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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年03月30日

多摩美術大学造形表現学部映像演劇学科『清水邦夫の劇世界「破れた魂に侵入」』03/30-04/01多摩美術大学上野毛キャンパス3号館映像スタジオ

 多摩美術大学で清水邦夫教授退職記念イベントが開催中です。上演されるのは清水さんの戯曲「破れた魂に侵入」、「草の駅ーオフィーリア幻想ー」「イエスタディー」の3作品。1日に全3作品を無料で観られます(要予約)。
 映像演劇学科の学生(卒業生含む)が演出、出演されます。スタッフワークもすべて学生です。

 清水邦夫さんの作品は数回拝見していますが(過去レビュー⇒)、3作連続で観られるのはありがたいです。特に今の若い人たちが清水さんの言葉で作る空間が面白かったです。
 最初に拝見したのは木元太郎さんが演出された「破れた魂に侵入」。上演時間は約1時間30分。

 ⇒「草の駅ーオフィーリア幻想ー」レビュー
 ⇒「イエスタディー」レビュー

20070330_tamabi3.JPG
ポスター沢山貼ってありました

 ≪あらすじ≫
 舞台は「いのちの電話」を受ける事務所。生きることに悩みを持つ人から電話がかかってくる。相談者と相談員とが深く関わっていく。
 ≪ここまで≫

 長方形のステージをL字に囲む客席。事務机とチェアーが並ぶ事務所は客席とほぼ地続きでフラットです。自然で静かな会話が続いていき、一貫して真面目で清潔な空気が流れていました。
 清水邦夫さんの戯曲というと、ついつい蜷川幸雄さんの演出作品を思い浮かべてしまいます。だから今の若い人の、大人しい目の言葉づかいで聞こえてきた清水さんのセリフは新鮮でした。

 電話で話すシーンが多いのですが、電話をかける相談者は受話器を持たずに自由にステージを歩きながら話します。電話している相手のそばまで寄っていって顔を見たりもします。対して「いのちの電話」を受ける相談員は、席について受話器を取って話しますし、相手の顔は見えていません。このような、相談者と相談員との境目を越える演出が面白かったです。

 何年に書かれた戯曲なのかわからないのですが、話されている言葉の印象からすると数十年前のお話のような気がしていました。だから役者さんがiPodを首からかけていたり、事務所にペットボトルの水が常備されているのは時代のズレを感じさせます。そのミクスチャーは楽しめました。でも、もっと大胆な変化や仕掛けがあっても良かったんじゃないかと思いました。

 比べることではないかもしれませんが、やっぱり演劇学科の学生さんだから、普通の大学の学生劇団の役者さんとはちょっと違いましたね。だいぶん落ち着いて観ていられました。

 ここからネタバレします。

 女の相談員3番(電話では名前ではなく番号を名乗る)のことを愛してしまった相談者の男が、突然事務所に乗り込んできます。この相談者と3番の夫(チーフ?)との電話での会話に、むずがゆさを感じてしまいました。「3番を愛していた!」などというストレートな言葉が馴染むには、それまでにもっと爆発的な破壊力のある会話が必要だったんじゃないでしょうか。自然で静かな会話がたんたんと続いているように感じていたので、そこだけボコっと浮いたように思いました。

 “水”がテーマのひとつになっていたようで、何も泳いでいない水槽があったり、誰もが1本ずつペットボトルを持っていたりします。最後に水槽に落ちる照明がものすごくきれいでした。でもペットボトルはよくわからなかったな~。机の上にい~っぱい並んでたので存在感が大きすぎる気がしました。

脚本=清水邦夫「上野毛3部作」:「イエスタディー」「草野駅-オフィーリア幻想-」「破れた魂に侵入」
「破れた魂に侵入」演出=木元太郎 出演=鈴木美穂/川崎草/高野滋人/野村麻衣/矢崎正弥/林みなみ/萩原健矢/下田亜紀/川崎祐太
監修:萩原朔美 装置:大津英輔+鴉屋 照明:増子顕一 衣裳:川田佳代/藤谷香子 音響:大山隆一/荒武芙紗子/小松いつか 映像:山本圭太 舞台監督:河原和/庄山晃/酒巻未由来 制作デスク:山崎美緒/木村和代
3/31(土)20:00~21:30トークセッション「清水邦夫の世界」出演:別役実/宮沢章夫/高萩宏(司会)
清水邦夫教授退職記念イベント 予約制・無料
公式=http://www.tamabi.ac.jp/eien/shimizukunio/index1.htm

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Posted by shinobu at 2007年03月30日 23:23 | TrackBack (0)