2008年09月17日
【新聞】「たまには手紙で~白石加代子と長塚圭史の往復書簡~」朝日新聞(火)夕刊に連載

たまには手紙で
朝日新聞(火)夕刊に「たまには手紙で」というコーナーがあります。2人の著名人が相手に出す手紙を、1週間置きに交互に掲載するのです。
今は『ビューティ・クイーン・オブ・リナーン』で一緒に仕事をされた女優・白石加代子さんと演出家・長塚圭史さんの往復書簡。お2人が今、感じていることを、これまでの経験を踏まえて語られています。
白石さんの女性らしいやわらかな言葉には、文字を見ながらじんわりと感じ入るものがあります。前衛演劇をされていた若い頃のことは、易しくさらりと書かれているものの、白石さんが積み上げてきたものの重みがずっしりと伝わってきます。
若くして日本演劇界の第一線で活躍する演出家となった長塚さん。おっしゃることに深く共感するところがありました。以下、2008年8月26日(火)夕刊の一部抜粋です。
長塚『僕らは大笑いしながら、観客と舞台との間に優しい関係を築き上げようとしてきたんです。まるでテレビとお茶の間の関係のような。当然、一過性の笑いの渦は舞台からも客席からも「思考」を取り上げてしまいました。表現に対して全身で思考し続けねばならない。当たり前のことですが、これこそ薄まった微熱の世代が取り戻すべき第一歩なのです。』
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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新国立劇場演劇研修所『朗読劇 少年口伝隊一九四五』09/16新国立劇場 小劇場
今年2月に日本ペンクラブ主催イベントにて上演された、井上ひさしさんの新作朗読劇です。新国立劇場演劇研修所によって早々と再演が実現しました。⇒初演レビュー
2度目でも新たに気づくことが多かったです。演劇研修所のレパートリーとしてぜひ毎年夏に、多くの場所で上演していただきたいですね。学校公演にもとても良いと思います。上演時間は約1時間。
・水戸公演:9月21日(日)@水戸芸術館ACM劇場
・山形公演:9月23日(火・祝)@シベールアリーナ
⇒CoRich舞台芸術!『朗読劇 少年口伝隊一九四五』
あらすじ等はこちらでどうぞ。
役者がイスに座って脚本を読むスタイルの朗読劇ですが、暗記したセリフを話すところも多いですし、イスに座ったり立ち上がったり、少し歩いたりと、動きにも精密なルールがあって、普通の演劇公演と遜色ない観劇体験ができます。
舞台装置はシンプルながら照明や映像の効果が非常に大きいです。朗読ならではのミニマムさが、戯曲の意味をより重く、深く心に響かせるのではないかと思います。
2期生の皆さんがこの作品に出演するのは数回目ですよね。本を読むところと客席を向いて演技をするところの切り替えがするどく出来ていて、演技に自信と落ち着きが感じられ、言葉の肉付きが良くなっているように思いました。
ここからネタバレします。セリフは正確ではありません。
3人の少年が口伝する情報に、哲学じいたんが「そんなことできるわけがない」と正論で返します。言われてみたらその通りだなと少年たちは思いますが、やはりまた、広島県上層部の人々は「ほら穴を掘って住居とし、小さな花を飾って心を豊かにし、最後の最後まで戦え!」などと、実現不可能なことをさも正しいかのように声高に言う(言わせる)のです。
大きな声はその時は心地よく響くけれど、それに流されてはいけない。2度目にして、一番胸に響いたのはこのことでした。
アメリカに原爆を落とされて広島はこんな惨状となっているのに、なぜ進駐軍の「慰安所」を作らなければならないのか。父も母も友もみな殺されたのに、なぜ今、アメリカ人にお世辞を言ってもてなして、喜ばせなければならないのか。口伝隊の少年らは怒りに震えます。この「怒り」を、私の世代は学校で教えてもらっていません。
3人の少年の内の1人が手に手榴弾を握り締めたまま、台風による大水で行方不明になってしまいます。彼と彼の手に握られた手榴弾を、私が覚えておかなければならないと思います。
≪東京、茨城、山形≫
出演:新国立劇場演劇研修所2期生14名(岩澤乃雅 熊澤さえか 佐々木抄矢香 滝香織 保可南 深谷美歩 藤井咲有里 吉田妙子 阿川雄輔 宇井晴雄 角野哲郎 西原康彰 遠山悠介 西村壮悟) ギター:宮下祥子
作:井上ひさし 演出:栗山民也 音楽監督:後藤浩明 模型作成:尼川ゆら 照明:服部基 衣裳:中村洋一 音響:秦大介 映像:小林倫和 方言指導:大原穣子 ヘアメイク:林節子 演出助手:田中麻衣子 舞台監督:田中伸幸 舞台・照明・音響操作:新国立劇場技術部シアターコミュニケーションズ・レンズ(舞台:米倉幸雄 照明:河野和子 塩沢しのぶ 麻生輝樹 音響:黒野尚 映像:鈴木大介 調整:村田祐二) 制作:新国立劇場 研修所所長:栗山民也
2008年9月16日(火)4:00開演/7:00開演
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000136_training.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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ROBOT『FABRICA[11.0.1] 「LOST GARDEN」』09/13-23赤坂RED/THEATER
『踊る大走査線』シリーズでも有名な映画監督の本広克行さんが舞台演出を手がけるプロジェクトの第3弾。脚本は3作とも高井浩子さん(東京タンバリン)です。上演時間は約1時間50分。
多田淳之介さん(東京デスロック)と演出の本広さんのトークの日に伺いました。「そんなにざっくばらんに、正直に話していいのかしら?!(笑)」と不安になるぐらいのぶっちゃけトークで、これはトークのある日がかなりお得なのではないかと思いました。
MoPiXインタビュー⇒1、2、3
⇒CoRich舞台芸術!『LOST GARDEN』★CoRichからカンタン予約!
