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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年07月05日

プロペラ『ヴェニスの商人』07/02-12東京芸術劇場 中ホール

 『夏の夜の夢』につづいて『ヴェニスの商人』を拝見(⇒記者発表)。上演時間は約2時間30分(途中20分の休憩を含む)。終演後に野田秀樹さんと演出のエドワード・ホールさんとのトークがありました。

 野田さんがトークでおっしゃっていたとおり、『夏…』は戯曲に忠実で王道をいく演出、『ヴェニス』は演出家の解釈が大きく反映された演出でした。私は『ヴェニス…』の方がかなり面白かったです。戯曲に対して新たな視点ももらえました。イヤホンガイドも昨日より熱が入っていて聞きやすかったですね。

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 ⇒野田秀樹さんからの直筆レター
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 ⇒CoRich舞台芸術!『プロペラ「ヴェニスの商人」「夏の夜の夢」

 あらすじはホリプロのページにも。公式サイトも詳しいです。

 灰色の薄汚い制服を着た囚人たちが、監獄の中で演じるシェイクスピア。『夏…』の優雅さのかけらもありません(笑)。昨日オーベロンをやっていた人(Richard Clothier)がシャイロック!あぁ、レパートリーって偉大!!前日の配役を思い出しつつ、役者さんたちの変貌振りを存分に楽しめました。

 荒々しい暴力性が前面に出た演出でした。でもそれが意図的であることがわかりましたので(既に『夏…』を観ていたからかもしれませんが)、冷静に見ていられました。むしろ『夏…』とは全然違う質感であるのが面白かったです。もちろんユーモアもたっぷり。

 容赦せず、慈悲を与えず、かたくなに相手を拒否して攻撃することが、どんな悲劇をもたらすのか。人間の残忍さを目の当たりする一方で、人間にはゆるすことができる、そしてそれが素晴らしいのだと思えました。『ヴェニス…』は思い出せる限り、今までに2度は観たことがあります。でも以前はこんな残念な感想を持った私もいたわけで。やっとちゃんと出合えた気がします。ありがとうございました。

 ここからネタバレします。セリフはうろ覚えです。

 冒頭のシーン。舞台中央にアントーニオ(『夏…』ではボトム役のBob Barrett)とシャイロックが向き合って立っており、その間には白いスーツを着た黒人の公爵(『夏…』ではヘレナ役のBabou Ceesay)がいます。公爵が2人を指しながら言う「ユダヤ人か、クリスチャンか」というセリフでが幕が開き、同じセリフで幕が閉じました。このセリフは原作にはない創作ですよね・・・? 公爵はつまり国家権力を意味するとも考えられますし、白人2人の間に黒人がいることで人種差別を表しているようにも思います。物語を客観的に見ることができて、とても良かったです。

 シャイロックが彼をののしった男の目をくりぬくという、凄惨な暴力シーンがありました。その後、シャイロックは報いを受けることになります。シャイロックは、アントーニオに貸した元金も戻らない上に、財産を半分没収されるのです。「証文どおりに」と一歩も譲らなかったためとはいえ、裁判のシーンでシャイロックが集中攻撃を受け、地べたを這う様はなんとも苦々しいです。

 Kelsey Brookfieldさんはポーシャ役を演じる時、黒いハイヒールをはいており、お尻がキュっと後方に出るような体勢になるのが可愛らしい。ちゃんとしなを作って女性らしいか弱さが出ていました。判事役の時はトレンチコートに帽子姿で、すっかり別人に変身。見事だな~。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:野田秀樹/エドワード・ホール/通訳

 野田「『夏…』はいわばマニュアルどおりというか、芝居に忠実にしたがった演出で、『ヴェニス…』は戯曲に従うももの、王道をゆるがすものを狙っているようでした。」

 ホール「おっしゃるとおりです。『ヴェニス…』は“人種差別的な芝居”ととらえられがちですが、実は“人種差別について考えさせる芝居”です。舞台を監獄におきかえることで、誰もが同じ制服を着て均一になる状況をつくり、社会的コンテキストを取り除いて、人がいかに暴力的であるかを伝えたかった。この舞台はヴェニスという名の牢獄なのです。劇中ではユダヤ人を犬やブタと呼んだりします。極端に暴力的なほうが理解しやすいし、道徳や教訓的なことに集中できると考えたからです。」

Propeller "The Merchant of Venice"
出演:プロペラ(Bob Barrett/Kelsey Brookfield/Babou Ceesay/Richard Clothier/Richard Dempsey/John Dougall/Richard Frame/Jonathan Livingstone/Chris Myles David Newman/Thomas Padden/Sam Swainsbury/Jack Tarlton/Jon Trenchard アンダースタディー:David Newman /Jonathan livingstone)
脚本:シェイクスピア 演出:エドワード・ホール(Edward Hall) 芸術監督:野田秀樹 技術統括:白神久吉 技術統括助手:白石良高 舞台監督:足立充章 舞台:雄弁会社リンペット(林正 河本昌洋) 尾中孝次 後藤順二 中込洋介 山田亮 機構操作:楳木涼子 藤田満 畠中陵 照明機材:株式会社共立(古瀬和義 副島直) 照明操作:島根政徳 山川剛 音響操作:石丸耕一 山本裕司 衣装スタッフ:坂本美和子 技術通訳:鈴木節子 松村佐知子 制作進行:佐野馨 栗原千波 票券:串田陽子子(東京芸術劇場チケットサービス) 票券協力:金子久美子(ぷれいす) 広報監修:徳永京子 宣伝美術:矢島健 佐藤真喜子(ライズデザインオフィス) オフィシャルサイト:栗原ハジメ(モガ) イヤホンガイド:株式会社イヤホンガイド イヤホンガイド吹替:人村朱美 ユリヤ 国際貨物輸送:Y.S.FREIGHT INC 国内貨物輸送:マイド 館長:福地茂雄 副館長:高萩宏 管理課長:松井真司 松崎昌義 勝優紀 橋爪綾子 企画・招聘・制作:東京芸術劇場(財団法人東京都歴史文化財団)
※本公演のイヤホンガイド制作にあたり、小田島雄志訳「シェイクスピア全集 ヴェニスの商人』「シェイクスビア全集 夏の夜の夢」(いずれも白水社1983)を使用しました。
【休演日】7月6日(月)【発売日】2009/05/16 S席6500円(65歳以上の方3250円) A席4500円 (25歳以下の方2250円)“オトコたちのシェイクスピアセット券”10,000円(2作品S席を同時購入の場合、特別価格でご提供します。13,000円のところ。)※未就学児童はご入場いただけません。※英語上演。イヤホンガイドあり(有料)
http://www.geigeki.jp/saiji_052.html
http://www.geigeki.jp/propeller/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年07月05日 16:56 | TrackBack (0)