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しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2008年11月16日

ドイツ文化センター/日本演出家協会「シンポジウム 演劇と社会」11/15ドイツ文化センター

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演劇と社会

 日本演出家協会が主催する国際演劇交流セミナー2008【ドイツ特集】の、シンポジウムに伺いました。

 ドイツの演劇人が来日して東京と大阪でワークショップを開くなど、大掛かりな企画のようです。できたらDVD上映や講演も聞きたかったんですけど、シンポジウムのみ拝聴いたしました。

■シンポジウム(17:00-19:00)
 パネリスト(登壇者下手から):司会:新野守広(立教大学教授) 堤広志(舞台評論家) ローラント・コーベルク(ドラマトゥルク、ベルリン・ドイツ座) ヘレーナ・ヴァルトマン(演出家、振付家) リズ・レッヒ(演出家) 田中孝弥(劇作家・演出家・清流劇場代表) 

 まずは舞台評論家の堤広志さんが日本の小劇場劇団(チェルフィッチュ、ピチチ5、サンプル、五反田団、ポツドール、東京デスロック、ひょっとこ乱舞、ハイバイ)を舞台映像、舞台写真とともに紹介されました。ヘレーナ・ヴァルトマンさんは大いに興味を持たれたご様子でした。

 ドイツに留学されていた田中孝弥さんが、ご自身の劇団・清流劇場の活動とドイツ演劇への取り組みについて、しっかり準備された資料を読み上げられました。

 田中「ドイツ演劇に触れたことで、考え続けることの美しさに気づくことができた。友人に『演劇人は新しい価値観、ものの見方を提供してくれる』と言われて嬉しかった。劇場を拠点にして、ふだん生活している社会について考える機会を与えるのが、演劇。」
 田中「日本人は、責任の取り方を考えなくなってきているのではないか(例:汚染米事件など)。責任の追及について描いたドイツ戯曲を演出し、自分はどうするのか、自分はどう生きるのかに向き合った。7年間ドイツ演劇に関わって、『わからなくてもいいんだ』ということがわかった。失敗しない人間などいない。だからこそ人間は、責任の取り方について考える必要がある。問題を考え続けることで、豊かな人生を生きられると思う。」

 田中「ドイツ演劇は、『私が生きている』ということを実感できるおもちゃである、と思った。」
 田中「稽古場で日本語だけが飛び交う必要性はないと思うようになった。多ヶ国語が飛び交うほうが、価値観の可能性を考えられる。表現をつくる上で、健全な気がする。」

 ローラント・コーベルク「(最近のドイツでは)特定のあり方に疑問を呈する演劇が多い。free theater(インディペンデントの劇団?)が公立の劇場にも乗り込んできた。ドイツの劇場は、観客の頭を刺激できればそれがいいと考えている。(観客が)『よくわからない』と思って、考えることが大事。観客に『演出家の意図を知りたい』と思わせることが大事。」
 ローラント・コーベルク(もしくはヘレーナ・ヴァルトマン)「昔の人は解決策を提示していたが、今は疑問を投げかけたり、問題を可視化したりして、その解釈は観客にゆだねるタイプの作品が多い。演劇は、考えて生きる可能性の時間。」
 ※ヘレーナ・ヴァルトマンさんも一緒にお話されていました。

 リズ・レッヒ「今のドイツの若手の演劇は、主張したりするのではなく、対案を出すのがホットなテーマだと思う。社会全体が相対的になって、ごちゃまぜで、政治性をともなわないようになった。次にどういう対案(例えば資本主義への対案)を出すのかが重要。答えがわからなくても暫定的な対案を出すのが、次の世代の演劇だと思う。」

 ■ひとこと感想
 ワークショップでは“アイデンティティー(自己同一性)”がテーマになっていたようです。リズ・レッヒさんが「日本人が自分のアイデンティティーを問うことにあまり頓着がないことに驚いた」という意味のことをおっしゃっていました。

 日本は島国で公用語が1言語ですし、日本人は自国が単一民族国家と思い込んでいる傾向がありますし、また「他人に迷惑をかけてはいけない(迷惑になる自己主張は控えろ)」といった義務教育のムードもありますし。「私とは一体誰なのか」と自分自身に問う機会は、何か特別なきっかけでもなければ起こりづらいのかもしれないと思いました。

 来年はドイツの演劇が日本で上演される機会がけっこうあるようで、ぜひ公演に伺いたいと思いました。

15:00-16:00 DVD上映とコメント(ヘレーナ・ヴァルトマン)
16:00-17:00 講演「演劇と社会」(ローラント・コーベルク)
17:00-19:00 シンポジウム
パネリスト:ヘレーナ・ヴァルトマン(演出家、振付家) リズ・レッヒ(演出家)  ローラント・コーベルク(ドラマトゥルク、ベルリン・ドイツ座)  堤広志(舞台評論家) 田中孝弥(劇作家・演出家・清流劇場代表) 司会:新野守広(立教大学教授) 共同主催:日本演出家協会
有料(1,000円)、要申込 日独同時通訳付
http://www.k2.dion.ne.jp/~jda/
http://www.h2.dion.ne.jp/~port/tg/tg0811.pdf
http://www.goethe.de/ins/jp/tok/kue/the/ja3602890v.htm

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年11月16日 22:21 | TrackBack (0)