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しのぶの演劇レビュー
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2009年09月12日

【写真レポート】彩の国さいたま芸術劇場「さいたまネクスト・シアター『真田風雲録』製作発表記者会見」09/04彩の国さいたま芸術劇場大ホール舞台上

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『真田風雲録』製作発表

 演出家・蜷川幸雄さんが芸術監督を務める彩の国さいたま芸術劇場の、若手俳優育成プロジェクト“さいたまネクスト・シアター”が発足しました。
 今年1月にオーディションが実施され、応募総数1225名から選ばれたのは平均年齢24.8歳の若手俳優44名。10月15日より開幕する『真田風雲録』が旗揚げ公演になります。

 会場は大ホール内のインサイド・シアター。大ホールの舞台上に300席の仮設ステージを新たに設置します。客席が三方からステージを囲む、一体感のある小空間になるそうです。

 ●彩の国さいたま芸術劇場開館15周年記念公演
  さいたまネクスト・シアター『真田風雲録
  2009年10月15日(木)~11月01日(日)
   ⇒特設サイト(音が鳴ります)
   ⇒CoRich舞台芸術!
  ※チケット発売中!一般3,800円(全席指定)

 彩の国さいたま芸術劇場といえば、平均年齢70歳の非職業俳優からなる劇団さいたまゴールド・シアターが大人気(過去レビュー⇒)。年齢の幅がおよそ4世代に渡る、総勢86名の2つの演劇集団を率いることになった蜷川さんが、この企画の狙いと今後の展望を豪快に語ってくださいました。
 ※大切な言葉ばかりだったので削ることができず、とても長いレポートになっています。お時間のある時に覗いてください。

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ポスター

 ≪作品紹介≫ プレスリリース等より
 1962年に千田是也演出によって初演された福田善之の『真田風雲録』。“大坂の陣”を舞台に、真田幸村や真田十勇士の活躍とその死を描いた青春群像劇の傑作だ。また、猿飛佐助が特殊能力を持っていたり、劇中にロックやブルース音楽を大胆に取り込んだりなどの何でもありの自由な作風は、当時の観客を驚嘆させ、それ以降のアングラ演劇全盛期への扉を開いた画期的な作品としても知られる。
  ※若者が時代を切り開いていこうとした姿を描き、60年安保の時代背景が色濃く反映された群像劇(※は製作発表より)。
 ≪ここまで≫

■無名の若者に場を提供するのは公共劇場の役割

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蜷川幸雄さん

 蜷川「ゴールド・シアターを作った時から、若者たちの集団を作りたいという気持ちはありました。ゴールド・シアターが成長していくにつれて、若い世代と高齢者の世代、そのふたつを車の両輪のように持つことが健全な姿なのではないかと考えたんです。
 また、テレビやその他のメディアが若者にスター(売れてる存在)としての場を与えることに対し、公共の劇場は、まだ無名で形をなしていない若者に場を提供する必要があります。若者が自由に自分たちの仕事場を獲得し、そこで自分たちの知識となる演劇を作ることができるように。」

 蜷川「ゴールド・シアターはさいたまでしか出来ない、職業的な俳優とはまた違った価値を持った演劇集団へと成長しました。それは演劇の幅を広げる作業でもあった。だからネクスト・シアターも何年かの実績の積み重ねを経て、他の集団とは違うユニークな演劇上の主張を持つ、さいたま県民や観客の皆さんに必要とされる集団にしたい。」


■福田善之・作『真田風雲録』について

 蜷川「『真田風雲録』は初演も観ています。テーマが対象化され、演劇が大衆化されていた。それまでにない演劇の形態だと思いました。日本でブレヒトをやったらこういう風になるんだなと。あれは日本の演劇における革命的な出来事だった。」

