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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2006年07月02日

新国立劇場演劇『夢の痂(ゆめのかさぶた)』06/28-07/23新国立劇場 小劇場

 井上ひさしさんの東京裁判三部作の最終作です(⇒第一作第二作)。メルマガ号外は考えた末、出すのを止めました。でも、今この作品が日本の国立の劇場で上演されているという事実だけでも、凄い価値のあることだと確信しています。

 前売り券は完売ですが当日券(Z席)はあります。私が観た日は開演直前でもまだ残席がありました。7月下旬まで上演されていますので、ぜひぜひ観に行ってください。上演時間は2時間10分(休憩なし)です。

 今後、新国立劇場のレパートリーとして上演し続けることを最初から想定して作られた作品です。だから出演者が同じメンバーなんですね(1名入れ替わりましたが)。いつか1日に3本連続で観られる日が来るでしょう。そうやって世代、時代を超えて残していくべき三部作です。歴史の目撃者になってください。

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 ちょっと体調不良が続いておりまして、レビューのアップが遅れ気味です。ごめんなさい。
 レビューをアップしました(2006/07/03)。

 ≪あらすじ≫ パンフレットよりそのまま引用。
 昭和20年8月28日、熱海屏風ヶ浦の断崖からひとりの男が投身自殺した。名は三宅徳次(角野卓造)。陸軍大佐、大本営参謀。「戦争責任は、作戦立案した我等にあり」との遺書を大連にる娘・友子(藤谷美紀)宛に認めたのだが、彼の遺体はいつまでもあがらなかった。
 昭和22年7月中旬。東北のある町、佐藤織物の別邸。
 明治時代、先代が蚕種紙で巨万の富を築いた佐藤織物の当主・作兵衛(犬塚弘)は戦後の混乱期の今、多くの問題を抱えている。農地改革、未曾有のインフレ、組合運動の先鋭化などの大問題のほか、しっかり者だが国語教師の長女・絹子(三田和代)は行かず後家。次女・繭子(熊谷真実)は、東京で愛人の三流画家に貢ぐばかりか、画家仲間の金稼ぎのために額縁ヌードショーに出演する始末。屏風美術館の開設だけが生きがいの作兵衛。その仕事を今は、上野の古美術商の兄のもとで働いている徳次が手伝っている。その父を大連から命からがら引き揚げてきた友子が訪ねて来た。
 そんな佐藤家に、隣町で実家の印刷所が発行している地方新聞の主筆をしている尾形明(高橋克実)が絹子の見合い相手としてやって来る。さらに繭子の貢ぐ三流画家のこれまた愛人でヌードモデルの河野高子(キムラ緑子)が東京から闖入するわ、工場主任の熱血漢・五十嵐武夫(福本伸一)が組合を結成すると告げに来るわで、大混乱。そこへ佐藤家の小作人の次男坊ながら、ごく最近地元の警察署長に成り上がった菊地次郎(石田圭祐)が、大ニュースをもって来た。東京の市ヶ谷法廷で東京裁判が行われている一方で、21年2月から始まっている天皇の行幸がこの8月には東北地方を巡幸されることが決定、中旬にはこの町をお訪ねになり、状況によっては佐藤家にお泊りになるのだ、という。青森・八戸のお泊り先はにしん御殿とのこと。おかいこ御殿の佐藤家にお泊りになってもおかしくない。天皇が本当にご宿泊になるとしたら……。ついこの前まで現人神にして、大元帥閣下だった天皇。戦後人間宣言をし、今年5月3日に施行された日本国憲法では象徴とかいうものになられた天皇。いったいそんな天皇をどうお迎えして、どうすればよいのか……。
 ≪ここまで≫

 井上戯曲お馴染みの笑いいっぱい、涙いっぱいの音楽劇です。でもこのシリーズは栗山民也さんの演出で、こまつ座作品よりはシャープな印象。全編暖かくほがらかに、というわけではなく、時には観客にぐさりと刃が向かうこともあります。
 それでもやっぱりオープニングの歌の時点で、私はホロリ・・・。体中から溢れ出て、舞台からこぼれ落ちるほどの愛情をもって、観客にまっすぐ向かってきてくれる役者さんたち。「あぁ、またこの人たちに会えた!ありがとう!!」と嬉しくなっちゃうのです。

