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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2008年12月10日

梅田芸術劇場『箱の中の女』12/10-25 Bunkamuraシアターコクーン

 岩松了さんが作・演出される音楽劇、主演は一青窈(ひとと・よう)さんです。

 一青さんが作詩した曲が脚本の題材になっており、作曲はJ-POP業界で有名な小林武史さん。約9曲の未発表曲が披露されました。一青さんは初舞台なんですね。上演時間は約2時間50分(休憩15分を含む)。

 ⇒毎日新聞ウェブサイトに舞台写真がいっぱい!
 ⇒こちらで劇中歌「冬めく」が聴けます。
 ⇒CoRich舞台芸術!『箱の中の女
 レビューを最後までアップしました(2008/12/11)。

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 男(柏原収史)は孤独な生活をしていた。波止場で荷物の積み下ろしの仕事についていたが、友達とてなく、倉庫ともつかぬ男の住居には、船から降ろされた荷物、これから出荷される荷物が山積みされている。男は妻が欲しかった。愛する者と暮らせる日々を夢見ていたのだ。それがかなわぬ中、男は一人の密輸業者(杉本哲太)に密輸を加担するように持ちかけられ、それを受け入れた。或る夜、眠ろうとした時に、山積みされている箱の中から奇妙な音がする。不思議な音に誘われるようにその箱に近づく。中から一人の女(一青窈)が出てきた。箱は、あの密輸業者から預かったものだ。男は女に、密輸業者との関係を問いただそうとするが、言葉を話さぬ。おそらくは何か不幸な身の上にあるのに違いない。秘密の生活をつづけるうちに、男はこの女こそ運命の女だと思いはじめる。が、女の周辺にはにわかに不穏な空気が・・・
 ≪ここまで≫ 

 色々と初めてづくしのプロデュース公演は、演劇とJ-POP(歌謡曲)が混ざったような混ざっていないような、不思議な仕上がりでした。でも岩松作品ならではの後味が残り、帰り道はしみじみと幸せ。

 人は孤独です。その寂しさゆえに必死で誰かを求めたとして、その願いが一時叶ったとしても、時間が経てばすれ違っていきます。ひたすら1つの方向に疾走していく命は、孤独なまま生まれて死んでいきます。不器用な命が、そのままに描かれていたように感じました。

 ただ、音楽とお芝居とのアンバランスは歌が始まる度に感じました。イレギュラーというのかな。意図的なのかもしれませんが。一青さんの歌い方はポップスでありながら演歌や民謡なども思い起こさせるので、言葉(セリフ)とシームレスにつながる気配を感じます。でもシンセサイザーや軽い目のドラムの音など、いわゆるJ-POPらしい音楽とともにあるので、岩松さんの劇世界をぷっつりと切ってしまうこともあったように思います。特に前奏の時間が過ごしづらかったな~。

 一青さんの衣裳だけが他の人とは毛色が違っていて、それは役柄を表すためのものだったのかな~とも思いましたが、う~ん、どうなんだろう。私は最初にお召しだったのが好みです。足が細い!

 ベストを着た男チートイを演じた山中聡さんがとても面白かったです。

 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
 ストーリーも私個人が受け取ったものなので、間違っている可能性があります。

 レンファ(一青窈)が愛する男は、ある敵対するヤクザの組同士の闘争の真っ只中にいる人物でした。レンファと男はともに逃げようと、どこか遠くの街で落ち合う約束をします。レンファは用心のために飛行機には替え玉(自分の片腕の女性)を乗せて、自分は箱に入り貨物としてある港町に到着しました。飛行機は墜落し乗客の生存は絶望的。レンファを狙った組の仕業のようです。
 箱に入っていたレンファは作業員のロクに発見されて、彼の家で恋人を待つことにしました。ところがロクはレンファに恋をし、レンファもまんざらではない様子。そこに恋人の弟ブランコ(水橋研二)がやってきてレンファに伝えたのは、「兄は死んだ」という知らせでした。※本当は死んでいなかったのですが。

 ロクは、ブランコがレンファの恋人だと信じ込み、バーのオーナー・ヤン(村杉蝉之介)が組の人間から預かっていた銃で、ブランコを銃殺してしまいます。レンファとロクを中心に進んでいた物語でしたが、語り部役でもあったブランコに急に焦点が当たりました。常に立派な兄の影になっていたブランコですが、ロクにレンファの恋人だ勘違いされ、猛烈な嫉妬を受けて殺されました。大量の血を体から吹き出しながら、ブランコは本当にレンファの恋人になって、兄を超えられたような気がしてきます。
 ブランコ「生きているときに見つけられなかったものを、死んでから見つけられるなら、死ぬのもいい。」
 そういえばブランコは、最初の方のシーンで洋服のボタンがなくなって探す演技をしていました。死んでからそのボタンが見つかったんですね。

 ブランコといういわば物語の脇にいた人物の心情を、短い時間で鮮やかに表現したことで、他の人物たちもにわかに生き生きと見え始めました。でも、彼らの声はいつも大きな音(波、風、声、騒音など)でかき消されていきます。たしか最後のセリフはこちら↓ 
 オカダ(チートイ?)「むごたらしいほどの人の数だ。こんなところにいたら踏み潰されるぜ!」
 最後もまた、誰も居ないステージで、祭りの声や騒音がどんどん大きくなっていきました。大多数に塗りつぶされていく、人間一人ひとりの命を想像しました。

 “くわえタバコの裸の女”“一糸乱れず飛ぶカモメの群れ”などの、意外性をもってピカっと光るような存在感を示しておきながら、あっという間に通り過ぎていくものの存在もいとおしい。銃が出てきたのですぐにチェーホフの「かもめ」を連想しました。いつも死の影を感じさせるのも岩松作品らしさですよね。

 歌の中では「確信犯♪」という歌詞が何度も出てきた曲が、自分からノって行けたので楽しかったですね。

 レンファ「愛を育てるより、憎しみを育てる方がいい。愛するとき、人は愚かになる。でも愚かなとき、人は幸せ」

≪東京、大阪≫
出演:一青窈(レンファ:新進デザイナー)、柏原収史(ロク:荷降ろし作業員)、水橋研二(ブランコ:レンファが愛する男の弟)、山中聡(チートイ:料理人?)、村杉蝉之介(ヤン:バーの店長)、杉本哲太(オカダ:密輸業者。奥さんが整形して奥二重)
脚本・演出:岩松了 音楽監督・作曲:小林武史 作詞:一青窈 美術:磯沼陽子 照明:沢田祐二 音響:井上正弘 衣裳:飯嶋久美子 振付:井手茂太 演出助手:豊田めぐみ 舞台監督:加藤高 宣伝美術:gooddesigncompany 宣伝写真:鈴木心 宣伝衣裳::タケダトシオ 飯嶋久美子 宣伝ヘアメイク:津田雅世 奥平正芳 制作進行:熊谷由子 プロデューサー:村田裕子 黒川博章 
【発売日】2008/10/11 S¥9,000 A¥7,000 コクーンシート¥5,000※未就学児童のご入場はご遠慮下さい。
http://www.umegei.com/s2008/hako.html
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/08_hako/index.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2008年12月10日 22:48 | TrackBack (0)