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福田善之さん

 福田「私が毎週教鞭をとっている桐朋学園で、昔、蜷川さんが大変きめ細やかに生徒を指導されていました。僕はそれに感銘を受けたので、今回も快く(脚本提供を)承諾しました。
 『真田風雲録』で特に安保闘争のことを書いたつもりはないんです。ただ当時がそういう時期だったから。その時の現実が素直に(創作に)出る体質なので。また、子供の頃からやってみたかったことを(この戯曲で)やったという実感もある。今の若い世代は、知らないからこそ興味を持ってくれるんじゃないでしょうか。」


■劇と現実を合わせ鏡にして、真摯に考える機会に

 蜷川「テレビや多くの流布されてるジャーナリズムを見ると、いつも“笑って”“食べて”いる。芸人が笑ってクイズをやって、ものを食べている。圧倒的に笑いと食物しかない中で、我々はもう少し、色んなことを真摯に考えることを恥ずかしがらなくていいじゃないかと思う。
 歴史上の人々がどれだけ色んな事を考え、問い詰め、どういう行動を起こして生きてきたのか。世界中の激動が個人にどんな風に環ってくるのか。そういうことを合わせ鏡のように考えることがあってもいいんじゃないか。
 だから60年代に限定して観ていただく必要は全くないと思っています。60年代の政治性にとらわれることなく、もう少し広い目で観ていただけたら。」

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■日本の演劇に欠けている歴史の連続性

 蜷川「我々は歴史の連続性というものを学んでいいんだと、若い世代に伝えたい。ゴールド・シアターでは若い劇作家が高齢者のために書く。ネクスト・シアターには比較的高齢の劇作家が作品を提供する。その2つを交差させることで、日本の演劇の欠けている部分が埋まっていくんじゃないかと考えています。私もゴールドで若い劇作家と仕事をし、ネクストで先行する世代の戯曲を選び、両世代の衝突を待っているんです。」


■ネクスト・シアターが目指す俳優像

 蜷川「テレビを見ていると割と似た俳優が多い。ほとんどの顔が劇画と同じ顔をしている。それに対してノイズの多い身体、ノイズの多い顔がいいと思い、一般の規格や流布されている技術や印象からは少しはずれた、比較的個性的な、美しいばかりではない人を(笑)、集めました。」

 蜷川「彼らはプレ稽古として殺陣・所作・歌唱の基礎訓練中です。今は学習塾の優等生のようですが、次第に日常的な課題に立ち戻ることが必要になってくる。なぜ発声が必要なのか、なぜ身体的な動きが必要なのかを、彼らはこれから役をやる中で、体にしみて発見していくでしょう。例えば発声練習の“いえあおう”はちゃんと言えるのに、なぜ欲望をもって語る言葉はきちっと言えないのか。そしてどういう風にして物を作っていくのかということも。」

 蜷川「時代の空気をちゃんと身体に宿して、なおかつ古典的な、人間が普遍的に持続している時間の中で学んだものを合わせて演じ得る、そういう俳優が何人生まれるか。まずは3年間を目安に考えています。ゴールド・シアターの俳優は3年目にものすごく面白くなってきたんです。ゴールドの人たちでなければ発見できない演技をしはじめた。ネクストはこれからビシバシやりますので、3年後に何人残るか見ものですよ。どうぞ温かい声援を、そして批判はどんどん投げてきてください(笑)。」

 【写真↓ ネクスト・シアターとゴールド・シアターを合わせると、80名以上!】
 蜷川「こうやって挟まれると悪夢のよう。本当に、命が吸い取られる。」
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■新しい時代の感性を持つ俳優に

 蜷川「最近、道を歩いている時に誰かとぶつかりそうになっても平気な若者が多いですよね。ネクスト・シアターの俳優についても、殺陣などの基礎稽古はものすごく一生懸命やるし真面目だけれど、自分と同時に進んでいる自分以外のもの・ことを共有したいという気持ちや、それを勉強しようとする関心がない。素通りしてしまう。僕はそれを馬鹿だなと思うしイライラもする。ところが、一方でそれは、時代を間違いなく象徴しているんです。」

