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しのぶの演劇レビュー
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2009年03月04日

チャリT企画『12人のそりゃ恐ろしい日本人』03/03-08 OFF OFFシアター

 楢原拓さんが作・演出される劇団、チャリT企画の新作を拝見。前回公演『ねずみ狩り』で楢原さんは、王子小劇場の佐藤佐吉賞2008・最優秀脚本賞を受賞されています。残念ながら私は見逃しました・・・。

 “茶番劇”という作風に納得の約1時間35分でした。現代日本についての楢原さんの視点が見えてくるのが面白かったです。

 ⇒CoRich舞台芸術!『12人のそりゃ恐ろしい日本人

 ≪あらすじ≫ 
 舞台は築30年以上は経つと思われる風呂なしアパート。部屋の主は1人の若い男(宍倉靖二)だが、いそうろうしている無職の友人(伊藤伸太朗)はいっこうに職を見つけられそうにないし、隣りの部屋の女(長岡初奈)がむりやり夕飯を作って持って来るし、口うるさい大家(内山奈々)が何かとよく訪れるので、狭い部屋はいつも賑やか。
 男はある有名な殺人事件の裁判員に選抜され、その裁判が終わったところだ。被告が死刑になってしまったため少し落ち込んでいると、突然、ともに裁判員をつとめた2人(冠仁、ザンヨウコ)が訪ねてきた。「本当は被告は無罪なのだから、なんとかして判決をくつがえそう」と、男に持ちかけてきたのだ。
 ≪ここまで≫

 タイトルから『十二人の怒れる男たち』(Wikipedia)を連想しますが、裁判劇ではありませんでした。具象美術でリアルな日常を描くかと思いきや、部屋の主である男を中心に周囲の人々の行動が少しずつ異常になり、やがてはちゃめちゃになっていきます。
 演劇ならではの嘘を盛り込んで、だじゃれやコント風の会話でもって、話は軽快に進みます。「ドタバタの茶番です」という体裁をとりながら、実は現代日本の風刺をしているのが面白いです。

 観ている時は単純に楽しみましたが、後から考えてみたら、私は脚本や演出について特に注目しており、役者さんや劇団ならではの雰囲気といったものには、あまりアンテナを張っていなかったようです。つまり、チャリT企画の作品というより、作・演出の楢原さんの作品として鑑賞していました。それって・・・どうなんだろう。全体的に役者さんの力が足りてないってことなんじゃないかしら。乱暴な結論ですが、今はそう感じています。

 ここからネタバレします。

 毒入りハヤシライス事件(毒入りカレー事件がモチーフ)の被告が無罪であることを示す証拠が、裁判が終わってから次々と出てきます。今の新聞・テレビの報道が思い浮かびました。隠蔽だとか暴露だとか、めまぐるしすぎて、何が本当なのかを見極めるのが難しいんですよね。

 ウルトラセブンの主題歌を、「死刑、死刑、死刑!」と替え歌にして踊っていたのが可笑しかった~。その場のノリや雰囲気で重大な決断をして、取り返しが付かなくなるんですよね。そういう、ぬらっとした、どっちつかずな精神状態ってよくある気がします。

 部屋の主の職業は教師で、教師に好意を持つ女子高生(リストカットの常習犯らしい)がシチューを作りにやってきます。教師が理性でもって生徒を帰らせたところ、その直後に彼女は首吊り自殺をしてしまい、両親が教師の部屋に押しかけてくる・・・というエピソードがありました。それが事実なのか男の妄想なのかは曖昧になっていて、他のさまざまな幻(目の錯覚・勘違い)の1つになっていましたが、できればその出来事についてはもっと知りたかったですね。

 隣の家の女が持ってくる料理がカレーからビーフシチューになり、とうとうウ○コになります(みんな喜んで食べます)。無職だったホームレスたちがやっと就職できて部屋から出て行きますが、その職業とは海外の紛争地域に向かう兵隊でした。そして最後にはアパートが空爆されてしまいます(テロリストが潜伏しているせいで。本当はアリクイダ〔蟻喰いだ〕なんだけど)。

 自分には関係のない、遠い世界のことだと信じていたことが、次々と身に降りかかってきて、無防備なままそれを受け入てしまうのは、現代を映していると思います。お金が葉っぱになったり、テレビがダンボール箱に見えたりするのは、目に見えるものが信じられないことを表している気がしました。大事なこともつまらないことも同列に並べて、一緒くたにしてしまうのは、インターネットでよくあることですよね。

出演:内山奈々、伊藤伸太朗、高見靖二、冠仁、宍倉靖二、三枝貴志(バジリコFバジオ)、熊野善啓、小杉美香、長岡初奈、ザンヨウコ(危婦人) 声の出演:前田将甫 下中裕子
脚本・演出/楢原拓(chari-T) 舞台監督/甲賀亮 音楽/YODA Kenichi 照明/伊藤孝(ART CORE design) 音響/島貫聡(SouncCube) 舞台美術/稲田美智子 衣裳/太田家世(自由創作師) 宣伝美術/BLOCKBUSTER スチール/鈴木淳 演出助手/前田将甫 当日運営/吉田千尋(劇団コーヒー牛乳) カンパニースタッフ/松本大卒・下中裕子・鴫山知広 予約管理システム提供/シバイエンジン 制作/チャリT企画 企画・製作/チャリT企画
【発売日】2009/02/01 前売2500円(日時指定整理番号付き) 当日2800円(開演1時間前より会場受付にて販売)○学生割引=前売当日共に1800円(劇団扱いのみ・学生証掲示)○失業者・障害者=無料(要証明書類)○リピーター割引=今回半券持参で1000円
http://www.chari-t.com/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 23:03 | TrackBack

