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REVIEW

2009年10月18日

さいたまネクスト・シアター『真田風雲録』10/15-11/01彩の国さいたま芸術劇場大ホール内インサイド・シアター

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ポスター

 応募総数1225名から選ばれた平均年齢24.8歳の若手俳優44名からなる、劇団さいたまネクスト・シアターの旗揚げ公演です。⇒製作発表 ⇒公演特設サイト(音が鳴ります)

 上演時間が約3時間20分(途中休憩15分を含む)の大作で、なんと舞台は泥!砂じゃなくてドロでした!開演前のアナウンスによると泥の総重量は約1.7トン!

 蜷川幸雄作品常連のベテラン俳優5人がゲスト出演し、バンドによるオリジナル楽曲の生演奏もあります。ゴールド・シアターもそうでしたが、一般3,800円というチケット価格の公演としては贅沢過ぎる内容です。このメンバーでこの規模での再演はおそらく不可能だと思いますので、どうぞお見逃しなく!
 
 ⇒CoRich舞台芸術!『真田風雲録

 ≪作品紹介≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 「カッコよく死にてぇ」を合言葉に
 真田幸村と十勇士は敗北を覚悟しながらも自らの信じる道を進む

 慶長5年(1600年)、徳川家康の主導権を決定付けた〈天下分け目の戦い〉直後の関ヶ原で、敗軍の若武者と浮浪児たちが出会う。離れ猿の佐助(子供時代:大橋一輝/青年時代:隼太)やむささびのお霧(子供時代:土井睦月子/青年時代:美舟ノア)、ずく入の清次(子供時代:市川夏光/青年時代:岸田智志)――彼らこそ、のちの真田十勇士だ。
 慶長8年に江戸幕府を開府した家康は、息子・秀忠を二代目将軍とし、世襲による安定政権を確立しつつあった。しかし、亡き豊臣秀吉の息子・秀頼(鈴之助)だけは、なおも徳川による支配の埒外にあった。
 そして慶長19年。〈大仏鐘銘事件〉を機に、徳川対豊臣の〈大坂冬の陣〉が勃発。豊臣方は、くすぶっていた全国の浪人たちを召集した。九度山に蟄居していた智将・真田幸村(横田栄司)と彼を慕う十勇士も、活躍の場を求めて豊臣方に加わるが、豊臣の存続を第一とする上層部の判断によりやがて和議が結ばれる。
 しかし、豊臣の力を大きくそいだその和議はほどなく破れ、〈大坂夏の陣〉が開戦。真田隊も自分らしい生き方を貫くため、最後の戦いへと突入していく――。
 ≪ここまで≫

 泥に足を取られ、文字通り泥だらけになりながらの熱演3時間を、退屈することなく観られました。演技についてはつたない部分ももちろんありますが、それが全然気にならないどころか、必死でぶつかり、くらいついて、声を上げてひたむきに走る様が、劇に登場する「自分自身であろうとする浮浪人たち」とぴったり重なりました。何をするにも泥まみれにならざるを得ないみなしごや浮浪人と、きれいな着物を着て泥には絶対汚れない上級の武士たちとの対比も見事です。

 プロではない大勢の若者とこの大作を作り上げる手立てとして、先が読めなくて、安心できなくて、体に常に緊張を保つことが必要となる要素(=泥)を用意したのではないでしょうか。それがさらに作品の本質を生々しく、そして面白く見せる演出にもなっているのですから、蜷川さんは凄いと思います。

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 『真田風雲録』はとっても面白い戯曲でした。1962年に書かれ、安保闘争が下地になっているのは確かですが、別役実さんも講演会でおっしゃっていたように、歌と踊りと殺陣などで楽しい見世物になっていました(足元が泥で不安定なのでスリルもあります)。猿飛佐助が特殊能力を発揮するフィクションは演劇的な見せ方がとても面白く、人と人が対立し争うこと、愛し合うことについて考えさせる仕掛けにもなっていました。もちろん体制側と反体制側の対立構造という、江戸時代も1960年代も2000年代も変わらない、人間の戦いと苦悩も描かれています。

 泥舞台は・・・出演者もスタッフも、言葉で形容することができないほど大変だと思います。こんなプロダクションが実現するのは、優秀な人材が、それも多数揃っているからだと私は思います。舞台上舞台という特殊な会場での観客の誘導にしても、大勢の案内係の方々が声を掛け合って、スムーズに進みました。全ての客席に黒ビニールシートが配布されており、泥をかぶる可能性があるなどのアナウンスも徹底されていました。途中休憩の時には観客の動線となる場所にシートを敷いて、後半が始まる直前にそのシートをはずすのも素早いです(終演時もしかり)。上演終了後のステージ周辺の掃除や衣裳の洗濯などの作業量を想像すると気が遠くなりそうです。それでもチケット代は3,800円・・・演劇っていったいどうやって成り立っているんだろうと考えちゃいます。まあ、私は観客なので、面白い作品に出合えたことを感謝するばかりなのですが。

