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2009年01月17日

モモンガ・コンプレックス『初めまして、おひさしぶり。』01/15-18富士見市民文化会館キラリ☆ふじみマルチホール

 モモンガ・コンプレックスは白神ももこさんが振付・演出・構成・出演されるダンス・カンパニーです。富士見市民文化会館キラリ☆ふじみのキラリンク☆カンパニーに選出され、今回が同劇場での初お目見えになります。

 言葉にならない感動がこみ上げてきて、涙が止まらなくなっちゃった約1時間5分。一言でこの作品を言い表すならば、映画「崖の上のポニョ」ですね。一般客も批評家も魅了する芸術だと思います。

 明日13時の回で公演終了です。ご都合がつく方にはぜひご覧いただきたい、ハッピーで可愛らしいダンスです。

 ⇒CoRich舞台芸術!『初めまして、おひさしぶり。
 レビューを最後までアップ。キラリ☆ふじみの写真あり。

 劇場入り口には団体紹介のパネルがあり、メンバーそれぞれの紹介文と写真が貼られていました。土曜日のお昼の温かい日差しが入る中、劇場誘導係の方々がにこやかに対応してくださり、地元のコンビニや和菓子屋さんが受付近くで物販をされていて、ロビーは幸せ気分。
 ※物販は開場時間のみですので、お買い物は開演前までにお済ませください。

 舞台前方の上下(かみしも)には門松。舞台中央の床を掘り下げたスペースには、一人暮らしの若者が住むワンルーム・アパートの一室がしつらえられています。
 お正月のあれこれをモチーフにした女の子5人のキュートなダンスは、ギターの生演奏(男性)もムードばっちりで、マルチホールの魅力を存分に生かした作品でした。このホールを知り尽くし、このホールでしかできないことをしていました。そして、ホール全体を自分たちの体でしっかり感じ取って、空間全体を支配したパフォーマンスを見せてくださいました。

 日本人なら誰でもわかるお正月を題材に、いたずらな笑みを浮かべ、可愛くおどけて、必死に踊る、女の子たちのダンスは、この劇場で作った、この劇場でしか上演できないダンスであり、今、ここでしか生まれ得ない、かけがえのない瞬間ばかりを散りばめたダンスでした。場所(マルチホール)への愛情が、彼女たちの体から弾け出て、そのまま観客に届きました。

 後から劇場の方に質問したところ、モモンガ・コンプレックスは基本的にキラリ☆ふじみの稽古場で作品作りをしており、マルチホールも使用していたそうです(ホールが空いている時のみ)。のべ約20日間は本番と同じ会場を使ったとのこと。キラリンク☆カンパニーだから出来たことですよね。

 帰りの電車の窓から、川に沈もうとする夕日が見えました。都会に住んでいるので夕焼けなんて見たのは久しぶり。すごく幸せでした。
 
 ここからネタバレします。

 晴れ着を着た女の子たち。お行儀良くしていたかと思ったら足広げてジャンプしたり。初詣の風景?
 普段着に着替えた2人はお尻をぽりぽり掻いたりして、お家でゆったりモード。お正月も人それぞれ。

 部屋に居る男の子がテレビで駅伝を見ている。駅伝のランナーが劇場内をぐるぐる走り続ける。沿道で声援する人々(応援団と呼ぶことにします)がランナーに水やタオル、レオタードも(笑)渡す。走るランナーにマジックペンを渡し、応援団は自分たちの顔や手、体に1~5の数字を書いてもらう。字を書いてもらった時の体勢(5種類)を使ったダンス開始。ここで心をわしづかみにされました。“今、ここにしかない瞬間”が現れたから。

 「ロッキーのテーマ」をバックに1人で走るランナー。応援団はもういない。ランナーはとうとう倒れる。応援団の人々が脱ぎ捨てた服を着るランナー。服が疲れ果てた勇者を称え、ねぎらったように見えて落涙。応援団とランナーがつながった気がした。

