディンさん。
 wonderlandでも取り上げられていましたが、震災の被害のために一時は上演中止も考えられたそうです。会場ロビーで「ガラシケイコバエイド」の募金ができます(詳細はこちら)。

 すっごく感動しました!インドネシアと日本のアーティストの力が融合して、ひとつの完成度の高いパフォーマンスとして昇華しています。上演時間は70分。
 土日はキャンセル待ちしか出ないかもしれないほどの完売状態。平日夜は空いています。

 ⇒演出ユディより皆様へ
 ⇒稽古場日記 利賀で合宿して創作されたんですね!
 ⇒劇場ページ(問い合わせの電話番号が載ってます)

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 レビューを最後までアップしました(2006/06/12)。

 終演後に関係者からお話をうかがうことが出来ました。利賀で寝食をともにしながら創作されたんですね。それが成功の大きな要因なのではないでしょうか。
 「栄養士さんが三食作ってくださったので、栄養も満点だったし創作に集中できた。」
 「やっぱり利賀は神聖な場所です。彼ら(ガラシのメンバー)も喜んでくれた。」

 当日パンフレットの「はじめに-」(宮城聰)から引用します↓

 あらかじめ起承転結のストーリーが用意されているわけではありません。ただ、今回の芝居では、記憶の女神ムネモシュネがナビゲーターのように登場します。記憶こそが人間を獣から切り離したという意味で、彼女は人間というものの生みの親です。しかし人間は、その与えられた能力によって、むしろ混乱を深めてきました。ひとたび道具を与えられれば、それを良いことだけに使うというわけにはいかないのが人間なのです。いまや人間が立ち至ってしまった窮地、それはムネモシュネの目にはどのように映るのでしょうか?われわれが立ち至った地点は、どん詰まりなのでしょうか、それとも何かが始まるためのカオスなのでしょうか。

 ストーリーがあるお芝居ではなく、セリフ(日本語&インドネシア語)、群舞、ダンスなどで構成されたパフォーマンスです。好みが分かれるかもしれないので(“意味がわからないこと”を不快に思う方もいらっしゃると思うので)メルマガ号外は控えました。

 インドネシアの俳優さんの身体がすごいです。筋肉がバネのようにしなやかで、心も体も一体になっていて、地面(地球)ともつながっているのがビシバシ伝わってきます。草原を走る美しい動物のよう。豊かな黒髪のロングヘアーで、白いタンクトップを着ていたインドネシアの女優さんに魅せられました。一人で踊るところで涙ぼろぼろ。美しすぎる!
 日本人は理性的で繊細ですね。動きはインドネシアの俳優さんと比べるとドタドタしてるけれど、それが可愛らしいです。それにしてもク・ナウカの女優さんにはきれいな人が多い!男優さんも素朴さがセクシーです。

 下記、私が感じ取ったことを書きます(順番はばらばら)。人によって解釈は異なると思います。部分的にはネタバレになってますので、お気をつけください。

 ・プランクトンが浮遊する深海から幕開け。植物、動物などが突然変異や種の淘汰を繰り返しながらどんどん生まれ、やがて鳥類、そして人類が誕生します。女神ムネモシュネ(美加理)は美しい黄色いドレスをまとい、楽しそうに生命を見守っています。

 ・文字を発明したエジプトのある国の王に対して、エジプトの神(?)は「人々が文字を使ったら、良いこともあるけれど悪いこともある」とたしなめます。他人の言葉を自分の言葉のように使ったり、知らないのに知ったような気になったり、そして本当の自分(の記憶)が何なのかわからなくなる・・・等。
 すごく納得でした。書物やインターネットにどっぷり浸かった私たちは、誰がどういう根拠で書いたのかわからない文章・情報を浴び続けながら、勝手に取捨選択しています。

 ・「私たちの体には引き出しがある」。ダリの“体に引き出しのある女”が大きなパネルに映写されます。ピンクのウィッグとベビードール風衣裳を着た女優が人形のような動きをします。

 ・ウェブサイトを管理する男。「渋谷で女の子に声掛けられてホテルに行ったんだ。“切って”っていうから何のプレイだよって思ったんだけど(笑)、彼女の体には引き出しがあるんだよね。で、(引き出しを)切ってあげたらイっちゃって。それから何日も続けて彼女とホテルに行ったんだ。今はもう別れちゃったけど。で、同じような子がいるかなって思ってサイトを立ち上げたんだ。」サイト名はバベルの塔(だったかな?)。⇒「バベルの図書館」だそうです(2006/06/21追加)。

