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2007年01月10日

王子トリビュート001畑澤聖悟/渡辺源四郎商店『素振り』01/04-07王子小劇場

 畑澤聖悟さんの戯曲を取り上げる王子トリビュートの第3弾。本家本元の登場です。『俺の屍を越えていけ』、『月と牛の耳』に続いて畑澤さんの新作『素振り』を拝見しました。
 雑誌や新聞記事に「新機軸を打ち出した」というような表現があったように思うのですが、確かに今までに拝見した畑澤作品とは全く違う風合いでした。オムニバスだったし(笑)。

 劇場に入って装置がほぼ無かったことに驚きました。最後まで「テーマは何なんだろう??」と考えながら観ていましたが、3つの短編に特に具体的なつながりはなく、バラバラな印象のまま終わってしまいました。

 ポスト・パフォーマンス・トークで聞いたのですが、今回は劇団員(役者)を3チームに分けて、それぞれに設定を与えてエチュード(即興)で作品作りをしたそうです。残念ながらひとつの作品としての完成度は高くなかったですね。

 ここからネタバレします。

 『月と牛の耳』のトークで畑澤さんが「『素振り』では“素振り”をします」とおっしゃっていましたが、本当に素振りしまくりでした(笑)。
 3つのエピソードは順番に上演されるのではなく、ランダムに入れ替わります。物語を楽しめたのは野球の練習をするカップル。抽象的な演出が生きていたのは剣道をする家族。2人の女の子が客席に向かって話すものは、意味がわかりませんでした。

 【野球編】
 登場するのは社会人野球の選手(藤本英円)と、その高校時代の野球部のマネージャー(工藤静香)。ちょっとせつない青春恋愛ものでありながら、最後には過ぎ行く時間の残酷さ、現実の厳しさをひりひりと身に沁みさせます。
 過去の栄光にすがってもいられなくなった泣かず飛ばずの野球選手が、高校時代に思いを寄せていたマネージャーのことを想像しながら、ただひたすら素振りをします。マネージャーの存在が彼の想像の産物であることは、最後までわからないようになっています。

 「目標をたてたら実行しろ。そうすれば報われる。」という前向きさは人生に必要だと思います。でも、「努力したからといって必ずしも報われるわけではない」という当たり前の事実もあります。それでもひたすら素振りをし続ける男。もう見守らない女。エピソードとしてはこの【野球編】が最も畑澤作品らしかったですね。ただちょっと長いかなと思いました。

 【剣道編】
 姉(工藤由佳子)、妹(藤本一喜)、弟(高坂明生)、そして妹の夫(萱森由介)の四人家族が木刀で素振りをしながら会話。
 パジャマ姿で素振りをし続けるので、とりあえず戸惑いました(笑)。これは稽古中なのではなく会話中なのだと徐々にわかってきて、夫(入り婿?)がバドミントンを始めた時に腑に落ちてすっきり。
 すれ違う兄弟、家族がコミカルに表現されていましたが、この形式(剣道の素振り)である必要性が感じられませんでした。

 【山姥(やまんば)編】
 2人の若い女の子(菊池恵子&三上晴佳)がわーわーしゃべります。方言で何を言ってるのかわからないのは気にならないのですが、標準語のセリフを早口でまくしたてるように吐き出すのは私には気持ちの良いものではなく・・・。最初は「三枚のお札」を方言で演じて、その後はテロとひきこもり? この作品の中でのこのチームの存在目的がわかりませんでした。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:畑澤聖悟・谷省吾・工藤千夏

 谷省吾さんはわざわざ神戸からこのトークのためだけにいらしていました。谷さんは甲南大学で軟式野球をされていて、盗塁王だったそうです。盗塁のテクニックを教えてくださってる時が楽しかった。何より谷さんが一番楽しそうだったけど(笑)。
 畑澤さんは高校演劇について赤裸々に(笑)話してくださいました。作品についての話がほぼ皆無だったのですが、やっぱり今回のトークも楽しかったです。

畑澤聖悟作品連続上演
≪青森、秋田、東京≫
出演=藤本一喜/工藤由佳子/高坂明生/菊池恵子/萱森由介/藤本英円/工藤静香(劇団夢遊病社)/三上晴佳
作・演出=畑澤聖悟 舞台美術=畑澤聖悟 照明=葛西大志 プロデュース=佐藤誠 制作=工藤由佳子 制作助手=菊池恵子/野宮千尋 ドラマターグ・演出助手=工藤千夏 装置=萱森由介 宣伝美術=木村正幸(ESPACE) 企画制作:王子小劇場/渡辺源四郎商店 主催:王子小劇場
全席自由・日時指定・税込 前売券 一般3,000円/学生2,000円/高校生以下1,000円 当日券 一般3,300円/学生2,300円/高校生以下1,300円 北区在住者/シニア(60歳以上) 1,500円(要証明・当日のみ)
公式=http://xbb.jp/wgs/
王子トリビュート=http://www.en-geki.com/tribute/

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Posted by shinobu at 2007年01月10日 11:56 | TrackBack (0)