2007年08月11日
La Compagnie An『御母堂伝説(ごぼどうでんせつ)』08/03-08シアターイワト
女優の明樹由佳さんと西山水木さんが1999年に結成したパフォーマンスユニット・La Compagnie An(ラ・カンパニー・アン)。明樹さんと西山さんのことは何度か舞台で拝見していましたが、La Compagnie An作品は初めて。
上演時間は約1時間55分。久々に最前列の桟敷席で死ぬかと思いましたが(苦笑)、涙が溢れて止まらなくなるシーンも沢山あり、この作品を体験できたことの喜びで胸が一杯になる家路でした。
韓国人のJung TaeHyoさんの音楽(DJスタイル)が素晴らしく、同じく韓国人の俳優兼ダンサー・Kwon YoungHoさんにもすっかり見とれてしまいました~。ほんと、すごかった。
⇒CoRich舞台芸術!『御母堂伝説』
レビューをアップしました(2007/08/30)。
最初にサミュエル・ベケット作『ゴドーを待ちながら』を知らないお客様をステージに呼び出して、個別に戯曲の意味を教え始めました。・・・どうしたらいいのかよくわからない雰囲気でした。最前列で耳をそばだてて内容を聞く限りでは、かなりいい加減な気がしたので(笑)。で、説明が終わったか終わらないかもよくわからない状態で勝手に開幕。元気いっぱいに「うん、不条理!」ってことかな、と♪
エスニックなムードのちょいと露出の激しい衣裳を着たピチピチの女優さんたちが、元気に歌って踊って演技して、なんだかわかんないんままに白熱して盛り上がっちゃいます。だって音楽(DJ)が超~素敵だし!でも伝わってくるのは、すっかり狭くなった地球を漂流する私たちと、戦争を経験した私達のご先祖様とのつながり。
記憶が定かでない部分もあり、下記はシーンの順番が前後してると思います。セリフも完全に正確ではありません。お許しを。
戦争を経験した女・オソボ様(西山水木)は言います。
「血は受け継がれるのに、私の気持ちは? aporogize(謝罪)でもなくregret(悔恨)でもない、私のこの気持ちは(受け継がれているの)?」
・・・この言葉だけで涙がこぼれました。
今を生きる若い女たちが、腕を伸ばして手に持った携帯電話を宙にかざすシーンがありました。「気持ちは伝わるよ」と言っているような気がしました。私もそう信じています。
でも後でこんなセリフ↓を群読するところもありました。これまた泣けちゃった。
「自分に降りかかってくるまで、私達は気づかない。」「いつ、私の子供(息子)は(兵隊に)取られたの?」
ホトエ(立花あかね)が喫茶店で彼氏(向後信成)にこっぴどくフラれるシーンのマンガチックな演出には爆笑でした。恋敵(多田直子)に「泥棒ネコ!」「メスブタ!」など、ステレオタイプな罵詈雑言の連発(笑)。そういえば何のシーンだったかは忘れましたが、「プロセニアム!」「アヴァンギャルド!」と、明らかにヘンな状況で叫ぶのもサイコーに可笑しかった。
男にフラれてパリに演劇留学したホトエが、同じ留学生の韓国人男子(役名失念・クウォン・ヨンホ)と出会います。はじめましての挨拶をして"I'm Korean, too!"と言われたホトエは「tooって?」と驚きます。すると返事は「だって同じアジア人でしょ」。悲しい歴史がある日本と韓国だけど、ヨーロッパに来たら同じアジア人だ。同じ人間だ。
演劇学校に来たけどフランス語もおぼつかないし、「一体私は何やってんだろうな」と悩むホトエに対して、韓国人留学生が応えたのは、
"Here is my body. Body is theatre!"