 ・学校の風景。子供たちは休み時間は生き生きしてるけど、授業は口をぽか~んと開けて全く聞いていない。学校制度、教師が子供に思考停止させている。
 ・旗を掲げて行進する人々。旗には“文字”のメタファ。それぞれに異なるイデオロギーの元に正当化される戦争。
 ・食べる、喰らう、人類。あさましい動物に餌を与えるムネモシュネ。悲しそう。

 ムネモシュネがノートパソコンに打ち込む言葉がパネルに映写されます。下記は最後の部分です。

 「なぜ私たちは同じように憶えておけないのでしょう
  こんなにも違いを抱えて
  人はどうやって触れ合えばいいの?
  ねえ、どうやってあなたと話せばいいの?

  あなたの記憶は何ですか」

 私たちは記憶で出来ています。「あなたの記憶は何ですか?」という質問自体が相手に対する興味を表していて、それは“私”から“あなた”への心のベクトルだと思うのです。つまりこちらから相手に向かう気持ち、それがコンタクトの始まりで、それこそ愛だし、答えなのではないでしょうか。

 最後はアフロのウィッグを被った男優2人が、松崎しげるの「愛のメモリー」をクチパクで歌ってカーテンコール(笑)。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 演出のユディ・タジュディンさんがこの作品ができるまでを簡単にお話してくださいました。通訳は脚本も手がけられた大西彩香さん。下記、私が覚えている限りのユディさんの言葉です。

 「2000年に宮城聰さんからコラボレーションをしませんかと声を掛けられました。Eメールなどで連絡を取り合い、ク・ナウカの招待で森下スタジオでの代表作の上演が実現し、とうとう今回のコラボレーションに至りました。」
 「最初にテキストはなく、テーマをベースにして即興から創作しました。テーマはmemory(記憶)とcontact(コンタクト・接触・触れ合い・連絡)です。動き、言葉など、一つ一つを発見しながら作りました。」

 「テーマがcontactであったと同時に、創作自体がインドネシアのアーティストと日本のアーティストとのcontactでもありました。そのcontactがうまく行き始めた頃、試練(test)が訪れました。震災が起こったのです。インドネシアへ帰ろうか、日本に残って創作を続けようか迷いました。
 アーティストのロマンティシズムにとらわれて“芸術(アート)”を作り続けてはいけないと思いました。アーティストの機能、役割とは何かを考えました。その答えはわかりませんでした。今もわかっていません。
 地震から3日後にやっと電話がつながり、現地のメンバーに相談したところ、全員が日本に残って創作をすべきだと言いました。だから我々は残りました。
 今日は観に来てくださってありがとうございました。お楽しみいただけたなら幸いです。」

"MNEMOSYNE" 日本-インドネシア合同作品
出演=美加理/野原有未/本多麻紀/大内米治/大道無門優也/石川正義/横須賀智美(流山児★事務所)/Bernadeta Verry Handayani/Citra Pratiwi/Jamaluddin Latif/Sri Qadariatin/Theodorus Christanto/Mohamad Ugoran Prasad
演出=ユディ・タジュディン 脚本=モハマド・ウゴラン・プラサド/大西彩香 構成=ユディ・タジュディン 企画・脚本協力=宮城聰 音楽=ヤヌー・アリエンドラ 映像・舞台美術=アグスティヌス・クスウィダナント 衣裳=山本智美 舞台美術=中里有 照明=大迫浩二 照明協力=吉村俊弘/鈴木健司 音響アドバイザー=AZTEC(水村良/千田友美恵) 制作協力=星村美絵子/桜内結う 制作=大石多佳子 主催=特定非営利活動法人ク・ナウカ シアターカンパニー 共催=独立行政法人国際交流基金 助成=財団法人セゾン文化財団
全席指定 前売¥4,000 当日¥4,500 ユース:前売・当日共¥2,500 (劇団のみ取扱/25歳以下/枚数限定)
ク・ナウカ=http://www.kunauka.or.jp/
公式=http://www.kunauka.or.jp/jp/waktobatu0604/mnemo01.htm

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Posted by shinobu at 2006年06月11日 23:40 | TrackBack (0)