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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年07月22日

ペンギンプルペイルパイルズ『cover』07/17-26本多劇場

 倉持裕さんが作・演出されるペンギンプルペイルパイルズの新作は、第14回公演にして劇団初の本多劇場進出公演。劇団員がすでに大劇場でご活躍の方々ばかりなので、ちょっと意外な気も。

 ほぼ反射的に吹き出しちゃうような力強い、だけどサラッと通り過ぎていく笑いがツボ。カーテンコールが終わった後に、舞台に静かにたたずむ装置を見つめて、しみじみと作品全体を振り返りました。帰り道の味わいが深かった。上演時間は約1時間50分。あ、パンフ買い忘れた!(涙)

 ⇒チケットぴあ「cover」特設ページ
 ⇒CoRich舞台芸術!『cover

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 姉は三十年前に姿を消した。
 二人の弟(玉置孝匡&吉川純広)はすでに諦めていた。
 ある日孤独な漁師(谷川昭一朗)がタコを釣る。
 タコの背に手紙が張り付いていた。
 姉が子供の頃に風船で飛ばした手紙。
 弟達は手紙を引き取りに漁師を訪ねる。
 差出人が死人だと聞いて漁師は落胆する。
 電話が鳴り、受けた漁師は飛び出して行く。
 お返事お待ちしています、と女の声は言った。
 ≪ここまで≫

 ゴムの木(と家政婦は呼ぶ)が、つたの幹のようにからみついた装置。おとぎ話や怪談を想像させます。
 姉が出した手紙を取り合いながら、漁師と兄弟がたどりついたのは、今まさに朽ちようとしている古い小屋。奇妙な縁に結ばれて、出会うはずがなかった“きょうだい”たちが、ともに一夜を過ごすことになります。

 倉持さんが作る笑いのシーンでは、役者さんが人形劇の人形のように見えることがあり、そのしたたかな計算や精巧な動き(演技)が魅力的。人間が人形に見えることで、風刺性が高まる効果もある気がします。

 鈴木砂羽さん演じる千都(ちづ)の行動に「なぜ?」と疑問符がついたまま、次々に起こる不思議かつ不可解なことを眺めていました。最後にその理由が明かされて・・・ハァ、とっても切ないです。

 ここからネタバレします。これからご覧になる方は絶対読まないでくださいね。

 冒頭のカーチェイスのシーンで爆笑。車がガードレールにぶつかって火花が飛び散ってるヨ!鹿が飛んでくるヨ!

 鳥塚勝(とりづか・すぐる:玉置孝匡)とその弟・信樹(のぶき:吉川純広)が出会った千都(ちづ:鈴木砂羽)は、小学5年生の時に突然姿を消し、そして父と母宛てにお詫びの手紙を書いた姉本人だったとわかります。でも、千都はなぜ美野家にとどまっているのか、なぜ勝らに本当のことを言わないのかが全くわからないままでした。

 最後の最後に、漁師の万田(谷川昭一朗)がつぶやいた「あの子(隆輝:近藤智行)は君たち(千都と慎平:小林高鹿)の子供なんだろう?」というひとことで、やっと全ての疑問が解けました。
 11歳の時に“キチガイ”の長兄によって、むりやり美野(みの)家にさらわれてきた千都は、次男の慎平との間に隆輝を生んだんですね。2人とも若すぎたから、年の離れた三男として隆輝を育ててきた。離れの小屋に並んだ3つの勉強机は、本当は夫婦とその一人息子が使っていたものだったのでしょう。

 大金持ちだったのが今や落ちぶれてしまった美野家。母と兄がいなくなって、家も土地も借金のかたに取られるというのに、まだ家政婦(ぼくもとさきこ)を雇っている姉弟たち。千都は「斜陽」『桜の園』を例に出していました。
 30年前から今までに美野家で起こった出来事を、自分の頭の中で勝手に想像してしまいます。金持ちならではのエゴや、世間体・体裁を最優先にする家庭の事情、傲慢で臆病なおぼっちゃんたち・・・。隆輝が知的障害児(?)なのは、何が原因なのかしら・・・。千都、慎平、隆輝の3人で勉強部屋にいる景色が、おのずと浮かんできて、とても切ない気持ちになります。洋服ダンスからつながった地下の池での魚釣りは、隆輝が本気で楽しんだ幸せな思い出になるのでしょうか。

 車に跳ねられたけれど、まだ虫の息をして生きている鹿を楽にさせようとして、隆輝が撃った銃の音が響いていました。『かもめ』『三人姉妹』の最後に鳴る銃声、『桜の園』の最後に響く、桜の木を切り落とす音を思い出しました。

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PenguinPullPalePiles #14「cover」
出演:鈴木砂羽 小林高鹿 ぼくもとさきこ 玉置孝匡 近藤智行 吉川純広 谷川昭一朗
脚本・演出:倉持裕 舞台監督:橋本加奈子(SING KEN KEN) 舞台美術:中根聡子 照明:清水利恭(日高照明) 音響:高塩顕 衣裳:竹之内康宏 音楽:SAKEROCK ヘアメイク:栗原由佳 演出助手:相田剛志 演出部:武藤晃司(SING KEN KEN) 山松由美子 金子晴美 前田雅洋 越野ありさ 衣裳部:胡桃澤真理 記録スチール:引地信彦 宣伝美術:坂村健次(C2デザイン) 宣伝写真:江隅霊志 宣伝衣裳:竹之内康宏 宣伝ヘアメイク:山本絵里子、浅沼靖 パンフレット編集:石井美幸 大道具製作:C-COM舞台装置 小道具:高津映画装飾 制作助手:新貝美奈子 市川美紀 制作:土井さや佳 企画・製作・お問い合わせ:ペンギンプルペイルパイルズ
料金(全席指定) 前売 4,700円 当日 5,000円 劇団サイト限定「初日プラスリピート割引」9,400円→8,900円!
http://penguinppp.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年07月22日 23:11 | TrackBack (0)