2007年08月21日
青年団若手自主企画vol.34・あなざ事情団『ゴド侍』08/17-21アトリエ春風舎
あなざ事情団は松田弘子さん(青年団)、倉品淳子さん(山の手事情社)、わたなべなおこさん(あなざーわーくす)の3人のユニットです。ユニット名はそれぞれが所属する劇団名を足しているんですね。大胆な参加型演劇を体験するのは2度目です(⇒1度目)。
今回もいっぱい参加して、いっぱい笑いました。女優さん2人のはちきれんばかりのパワーと、海のような寛大さに胸がいっぱいになりました。
⇒CoRich舞台芸術!『ゴド侍』
⇒T★1演劇グランプリ・第一次審査通過団体です。
レビューをアップしました(2007/08/26)。
サミュエル・ベケットおよび彼にまつわる事柄を材料に、観客を巻き込んで楽しむ約1時間30分。2人の女優さんが「ゴドーを待ちながら」の登場人物やベケットの妻、愛人などを演じられますが、その内容が大事なのではないんですよね。ワハハと笑ってる内にたち現れる、不条理な劇空間を楽しむ(味わう)という趣向だったように思います。だからベケットのことを知らなくても全く問題なし(笑)。もちろん、知っていた方が細かく楽しめますが。
2畳ぐらいのステージの四面を客席が囲みます。最前列の人はほとんど出演者のような扱いで、セリフを話したり、質問に答えたり、大活躍(笑)。お客様がまた、進んで面白いことをされるんですよね~。開演前のリラックスした大歓迎ムードやフレンドリーで落ち着いた導入の賜物だと思います。
倉品さんの暑苦しいぐらいの熱演と、松田さんの体型を生かした声量が可笑しかったな~。計算して道化をやってらっしゃるのが凄い。
ここからネタバレします。
チャッカマンのキャンプファイアーを中心に(笑)、「燃えろよ 燃えろよ 炎よ 燃えろ~♪」とみんなで合唱した時は、本当に感動しちゃいました。
1粒のチェルシーを手の甲に乗せて、それが落ちない様に動くように指示(命令・笑)された時は、まるで演劇のワークショップみたいでわくわくしました。みんなで心を合わせて動きました。緊張したけどめちゃくちゃ嬉しかったです。
出演=松田弘子(青年団)、倉品淳子(山の手事情社)
脚本=わたなべなおこ 照明=岩城保 総合プロデューサー=平田オリザ イラスト=松田弘子 宣伝美術=松田弘子 わたなべなおこ 当日運営=鈴木智香子 撮影=小口宏 高橋里江子 協力=松井周(おそらくラジオの声の出演) 山の手事情者 あなざーわーくす 主催:(有)アゴラ企画 こまばアゴラ劇場 企画制作=青年団 (有)アゴラ企画 こまばアゴラ劇場
【発売日】2007/07/14 一般:予約2,000円/当日2,500円 中学生以下:予約1,500円/当日2,000円
http://www.letre.co.jp/%7Ehiroko/threesisters/
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劇団ぎゃ。『無題』08/19大博多ホール
劇団ぎゃ。は中村雪絵さんが作・演出・出演される福岡の劇団です。藍色リストに続いて翌日に拝見しました。
福岡ウインドアンサンブルという吹奏楽団との、たった1日2ステージだけの競演です。オーケストラと演劇とのコラボレーションは、先日のルームルーデンス『サロメ オーケストラ版』で拝見して以来ですが、生演奏の美しい音楽の贅沢だけでなく舞台装置としての効果も大きかったです。上演時間は1時間20分弱。
⇒CoRich舞台芸術!『無題』
≪あらすじ≫
絵画のオークション会場。ある画家が頭の中で想像した絵に値がついていく。
≪ここまで≫
舞台の額縁全体を覆う紗幕が、舞台のおそらく中央付近にかかっています。紗幕の奥にはオーケストラがガツンと居て、役者さんは紗幕の手前で演技されます。装置は可動式の食卓とイス以外にはほぼ何も無かったですが、生演奏と楽器と奏者が居るだけで、豪華なオークション会場と画家の夢の中の世界が成立していました。
受付や会場案内のスタッフも白いシャツに黒い蝶ネクタイという衣裳で揃えていましたし、生演奏と最初の「オークションへようこそ!」の導入にはわくわくしました。画家と対話するオークション主催者の言葉が、紗幕にスライド文字で映写されます。字幕操作の方と役者さんの息が合っていて、このやりとりが面白かったですね。日本語字幕の下(上?)になぜかフランス語のサブタイトルも入っていて(笑)、セレブな雰囲気がプラスされていました。
画家が思い描いたことが舞台に現れて、それに(その状況を描いた絵画に)値がついていきます。頭の中が舞台にさらされるという構造が面白いし、演技も筋書きも自由自在なので楽しんで観られました。
