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2006年09月11日

ハーフムーン・シアター・カンパニー『愛を称えて(In Praise of Love)』09/06-10アイピット目白

 ハーフムーン・シアター・カンパニーの英米名作シリーズ第二弾だそうです。チラシを見つけた時点ですでに公演中だったのですが、テレンス・ラティガンの本邦初演戯曲ということで、あわてて時間を調整して伺いました。自転車キンクリートSTOREによるテレンス・ラティガン3作連続上演(第1弾第2弾第3弾)から、私はすっかりラティガン戯曲の大ファンなのです。

 BACK STAGEに掲載された稽古場レポート[from SUBTERRANEAN]に充実のインタビューと稽古場写真あり!

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 ≪あらすじ≫ BACK STAGEの解説から一部引用。(役者名)を追加。
 1970年初頭のイギリスが舞台です。第二次世界大戦中にイギリス秘密情報局将校だった頑固な評論家(安原義人)と、ナチスの強制収容所で九死に一生を得たエストニア難民の女性(古坂るみ子)。この夫婦が、30年近くの結婚生活を経て、人生最大の危機に直面します。
 ≪ここまで≫

 28年間の結婚生活を送ってきた夫婦、セバスチャン(安原義人)とリディア(古坂るみ子)、そして彼らの25年来の親友の小説家・マーク(井上倫宏)、放送作家としてデビュー目前の彼らの息子・ジョーイ(菊地真之)の4人芝居です。
 舞台は評論家の家の書斎兼リビング。リビングから階段を4段ぐらい上がったフロアに、小さなダイニングもあります。劇場の壁の色とうまく溶け合った、品の良いリアルな美術でした。

 脚本はさすがの面白さでした。ある夫婦、ある友人同士の一対一の会話から、丁寧に、すこ~しずつ、夫婦が深刻な状況にあることがわかってきます。書き込まれているテーマは戦争、難民、国籍、性差、家族、愛人、貧富、病気、死別、嘘と正直、など多岐にわたります。

 演出や演技については満足できなかったですね。ところどころ胸を打つ間(ま)もありましたが、まず舞台上にいる人たちが、セリフで語られているような人物に見えづらいことが残念でした。
 新キャスト、新演出でまた上演していただきたいです。

 ここからネタバレします。

 リディアは若い頃の栄養失調(カリウム不足)が原因で、多発性動脈炎(白血病の一種)という難病に侵されており、余命数ヶ月という深刻な状態でした。それを親友のマークに告白することから、ドラマが始まります。
 リディアはソビエト、ナチスドイツ、ロシアに次々と侵略され、消滅したエストニアという国で生まれました(今は独立しています)。命からがら強制収容所から逃げ出した彼女は、ベルリンで夜の女になり、そこでイギリス軍人のセバスチャンと出会ったのです。

 これらのバックグラウンドはすべて会話の中から少しずつ明かされていきます。親友のマークがバイセクシャルで、セバスチャンとリディアの二人ともを愛していることや、リディアは必死で病気のことをセバスチャンに隠していたけれど、セバスチャンは何もかもお見通しで、彼女の嘘にずっとつき合ってきたことも。下記、心に残ったセリフ(正確ではありません)を書いておきます。順不同です。

 リディア「戦時中のヨーロッパで(難民になった)何百万人の人が、ただ死にたくても死ねなかったこと。」
 セバスチャン「バルト人はナチスにとっては下等動物だった。ガス室にも値しない。だからのっぱらに生き埋めにされていた。」
 リディア「セバスチャンとはベルリンで結婚した。私を助けるために、私にイギリス国籍を与えるために。」

 リディア「私はエストニア人。イギリス人じゃない。」
 マーク「僕はラトヴィア(リトアニア?)人じゃない。アメリカ人だ。祖父はユダヤ人。」
 リディア「イギリスは大好きよ。でもイギリス人とは仲良くなれない。」
 ※セバスチャンはスコッチ・ウィスキーを、マークはバーボンを飲むところからも、国籍の差が表れます。

 リディア「(息子に向かって)大切なのは思想や信条、政治や理論じゃない。一番大切なのは人間だってこと。」

 セバスチャン「私はリディアを失うとわかってから、自分がどれほどリディアを愛していたかに気づいた。だから私は半年前から彼女を愛してきたのだ。君(マーク)が25年前からずっとやってきたことなのに。あぁ、28年前に気づいていたら・・・!」


 リディア役の古坂るみ子さんがとても美しい方だからでしょうが、渋い魅力のセバスチャン(安原義人)の妻としては若すぎる気がしました。また、小説家のマーク(井上倫宏)も25年来の友人にしては若すぎるように思います。そして、これは私の偏見なのかもしれないですが、リディアがあまりに生き生きとしてきれいな奥様なので、“6年間も強制収容所に入れられた経験のある元エストニア人レジスタンスで、ロシアの収容所でロシアの将軍のおかかえ運転手(兼・娼婦)として働いていた”という経歴の持ち主には見えなかったんですよね。

 ラストは頑固一徹のセバスチャンが、チェスを通じて息子と初めて本当の対話をするシーンなのですが、「あれ?これで終わり??」というあっけない幕切れになってしまっていました。もっとじっくり作りこまれていれば、あそこで観客は号泣できたはずだと思います。

 ※パンフレットに、翻訳をされた英文学者の荒井良雄さんが
 「振り返って観ると、ラティガンの日本における受容は、小田島雄志氏の『深く青い海』と『銘々のテーブル』の訳や、私が企画して解説を書き、加藤恭子氏に翻訳を託した『ラティガン戯曲集』(原書房)が最初だった。それ以後、こうした翻訳のある作品のみの上演があっただけで、『愛を称えて』が未上演のまま、ラティガン没後三十年が来年に迫った。」
 と書かれています。でも去年のテレンス・ラティガン3作連続上演で使用された戯曲は、それぞれが常田景子さん、鈴木裕美さん、マキノノゾミさんによって新訳されたものです。

"In Praise of Love" by Sir Terence Rattigan
出演=安原義人(テアトル・エコー)/古坂るみ子(文学座)/井上倫宏(演劇集団円)/菊地真之(長沢演劇グループ)
作=テレンス・ラティガン 訳=荒井良雄 演出=吉岩正晴 美術=宮原修一 照明=手嶋榮一 音響=藤平美保子 衣裳=中山香 舞台監督=辰巳次郎 演出助手=新見真琴 制作=森島朋美
全席自由 一般4000円 学生3000円
ハーフムーン・シアター・カンパニー=http://www.halfmoon-jp.com

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Posted by shinobu at 2006年09月11日 15:02 | TrackBack (0)