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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年02月06日

彩の国さいたま芸術劇場『コリオレイナス』01/28-02/08彩の国さいたま芸術劇場 大ホール

 蜷川幸雄さんが彩の国さいたま芸術劇場でシェイクスピアを演出するシリーズの第16弾。唐沢寿明さんら豪華キャストで4月にはロンドンにも行かれます。
 ひさしぶりに与野本町へ。ぽかぽか陽気のマチネにゆったり伺えました。でもやっぱり駅と劇場の間の行き帰りの寂しさは好きになれない・・・。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより引用。役者名を部分的に追加。
 紀元前5世紀初め、共和制に移行したばかりのローマ。
 食糧不足のため、貴族たちに不満を募らせるローマ市民。その中でも特に目の敵にされているケイアス・マーシアス(のちのコリオレイナス:唐沢寿明)はヴォルサイ人との戦闘に参加。都市コリオライの城内に一人閉じ込められ傷を負いながらも、敵の指揮官オーフィディアス(勝村政信)との一騎打ちのすえローマを勝利に導く。
 ローマに帰還したマーシアスは英雄としてたたえられ、陥落した都市の名前にちなんでコリオレイナスの称号を受ける。コリオレイナスは執政官に推薦されるが、執政官になるためには謙虚のしるしであるボロ服をまとい広場に立ち、傷あとを見せながら市民に了解を得なければならない。コリオレイナスはその慣習に強く抵抗するが、周囲の説得によりしぶしぶ慣習に従う。
 無理やり愛想をふりまき彼は何とか市民の賛成を得る。しかし彼の失脚を狙う2人の護民官(瑳川哲朗&?)のそそのかしによりその賛成は撤回され、逆に彼は反逆罪で訴えられてしまう。市民と対立するコリオレイナス。彼は母ヴォラムニア(白石加代子)の説得により市民に謝罪することを了解するものの、護民官の狙いどおり途中で癇癪を起こしてしまい、民衆の敵としてコリオレイナスはローマから追放される。
 祖国への復讐の念に燃えるコリオレイナスは宿敵オーフィディアスのもとへ。自分を追放した連中への仕返しのため、オーフィディアスに協力を申し出る。二人は和解し友情を誓い、共に戦う仲間となる。
 ローマ領に攻撃をしかけるヴォルサイ軍。慌てたローマ側はコリオレイナスに和解を申し出るが、彼はかつての友人(吉田鋼太郎)さえも無視しローマ侵略を続ける。しかし彼の母、妻、息子までもが嘆願に訪れ、さすがに心動かされるコリオレイナス。和解を受け入れローマの兵を引き揚げる。
 ヴォルサイ軍内でどんどん存在感を増すコリオレイナスを疎ましく思い始めていたオーフィディアスは、彼がローマと和議を結んだことに憤慨。裏切り者としてコリオレイナスを責め、殺してしまう。コリオレイナスが生き続ければ危険な存在になったと言いながらも、その生涯を称えるオーフィディアスであった。
 ≪ここまで≫

 ひとことで言うと、NHKの大河ドラマを見ているような気分でした。和風(というかアジア風)の衣裳、美術は予想通り。ロンドンに行くならそんな感じじゃないかな~と思っていたので。衣裳は豪華で美しかったです。でも舞台がアレだとは・・・!役者さん大変だわ~と、少し心配しつつの鑑賞になりました。

 『コリオレイナス』というと、私はレイフ・ファインズさん主演のアルメイダ劇場公演を2000年に拝見したきりです。あまり好きじゃなかったんですよね、演出もストーリーも。それに比べたら今回の方が楽しめたかな。でも何度かレビューにも書いていますが、大きな声で早口で、熱く流しきるようにしゃべり続ける種類のセリフまわしは、私は苦手なのです。今作は全編そんな感じだったので集中できませんでした。コリオレイナスの母親役の白石加代子さんは語りが一辺倒ではないので、声も言葉もじっくり楽しめました。
 
 ここからネタバレします。

 照明の当たり方で鏡になったり透明になったりするパネルが使われていました(マジック・ミラーみたいな?)。唐沢さん主演ですし『マクベス』を思い出しました。『マクベス』等と違うのは、ステージのほぼ全体が階段だったこと!『幻に心もそぞろ狂おしのわれら将門』もそんな感じでしたよね。衣裳の長いすそを上手にさばきながら階段舞台を歩き、走り回る役者さんたち・・・何度見てもおろおろしちゃいます。勾配が急な八百屋舞台だと受け取れば、客席からはまんべんなく役者さんの全身を見られるので贅沢とも言えますね。でも私はあんまり・・・。

 勇気があって猛々しく、根っからの軍人であるコリオレイナスは、自分の気持ちにすごく正直な男です。媚びたり演技したりすることができません。そういう竹を割ったような性格は普通にかっこよく見えました。彼は戦場に行かない市民(庶民)を十把一絡げに「愚民」呼ばわりし、明らかに差別します。ローマ時代のお話ですから当然なのかもしれません。そのように、ちょっと極端な性格のコリオレイナスの人生を追っていきながら、彼だけでなく彼の周りの人々のことも客観的に眺めていくことになりました。

 嘘をつくことについては「あるある大事典」の捏造問題、ビルの耐震強度偽装問題、復讐については9.11、イラクでの自爆テロなど、私が生きている世界で日常茶飯事になっていることとそのまま重なりました。だからお芝居の中の世界を楽しむよりも、今の社会の出来事とつなげて考える時間が長かったです。
 ありきたりな言葉になってしまいますが、自分の気持ちに正直であることって本当に大切ですよね。最近はそれさえできればいいんじゃないか、そこが何もかもの出発点じゃないかと思い始めています。もちろん選民意識や差別はいけないですけど。

彩の国シェイクスピア・シリーズ第16弾
≪埼玉、大阪、福岡、愛知≫
出演=唐沢寿明/白石加代子/勝村政信/香寿たつき/吉田鋼太郎/瑳川哲朗/原康義/大友龍三郎/手塚秀彰/小田豊/冨岡弘/大川浩樹/小林正寛/高瀬哲朗/高橋礼恵/樋浦勉/鈴木豊/清家栄一/塚本幸男/新川將人/二反田雅澄/福田潔/井面猛志/篠原正志/鍛冶真人/髙山春夫/北川勝博/星智也/KAI/田村真/角田明彦/藤沼剛/梶原美樹/泉裕/川崎誠一郎/川﨑誠司/原田琢磨/石田佳央/杉浦大介/前橋聖丈(ダブルキャスト)/桐山和己(ダブルキャスト)
演出:蜷川幸雄 原作:W・シェイクスピア 翻訳:松岡和子 美術:中越司 照明:原田保 衣裳:小峰リリー 音響:井上正弘 演出助手:井上尊晶 舞台監督:白石英輔 テクニカル・コーディネーター:金井勇一郎 主催:財団法人埼玉県芸術文化振興財団 制作:財団法人埼玉県芸術文化振興財団/ホリプロ 企画:彩の国さいたま芸術劇場シェイクスピア企画委員会 平成18年度文化庁芸術拠点形成事業
10月14日(土)一般前売開始 一般S席9,000円 A席7,000円 B席5,000円 学生席 2,000円
公式=http://www.saf.or.jp/

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Posted by shinobu at 2007年02月06日 19:24 | TrackBack (0)