2006年04月28日
シス・カンパニー『父帰る/屋上の狂人』04/01-30シアタートラム
SMAPの草彅剛さんが出演するシアタートラムでの公演は、1ステージの上演時間が合計1時間5分(2本立て)で、1日に3ステージある日もあります。かなり変わったスケジュールですよね(笑)。私は平日18~19時の回を拝見しました。
短編の2本立てで1本が30分足らずっていうのは意外で楽しかったですが、作品自体はどうも密度に欠けました。
※2006/04/29に加筆しています。
●『父帰る』
幕開けから草彅剛さんがガチガチでセリフ棒読み状態。母親役の梅沢昌代さんとも全然コミュニケーションがなく、次男役の勝地涼さんが出てきてからも全員がぎくしゃく。西尾まりさん(長女)が登場してやっと、ガラっと空気が変わりました。西尾さん、素晴らしい女優さんだと思います。
20年前に情婦と蒸発した父親(沢竜二)が、老いて戻ってくるというだけの短編です。お話はすごく良かったですね。ポロポロ涙を流す西尾さんに感情移入して、私も泣いちゃいました。
●『屋上の狂人』
なんだかドタバタでした。客席はバカ受けでしたが、私はクスリとも笑えず。
草彅さんはいつも屋根に上って空を仰ぎ、空想ばかりしている頭の弱い長男を演じます。心、ここに在らずというか・・・演じるフリをしている状態でした。
きっと怪我のせいだと思うんです。長い公演でものすごいハードスケジュールですし、トラブルがあってもおかしくないと思います。何しろ屋根の上を飛び回る役ですし。
私は1999年の『蒲田行進曲』を観て観劇に目覚めました。草彅さんこそが、私の人生を決めた舞台俳優だと思っています。だから今日は悲しかった・・・。
★「足を怪我しているように見えたのは、本当に怪我したのではなくて演技なのでは?」というご指摘を頂きました。そうだったかもしれません。パンフレットも読んでいませんし、前知識もゼロで拝見しましたので、とにかく感じたままの感想を書きました。
※このレビューをお読みくださった方から
「(略)狂人の足は、父親が芝居の中で言っていたではないですか、
金比羅さんが迎えに来よると屋根から飛び降り、かたわになったと。
弟も言ってたじゃないですか、(略)」
というメールをいただきました。わざわざご指摘くださってありがとうございます。
幕開けからあまりにがっかりしていたので、セリフが届いてこなかったのかもしれません。私は「怪我をしてるからなんだ」と信じたかったのしょう(2006/04/29追加)。
このレビューについて多くのお問い合わせをいただきます。ありがとうございます。よくあるご質問についてお答えする意味で加筆いたします(2006/05/15)。
■「しのぶの演劇レビューは」プロフィールにもございますように、高野しのぶの観劇感想文(レビュー)を掲載する個人ウェブサイトです。
■私は設定やストーリーを知らないままに観劇することが悪いことだとは思っていません。ダンスや美術作品を鑑賞する時のように、リラックスしてその空間(劇場)の中に自分を置き、ただその場に在ること、起こることを感じるのがまず大切だと考えています。なので義太郎の足のことも含め、作品の設定やストーリー等は観ている内に知りたくなれば知るようにしますし、興味を持てなければ耳にも目にも入れなくて良いと思っています。
■1999年の「蒲田行進曲」で草なぎさんが演じられたヤスは、草なぎさんの優しさ、優しさゆえの壊れそうな狂気などが神々しいほどに体から、声から、目からあふれ出していて、私にはヤス(草なぎさん)の体が白く光っているように見えたほどでした。演劇を作る側の人間だった私はあの草なぎさんの演技に目を開かされて、観る側の人間に変わりました。
去年はSMAPのコンサートに行く機会に恵まれ、そこで草なぎさんを拝見した時もその輝きは健在でした。この人のおかげで今の私があると、感謝の気持ちを新たにいたしました。
そして今回の『父帰る/屋上の狂人』に期待を胸いっぱいに膨らませて伺いました。先に述べました草なぎさんへの気持ちと、これまでの演劇経験をふまえて私が感じたのは、「『父帰る/屋上の狂人』では草なぎさんの本来の良さが表れていなかった」ということでした。