 カルタに書かれたことを数人で体でコミカルに表現。数人が去った後、1人がカルタをゆっくりと拾い集めて退場。じっくりと“体”を見る時間だった。

 スエット上下の3人組。全員上着は白い長袖Tシャツ。全員で服を引っ張り合う。ダンスが終わった後で、アパートの男性がトースターから餅を取り出して食べる。そっか、餅のダンスだったのね。

 鈴を持って元気に走る1人。あの鈴は牛の首に巻くもの?周りの人たちがどんどんと色んな衣裳を着せて、脱がせて、また着せて。牛は着ながら脱ぎながら逃げるように走り踊る。ランナー(だったダンサー)がいきなり天井から降りてきた綱を引いたら、年賀状がパラパラ落ちてきた。そっか、年賀状に描かれた牛だったのね。色んなコスプレさせられてるから(笑)。

 衣裳は綿素材でナチュラル系パステルカラーの可愛らしいものばかり。どんどん着替えるのが楽しい。
 照明は床や壁に当てて影を生かすものからミラーボールまで、さまざまに劇場を飾っていました。カーテンコールの後に2つ目のミラーボールで桜吹雪を演出。最後の最後まで温かいおもてなしを受けて、感無量。

 劇場を出たら、団体紹介のパネルの写真が出演者全員が頭を下げた写真に変わっており、「ありがとうございました」というメッセージが添えられていました。

 いいお天気で中庭がすごくきれいでした↓ 
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鶴瀬駅のイス。お座布団が優しいですよね。


モモンガ・コンプレックスvol.4 ダンス・パフォーマンス的公演「初めまして、おひさしぶり。」
出演:北川結、眞島木綿、夕田智恵、長尾晃司、たにかわまいこ、白神ももこ
構成・振付・演出:白神ももこ・モモンガ・コンプレックス 照明:伊藤泰行 音響:泉田雄太 舞台監督:森山香緒梨 舞台監督助手:三品遥 美術アドバイザー:伊藤泰行 制作:藤原里香 チラシイラスト:きたがわゆう チラシデザイン:℃heco 主催:モモンガ・コンプレックス/財団法人富士見市施設管理公社
【発売日】2008/11/15 前売り・当日とも ¥2,500 ★各回ハッピー割引あり!!⇒¥2,300
http://www.city.fujimi.saitama.jp/culture/index.html
http://d.hatena.ne.jp/momonga_complex/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 20:25 | TrackBack

サンプル『伝記』01/15-25こまばアゴラ劇場

 松井周さんが作・演出されるサンプルの新作です。前作『家族の肖像』が第53回岸田國士戯曲賞の最終候補作品に選出されています⇒結果発表は1/26(月)。

 初日は笑いが山ほど起こっていましたが、誰もが同時に笑うようなわかりやすいネタが仕込まれているわけではありません。観客それぞれが個人的にツボに入ったところで吹き出してしまったり、あまりに意外すぎて思わず笑い出してしまうタイプの、難易度高いめ(?)のナンセンス・コメディー。皮肉が利きすぎた(笑)、半狂乱の宴は刺激的でした。上演時間は約1時間40分。

 松井さんはフェスティバル/トーキョーにも参加されます⇒『火の顔

 ⇒CoRich舞台芸術!『伝記

 ≪あらすじ≫
 浅倉健(古舘寛治)は亡き父が残した地下シェルターで、妹・好子(辻美奈子)とともに父の伝記を作ろうとしている。
 ≪あらすじ≫

 劇場に入ると左側が客席、右側が舞台。細長く間口が広いステージです。白と黒のボーダー柄の壁にちらほらと貼り付けられた意味不明の数字も効いた、かっこいい美術にまずうっとり。

 生きている人間が死んだ誰かについて語る言葉は、必ずしも過去の真実を伝えるわけではありません。さらにそれが複数の視点から語られる場合は、自ずと矛盾が起こってきます。この世界に確かなことなど何もないのだと見せつけられた末、最後に残ったのは目の前で動き、熱くなっている人間の体だった、というのが最終的な感想でした。
 とにかく私は思いっきりいっぱい笑いました。意外なところも不謹慎な(?)ところも。

