2008年12月03日
新国立劇場演劇『舞台は夢 イリュージョン・コミック』12/03-23新国立劇場 中劇場
17世紀のフランスの劇作家コルネイユの喜劇を、新国立劇場・演劇部門芸術監督の鵜山仁さんが演出。堤真一さん、秋山菜津子さんら豪華キャストの中劇場公演です。
中劇場全体を使った演出にワクワクし、のびのびと舞台で遊ぶ役者さんにアッハッハと笑わせていただきました。上演時間は約2時間10分。
私はA席で鑑賞。ほぼ円形舞台の裏側でイスは背もたれ付きベンチなのですが、役者さんに近いし舞台裏に近いものが観られてオトクかも♪
※価格設定→S席:7,350円 A席:5,250円 B席:3,150円 Z席(当日券):1,500円
⇒CoRich舞台芸術!『舞台は夢 イリュージョン・コミック』
観ている時、なぜか懐かしい気持ちがしてきたんです。私は2000年から新国立劇場のお芝居を観はじめたんですが、その頃の感覚がよみがえってきたような心地でした。
何も知らない一観客だった私は、新国立劇場で上演される海外戯曲や日本の近代戯曲など、いわば少々堅苦しいジャンルの演劇に触れることで、演劇の何もかもを教えてもらうつもりでいました(←あつかましいですよね~。いくら観ても片鱗に過ぎないのですが)。無知だったのもあり、実際に全身に浴びるように教わることができていたと思います。今思えば、すごく幸せな生徒でしたね(生徒という意味では今もそうですが)。
今日は舞台を愛するプロの演劇人に優しく、温かくもてなされて、あの時のような初心者の気持ちになって、古典戯曲のふところに飛び込むことができたのかもしれません。子供みたいに無邪気になって、若返ったような感覚もありました。あら、オトク(笑)。
≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。★少々ネタバレしていますが、読んでから観ても問題ない程度かと。
フランスはトゥーレーヌ地方。行方のわからぬ息子(堤真一)の安否を気に病む父親プリダマン(金内喜久夫)は友人ドラント(磯部勉)とともに洞窟に棲む魔術師アルカンドル(段田安則)のもとを訪れる。二人は「ご子息がいかに偉大な人物となったかを見せて差し上げよう」という魔術師にいざなわれ、息子の人生の有為転変に、まるで「観客」のように立ち会うこととなった。次々と息子の身の上に起こる波瀾万丈の果てに最後に行き着いたのは、愛しい息子の非業の死という悲劇的結末。絶望し、自らの命を絶つと口走る父親に、魔術師アルカンドルが明かしてみせた秘密……。幾重にも重なった複雑な「劇」のその先に、思いもかけない世界が立ち現れる。
≪ここまで≫
あの大きな中劇場の中央にまん丸の黒いステージがあり、ぐるりと客席が囲みます。完全ではありませんが、円形舞台だと思ってもいいぐらいですね。劇場全体は暗い闇ですが、衣裳がカラフルで物語には笑いがいっぱいですので、作品全体はとても明るいイメージ。
衣裳がすっごく良かった~♪布地はプリントなのかしら、それともペイントされてるのかしら。抽象絵画のような模様で大胆な配色、形はおとぎ話風でロマンティックです。
行方不明の息子を探す父親がある高名な魔術師を訪ねたところ、魔術師が魔法で亡霊を呼び出し、亡霊たちが息子の人生を演劇にして見せてくれます。初めから劇中劇の形式だとわかって観るので、役者さんが舞台袖から出てきたり、大道具を移動させたりするのも演技として観られました。S席から見て舞台奥から役者さんが登場する時、A席だとすごく近くを歩いて行くんです。無防備な後ろ姿を観るのが楽しかったですね。
古典戯曲ですからセリフはちょっと聞きづらい感覚もありますけど、役者さんがのびのびと語ってらしたので難しくは感じませんでした。マイクの音が響いて少々聞こえにくいこともありましたが、私はあまり気にならず。それより、長い説明的なセリフが、工夫を凝らして面白くなっているのが良かったです。
初日らしいちょっとしたミスもアドリブで楽しく見せてくださって、さすがはプロの舞台俳優さんっ。もー愛してる!
ほら吹きの隊長マタモールを演じる段田安則さん、イザベル(秋山菜津子)の小間使いのリーズを演じる高田聖子さんから目が離せませんでした。
ただ、ラストは私にとっては残念な演出になっていました。もしかしたら初日ならではのアクシデントなのかもしれないですが、拍手が早く起こりすぎていたように思います。あれでは意図がちゃんと伝わらないんじゃないかと思いました。
ここからネタバレします。
息子クランドール(堤真一)はほら吹きの隊長マタモール(段田安則)に仕える従者だが、隊長と隊長が愛するイザベル(秋山菜津子)との仲を取り持つふりをしながら、実はすでにイザベルの愛を勝ち取っている抜け目のない若者だ。後にイザベルの婚約者(坂田聡)を殺してしまった罪で牢屋に入れられるが、クランドールを愛するリーズ(高田聖子)の取り計らいで脱獄に成功。イザベルと幸せな結婚生活を送る、が、数年後、隣の家に住む大公妃ロジーヌ(田島令子)と不倫の恋に落ちて・・・。
大公の怒りにふれ、部下たちに殺されてしまったクランドールと大公妃、リーズの上に、赤い巨大な布がバサーッっと降りる時の、あの美しさっ!わーって言っちゃたヨ!