あぁ、ヨンホさんが言うとなんて説得力があるんだっ!「ここにある身体そのものが演劇だよ」って。人間は身体で何もかも生み出します。ものも作るし、恋もするし、命も生む。そしてその身体に、ご先祖様の記憶も入っているんですよね。
明樹由佳さんとクウォン・ヨンホさんのペアのダンスシーン。明樹さんからヨンホさんが生まれて、ヨンホさんに明樹さんがもたれて、2人がぐるぐると絡み合い続けます。男女の交わりから命が生まれて、互いに支えあって生きて、また男女が出会って命が生まれる、その繰り返しのようでした。生まれる命、支える命。涙が溢れて止まらなかった。まさに身体が演劇だった。
そのBody(身体)を持って、ホトエは元気に母(明樹由佳)の待つ家に帰ります。「ただいま!」
オソボ様「いつもあなたの帰りを待っている母親が“お国”だとしたら、“お国”があなたの死など望むはずはない。」
ホトエと韓国人留学生が熱いキスを交わしました。私の中では完全に祝祭ムード。過去と現在という縦軸と、日本と韓国(世界)という横軸が、同時に繋がったように思いました。
涙が出るほど感動したところを書いてみましたが、退屈したところもいくつかありました。たとえば留学から帰ったホトエが、日本で待っていた劇団員に不条理演劇について解説するシーンとか。理由は・・・たぶん演技、かな。桟敷席でつらかったのもあり、「絶対に必要だ」と思えるシーン以外は急に不機嫌になっちゃいました。すみません。
クウォン・ヨンホさん。冒頭でも書きましたが、めっちゃくちゃ素敵な男優さん・ダンサーさんでした。写真あり⇒1、2(清木場直子さんのブログより) あのー・・・こんなこと書いちゃうと「しのぶアホちゃう?気が触れたか?」って言われてもしょーがないと思うんですが・・・久しぶりにね、「抱かれたい」って思ったねっ!!!(爆笑) だってすげーよ、あのジャンプ!マッチョなのにはちみつみたいな甘い笑顔するし!もー・・・奇跡ですねっ(←ひとり興奮)。いや、ミーハーな気持ち抜きでも、必見のアーティストだと思いました。“劇団旅行者”観に行きたいよ。
ホトエの彼氏を横取りする役(ヒメ?)などを演じられていた、多田直子さんの演技が面白くて、きれいでした。※お名前を間違ってたらすみません。
御母堂伝説-Waiting for GOBODOT-
出演=明樹由佳・立花あかね・清木場直子・西山水木/Jung TaeHyo(チョン・チヒョ/DJ.TEYO)/Kwon YoungHo(クウォン・ヨンホ/劇団旅行者 Yuhangza)/清田直子/竹田まどか/入交恵(ラズカルズ)/成本千枝/蜂須みゆ(elephant heat)/多田直子/向後信成(ヒンドゥー五千回)
作・演出=西山水木 音楽=-electric music & DJ-:Jung TaeHyo (DJ.TEYO)/-倭唄-:吉良知彦(ZABADAK) 振付:明樹由佳
【発売日】2007/08/01 3,500円 全席自由
http://a-n.fem.jp/
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財団法人埼玉県芸術文化振興財団/ホリプロ『エレンディラ』08/09-09/02彩の国さいたま芸術劇場 大ホール
ガルシア・マルケスさんの小説を坂手洋二さんが戯曲化し、蜷川幸雄さんが演出。そして音楽がマイケル・ナイマンさんという、超豪華スタッフが集結した公演。何年も前から話題になっていた企画ですよね。
上演時間は約4時間10分(途中10分、15分の休憩を含む)・・・長っ!第3幕では朦朧としてしまいましたが、作り手の方々と一緒に『エレンディラ』を旅することができたことに満足です。
オープニングが素晴らしかった!ほぼ10分間、涙が流れっぱなしでした~。
⇒CoRich舞台芸術!『エレンディラ』
≪あらすじ≫ 公式サイトより。一部改行を変更。
砂漠に風が吹くとき、その娼婦のテントは突然あらわれる。
