2007年11月30日
グリング『Get Back!』11/28-12/09ザ・スズナリ
青木豪さんが作・演出されるグリングの新作です。メルマガ2007年11月号でお薦めしておりました。
『Get Back!』というタイトルがただ「戻れ!」ってだけではなく、複数の意味で作品と関連していて「わぉ、かっこえ~っ」って思いました。柔らかいようで胸にぐっさり痛い、大人のお芝居。上演時間は約1時間50分。公演終盤はまだ残席あるそうです。
⇒CoRich舞台芸術!『Get Back!』
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより
舞台は、山間部にある民泊施設。
都会を捨て、ロハス的な生活に憧れる人々が集う宿。
雪がもうすぐ降ろうという頃、とあるグループが宿を訪れた。
女が2人に男が1人。
彼女らの訪れは、やがて、おだやかな日々を壊していく。
「純粋な目的で集まっていた集団が、内部から崩壊していく姿」を描く、
青木豪、約一年ぶりの新作公演。
≪ここまで≫
人間の優しさや可愛らしさ、思わず吹き出してしまう笑いも盛り込んだ、無理のない会話劇だったと思います。でも、すごく、厳しい・・・。
青木さんの脚本は人間を優しく見つめてくれているけれど、残酷なほど意地悪(笑)。でもそこが好きだし、ありがたいです。ふんわりと浮かぶ夢物語は、その時は楽しめても心にも刺さらずにいつの間にか消えちゃったりしますものね。
役者さんが演技のための演技をしているように見えることがありました。ある感情が生まれるための準備をしているような。その場に生きて、その場でおのずと感情と行動が生まれてくれば、言葉や意味以外にももっと世界が広がってくるんじゃないかと思います。
私が拝見したのは初日ですので、どんどん面白いことになってくるんじゃないでしょうか。達者な役者さんばかりが揃っている贅沢な公演なので。
ここからネタバレします。
「戻る」ことについて。まず脚本が戻る構成になっています。いわば物語が大きな転換点を迎えるシーンがド頭に演じられます。「わぉ、この人たち誰?一体何をもめてるの?」と思ったら暗転して、1日ぐらい時間をさかのぼったシーンが始まります。徐々に冒頭のシーンへと近づいていくので、ちょっとしたサスペンスのようにも楽しめました。
冒頭シーンの後は額縁一杯の広さのスクリーンに、出演者のクレジットが入った映像が映されました。こんなに大きな映像を使うのって、私はグリングでは初めて観たのでとっても新鮮。内容は時間の経過を示すものでした(小さくなるろうそく、夜明けから夕焼けの空など)。
開幕の音楽がBeatlesの"Get Back"(Wikipedia)だったのも気分がノリノリに。
やってくるのは、3人組だった漫画チームがばらばらになっちゃうという結末。元に戻そうとしてじたばたして、あるきっかけで「やっと元に戻れる!」と思ったけど、結局、戻れないことを互いに思い知ることになります。「戻れ!」っていう言葉(タイトル)が、叶わないとわかっていても吐露してしまう願いのようにも解釈できるんですね。
漫画原作者(片桐はいり)は前途洋洋な将来が見えているけど20年付き添ってくれた支えを失うし、漫画家(萩原利映)は思いが伝わらない不満や相棒からの蔑視ともいえる視線から逃れられますが、20年続けてきた仕事を失います。そしてアシスタント(中野英樹)は上司2人の間で気を使う必要がなくなりますが、正気を失います。
私も失恋した時はフラれる前に時間が戻って欲しかったし(笑)、あの仲間ともう一度あの時のように出会いたいとか、今でもチラっと思ったりするんですけどね。「時よ戻れ!」って懇願しても絶対に戻らないし、それなら時間はそのままでもせめて関係ぐらいは昔のようになりたいと思ったりするんですが、実際のところ不可能です。こうやって自覚はしているのだけれど、目の前でまた見せられると、またずしんと重たく乗っかってくるものですね。
狂ってしまう人が1人いたのでそもそもが無理な相談だとは思うんですが、個人的にはできれば最後に、『海賊』で受け取ったようなささやかな希望のようなものが感じたかったです。これもまた、私が甘ちゃんだってことなのでしょう。
爆笑した言葉はこちら。
「(お前は)遠浅な人間だよ!」
「意外なとこ、マッハだな。」
出演=片桐はいり、萩原利映、杉山文雄、中野英樹、高橋理恵子(演劇集団円)、遠藤留奈、黒川薫、村木仁
作・演出=青木豪 照明=清水利恭 照明オペレーター=中山玲 美術=田中敏恵 舞台監督=筒井昭善 効果=青木タクヘイ 効果オペレーター=吉岡英利子 音楽=dubRIN' 峰岸信太郎 映像製作=岸健太朗 演出助手=田村友佳 宣伝美術=高橋歩 宣伝写真=仲西隆良 公演収録=(株)キース・コーポレーション 記録写真=鎌田伸幸 制作=菊池八恵 制作協力=嶌津信勝 企画・製作・主催=グリング
【発売日】2007/10/19 得割 3,500円 前売 4,000円 当日 4,500円 指定、自由とも
http://www.gring.info/