 申瑞季さん演じるマダムKに悩殺されました(笑)。

 ここからネタバレします。

 亡き父親の愛人(羽場睦子)とその息子(吉田亮)が伝記に自分たちのことも書き加えるよう要求してきたため、健と好子は困り果てます。さらに朝倉シェルターの職員3人(金子岳憲、石澤彩美、三橋良平)が、どんなことであろうと事実はすべて伝記として掲載するべきだと主張するため、伝記製作現場は混乱を極めます。

 死者の知られざる歴史が暴かれる様は、まるでたまねぎを剥くように、最後にはもとにあった形さえ見えなくなってしまうほど。死者の肖像画(この場合は「伝記」)は目に見える形で残りますが、後から何層にも違う色で塗り替えられて、過去の真実を伝えるものにはなりません。塗り替えた人間たちの恥部が暴露され、彼らもまたいつかは死ぬと考えると、この世には確かなものなどないのだと、あきれるほどに実感させられます。美談と醜聞が同じように並べられ、世界がだだっ広い平面に見えてきて、でも、目の前には役者が床に垂直に立っている。だからカーテンコールが最大のハイライトだったのかも。

 キャッチボールや取っ組み合いなど、舞台上で予測不可能なことが起こるようにした演出は、それだけでちょっとスリリング。車椅子に乗った愛人の失禁も強烈。最も効果が高かったのは、粉まみれになった健と次女(中村真生)のカーテンコールだったと思う(笑)。バランスボールって、誰が乗ってもセクシーに見えるのはなぜなんだろう。インナーマッスルが緊張してるから?(笑)

 青年団『東京ノート』のように、劇場備え付けのエレベーターと2階部分が効果的に使われていました。2階部分はお立ち台みたいでもあった(笑)。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:松井周・前田司郎

 前田さんのトークは毎度ながら、すごくわかりやすくて面白いです。エンターティナーだな~と思います。前田さんの質問に正直に答える松井さんも面白い(笑)。

 「戯曲のセリフを必ずしゃべらなければならないという点で、役者は戯曲の下に居る」のかどうか、という話題がありましたが、私は「どのようにしゃべるのかは役者によって決まるから、役者が戯曲の下であるわけじゃないよな~」と考えました。この作品においては、おそらく可笑しさを生み出すことが目的で書かれたわけではないセリフが、爆笑(失笑?)を起こすものになっていたり、意外な動きによってセリフの意味が完全に消え去っていたりするシーンが多かったんですよね。

 ただ、終演後に他の観客の方が「戯曲が上か役者が上かというのはあまり重要な議論ではない。最終的にはすべて演出家が決めるのだから」とおっしゃっていて、「なるほど、それはそうかもしれない」と思いました。でも、観客の目の前に居るのは役者だと考えると、結局は舞台は役者のものなんじゃないかとも思います。今作は特に、役者がその場で行うことに重点が置かれた演出だったように感じました。

出演:辻美奈子、古舘寛治(以上サンプル・青年団)、羽場睦子, 申瑞季(青年団)、中村真生(青年団), 石澤彩美、吉田亮、三橋良平(乞局)、金子岳憲(ハイバイ)、黒田大輔(THE SHAMPOO HAT)
脚本・演出=松井周 舞台美術=杉山至+鴉屋 照明=西本彩 衣装=小松陽佳留(une chrysantheme) 舞台監督=小林智 ドラマターグ・演出助手=野村政之 宣伝美術=京 宣伝写真=momoko japan 記録写真=青木司 記録映像=深田晃司 WEB運営=牧内彰 制作補佐=三橋由佳、有田真代(背番号零) 制作=三好佐智子 企画・製作=サンプル・(有) quinada[キナダ] 提携=(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
【発売日】2008/11/23 前売り 整理番号付(全席自由)3,000円 当日 整理番号付(全席自由)3,200円
ゲスト : 15(木)前田司郎氏(五反田団主宰)/ 17(土)中野成樹氏(演出家・中野成樹+フランケンズ主宰)
http://www.samplenet.org

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 09:26 | TrackBack