伝説の美しい少女娼婦エレンディラを求め、今日も男たちの行列は続く。
翼の生えた老人が語り始める、彼が生涯愛し続けて女性の思い出・・・。
彼の名はウリセス(中川晃教)。そしてその女性とはエレンディラ(美波)。
美少女エレンディラは、冷酷な祖母(瑳川哲朗)に召使のように酷使されていた。ある日、彼女の過失から祖母の家が全焼する。祖母はその“借り”を返させようと、エレンディラを娼婦に仕立てて一日に何人もの客をとらせる。彼女はたちまち砂漠中の評判となり、そのテントの前には男たちが長蛇の列をなす。ある日、彼女はウリセスと出会い、恋に落ちる。駆け落ちするも、祖母に追いつかれて遠く引き離される二人。恋するウリセスは不思議な力を身につけ、彼女を探し当てる。結ばれるために、二人は祖母を殺そうと企てるのだが・・・。
祖母の運命と恋人たちのその後の物語をマルケスと思しき作家(國村隼)が、語りついでいく・・・。
≪ここまで≫
薄くて白い幕で三方をぐるりと囲まれた、何もない広大な舞台。正面を見つめると、その奥は果てしなく遠くまで続く(ように見える)深遠。マイケル・ナイマンのあの力強い音楽(感情に直接的に訴えかける情熱的な旋律と、機械のように確実で単調な繰り返し。露骨な性的イメージとともに冷徹な知性も感じられます。「ピアノ・レッスン」は大好きな映画です。)が満ちる世界で、深い闇から小さく点るように登場する登場人物たち・・・。
不幸なヒロイン・エレンディラ(美波)とその恋人ウリセス(中川晃教)が見つめ合うシーンでは、まぎれもない熱い恋の感情が2人の瞳の間に存在しているように感じて、自然と涙がこぼれ続けました。美波さんが舞台で全裸になることはニュースになっていましたが、必要な演出だったと思います。壊れそうなほど細くて美しい若い女の肢体は、娼婦エレンディラの悲惨な人生をその存在だけで雄弁に説明し尽くしていました。
赤や青などを大胆に使った照明が、スモークがたかれた舞台をしっかり染め上げていました。何もないステージに次々と大道具・小道具が繰り出され、自在に場面転換します。4時間以上に及ぶ長時間の舞台で、これでもか!これでもか!と次々と仕掛けが!最後の最後まで「わぁっ・・・♪」という驚きと喜びがまざった声が、私の心の中で響きました。
正直、長いです(苦笑)。2幕、3幕と開幕の時の音楽が鳴る度に「また始まっちゃったよ~、ウム、行くぞ!」と腹をくくる!!・・・みたいな。もうヘトヘトなのに「出演者と一緒に長い旅に挑むゾ!」・・・みたいな。ある意味マラソンのような(笑)体育会系な観劇環境でした。でも観られて良かったと心から思っています。
名セリフの宝庫だったな~。乱暴な言い方をすると、物語としては普通のお芝居の3~4本分の内容だったんじゃないかしら。エレンディラの話、ウリセスの話、エレンディラの祖母の話、そして3幕に登場する作家の話などなど。
祖母役の瑳川哲朗さん。大・大・大・大活躍。ひどいバーちゃんだけど愛嬌があって決して嫌いにはなれません。この公演、マチソワ(1日に昼と夜の2公演)の日もありますね・・・凄い(汗)。
ここからネタバレします。
幕開けから10分間が至福でした。突然マイケル・ナイマンの音楽。はかなく破れた白くて薄い幕(緞帳)に、もやもやとした映像が写されます。徐々に舞台の中が明るくなってくると、大きい透明な塊(中が光っている・ダイヤモンド)、エキセントリックな表情の魚、猫足のバスタブが、ふわふわと上手から下手へと舞台を横切って飛びあがりました!奥から登場する人々はまるで蜃気楼のよう・・・。幻想的なカーニバル(パレード)にも心躍りました。
エレンディラとウリセスの恋のシーンでは、必ず胸にグっと来て泣かされました。2人とも儚いんですよね。シーツを両端から畳んでいって2人が徐々に近づいていくところなんて、ホントにうっとり♪互いに上半身裸になって抱き合うベッド・シーンは、カラッカラに乾いた喉を潤すために無心になって1滴の水の求め合うようで、その必死さが美しかったです。真っ赤な照明に包まれたのも、愛の象徴であることがわかりやすかったです(後から同じ照明が使われますし)。
