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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2007年05月24日

studio salt『7』05/16-24相鉄本多劇場

 studio salt(スタジオ・ソルト)は椎名泉水さんが作・演出される劇団です。横浜の小劇場系の団体でもっとも集客数が多いと言われています。私はお友達からのクチコミもいくつか聞いて、今回初見でした。上演時間はとても気持ちの良い約1時間20分。いつもそのぐらいの長さだそうです。

 ⇒CoRich舞台芸術!『

 ≪あらすじ≫
 舞台は地下の薄暗い事務室。奥に檻(おり)のようなものが見える。青い作業服の男達が談笑しているが、全員が何かしらあきらめの表情をしているように見受けられる。今日から新しい職員が来るらしいが、彼もすぐに異動になって去っていくだろう。
 ≪ここまで≫

 取り上げた題材は暗い目ですが、ほんわかと優しいムードの漂うワン・シチュエーションの会話劇でした。独特だと感じたのは、舞台と客席とが前向きで柔らかな意識で結ばれていること。役者さんはこびたり威張ったりせず、澄んだ気持ちで「良いものを届けたい」と思っていて、観客は座ったままそれを受け止めて「応援してるよー!」と声援を送っているような・・・とても穏やかで暖かい劇場空間でした。1000人を超える動員はすべて手売り(プレイガイドを通さず、劇団員から直接購入すること)というのにも納得です。

 こうなってくると、観客も一緒に舞台を作っているような気持ちになるので、役者さんが上手いとか下手だとかってあまり気にならないんですよね。常連客にとっては、演劇を観に行くというより「スタジオ・ソルトに行く」という体験なのかもしれません。

 日本現代社会のいわば底辺を支える労働者と、売買され放棄、処分される命を描く、素朴な優しさが感じられる脚本でした。人間を含むちっぽけな命を慈しむ姿にとても好感が持てました。ただ、言葉や演技で表わされていたものの、もっと奥、もしくは高みを感じ取りたかったですね。暗い目と明るい目の2パターンの作風があるそうなので、次回公演が楽しみです。

 ここからネタバレします。

 犬や猫など、捨てられた(面倒を見ることを人間に放棄された)動物を殺す施設で働く男たちと、そこに訪れる人々を描きます。タイトルの「7」は働いている男の人数と、届けられた動物が7日後に処分されることを表しているんですね。観終わってからチラシを見て気づきました。

 動物を処理するブルーカラーの男達は、母親が入院中だったり(東享司)、離婚調停中だったり(shikyo)、知的障害を持っていたり(麻生0児)、それぞれに悩み・弱みがあります。一人だけ前途洋々に見える若いエリート社員・星野(增田知也)は両親が韓国人だと言いますので、彼自身もおそらく外国籍でしょう。ペットを捨てに来る老女(勝碕若子)も夫の介護と自分の病気に疲れており、世間知らず・礼儀知らずの女子高生(富岡英里子・小角真弥)も、あれはあれで病的でした。登場人物全員が何かしらプライベートに問題を抱えた現代人です。

 前半は陰湿ないじめのムードがひやっと広がっていましたが、徐々にやわらいできます。終盤で、10年かけて事務所で育てていたカメを星野が逃がしてしまい、よそ者扱いされていた星野とブルーカラーの男たちの間に対話が生まれます。リーダー的存在の六郎(東享司)が星野と打ち解けたのは少々急すぎるように感じました。一人一人を丁寧に、無理に押し付けることなく、慈しむ心を持って書かれているのは好感が持てますが、優しさが前面に出ているせいで、お話が都合よく進みすぎてるようにも思います。
 エンディングは、10年以上連れ添った犬を殺してくださいと頼みに来る老女と、1匹のカメを助けに行こうと外に出る星野との対比が鮮やかで、さらりと暗転したのが良かったです。カーテンコールの照明の演出もきれいでした。

 男たちがむさくるしく(笑)エアロビクスのような体操をするシーンは、笑っていいのかどうかが微妙で、その生ぬるい雰囲気が良かったです。欲を言えば必死で不恰好に動く男たちが、躍動する肉体美から不気味な肉塊に移っていくぐらいまで見せてもらいたかったですね。たとえばペドロ・アルモドバル監督の映画「LIVE FLESH」の、車椅子のバスケットボールの練習シーンみたいに(ピンポイントな説明ですみません)。可愛いいと思っていた犬が、吠えるとブサイクに見えたり、気持ち悪い姿のカメが命の大切さを教えてくれたり、生きた肉体というのは美しさと醜さを併せ持っていると思います。長い体操シーンだったのでいろいろ考えちゃったんだな。短かったら「おもしろいな~」で終わったかもしれません。

 コンクリートの壁に囲まれた(と思う)事務所は、下手に向かって斜めに傾いた大きなハリが天井に取り付けられ、陰鬱な表情になっていて、味がありました。中盤に夕焼けの光のようなオレンジ色の照明が、檻の方から事務所へと窓越しに入ってくるシーンがあり、地下室だと思っていたのは間違いだったのかと迷いました。あれは光が大きく差し込みすぎなんじゃないかな~。ハリに取り付けられた青白い照明は効果的でした。

出演者=麻生0児、增田知也、勝碕若子(劇団蒼生樹)、高野ユウジ、富岡英里子、小角真弥、東享司、松本・F・光生、木下智巳、shikyo
作・演出=椎名泉水  舞台美術:小林奈月 大道具製作:C-COM舞台装置 照明:阿部康子(あかり組) 音響:岩野直人(STAGE OFFICE) 舞台監督:笹浦暢大(うなぎ計画) 宣伝写真:降幡岳 宣伝美術:成川知也 記録撮影:升田規裕(M's Video Group) 制作:薄田菜々子(beyond) 企画・製作・主催:studiosalt
【発売日】2007/03/18 指定席 前売・予約のみ/2800円 自由席 前売・予約/2500円 当日/3000円 学生割引 前売・予約のみ/1500円(自由席、劇団取扱いのみ。高校生以下。要証明書提示)
http://www.studiosalt.net

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Posted by shinobu at 2007年05月24日 15:02 | TrackBack (0)