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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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REVIEW

2009年09月16日

Bunkamura『コースト・オブ・ユートピア-ユートピアの岸へ・第一部』09/12-10/04シアターコクーン

 『The Coast of Utopia』は2002年にロンドンで初演されたトム・ストッパードさんの戯曲。19世紀ロシアを30年以上に渡って描く壮大な歴史ロマンだそうです。演出は蜷川幸雄さん。
 第一部、第二部、第三部が各3時間あり、全部で約9時間の大作です。蜷川さんは2000年に同じくシアターコクーンで、三部作『グリークス』を演出されています。

 3日連続で観ることにした私は、昨日夜に第一部(1883年~1844年)を拝見。最初は展開が早すぎて「えー!ついていけない!どうしよ~!(汗)」とあせったんですが、その心配は徐々になくなりました。面白~い、楽し~い♪ これは1日で一気に観る方がわかりやすいかも?(←『Angels in America』の時もそう言ってたな~) 人物相関図を頭に入れておくとスムーズに理解できると思います。

 セット券は完売ですが、バラ売り券は残席ある日もあるようです。

 ⇒CoRich舞台芸術!『コースト・オブ・ユートピア-ユートピアの岸へ

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 前近代的な農奴制が根強く続いている19世紀ロシア。舞台の中心は名門貴族バクーニン一家の領地。家長のアレクサンドル(瑳川哲朗)と妻ヴァルヴァーラ(麻実れい)の四人の娘たち(リュボーフィ・紺野まひる、ヴァレンカ・京野ことみ、タチヤーナ・美波、アレクサンドラ・高橋真唯)は、長男・ミハイル(勝村政信)の突然の帰還に大喜びする。しかし、仕官学校を勝手に退校したミハイルに両親は怒りを隠せず、深まる親子の断絶。姉妹の自立への憧れが強まると共に、一家はゆるやかに離散へと向かっていく。
 一方、新しい思想や哲学に触れた若い知識人たちがミハイルの元に集まってくる。思想家・ゲルツェン(阿部寛)、詩人・オガリョーフ(石丸幹二)、文芸批評家・ベリンスキー(池内博之)、作家志望のツルゲーネフ(別所哲也)、哲学者・スタンケーヴィチ(長谷川博己)・・・。
 母国を愛するが故にやがて革命に向かって進む彼らの友情、そして四姉妹や進歩的な考え方を持つバイエル夫人(銀粉蝶)の娘ナタリー(佐藤江梨子)らとの報われない恋の数々が鮮やかに喜劇的に描かれる。
 ≪ここまで≫

 2方向から客席に挟まれた長方形の舞台。床と壁は灰色一色。客席と舞台との間には白く透き通った幕(合計2枚)。カーテン状に開けたり閉めたりすることで転換します。家具や木などを設置・移動させることで場面が変わります。客席通路も花道のように使われますので、劇場全体が舞台だとも感じられます。
 美術は一見シンプルですが、衣裳が豪華ですし家具もどんどん出てくるので、十分に満足できる贅沢さ。登場人物も多いです。衣裳の色で主要人物の違いがわかるようになっています。
 シーンごとにふさわしい衣裳を着た大勢のスタッフが、一気に家具や道具を入れ替えてくれるので、人が動くのを見ている内にサっと次の場面が始まります。ざわざわした人の流れとスピード感が、容赦なく過ぎていく時間を表しているようです。

 場面転換が多いのを退屈させない演出もさすがだと思いますが、私の心は脚本にすっかり持っていかれた感があります。会話の中に知らない人の名前が出てきて、詳しい説明がないままに次へと進んでしまっても、後から演じられる全く違うエピソードでその人のことがわかったりします。手掛かりだけが巧妙に残され、その解決編(というか裏話)が後で明かされるのは、とっても楽しい♪ 次から次に色々考えさせられ、仕掛けに気づいた時は「なるほど~、そうだったのね!」とすっきりするものですから、群像劇の中にどんどんと引っ張りこまれていくんです。