劇団ぎゃ。は笑いを積極的に取りにいく作風なんですね。ボケてツっ込むタイプの、いわばベタでサービス精神大盤振る舞いなギャグが連発され、会場には大きな笑いが何度も起こっていました。
私は全くと言っていいほど笑いませんでしたが、笑えなかったことには不満も疑問もありません。客席で笑いが起こることで役者さんが安心したり、「笑ってる観客は面白いと思っている」と解釈するのは寂しいことだと思います。笑わなくても楽しんでいる人はいますし、笑っていても物足りさを感じて帰る人もいます。笑い(ウケ)を取るための言葉や展開に重点が置かれ、作品の核になる部分が曖昧になっている気がして残念でした。
クライマックスからラストへの着地点がとても面白かったです。セリフがない空間で雄弁に劇世界を作り上げてくれていました。
お値段は1000万円以上からで、「10000000円」「50000000円」などになります。桁区切りの「,(コンマ)」をつけて欲しかったですね~。
ここからネタバレします。
スクール水着を着た女性がいかにも“痛さ勝負”みたいに(笑)、ネタとして登場しました。その役者さんのことを知っている観客にとっては、「そこまでやるか!?」とか「あの人、またやってるよっ!」などと笑えるポイントになるのでしょう。でも初めての観客にとっては痛いだけの可能性もあり・・・。やるなら1人だけでもきちんと成立するぐらいの役作りをしてもらいたいですね(スクール水着キャラだけに限定した話ではありませんが)。
大きな声でがっちり演技をしている時に、たまに素(す)の状態(を装って)でセリフを言うシーンがありました。笑いを取る意味で効果が出ていたこともありましたが、ひとつの手法(テクニック)として使うだけなのはもったいないと思います。ある役柄を徹底して演じて、そのプラスアルファとして使うぐらいのバランスにした方がいいのではないかと思いました。演技については全体的におぼつかなかったですね。
何でも自分の思い通りになるので、画家は「俺は神だ!」と狂い始めます。想像上の人物ら(王様、お妃様、王子など)が無差別の殺し合いを始めて、舞台はすっかりデカダンなムードに染まり、画家もろとも破滅に向かいます。登場人物が皆んな死んでしまって誰も動かなくなった舞台に、ただオーケストラの音楽だけが響きました。このシーンで値段がどんどん上がって落札に至ったのは痛快でしたね。人間の範ちゅう(意味やことば、物語など)を超えて生まれたものにこそ価値があるという主張のようにも受け取れました。
出演=中村雪絵、堺雅記子、三坂恵美、木村佳南子(非・売れ線系ビーナス)、田坂哲郎(非・売れ線系ビーナス)、富田文子、三原宏史((劇)池田商会)、矢ヶ部哲、福岡ウィンドアンサンブル有志
作・演出:中村雪絵 演出補助:古賀つばさ 舞台監督:栗原雅樹(万能グローブガラパゴスダイナモス) 舞台装置:三坂恵美 照明アドバイザー:糸山義則 照明プラン:下川綾 照明操作:永井辰弥 演奏:福岡ウインドアンサンブル 衣裳作成:古賀つばさ 後藤真郁子 選曲:中村雪絵 柳田智子 小道具・字幕:林良子(非・売れ線系ビーナス) 字幕操作:広瀬由依 中原智香 振付:富田文子 パンフレット・チラシデザイン:堺雅記子 チケットデザイン:児玉真名美 制作:古賀つばさ 上野藍 三坂恵美 広瀬由依
【発売日】2007/06/01 前売り1500円、当日2000円 ペアチケット(予約・前売りのみ)2400円 ぎゃ。グッドプライス券(劇団予約のみ) 中村雪絵の肖像画を持参された方 500円(油絵・サイズ指定有り・10号〔530×455mm〕)
http://gya01.fc2web.com/
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藍色りすと『ハルカナ』8/18-19西鉄ホール
藍色りすと(あいいろ・りすと)は福岡の劇団です。2001年設立で、今作は西鉄ホールのgrow up企画に選ばれた公演です。
西鉄ホールは客席数が最大464席で本多劇場よりちょっと大きめですね。デパートが入ったビルの最上階にあって、劇場の中は全労災ホール/スペース・ゼロみたいでした。「本多劇場みたいなところかな~」と勝手に想像していたので、ちょっと意外でした。
⇒劇評『FPAP高崎の「さくてきブログ2」』
⇒CoRich舞台芸術!『ハルカナ』
⇒T★1演劇グランプリ・第一次審査通過団体です。
≪あらすじ≫
木下カナタ(井田直美)は精神病院に入院している。病院の医師や看護士ともぎくしゃくするし、たった一人の肉親である姉ハルカ(白井晶子)ともうまくいかない。カナタはいつも、昔一緒に遊んでいた“ゆうと”(峰尾かおり)という少年のことを思い出していた。
≪ここまで≫