中野成樹+フランケンズ『44マクベス』02/18-23 d-倉庫

 中野成樹さんが誤意訳・演出される中野成樹+フランケンズ(略称:ナカフラ)の本公演です。ナカフラがシェイクスクピアの『マクベス』をやったらどうなるか?チラシ表面の漫画がすっごく面白かったので、期待が高まりました。それに出演者がいつもより大人数で、しかも豪華な面々なんですよね。

 『マクベス』の流れは残したものの、大胆に脚色されていました。上演時間が2時間以上あったのも意外。
 d-倉庫に初めて伺ったのですが、素敵な劇場ですね!ロビーもゆったりだし、劇場も天井が高いし、また行きたいです。

 ⇒wonderland「中野成樹+フランケンズ『44マクベス』(クロスレビュー)
 ⇒CoRich舞台芸術!『44マクベス

 舞台奥に2階建ての装置が建て込まれています。パっと見は大きな棚のよう。1階に4部屋、その上に4部屋で計8つの部屋が、将棋のマスのように並んでいます。棚の前方に四角く広がるステージ床には、鮮やかな緑色のマットが敷かれていて、ゴルフのグリーンみたい。よく見ると装置全体が真ん中で左右シンメトリーになっています。

 マクベスを演じるのは石橋志保さん。女優さんがマクベスを演じる時点で、幕開けからいわゆる『マクベス』を見ている気持ちではなくなりました。何が起こるかわからない、何が起きてもいい、という心構えができました。マクベスに予言する魔女の1人が男性(村上聡一)だったり、予言もなんだかいい加減だし(笑)。
 私の記憶の中にある、いかにもシェイクスピアらしい『マクベス』との違いを楽しみながら眺めていきましたが、自分がぐっとお芝居の中に入っていく感覚はあまりなく、少々退屈もしました。

 終演後のトークでやっと、今自分が観た作品と演出意図との接点がわかった気がしました。トークがなかったら、ぼんやりした印象になっていたかもしれません。マクベスやマクベス夫人の「王になりたい」という欲望が、今の私たちにはあまりに現実離れしたものであり、それを無視せずに、『マクベス』を自分たちの感覚に引き寄せて演出したのだと思うと、なるほどと腑に落ちました。

 ここからネタバレします。

 マクベスが篭城したまま自ら滅び行くのを、敵がじっと見守るというエンディングは意外でした。彼らはバーナムの森を切り倒して、どんどん切り開いて城へと進み、マクベスとマクベス夫人(野島真理)を土(緑色の床)の中に埋葬します。新たに開かれた更地に、彼らは一体なにを築こうとしているのか。ただ闇雲に“くさいものに蓋”をして、歴史を塗り込めていくように見えました。

 門番(中村たかし)のシーンがものすごく長くなっていて、一人でしゃべり続けるセリフがとても面白かったです。原作ではチラっとしか登場しない人物ですよね(笑)。

 増刷された新チラシは最後の妻のセリフが変わってますね(「ほな ウチがサクっとやろか?」→「は?今さら何をおっしゃてるの?」)。私は最初の方が好き。「おっしゃてるの?」は「おっしゃってるの?」の間違いかしら?

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:中野成樹 多田淳之介(東京デスロック) 司会:長島確

 初日のゲストが翻訳家の松岡和子さんだったそうで、その衝撃(?)が2日目も残っているようでした。松岡さんはシェイクスピアの専門家ですものね。下記は印象にのこった言葉です。

 中野「松岡さんが『シェイクスピアは、人間を書き分けている』おっしゃっていました。」
 中野「ドラマトゥルグの長島さんと3ヶ月かけて脚本を練ってきて、起承転結がちゃんとしてないなと思ったんだけど、松岡さんに『シェイクスピアはそんなの(起承転結なんて)狙ってないから』と断言されちゃって。」
 中野「王道をやることと、僕のやることとは、ルールが違うと思った。」

 多田「僕にとっては、脚本は設計図。やるべきことが書いてあるもの。」
 中野「多田くんはセリフを一切変えないけれど、設定は変えるよね。僕は設定だけをそのままにして、セリフを変えます。やり方はいわば正反対なんだけど、同じことをやっている人だと思った。」

 中野「マクベスの『王になりたい』という欲望が、今の自分にはわからない(そんな欲はない。しかも人を殺してまでの)。」

"Forty Four Macbeth"
出演:フランケンズ(村上聡一、福田毅、野島真理、石橋志保) 中村彰男(文学座) 永井秀樹(青年団) 伊原農(ハイリンド) ゴウタケヒロ(POOL-5) 篠崎高志(POOL-5) 坂しおり(メガデルヅ) 中村たかし(宇宙レコード) 金谷奈緒 北川麗 オオカミ男(竹田英司、斎藤淳子、中川春香)
脚本:W・シェイクスクピア「マクベス」より 誤意訳・演出:中野成樹 ドラマトゥルク:長島確 美術:細川浩伸(急な坂アトリエ)  音楽:大谷能生、竹下亮 照明:高橋英哉 音響:山下菜美子 舞台監督:山口英峰 宣伝美術:青木正(Thoms Alex) チラシマンガ:青山景 演出助手:田中佑弥 制作:渡辺美帆子、ゴ・フランケンズ 協力:にしすがも創造舎 特別協力:急な坂スタジオ 助成:財団法人 セゾン文化財団 主催:中野成樹+フランケンズ
【発売日】2009/01/07 ☆S席 3800円(当日4000円)なにはともあれステージの全貌が見えるお席です。 ☆A席 3000円(当日3200円)「見えたり見えなかったり」のナカフラ定番演出が堪能できるお席です。
http://frankens.net/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 15:54 | TrackBack