3幕で作家(國村隼)が「エレンディラ」の真相を探り当てます。祖母にお金を返すためにこき使われていたエレンディラは、こっそり飼っていた白い孔雀をウリセスと呼んでいました。つまりウリセスはエレンディラの想像の産物であり、実在の人物ではなかったのです。それまでに描かれた全て(一目ぼれの一夜、恋ゆえの逃避行、2人協力しての祖母殺しなど)が、可哀想なエレンディラの想像でした。この顛末には・・・悲惨さがさらに上乗せされたので、びっくりしました(汗)。でも全てが明らかになった後に、海と空で2人が互いを求め合うシーンが続いたのが凄かったですね。「全ては嘘(夢)だった、でも、愛は本物だった」と言ってくれているような気がしました。ちょっとポール・オースターみたいだな~と思ったり。
エレンディラ「永遠なんてない。あるのは瞬間だけよ。」
さすがに4時間以上ともなると、少々退屈したところもありました。2幕のカーチェイス(笑)は平板すぎたような。3幕では(もう疲れきっていたのもありますが)、祖母の歌が長すぎるように感じました。横で抱き合うエレンディラとウリセスが手持ち無沙汰に見えたのも原因だと思いますが。
≪埼玉、大阪、愛知≫
出演:中川晃教、美波、瑳川哲朗、國村隼、品川徹、石井愃一、あがた森魚、山本道子、立石涼子、藤井びん、日野利彦、青山達三、戸井田稔、冨岡弘、新川將人、今村俊一、福田潔、堀文明、井面猛志、野辺富三、佐々木しんじゅ、田芳鴇紀、羽子田洋子、難波真奈美、太田馨子、今井あずさ、山崎ちか、川﨑誠司、石田佳央、さじえりな、本山里夢、安齋芳明、明石伸一(翼の男)、Juggler Laby、しゅうちょう、松延耕資、大口俊輔、木村仁哉、舩坂綾乃
原作:ガブリエル・ガルシア・マルケス(「無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語」鼓直訳 新潮社刊「ガルシア・マルケス全小説」より) 脚本:坂手洋二 演出:蜷川幸雄 作曲:マイケル・ナイマン(Michael Nyman) 美術:中越司 照明:原田保 衣裳:前田文子 音響:井上正弘 ヘアメイク:佐藤裕子 振付:広崎うらん 音楽助手:阿部海太郎 演出助手:井上尊晶/石丸さち子 舞台監督:小林清隆 主催:財団法人埼玉県芸術文化振興財団、ホリプロ、テレビ朝日、朝日新聞社 企画:ホリプロ 制作:財団法人埼玉県芸術文化振興財団、ホリプロ
【発売日】2007/04/14 S席12,000円 A席 7,000円
ホリプロ公式=http://www.horipro.co.jp/ticket/kouen.cgi?Detail=92
公式=http://hpot.jp/erendira/ ←音が鳴ります
公式ブログ=http://blog.e-get.jp/eren/
イープラス=http://eplus.jp/sys/web/theatrix/special/erendira.html
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青年団リンク・東京デスロック『unlock#2:ソラリス』08/10-14こまばアゴラ劇場
多田淳之介さんが作・演出(時には出演も)される東京デスロック。unlockシリーズの第2弾です(⇒第1弾レビュー)。脚本全文が掲載されたチラシが話題になっています。
『ソラリス』はとても有名な作品です(⇒小説『ソラリスの陽のもとに』、⇒映画「惑星ソラリス」 ⇒映画「ソラリス」)。タルコフスキー版の映画をいつか観ようと思って結局観ていなかったので、チラシの脚本を読んでから伺いました。
びっくりさせられましたね・・・いつものことながら(笑)。前知識はあった方が絶対に良いです。チラシをお持ちの方はぜひ読んでから劇場へ!