■レビュー中の“心ここにあらず”の“ここ”は、義太郎を指します。つまり「役柄の心になっていなかった」「役者であるままの草なぎさんが舞台に乗ってしまっていた」という意味です。役柄になりきるとか、迫真の演技だとか、俳優の演技についてはいろんな表現がありますが、私は役柄というものはその役者自身の中から生み出されてくるものだと思っています。ですから、草なぎさんが義太郎という別人格に成る(演じる)のではなく、草なぎさんが義太郎そのものであるという状態が最も好ましいと考えます。今作では義太郎を演じようとしている草なぎさんが舞台上にいらっしゃいました。“天才・草なぎ剛”ですから、どうしても熱い期待をしてしまうのです。
■この公演を企画・製作しているシス・カンパニーは日本の演劇界をリードする作品を作り続けている会社です。今作では草なぎさん以外の出演者についても技術のある役者さんがそろっており、美術、照明などのスタッフさんも有名な方ばかりです。そんな最高レベルの座組みであることにも私は大きな期待を持っておりましたが、残念ながらそれに応えてくれる完成度ではなかったと感じています(もっとも私が期待するような作品を作る意図が最初からなかったのかもしれませんが)。
■新聞の劇評では、朝日新聞、読売新聞、東京新聞の劇評を拝読いたしました。4/12の東京新聞では、演劇評論家の江原吉博さんが出演者の演技について「作りが表層的だ」「彫りの浅さがのぞく」と評されています。私はそちらと同意見です。
出演:[父帰る]草彅剛/勝地涼/西尾まり/梅沢昌代/沢竜二 [屋上の狂人]草彅剛/勝地涼/高橋克実/キムラ緑子/富川一人/梅沢昌代/沢竜二
作=菊池寛 演出=河原雅彦 美術=松井るみ 照明=小川幾雄 衣装=前田文子 音響=大木裕介 ヘアメイク=大和田一美 演出助手=西祐子 舞台監督=瀧原寿子 プロデューサー=北村明子 企画・製作=シス・カンパニー
(全席指定・税込)5000円
公式=http://www.siscompany.com/03produce/13chichikaeru/index.htm
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劇団フライングステージ/劇団制作社『ミッシング・ハーフ』04/19-27サンモールスタジオ
関根信一さんが作・演出される劇団フライングステージは、「ゲイの劇団」であることをカミングアウトしている劇団です。私は企画公演しか観たことがなかったので、劇団の本公演としては今回が初見になりました。
第二次世界大戦前の上海を舞台にした密度の濃い三人芝居は、笑いあり、涙ありの上質な大河ドラマに仕上がっていました。そして、ロマンティックだった・・・♪ 千秋楽に駆けつけられて本当に良かったです。
【作品紹介】 公式サイトより抜粋引用。
舞台は、第二次大戦前の上海。無声映画の女形スターを中心に繰り広げられる「失われたかたわれ=ミッシング・ハーフ」の物語です。gaku-GAY-kai2004でご覧いただいた「贋作・毛皮のマリー」が舞台にした、無声映画からトーキーへ移り変わる時代。自分らしい生き方を求めて大陸に渡った「彼女」の人生を、サイレントやトーキーの名作映画の数々をモチーフに描きます。
【ここまで】
“失われたかたわれ(missing half)”のイメージは映画『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』から日本でも有名になりましたが、もともとの出典はプラトンの「饗宴」(その中で、アリストパネスが話す内容)なんですね。こちらのサイト(2004.4.9 Fri.)に詳しい説明があります。私は舞台版にすっかりハマったくち(笑)。
公演は終了していますので、ここからネタバレします。
映画のフィルムが回る「ジーーーーーッ」という機械音とともに幕開けで、白黒映画のクラシックな世界へと連れ去ってくださいました。
最初に登場する2人の人物が目に入った途端、パっと『サンセット大通り』の世界が私の頭の中に広がりました。そして黒いドレスをまとった関根信一さんが一言話された瞬間、今度は『毛皮のマリー』です。美輪明宏さんのイメージと重なりました。※真似をしているという意味ではありません。モチーフにした作品の世界が立体的に現れたのです。