※クレジットはわかる範囲で載せています。必ずしも正確な情報ではありません。
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toi『14.√1.90』11/27-12/02ギャラリーLE DECO
toi(トイ)は“InnocentSphereの女優、黒川深雪を主宰にズキュンズの宮永琢生がプロデュースを務める演劇ユニット”(公式サイトより)。今回は第2回公演で、第1回に続いて青年団演出部の柴幸男さんの脚本・演出です。タイトルは「アイ・シ・テン・ルート・イッテン・ク・レイ」。
ジャンルは静かな現代口語演劇ですね。言葉遊びのパズルがうまくつながるロマンティックでせつない世界。とても面白い脚本でした。上演時間は約1時間20分だったような。
⇒CoRich舞台芸術!『14.√1.90』
≪あらすじ≫
5年前に死んだ母親が描き残した絵が見つかった。ギャラリーを借りて個展を開くことにしたその夫と娘だが、開催前日に思わぬ訪問者が・・・。
≪ここまで≫
渋谷のギャラリーLE DECOをそのままギャラリーとして使っています。客席以外に装置はなし。シンプルで上手な使い方だと思いました。
「愛してる」って、言いづらいですよね。私達が普段使っている言葉でありのままの気持ちを伝えたいと思っても、言ったところで本当に自分が心で思っていることとはかけ離れている気もします。でもゲームのようにあるルールにのっとった話し方に制限すると、たどたどしい言葉から本当の気持ちが浮き出てくるように感じることがあるんですよね。言葉って不思議です。
今、携帯小説が流行ってるみたいなんですが、それもまた言葉の新しい形態なんでしょうね(あんまり興味ないんだけど)。人間が気持ちを伝える方法って、すごく沢山の種類があるんだと思います。この作品では、言葉にできなくてもそこに気持ちが存在するんだってことも感じさせてくれました。
ちょっと変わったルールにのっとって話すという設定を現代口語劇の中でスムーズに信じられたし、楽しめました。演出の妙だと思います。
コロコロと謎が転がって、うまくパズルがはまっていきます。そのアイデアが素敵だし、最後に伝わってきたことも私にとってはとても共感できるものでした。
ここからネタバレします。
五七調でしゃべる、だじゃれでしゃべる、数字の音だけでしゃべるという制限で会話をします。それが成立しているのがすごいな~。特に数字でしゃべるのは面白かったです(例:はい=81)。だじゃれもあれだけ語尾に連発されると可笑しいし(例:そうですかンジナビア半島)。
額の中の絵は実は世界の名作絵画(のカレンダー)で、額縁だけが母親の作品だったとわかります。額縁が部分的に白と黒に塗られていて、並べ替えると「ココロハココニ」「347*」という文字に見えるのです。※「ココロハ・・・」については終演後に関係者から聞きました。私は気づかなかったんです。
11年前のささいなことについてお詫びをしにくる母親の教え子(中田真弘)は、大げさめの演技で良いスパイスだったと思います。何年経っても気持ちっていうのは残るんですよね。それが体の中から出て、誰かに渡されたと本人が信じて納得するまで。
「感情は確かに自分の中にあるのに、言葉にできなかったら、それはなかったことになるのかな?」という疑問を話すシーンがありました。私もなんとかして自分の気持ちを伝えようとこのウェブサイトを運営していますが、もしそれをやっていなかったとしても、何かを見て(誰かに会って)私が何かを感じたことは確かだから、その気持ちはそこにあると信じています。しかもそれはその場所に残るんじゃないかな、とも。
こうやって言葉にしていても、それは私の気持ちをありのままに、正確に表せているかどうかはわかりません。そうだとしても伝えたいって思うから人間は試行錯誤するんですよね。言葉だったり、絵だったり・・・その試行錯誤自体が面白いし、尊いことなんだと思いたいです。
出演:こうのゆか/坂根泰士/黒川深雪 [以上 InnocentSphere]/中田真弘/高橋ゆうこ [ファンカスキャンパーズ009]/筒井則行 [ゴリぱんかにー]
脚本・演出:柴幸男 音響:星野大輔 照明:森友樹 宣伝美術:セキコウ 票券管理:佐竹香子 プロデュース:宮永琢生 制作:toi 企画製作:toi×ZuQnZ
アフタートーク・ゲスト:11/27(火)19:30中屋敷法仁 [柿喰う客]/11/28(水)19:30田上豊 [田上パル]/11/29(木)19:30篠田千明 [小指値]
10月14日(日)一般発売 [日時指定・全席自由]前売 2,000円 当日 2,200円 平日マチネ割引料金 1,500円《ZuQnZ=11/22(木)14:00の回、toi=11/30(金)14:00の回》 toi×ZuQnZ SET-TICKET 3,000円
http://toizuqnz.exblog.jp/
※クレジットはわかる範囲で載せています。必ずしも正確な情報ではありません。
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