★2日目から、開演前にあらすじの説明をされているそうです!前知識なしでもOKかも?!(★は2007/08/12加筆)
上演時間は約1時間40分。私は最前列に座ったんですが、たぶん3列目以降がお薦め。空調が控えめな状態なので、暑いのが苦手な人ほど前の方に座られると良いと思います(後方上部の席が暑かったみたい)。
役者さんが皆さん素晴らしかったです。男性はかっこ良くて、女性は美しかった。
⇒CoRich舞台芸術!『unlock#2:ソラリス』
レビューをネタバレ感想以前までアップしました(2007/08/13)。
最後までアップしました(2007/08/15)。★舞台写真追加!
まず、舞台は黒い緞帳で隠された状態。上下にあるパネルに『ソラリス』のあらすじ解説する文字映像が流れます。
そして幕が開くと・・・!
役者さんが発する言葉は普通の日本語(現代口語)ですが、暴力的に投げやりだったり、脈絡なく何かを面白がったり、空虚な心でヘンに盛り上がったり、語られる言葉から予想される感情や状況からは導き出せないような演技をします。言葉に対して反応はちゃんとするので、会話は起こっているのですが、全員が常に何か別のことにとらわれたままでいるように見えて、“対話”という意味では成り立っていません。でも、そのまま会話は続きます。
目の前に現れるのは、一部を除いて疲労困憊した人々。未来および今に絶望している様子です。少~しずつ『ソラリス』の中の誰が話をしているのかがわかってきます。
≪あらすじ≫ チラシより引用。story from:スタニスワフ・レム『ソラリスの陽のもとに』
ケルビンは研究のため惑星ソラリスへやって来ました。すると死んだはずの妻ハリーが現れました。驚いたケルビンはハリーをロケットに押し込み宇宙に放ちました。先にソラリスに来ていたスナウト、サルトリウスによると、ここでは頭の片隅にある現実にはなってほしくない事が、人間の形で何度も現れるとの事です。研究者達は、目の前の、海が作った「者」について悩み、その無意味さ、自分たちの無力さについて悩みます。ケルビンとハリーの不毛とも思える愛の生活が続き、研究者達は、その「者」を消すために研究を進めます。研究者達と、その「者」達の運命やいかに。
≪ここまで≫
不思議な感覚でした。誰も何も話さない時間や、コミュニケーションが成り立っていない、意味不明の(に近い)会話が続くので、退屈してくるんじゃないかと少し探り気味に観ていたのですが、一向に退屈する気配なし(笑)。予想外のことが起こるというのがその原因であることは明らかですが、それ以外にも色んな要素がありました(ネタバレしますのでここでは控えます)。
最初から平行線だとわかって話したり、すれ違ったままの状態で放置したり、通じ合えないコミュニケーションが延々と続きます。その中で一瞬だけ、どうしても対峙せざるを得なくなった2人が、言葉ではぎこちなくはぐれて行ってしまうのだけれど、互いの心の中では相手を求めていることがわかるシーンがあって、「あぁ、なんてロマンティックなんだろう・・・♪」と、じんわりと胸が温かくなりました。平たく、ずーーーーっと広がっていく容赦ない絶望の中で、生まれた瞬間に死ぬことが運命付けられている、愛を見つけることができました。
役者さんは皆さん素晴らしいと思います。「演技」という言葉自体が「嘘」であることを表していますから、役者さんがやってることは当然ながら全て嘘なんですよね。それを了解した上で、そこでありのままに生きているように見えます。でも同時に、周到な技術で嘘をついてくれているようにも見えるんですよね。両立しています。いったい、これは、何なんだろう。