レビューをアップしました(2008/09/21)。
第1弾しか観ていませんでしたが、問題なく楽しませていただきました。というか、予想していたよりも脚本も演出もとても面白かったです。多くの方が気軽に楽しめるエンターテインメントと、演劇ならではの演出の妙とが、良いバランスでミックスされていたように思いました。
≪あらすじ≫
ある劇団の公演初日。劇場入りしたスタッフ・役者たちはそれぞれに本番に向け準備をしている。ゲネプロ(本番同様に上演するリハーサル)を観た脚本家(川田希)は衝撃を受けた。脚本が大幅に変更されていたのだ。
≪ここまで≫
舞台上と舞台裏(楽屋も)を見せながら、人間の表の顔と裏の顔をあばいていきます。回転舞台(お盆)の仕掛けはこの規模の小劇場では嬉しい、豪華な装置でした。実際の舞台裏のドアも、客席も調光室も使って、メタ芝居の要素をあちこちに生かしています。
演技についても、スポットライトを浴びた独白あり、現代口語演劇あり、ネタものエンタメ芝居ありで、さまざまな手法を盛り込んで楽しませてくださいました。
役者さん同士のコミュニケーションにはプロデュース公演ならではのバラバラ感がないわけではなく、少々信憑性に欠ける対話シーンもありましたが、描かれているのもプロデュース公演の現場ですし、そういった溶け合わないものが混在した状態も含めて、演出として受け取れました。
可愛い顔して仲良くしておきながら、裏ではお互いの悪口を思いっきりしゃべってる女優さんたちのキャラクターに、女性作家ならではの厳しさが出てる気がしました。
ここからネタバレします。
舞台で上演される戯曲は「三人姉妹」をモチーフにしたものでした。家をビルに建て替えることにしたため、亡き母が愛した庭をつぶすことになります。自分たちで決めたことだけれど、なくなってしまうことを人間は悲しみます。でも「新しい庭を造ろう」と前向きに未来を見つめることもできるんですよね。“庭”のイメージを窓の外にある庭以外にもちりばめた装置が良かったです。
舞台監督(辰巳智秋)がペンライトで蓄光テープに光を当てる演技をしたり、事故死してしまった俳優(永野宗典)が、スケッチブックを舞台に出す役割を果たしていたことが本番中にわかるなどは、舞台製作に関わる人ならではの細かいエピソードだと思いました。
気取ってえらそうにしていた若い演出家(近藤智行)が、独白で方言になるのが笑えます。亡くなった俳優の代役をすることになり、舞台上でテンパった時にも思わず方言が出てしまうのが、さらに可笑しい。
終演後のトークで多田さんも指摘されていましたが、実はお盆をまわしているスタッフ(舞台監督?演出部?)の姿も観客に見えており、それもまたメタ構造を感じさせて面白かった。
≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
出演:本広克行/多田淳之介
本広「舞台と客席の境を無くしたいと思った。これは映画やテレビでは絶対に出来ないことなので。たとえば開演前に最初からスタッフが舞台上にいる(見切れている)とか。」
本広「これは公言していることですが、この舞台(の演出)は映画『フランス軍中尉の女』に非常に大きな影響を受けています。」
本広「不謹慎な笑いがものすごく好き。実は『踊る大捜査線』はそんな笑いばかりの脚本なんです。」
本広「実はゴダールが大好きです(笑)。」
本広「多田くんは『わかる人だけわかってくれたらいい』っていう芝居を本気でやっていて、超うらやましい!」
多田「いや、僕だって誰にでも楽しんでもらえると思って作ってるんですよ(笑)。」
本広「青年団の稽古場を見学させていただいたんですが、平田オリザさんの演出はオーケストラを指揮するみたい。」
出演:安藤聖、石原竜也、川田希、近藤智行、白神美央、辰巳智秋、永野宗典、平田裕香、古山憲太郎、ミギタ明日香 声の出演:瓜生和成 弘中麻紀
脚本:高井浩子 演出:本広克行 企画・製作:ROBOT ラインプロデューサー:高田雅士 企画プロデューサー:川田希 コンテンツプロデューサー:羽田文彦 音楽:菅野祐悟 美術:杉山至 舞台監督:谷澤拓巳 照明:伊藤孝(ART CORE design) 音響:中村嘉宏 衣裳:松竹衣裳・能澤宏明 演出助手:石内エイコ 大道具製作:六尺堂 宣伝美術:金松滋(metamo) 冨岡祥雄(metamo) 桐原紘太郎(metamo) 宣伝コメント協力:木俣冬 スチール:百束尚浩 票券:サンラインズプロモーション東京
【発売日】2008/08/02・前売開始日:2008年8月2日(土) ・料金:前売3,500円、当日3,800円(全席指定・税込)※早割前売2,500円、当日2,800円(9/13~15の4ステージ)
http://movies.robot.co.jp/fabrica
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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