 配布されたパンフレットの配役表に<2009年10月17日(土)版>とありました。つまり配役変更がありえるということですよね。どの役を振られてもいいように、出演者はセリフをすべて覚えているという話も耳にしました(男役と女役を入れ替えた例もあったようです)。そこまで役者を追い詰めて、しかも泥・・・蜷川さんが「3年後に何人残るか見ものですよ」(⇒制作発表)とおっしゃっていた意味がわかるような気がします。

 さいたまネクスト・シアターのメンバーの中では、摂政・大野修理を演じた遠山悠介さんが素晴らしかったです。「何を考えているのかわからない」と周囲に噂され、敵か味方かどちらに転ぶかわからない人物をきりりと凛々しく、ミステリアスに演じてらっしゃいました。背中からも気概と色気が感じられました。
 殿様(豊臣秀頼)をおちゃめに演じた鈴之助さんもきれいでした。

 ここからネタバレします。

 殿様とその側近の武士らは畳が敷かれた四角い台車の上に座り、茶坊主(いわば黒子)がその台車を動かして、泥の舞台の上をすべり出てきます。透明人間になった佐助は、幸村の台車に付いて会議を盗み聞きします。佐助と幸村の足は泥で汚れているのですが、織田有楽斎(原康義)が間違って足を前に出し、ちょっとでも泥が付いてしまうのを嫌がるのが面白いです。淀君(山本道子)の着物は透明ビニールで保護されていました。

 佐助は人の心が読めてしまうので、敵(例えば大野修理)と対峙した時に、その人物の心の底にある善意や愛情が見えてしまい、戦えなくなってしまいます。だから幸村はやがて、佐助の助言を求めないようになります。人間はなぜ戦うのか、敵とは何なのか、戦うとはつまり、どういうことなのか・・・。私も今の生活の中で戦っていないわけではありません。私の戦い、その敵について考えました。

 「カッコよく死にてぇ」と心底望んでいた幸村が、ものすごくかっこ悪い死に方をしたのに爆笑。死に際を美しく生きようとするのはかっこいいかもしれないけど、実際に死ぬ時はそんなきれいごとでは済まないんでしょうね。

彩の国さいたま芸術劇場開館15周年記念公演 Saitama Next Theatre「真田風雲録」
出演:さいたまネクスト・シアター≪浅場万矢/荒川結(穴山小助)/池田仁徳/市川夏光(ずく人の清次)/牛込隼/浦野真介/江間みずき/大橋一輝(離れ猿の佐助)/織部ハル/川口覚(根津甚八)/岸田智志(三好清海入道)/熊澤さえか/小久保寿人(海野六郎)/木場允視/小林まり枝/西原康彰(由利鎌之助)/佐々木美奈/下塚恭平(木村重成)/周本えりか/鈴木彰紀(坂崎出羽守)/鈴木明日香/鈴木拓朗/鈴之助(豊臣秀頼)/手打隆盛/土井睦月子(むささびのお霧)/遠山悠介(大野修理)/中村千里/新澤明日/西村篤/西村壮悟(筧十蔵)/隼太(猿飛佐助)/春木美香(千姫)/深谷美歩(少年剣士・若き根津甚八)/藤田美怜/堀源起(三好伊三入道)/松田慎也/美舟ノア(お霧・雲隠才蔵)/茂手木桜子(どもりの伊三)/本山里夢/矢部功泰/横田透/横山大地(人足頭)/吉田妙子(かわうその六)/露敏(望月六郎)≫
ゲスト出演:横田栄司(真田幸村) 原康義(織田有楽斎) 山本道子(淀君) 妹尾正文(後藤又兵衛) 沢竜二(大野道犬) ミュージシャン:鈴木光介 国広和毅 関根真理 中尾果
作:福田善之(ハヤカワ演劇文庫刊) 演出:蜷川幸雄 演出補 :井上尊晶 音楽:朝比奈尚行 美術:安津満美子 照明:岩品武顕 衣裳:小峰リリー 音響:高橋克司 振付:広崎うらん 殺陣:栗原直樹 所作指導:藤間貴雅 歌唱指導:伊藤和美 演出助手:藤田俊太郎 舞台監督:山田潤一 主催・企画・製作:財団法人埼玉県芸術文化振興財団
一般3800円 メンバーズ3500円
http://www.saf.or.jp/sanada/index.html
http://www.saf.or.jp/arthall/event/event_detail/2009/p1015.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2009年10月18日 11:23 | TrackBack (0)