何が嘘で、何が本当なのか。私は、何を本当だと思うのだろうか。それは私にしかわからないことだし、自分で感じた時にしか気づくことができないんでしょうね。だから、自分ひとりで決めるしかない。それぐらい「本当(真実)」は不確かなものなんだと思います。
ここからネタバレします。アップしました(2007/08/15)。写真は主催者よりいただきました。
舞台には水が張られていました。中央には8角形の島が浮いています。登場人物は舞台上手に空いた穴から出入りします。穴から島までは、細い板が橋のように掛けられているのみ。水はソラリスの「海」を表しており、照明で青、赤、緑などに変化します。浮かんでいるのはウルトラマンの人形や地球儀、いるか(サメ?)の形のビーチボールなど。

青年団リンク・東京デスロック『unlock#2:ソラリス』
また、本番の舞台に近い状態(水を入れた状態)でお稽古をされてきたことが、この作品の成功の要因であることは間違いありません。1度だけアトリエ春風舎でのお稽古にお邪魔させて頂きました。ものっすごい湿気で不快指数100%以上じゃなかろうかと思うような地下室で(苦笑)、1つのシーンを何度も何度も、ずぶぬれになりながら繰り返されていました。生半可な気持ちでは舞台は作られないんだなと、芸術って凄いよねと、今更ながら思い知らされました。ほんと、役者辞めてよかったワ!(笑) 私の名前は「しのぶ」だけど、あんなに忍耐強くはないですぅ。
プールで稽古@アトリエ春風舎
自殺したはずの元恋人・ハリー(石橋亜希子)が何度も生き返ってきて、ケルビン(夏目慎也)は戸惑いますが、徐々にニセモノのハリーの愛に応えたい気持ちになってきます。でもハリーの方は、自分が人間ではないことに気づいてくるんですよね。2人は近づけば近づくほど、お互いが結ばれない運命にあることを知っていきます。これが切ない。
イスと机をすべて「海」の中に放り込んで、何もなくなった島の上に大の字になって寝転び、ふざけるハリー。彼女が消えた後にケルビンも同じように大の字になったシーンで、「あぁ、ケルビンはあの(ニセモノの)ハリーを愛してしまったんだ」とわかりました。サルトリウスが自殺した後にハリーがまた戻ってくると、ケルビンはハリーを連れて一緒に退場します。2人は心中するんだろうなと思いました。
スナウト(大竹直)だけが最後に残ります。彼は「海」の産物だったんですね。彼のところには「海」の作ったニセモノが1度しか現れなかったという発言がヒントになっています(他にも明らかな証拠になる出来事があるのですが、今作では演出で曖昧になっていました)。スナウト本人にそっくりのニセモノ(大竹直)が出てきて、ニセモノが本人を殺したか、本人が自殺してしまったのかしら・・・。
サルトリウス(永井秀樹)の子供の頃の気持ちが、彼の父親(役名:レム)の形で現れます。でもそれを演じるのが女優さん(佐山和泉)なのが面白いですね。佐山さんが大胆に水に飛び込んで、むせながらセリフを言うのが面白かったな~。ハプニングなのか予定通りの行動なのかはわかりませんが、どちらにしろ「むせる」のは演技ではなく身体の反応そのものなので、ライブなのです。
最も対峙したくないものが現れるからか、登場人物たちは自分の本当の気持ちをそのまま顔や動きには表しません。突然叫んだり、笑ったり、奇妙な語り口になったり、目を合わせなかったり、言葉の意味からかけはなれた行動をしたり・・・。でも、思いつきで(アドリブで)やってるわけではないことはわかります。どういうさじ加減なのかな~・・・。空気の密度が濃かったです。
ステージを取り囲む「海」に誰もが入るので、全員が「ニセモノ」かもしれないんですよね。そう思わせる演出が面白いです。自分が本物かどうかなんて、誰にもわからないのかも。