 文芸批評家ベリンスキーを演じた池内博之さんが良かったです。言葉がはっきりしていて、熱くて、彼の思いの切実さが伝わってきました。ただ、最初の長ゼリフの時の動線が規則的に見えたのは残念。あんなに動かなくても聴き入ることができたと思います。
 地主の妻(4人姉妹とミハイルの母)を演じた麻美れいさん。富豪夫人ならではの世間知らずな発言がいいですね。
 石丸幹二さんを初めて舞台で拝見したんですが、きれいな方ですね。第二部はもっと活躍してくれそうで楽しみ。
 阿部寛さんは最初何を言ってるのかわからず・・・。でも後半は大丈夫でした。第二部に期待します。

 ここからネタバレします。

 劇場に着くと、舞台には既に役者さんが大勢いました。皆さん稽古着(Tシャツにパンツなど)なので、舞台は役者控室のよう。それぞれに談笑してリラックスしたムードです。開演の合図でパっと動きだすと、舞台上でかつらをつけたりドレスに着替えたり、テーブルとイスをどんどこと移動させたり。あっという間に19世紀のロシアの地主の家へと変わりました。転換中は車の騒音や民主党代表の鳩山さんの演説の声が響いており、現代日本の街の喧騒や政治状況を音であらわしているようでした。
 その後の転換をすべて客に見せていることも含め、19世紀ロシアの人々と今を生きる観客とを、同じ場に存在させる意図があるように思います。

 イスにぶつかって転びまくるベリンスキー(池内博之)に、タチアーナ(美波)が一目で恋に落ちる瞬間が良かった。
 ベリンスキーの家で、地下から登場する人の影が、向かいの壁に映るのがすっごくかっこいい!
 赤いタキシードの猫の着ぐるみが登場。“赤毛の猫”サイコー。

Bunkamura20周年記念特別企画
第一部:VOYAGE「船出」 第二部:SHIPWRECK「難破」 第三部:SALVAGE「漂着」
出演:阿部寛、勝村政信、石丸幹二、池内博之、別所哲也、長谷川博己、紺野まひる、京野ことみ、美波、高橋真唯、佐藤江梨子、水野美紀、栗山千明、とよた真帆、大森博史、松尾敏伸、大石継太、横田栄司、銀粉蝶、毬谷友子、瑳川哲朗、麻実れい 塾一久 赤司まり子 冨岡弘 手塚秀彰 妹尾正文 清家栄一 飯田邦博 岡田正 新川將人 星智也 宮田幸輝 嶋田菜美 遠山悠介 三村和敬 桐山和己/坂口淳(Wキャスト) 首藤勇星/鈴木知憲(Wキャスト) 大出菜々子/佐藤日向(Wキャスト) 木村心静/清水詩音(Wキャスト)
脚本:トム・ストッパード 翻訳:広田敦郎 演出:蜷川幸雄 美術:中越司 照明:室伏生大 衣裳:小峰リリー 音楽:朝比奈尚行 音響:鹿野英之 ヘアメイク:鎌田直樹 振付:広崎うらん 演出補:井上尊晶 演出助手:大河内直子 藤田俊太郎 技術監督:小林清隆 舞台監督:濱野貴彦 劇場舞台技術:伊集院正則 野中昭二 営業:加藤雅広 中川未来 票券:岡野昌恵 制作助手:三浦瞳(ゴーチ・ブラザーズ) [Bunkamura]制作:大宮夏子 佐貫こしの 北島由紀子 プロデューサー:加藤真規 松居珠美 [ローソンエンターメディア]制作:藤原友紀 営業:上野尚徳 プロデューサー:宮澤政司 主催:Bunkamura/ローソンエンターメディア 企画・製作:Bunkamura
【発売日】2009/06/27 [通し券(土・日・祝)通し上演]S席29,000円 A席24,000円 コクーンシート15,000円 [セット券(平日)3日にわたり一部ずつ上演]S席29,000円 A席24,000円 コクーンシート15,000円 ※セット券(平日)は3日間( I 部・ II 部・ III 部)とも同じお席番号となります。[各部券(平日 I 部・ II 部・ III 部)]S席10,000円 A席8,000円 コクーンシート5,000 ※平日セット公演に残席があった場合に限り、8月上旬に各部券(一部ごとお求めいただけるチケット)の販売を行います。※通し公演(土・日・祝)の各部券の販売はなし。※本公演は客席で舞台を挟むセンターステージ形状。
http://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/shosai_09_coast.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年09月16日 15:17 | TrackBack (0)