サンモールスタジオ規模の公演では珍しい(と思われる)、細かいところまでこだわった写実的美術でした。しっくいの壁は薄汚れているし木製の柱もドアも黒ずんでいて、お世辞にも美しいとはいえない古ぼけた西洋風の部屋。金色の猫足が支えるピンク色のゴージャスなソファが中央に鎮座しています。ちょっと中国風デザイン(?)のついたてや可憐なシェード・ランプなど、家具のひとつひとつのセンスがとても良いのですが、種類はバラバラ。お金がないながらも必死で寄せ集めてきたんだな~というのが見て取れます。
美術も良かったですが、照明もムード満点でしたね。雷の演出がかっこよかったし、回想シーンの切り替えも鮮やかで美しかったです。史実をたどった大河ドラマでありながら、ドタバタのお笑いもどっしりと作ってくださり、声を上げて笑っちゃったところがいくつかありました。
自称女優の川野万理江(関根信一)と、彼女の身の回りの世話をするソンヨウテイ(大門伍朗)が暮らす上海の古い貸家に、日本から上海に兵役逃れをしてきた若い日本人・大江卓哉(森川佳紀)が飛び込んできます。ちょっとした行き違いから万理江が銃で大江の足を撃ってしまい、大江はしばらくその部屋に留まることになります。
万理江も大江も架空の人物ですが、実在するだと思い込んじゃうほどリアルな存在感でした。そして皆さんとても生き生きしていて魅力的なんです。演技の種類は(大雑把に言ってしまうと)新橋演舞場でベテラン俳優さんが見せるかっちりしたものに似ていますが、心、体、声がしっかり一体になっているので、少々型にはまっている感のあるセリフも仕草も喜んで受け入れられました。
特に万理江が語る映画『モロッコ』(動画はこちら)が素晴らしい!マレーネ・ディートリッヒとゲーリー・クーパーの姿が鮮やかに浮かび上がり、また、万理江がどれほどその映画を愛しているのかも伝わってきました。
万理江が本当は映画女優ではなく夜の女(娼婦)であることを知った大江は、一度は部屋を飛び出してしまうのですが、満州国の新京にできる映画製作所のオーディションのチラシを持って戻ってきます。プライドの高い万理江が大江の熱意に負けてオーディションを受ける決心をするのですが、そのシーンで語られる「夢」についての言葉にすごく共感して、ちょっと泣いちゃいました。
大江が言っていたのは「叶わないから夢なんだろ。夢見て叶わなかったら、その時がっかりすればいい。そしてまた次の夢を見るんだよ。だから夢見させてくれよ。」というようなことだったと思います(セリフはほぼ私の創作です)。
あんまり感動したのでそのシーンで終わるのかな~と思ったのですが、そこからもうひとつ重要なエピソードが始まりました。『モロッコ』のアミィとトムの物語に万理江と大江の行く末が重なっていくのです。最後の最後になって、うまく考えられた脚本だな~と思いました。一緒に観劇した人が「最後で『モロッコ』と突然つながったのでは物足りなかった。中盤で何らかの重なりを作っておけば、もっと効果的だったのではないか」とおっしゃっていて、それはその通りだなと思いました。特にトムと大江の共通項が足りなかった気がします。
万理江役の関根信一さん。いわゆる“女優らしい女優像”を堂々と、おおらかに演じきってくださいました。男声と女声を使い分けられるのが素敵。声が大きいなって時々思いましたが(笑)、それも魅力になりました。
まったく違う三役を演じた大門伍朗さんは、きちっと型を作っていながら愛嬌たっぷり。白塗りにかつらをかぶった舞台俳優の四世沢村源之助役では、シーンが終わったところで拍手が起こりました。私ももちろんしましたよ!
最後の最後に万理江のカタワレになった大江卓哉を演じられた森川佳紀さんは、細身の体と仏頂面がとってもキュート♪縦ストライプのスーツもとってもお似合いでした。
出演:関根信一/森川佳紀/大門伍朗
作・演出:関根信一 美術・衣裳:小池れい 照明:青木真紀子 音響:鈴木三枝子 舞台監督:中西輝彦 編曲・演奏=真蔵 録音=松山茂生 宣伝写真=サトウカオル 宣伝美術=河合千佳 ドキュメンタリー撮影=クニオ WEB製作=有賀純子 当日パンフ製作=佐久間きよ子 制作:佐藤竜太郎/佐久間晴 制作助手=中川加奈子 プロデューサー:樺澤良 協力:佐山泰三/吉田直美 制作:フライングステージ/劇団制作社
発売:3月19日(日) 全席指定3500円 12回公演
劇団フライングステージ=http://www.flyingstage.com/
劇団制作社=http://seisakusya.jp/
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