≪8/10金 ポスト・パフォーマンス・トーク≫ 記憶に残った言葉を書いておきます。2007/08/16加筆。
出演:多田淳之介・堤広志
堤「演劇はここから5年が勝負かなと思う。過去5年で色んなジャンルが増えてきたし、制度も改善されてきた。公共ホールが増えたり、レパートリー・システムやレジデンシャル・アーティストが生まれたり。でも、内野儀さんがおっしゃっているように“演劇はなるようにしかならない”のかもしれない。誰も全体を見渡していないから。現場に携わる人が、モチベーションの高い人が、それぞれがベストと思うことをがんばってやるしかない。」
堤「公共事業が増えることは諸刃の刃。まともに批評が出来ない。事業を酷評すると、次の年から“そんなにダメならやめよう”となってしまうかもしれないから。」
堤「“静かな演劇”以降、リアリズム劇とも言えるような新しいジャンルが生まれた。例えばポツドールやサンプルのような、暗部をさらけだすような演劇。カタルシスがないし、ハッピーエンドでもない。でも、ある一定の共感を呼んでいる。」
堤「(多田くんがやっているのは)原作のエッセンスを違うところから引き出していく手法。演劇を手立てとして人間を考える、というような。ルネ・ポレシュ(ドイツ人演出家。⇒過去レビュー)に似ていると思う。まっとうなモラルが働いていたらやらないことだから(笑)、それを(多田くんが)やっちゃうことに期待しています。そうすればつまらない演劇も面白くなる。」
多田「演劇は、俳優がいて、役を演じるもの。」
多田「疲れた感じを出したかった。(たとえば)腕立て伏せをいっぱいして、疲れれば、そこにストーリーが生まれる。」
多田「ネガティブなもの(今作では疲れた身体)を描くことで、そこからポジティブなものが生まれる」
多田「動物電気は観客に情報を与える演劇。青年団の(今、自分がやっている)ようなものは、観客が情報を獲得する演劇。」
≪8/12日ポスト・パフォーマンス・トーク≫ 記憶に残った言葉を書いておきます。
出演:多田淳之介・生田萬
多田「身体の状態がどうあるかに興味がある。どういう身体で(言葉を)発するか。今回は俳優に『絶望的な身体でいてほしい』『できるだけ疲れた身体で居て』と伝えました。」
生田「キラリ☆ふじみを、演出家が好きなように実験できる場にしたい。」
生田「“人間はこんな風に変わるんだぜ”と見せるのが演劇。あるシチュエーションで、人間の可変性と出会う事件。それが演劇だと思う。」
生田「小劇場が増えて貸し小屋経営を始め、60年代の小劇場運動から「運動」の文字がなくなっていた。こまばアゴラ劇場を拠点に活動することで「小劇場」に「運動」の文字を復活させたのが、平田オリザさんだと思う。運動のルネッサンス。」
多田「アゴラは日本の中のフランスみたいな場所。」
多田「現代口語演劇をやることで、俳優のコミュニケーション能力がものすごく上がっている。」
夏のサミット2007参加作品
出演:夏目慎也、佐山和泉、石橋亜希子、大竹直、永井秀樹(増田理は体調不良のため降板。代役に永井秀樹)
作・演出:多田淳之介 舞台美術:鈴木健介 照明:岩城保
8/10金 19:30の回終演後ゲスト 堤広志氏 (編集者、演劇・舞踊ジャーナリスト)
8/12日 19:00の回終演後ゲスト 生田萬氏 (キラリ☆ふじみ芸術監督)
【発売日】2007/07/01 予約2000円 当日2500円(日時指定・整理番号付自由席)
http://www.specters.net/deathlock
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