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Shinobu's theatre review
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2006年12月05日

ポツドール『恋の渦』11/29-12/10THEATER/TOPS

 三浦大輔さんが脚本・演出を手がけるポツドール。私は番外公演を含めて3度目の観劇になります(過去レビュー⇒)。次回公演は来年3月、本多劇場です。
 若者の“恋”を描いた約2時間15分。緻密に作られているな~とすごく感心しましたが、私には後味があまり良いわけではなかったかな。

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 ポツドールの開場時間は、黒い幕が緞帳のように舞台を覆っていることが多いようです。だから何を書いてもちょっとネタバレになっちゃうので、これからご覧になる方はお読みにならない方がいいと思います。

 登場したのはおそらく20代前半のアルバイターの男女。彼らの私生活をつぶさに覗き見するような感覚でした。実験用のパレットに、ある生物の雄と雌を数組ずつとりだして、その生態をじ~っと観察していくような気持ち。

 『夢の城』は現代を鋭く描きながら、人肌のどうしようもない温かさや、消え入りそうなくらい小さな希望が見え隠れし、具象と抽象が同時にそこに混ざり合って存在したように思うのですが(抽象が具象を支えていたと言えるのかもしれません)、今作では具象の方に圧倒的に重点が置かれていたように思いました。

 私は大学時代に携帯電話がまだなかった世代です。だから共感はできなかったですね。別に共感する必要なんてないんですが(笑)。意図的に描かれたのであろうこの貧しい恋の世界を、私は遠くから眺め続けました。いらいらしたり、がっかりしたり、「私も年取ったなぁ」と自分を客観視しながら。

 ここからネタバレします。

 あるカップルが同棲する部屋に、それぞれの友達が集まる食事会から幕開けします。食事会といってもあまり品の良さそうなものではありません。彼女がいない男の子に、同じく彼氏がいない女の子を紹介して、それを肴にみんなで騒ごうじゃないかという気軽な企画です。
 芳しい成果を生まなかったその食事会の後は、なんと舞台が4分割に!!若者が一人暮らしをするリアルな部屋が4つ突然現れ、一瞬、目がちかちかしました。それぐらい鮮やかな舞台転換でした。4つの空間で経過する時間は、ずっと同時進行します。これも見事でした。

 登場する若者たちは携帯電話の音と振動を常に気にしています。携帯に支配されていると言えるぐらいに。携帯電話って肌身離さず持っているものだと認識されているので(何しろ「携帯する」わけですし)、電話に出なかったりメールを返さなかったりするだけで、不要な意味や感情が付加されてしまうんですよね。例えば、電源が入っていなくて気づかなかっただけなのに、すぐに返事しなかったために「あなたのことはそれほど重要な人だと思っていません」という意思表示になってしまいます。馬鹿馬鹿しいことだと私は思いますが、世代の差なのでしょうね。

 そして、都会の一人暮らしの部屋の残酷さが身に沁みました。だって・・・隠せないですよね、何も。同棲しちゃったら、内蔵の奥まで開いて見られている気分。「星の王子さま」にも、「天空の城ラピュタ」の歌にもありますけど、隠してるから美しいんだと思うんです。互いの浮気を探りあうカップルが醜く見えました。

 自分が不快に感じたことを全て他人のせいにして、堂々と相手を怒鳴りつけるシーンが多々ありました。私には「それって逆ギレじゃんっ!(爆笑)」と突っ込み返したくなる展開だったのですが、舞台では決してそうはならず・・・。
 最近、無償の愛を与え続けることこそ自分自身の幸せだと、舞台や映画などから教えてもらっているので、この作品の登場人物たちを眺めては、情けない気持ちになりました。もしこういうことが今の若者の中で常識になっているとするならば、相当日本は不幸だと思います。

 ・・・だから“恋”の渦なのでしょうか?“愛”ではなく。

 笑えたのは、出会い系サイトのサクラのバイトをしている金髪の男(米村亮太朗)と同棲していた女が、1週間ほど違う男(小林康浩)の家に泊まった末に、その新しい男と“一緒に”金髪の彼氏を振りに行くところ。あれはひどい(笑)。善意とか良心とか礼儀とか、いわゆる善いとされている感情の完全なはきちがえですよね。

 同じ回を観ていた人が「暗転中の映像で“一週間後”等の文字が出たけれど、別に必要なかったのではないか」とおっしゃっていて、なるほどと思いました。『夢の城』と似た演出だったから考えずに受け入れましたけど、セリフにもしっかり時間のことは入ってましたよね。転換が大変だからそういう目隠しの時間が必要だったのかもしれないですが、私も、必要性はあまりなかったように思います。

~岸田國士戯曲賞受賞作『愛の渦』の恋愛版!~
出演=米村亮太朗/鷲尾英彰/美館智範/古澤裕介/河西裕介/遠藤留奈/内田慈/白神美央/小島彩乃/小林康浩
脚本・演出=三浦大輔 照明=伊藤孝(ART CORE design) 音響=中村嘉宏(atSound) 舞台監督=清沢伸也・村岡晋 舞台美術=田中敏恵 映像・宣伝美術=冨田中理(selfimage produkts) 演出助手=富田恭史(jorro) アドバイザー=安藤玉恵 小道具=大橋路代(パワープラトン) 衣装=金子千尋 写真撮影=曳野若菜 制作=木下京子 当日運営=山田恵理子(Y.e.P) 制作助手=安田裕美(タカハ劇団)青木理恵 企画・制作=ポツドール
10月21日(土)前売り開始 前売3,500円 当日3,800円(全席指定) 
公式=http://www.potudo-ru.com/

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Posted by shinobu at 2006年12月05日 23:32 | TrackBack (1)