病院らしい白を基調にした具象と抽象がまざった美術でした。下手に“ゆうと”が登場する2階分の高さのロフトがあり、上手奥には巨大な観覧車がそびえていました。いつもはキャパ約100席(ぽんプラザホールなど)の劇場で公演をしているようなので、大きな劇場で横幅も高さも奥行きもがんばって使っているなと思いました。
病院が舞台になっている時点で私の苦手ジャンル・・・。深刻すぎるわけではなかったので不快感はゼロでしたが、都合よく話が進みすぎるし役者さんの演技がおぼつかないしで、退屈しました。なかなか観客の予想可能な域を超えてくれないんですよね。気持ちや状況などを言葉で説明しすぎだと思いました。
でも、最後の最後にすべてが夢の中の出来事だったかのようにひっくり返す演出があり、作品がふんわりとパッケージ化された気がして、「なるほどな~」と落ち着くことが出来ました。
主役のカナタを演じられた井田直美さんの声の響きが良かったです。
ここからネタバレします。
父親に捨てられ母親は早くに逝ってしまい、2人で生きてきた姉ハルカと妹カナタはいわば一心同体(になりたがっている)の姉妹なはずなんですが、その関係が薄かったですね。タイトルも『ハルカナ』になっているのに残念。
藍色リストは女性キャストの中に1人だけ男性キャストを入れるというやり方を続けられていて、今回は医師役(上瀧昭吾)がそうでした。でもあまり効果が感じられませんでした。カナタがハルカと医師の恋愛関係の間にむりやり入り込んで、悲しい三角関係になるシーンもありましたが、それには前半からもっと伏線が必要でしょう。
カナタは患者仲間と姉のおかげで自殺を思いとどまります。すると次の病院のシーンでは黒いエプロンをしてロボットのように動いていた看護士たちが普通のナース服に変わっていました。患者の服も濃い青色のスモッグ(?)から薄い水色のシャツに変わり、衣裳と美術全体が柔らかなパステル調にまとまります。演技もいわゆる幸せな病院の風景とマッチした優しいものになるので、これまで描かれてきたことは全てカナタの心の中のできごとだった(のかもしれない)と受け取れます。そうなると“ゆうと”もカナタの想像の産物だったかもしれないんですよね。
最後のカナタの独白で、この作品を通じて作者が言いたかったことがはっきりと述べられたようです。「姉が変化したのでこれからはうまくいくと思ったが、やっぱり以前のような関係に戻ってしまった。でも、私はここに居ます!」(セリフは大意を汲んだもので、正確ではありません)という、前向きで思いっきりハッピーに演出された結末でした。
現状を認め、将来の不安も受け入れて、今ここで生きていることを表明するという考えには大賛成ですが、全部ことばで説明してしまったのはもったいないと思います。舞台奥の大きな観覧車がガタガタに崩れたままハッピーエンドになったのは救いでしたが(幸せの裏側が見えている)、役者さんの演技や美術、照明、音楽などの存在がセリフの意味を伝えるための道具(脇役、引き立て役)であり続けるのは残念です。
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演:今企画プロデューサー/劇評フリーペーパー発行者(?)/太田美穂(藍色りすと主宰)
太田さんご自身がADHD(注意欠陥・多動性障害/Wikipedia)だという告白には驚かされました。今作品では感じていることをストレートに表現したということでした。
私は私戯曲が悪いとはまったく思いません。でも自分のことを題材にする時は、より鋭い客観性を求められると思います。この公演で自らをさらすことで、色んな面で苦労し、勉強されたことと思います。それをホップ、ステップにして、次はぜひジャンプしてくれたらいいなと思います。
西鉄ホールgrow up 企画
出演=一ノ宮亜葵、井田直美、今村映子、宇ノ木靖子、沖静香、白井晶子、永幡桂子、中村公美、ヒガシユキコ、峰尾かおり、上瀧昭吾
作・演出:太田美穂 舞台監督:権藤智海(U.J.Channel) 照明:鳥原淳(SLI) 音響:菊池純哉(西鉄ホール) 音響オペ:一ノ宮寛子 大道具:大隈謙司・兄弟船 衣裳:オーイシヤスヨ メイク:BE-STAFF MAKE UP UNIVERS 制作:土肥聖子 受付協力:烏山茜・萩原あや・劇団PA!ZOO!! 託児協力:はらっぱSUN 主催 : 藍色りすと / 提携 : 西鉄ホール(西鉄ムーブ98) 後援 : 福岡県・福岡市・福岡市教育委員会・(財)福岡市文化芸術振興財団 製作 : 藍色りすと / 企画 : 西鉄ホール / 協力 : 劇団PA!ZOO!!
【発売日】2007/07/01 前売:2000円 / 当日:2500円 2劇団共通チケット:3000円 未就学児童のご入場はご遠慮ください。
http://aiiro.jp/
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