 登場人物があからさまに政治的な、今の時代でさえタブーだと言っても過言でない発言をします(私はタブーである状態を良いとは思っていません)。その部分だけを取り上げると、政治的意見ばかりが目立ってしまっても仕方ない作品です。あまりの爆弾発言であるゆえに、私たち観客はハっと驚かされ、恐れさえも感じるほどの衝撃を受けます。そして、私たちは考えざるを得なくなるのです。「なぜ?」「どうして?」そして「これから、どうすれば?」と。
 作品同様、観客は自由です。自分自身に響くところを好きなように心の中に入れて、考える糧にすれば良いと思います。私は観劇後に、一緒に観に行った母親と「謝る」ということについて一時間以上話をしました。

 できるだけ多くの人に観てもらいたいと思ったのですが、メルマガ号外は控えました。パンフレットの挟まれたリーフレットを読む限りでは、やはり今回も遅筆堂先生、健在だったようです(苦笑)。たしかに中盤に少し眠くなりました。『兄おとうと』のようにいつか加筆されれば、肉付きの良い、バランスの取れた作品になるように思います。個人的には、2時間30~40分(途中10分休憩あり)ぐらいがいいな~。

 ここからネタバレします。

 女学校の国語教師の絹子(三田和代)が文法から日本人の性質を説くのが非常に面白いです。日本語は自立語に“てにをは”を付けるだけで主語になるんですよね(「私は」「机は」「運動は」等)。でも日本語の日常会話では主語をあまり使いません(「暑いですね!」「これ、どう思う?」「そうだよね~」「好きです」「ムカつく」「一緒に映画を見に行きませんか?」など)。だから「日本語の主語は“状況”だ」ということに心底納得でした。“状況”は作中にたびたび登場する“屏風”でもあります。“屏風”は「これから国民が目指すべきは○○○○だ」の○○○○部分であり、それは“本土決戦”にも“民主主義”にも、簡単に入れ替えられるのです。
 最後に歌われた歌詞を下記に。言葉は正確ではありません。
 「彼らが幸せになれるかどうか それは主語が“私”かどうかにかかっている」

 天皇がお泊りになる際の準備として、佐藤家の人たちは念入りに予行演習を行います。御前会議などで実際に天皇に会ったことのある徳次(角野卓造)が天皇の役を演じるのですが、あまりに真剣になりすぎて徐々にエスカレートしていき、まるで自分が本物の天皇であるかのごとく振るまいはじめます。
 最大の見所は、天皇の役を演じる徳次(角野卓造)に絹子(三田和代)が懇願するシーンです。
 「お国のために、天子様のためにと死んでいった国民に、ひとことすまなかったとおっしゃってはいただけないでしょうか」(セリフは正確ではありません。私が受け取った意味を書きました。)
 芝居の中の“予行演習”の中での出来事です。この後どうなるかは、ここに書いても誤解を生む可能性があるので、観てのお楽しみとさせてください。

 「禁断の快楽・読書」という言葉をどこかで見つけた時、なんてロマンティックなんだろう!と思いました。本の中ではどんなに差別用語をしゃべっても、不倫をしても、殺人をしても、罪には問われません。私たちは実社会でできないことを読書をとおして自由に疑似体験できるのです。
 お芝居もまた同じことなんですよね。目の前の登場人物の人生が私たちの人生の予行演習だと思えば、タブーだって犯罪だって犯せるし、それに対する反応も得ることができます。
 今の世の中、思ったことをそのまま話すのを躊躇することが多くなっている気がします。ポロっと飛び出した一言が非難の対象になったり、謝罪するかどうかが賠償金額を左右するとか・・・心の問題が物質的な問題に直結しちゃうんですね。
 このお芝居を観れば、いつもいつも新聞を賑わせている「謝罪」という言葉について、その行動の意味と効果を知ることが出来ると思います。私は描かれた「謝罪」のおかげで長らく胸につっかえていたもやもやが薄くなり、私自身の人生については「簡単に謝ることを控えたい」と考えるようになりました。

シリーズ「われわれは、どこへいくのか」(4)
出演=角野卓造/高橋克実/福本伸一/石田圭祐/犬塚弘/三田和代/藤谷美紀/熊谷真実/キムラ緑子
作=井上ひさし 演出=栗山民也 音楽=宇野誠一郎 編曲=久米大作 美術=石井強司 照明=服部基 音響=山本浩一 衣裳=前田文子 ヘアメイク=佐藤裕子 ステージング=夏貴陽子 歌唱指導=満田恵子 演出助手=北則昭 舞台監督=増田裕幸
発売:5月13日(土)10:00~ A席5,250円 B席3,150円 Z席=1,500円/当日学生券=50%割引
公式=http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/10000104.html

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Posted by shinobu at 2006年07月02日 21:12 | TrackBack (0)