クランドールの死を嘆く父親に魔術師(段田安則)が語ります。クランドールは今は役者になっており、目の前で上演されていた“亡霊による演劇”は、実はクランドールの一座の演目だったのです。演じていたのは亡霊ではなく、クランドール自身であり、一座の役者たちでした。
立派な役者になった息子と幸せな再会を果たし大喜びした父親でしたが、和気あいあいと演劇の喜びを語っていたら、突然暗転。次に明るくなった時、父親だけがポツンと丸い舞台に取り残されていました。もしかしたら、やっぱり息子も役者たちも亡霊で、父親は魔術師の魔法に化かされていたのかも?!
・・・となるはずだったのでしょうけれど(違ったらすみません)、暗転する前に拍手が始まってしまったのです。
「心配は御無用、今や演劇は、非常に高い地位にあり、人々に愛されている。あなた方の時代には軽蔑されておったが、今では良識ある人たち皆が愛好するものになり、都会の話題、地方の憧れだ。王侯貴族の甘美な慰み、庶民の無上の楽しみ、娯楽のうちでも第一のものになっている。劇場は今や、詩人がすばらしい技を繰り広げる舞台。」(当日パンフレットより)
↑という演劇大讃美のセリフの中で拍手が起こってしまうと、う~ん・・・シラっとしちゃったんですよね・・・。この長いセリフも劇中劇のセリフとなる、入れ子構造だと感じ取りたかったです。
出演:堤真一、秋山菜津子、高田聖子、田島令子、川辺邦弘、松角洋平、窪田壮史、三原秀俊、坂田聡、磯部勉、金内喜久夫、段田安則
脚本:ピエール・コルネイユ 翻訳:伊藤洋 演出:鵜山仁 作:ピエール・コルネイユ 美術:島次郎 照明:勝柴次朗 音響:上田好生 衣裳:太田雅公 ヘアメイク:佐藤裕子 アクション:渥美博 舞台監督:北条孝 芸術監督:鵜山仁 主催:新国立劇場
【発売日】2008/10/05 S席:7,350円 A席:5,250円 B席:3,150円 Z席:1,500円*A席は通常の座席を使用しません。舞台上に仮設いたします。
http://www.nntt.jac.go.jp/season/updata/20000063_play.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Studio Life『パサジェルカ~女船客~』12/02-13天王洲 銀河劇場
男優集団Studio Life(スタジオ・ライフ)の再演2本立て公演です。『パサジェルカ~女船客~』の初日(Siegfriedバージョン)に伺いました。『死の泉』は来週の予定。2作品・各2バージョン公演ですので、お目当ての役者さんがいる方はお早めに予定を立てることをお勧めしま~す。
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シアター1010での初演では「つらかったけど、観て本当に良かった」と思いました。今回も同様でしたね。2度目なので初演を思い出して比較したり、違った視点から考えることができました。上演時間は休憩1度を含んで約3時間(←すみません、うろおぼえです)。
⇒CoRich舞台芸術!『パサジェルカ~女船客~』
東京にはイケメン芝居がたくさんありますが、耽美的で重厚な文学作品といえばStudio Life。人気少女漫画の舞台化にも定評があります。私は作・演出の倉田淳さんが選ぶ作品が好きで、小説を脚本に起こして演劇にするという熱意にも打たれます。海外戯曲を翻訳して本邦初演してくださるのもありがたいです。そして、若い役者さんたちが真面目に、真正直に取り組んでいるように感じるから、ついつい再演ものにも通ってしまいます。特に私は漫画や文芸作品の舞台化が好きですね。『パサジェルカ~女船客~』も観られたことに感謝したい気持ちになる作品です。
≪あらすじ・作品紹介≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
アウシュヴィッツ体験者が描く現代ポーランド文学における珠玉の名作
残忍で非人間的な収容所を回想する問題作!