 蜷川「パソコン、インターネット、携帯などの機械は、他者と共有することを間接的であっても成り立たせてしまうもの。でも演劇はそうはいかない。面と向かって他者と向き合わなければならない。生身の他者を必要とすることに直面できないのだったら、演劇なんか出来ないんです。
 その相反するものを経験することによって、新しい時代の感性を持つ俳優が生まれる可能性がある。時代を反映しうる彼らの身体と精神を慎重に残しながら、他者への関心が不可欠である演劇を成り立たせる。それが僕の任務だと思っています。」

 蜷川「もちろん僕は自分を絶対だとは思っていませんから、自分を問うための反対側の軸として、若者を置いているという意味もあります。一種の反射軸ですね。自分もそこで修正したい。彼らとの相互作用を生み出せるだけのエネルギーがあるジジイであればいいなと思っています。」

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■若い演劇人が育つ場を確保したい

 蜷川「最近の僕の関心は、俳優と戯曲の言葉です。いい俳優が育って劇をリードして、戯曲の言葉と俳優の肉体が前面に出てくるようになればいい。演出家は一種のオルガナイザーと言いますか、アジテーターであり続けられれば一番いいなと思っている。
 それと同時に、2つの集団を用意することで、若い演出家や劇作家、スタッフが育つ場を確保したい。文化的にどんどん追い詰められている今の状況の中で、若者たちに場所を確保しておくことは、先行する演劇人の大事な役割。いずれ彼らが僕らに取って代わっていくんです。経済性だけじゃなく様々な問題を抱えながらも、それまでなんとかして場所を削らないようにがんばるというのが、もうひとつの野心と言えば野心かな。」


■新国立劇場演劇研修所の修了生(2期生)が7人参加

 さいたまネクスト・シアターには、新国立劇場演劇研修所を修了したばかりの2期生が7人参加しています。
 【写真左から:遠山悠介/深谷美歩/熊澤さえか/吉田妙子/美舟ノア/西村壮悟/西原康彰】
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 吉田妙子「同期の仲間とは研修所での共通言語があるので、わからないことがあった時に話し合うことができています。」
 美舟ノア「ネクスト・シアターは今までに出会ったことのない方ばかりで刺激的です。そのおかげで研修所で3年間一緒だったメンバーでも、互いに新たな一面を発見することもあります。」

 新国立劇場演劇研修所の生徒といえば、清潔感があって透き通るような存在感の俳優が多いように思います。比較的“プレーン”な印象の彼らとノイズに満ちた俳優との衝突もまた、ネクスト・シアターが生み出す化学反応となり、ごつごつとした手触りで一筋縄ではいかないエネルギーを放射してくれることと期待します。

出演:さいたまネクスト・シアター(浅場万矢/荒川結/池田仁徳/市川夏光/牛込隼/浦野真介/江間みずき/大橋一輝/織部ハル/川口覚/岸田智志/熊澤さえか/小久保寿人/木場允視/小林まり枝/西原康彰/佐々木美奈/下塚恭平/周本えりか/鈴木彰紀/鈴木明日香/鈴木拓朗/鈴之助/手打隆盛/土井睦月子/遠山悠介/中村千里/新澤明日/西村篤/西村壮悟/隼太/春木美香/深谷美歩/藤田美怜/堀源起/松田慎也/美舟ノア/茂手木桜子/本山里夢/矢部功泰/横田透/横山大地/吉田妙子/露敏)
ゲスト出演:横田栄司 原康義 山本道子 妹尾正文 沢竜二 ミュージシャン:鈴木光介 国広和毅 関根真理 中尾果
作:福田善之(ハヤカワ演劇文庫刊) 演出:蜷川幸雄 演出補 :井上尊晶 音楽:朝比奈尚行 美術:安津満美子 照明:岩品武顕 衣裳:小峰リリー 音響:高橋克司 振付:広崎うらん 殺陣:栗原直樹 所作指導:藤間貴雅 歌唱指導:伊藤和美 演出助手:藤田俊太郎 舞台監督:山田潤一 主催・企画・製作:財団法人埼玉県芸術文化振興財団
http://www.saf.or.jp/sanada/index.html
http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2009/p1015.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年09月12日 01:03 | TrackBack (0)