第二次世界大戦後16年。外交官の夫(ワルター:前田一世)と赴任地ブラジルへ渡る豪華客船で、リーザ(曽世海司)は遥か大陸へと想いをはせていた。しかし、次の瞬間、彼女の微笑みは激しい動揺に変わるー見覚えのあるひとりの女船客(舟見和利)。それは夫にさえ秘したアウシュヴィッツ収容所の過去を甦らせる、女囚の面影だった。
名はマルタ。戦中、ナチス親衛隊員で収容所の看守だったリーザは、どんな狂乱にあっても毅然とふるまう彼女に一目置き、擁護するのだが…予期せぬ再会の船は心の闇へとすべっていく。
≪ここまで≫
初演の時はリーザ(曽世海司)とワルター(前田一世)の関係があまりわかっていなかったのですが、今回は始まって早々にグサっと胸に刺さるほど伝わってきました。リーザ役の曽世さんはさすがの安定感。ワルター役の前田さんは今回の唯一の客演キャスト(青年団映画放送/新国立劇場演劇研修所の修了生)で、最初は劇団の雰囲気と離れているように感じましたが、隠されていたリーザの過去に触れて衝撃を受けるところから、ぐっと物語の回転数を上げてくださいました。
強制収容所の縦ストライプの囚人服を着た人物の影が見え始める頃から、背筋がビクっと震えて、鉄条網が張られた柵が出てきたらもうアウト。それだけで胸が締め付けられて、涙が出そうになります。
リーザに目を掛けられて倉庫の事務をすることになる囚人・マルタ役は、舟見和利さん。細い体に細い足は、凛とした健気な印象をさらに増します。感情をむやみに爆発させない落ち着いた演技が良かったです。
看守のリーザに対して媚びることなく、堂々とした生き様を見せ付けるマルタとタデウシュ(高根研一)。彼らに少なからず感化されてリーザの心が揺れる様は、私自身の善意やプライドの脆弱さを見るようでした。
リーザとワルターの夫婦関係に厚みがあり、彼らの未来、つまり私たちの現在に太くつながる線が感じられて良かったです。そこが初演よりも面白かったですね。
ただ、演出については改善できることが多くある気がしました。例えば暗転になる場面転換が多く、その都度大道具を動かすのは少々退屈です。大道具の移動なし見せるシーンを増やしても良いんじゃないかと思いました(えらそうですみません)。
ここからネタバレします。
初演で良かったと思ったシーンやセリフは、今回もまた心に残りました。マルタの「人間は生きることに執着しすぎると奴隷になります」はやはり凄いですよね。
マルタが白いドレスを着て船から降りるシーンは、下から見つめる青いドレスのリーザとの対比が美しいです。ただ、マルタがナチスの残党を追うグループの一員だった(んですよね?)ことが、伝わりにくかったように思います。マルタがリーザを(仲間に「彼女は戦犯じゃない」と嘘をつくなどして)かばったのを、もっとはっきり伝えるセリフがあってもいいんじゃないかと思いました。※ストーリーについては私の勘違いだったらすみません。
マルタが船から去った後、リーザは船から降りずにワルターに寄り添います。ワルターがあんなに怒って取り乱して、リーザも「私には何も失うものはない。私は自由だ(夫ワルターのことはもう怖くない)」という境地に至ったのに、すぐに2人が仲直りしてハッピー・エンドになってしまった(ように見えた)のは腑に落ちませんでした。これから2人は、お互いに許せないと思うことを許す努力をして、共にいばらの道を歩むことになるのですから、苦しいけれど尊い決断をしたところが観たかったなと思います。
≪東京、兵庫≫
出演(Siegfried・ジークフリート版):曽世海司 前田一世(青年座映画放送) 青木隆敏 舟見和利 高根研一 奥田努 小野健太郎 深山洋貴 倉本徹 藤原啓児 山崎康一 関戸博一 山本芳樹 荒木健太朗 三上俊 仲原裕之 船戸慎士 牧島進一 篠田仁志 大沼亮吉 吉田隆太 ※河内喜一朗休演につき代わって大沼亮吉が出演。
原作:ゾフィア・ポスムイシ 脚本・演出:倉田淳 美術:松野潤 照明:森田三郎・森ll敬子 舞台監督:本田和男[ニケステージワークス] 清水浩志 音響:竹下亮[office my on] 衣裳:竹原典子 ヘアメイク:角田和子 アクション:渥美博 振付:TAKASHI 美術助手:渡辺景子 演出助手:平河夏・荒川真寿恵 宣伝美衛:田代祐子 宣伝写真:申村路人 小道具:高津映画装飾 大道具:俳優座劇場 デスク:大野純也・大谷吉弘・熊田美波・山崎みれい 制作:稲田佳雄・揖斐圭子・麻場優美・小山智子・瀬津丸砂織・若松美香 制作協力:東容子・縄志津絵・小泉裕子・ハ木美穂子 協力:舞台屋・ニケステージワークス 主催:テレビ朝日 Studio Life
【発売日】2008/10/12◇前売 S席¥5,900/A席¥4,900◇当日 S席¥6,300/A席¥5,000◇学割(前売・当日) A席¥3,000(要学生証・劇団取扱いのみ)◇「死の泉」+「パサジェルカ」セット券 (前売S席限定・劇団取扱いのみ) ¥11,200
http://www.studio-life.com/stage/si_pasa/index.html
※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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