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2009年06月08日

ハイバイ『リサイクルショップ「KOBITO」』06/05-16こまばアゴラ劇場

 岩井秀人さんが作・演出・出演される劇団ハイバイの新作です。岩井さんのお母様が実際に営むリサイクル・ショップをモデルに、取材を経て書き上げた戯曲だそうです(終演後のトークより)。

 店に集まるオバサマたちを、男の役者さんが熱く激しく(笑)演じます。上演時間は約1時間45分。終演後のトークのゲストにケラリーノ・サンドロヴィッチさんがいらっしゃいました。

 ⇒CoRich舞台芸術!『リサイクルショップ「KOBITO」

 ≪あらすじ≫ 劇場サイトより
 多摩地区。50代の女性四人で営んでいるリサイクル屋には、暇な主婦や定年退職した老人達が冷やかし半分で今日も一杯100円のコーヒーだけを飲みに来る。
 時々訪れる息子や孫の存在から明らかになる50も過ぎれば当然あるだろう、それぞれのそれなりの過去。
 お互いの暗い過去は言いっこなし、ちょっと馬鹿で「ババア」って言われてるくらいが気楽で良い。
 悪態を付き合い励まし合う、かつて「女」であり「母体」であった者達の強がる風景。
 を、ハイバイ流に男優達で上演。
 岩井の母が実際に営むリサイクル屋をモデルに「圧倒的な幸福を願った女達の、ある果ての姿」を雑な女装をしたイカつい男達で描きます。
 ≪ここまで≫

 何でも売る個人経営のリサイクルショップが舞台。劇場の壁には無数の洋服が吊り下がり、下手奥には古着が積み重なった小高い山が出来ています。
 途中休憩があるわけではないのですが、明確に前後編に分かれた脚本だったように思います。前半は爆笑・失笑の連続。後半はしんみりゾクゾク。

 前半はとにかく可笑しくて、手放しに喜んで観ていました。役者さんにとってはかなり難しい設定なのではないかと思います。ほんの一瞬のズレが整合性をなくさせてしまうような、リスキーな間合いがいっぱい。スカっとするほど気持ちよく決まる瞬間を何度も見せて頂けました。
 後半は人生のつらいエピソードがズシンと来ますが、役者さんが大汗をかいて暴れまわるので、目が離せません。そして、とてもスリリング(笑)。怪我をされませんよう!

 店の商品は、商品なのかゴミなのかが非常に曖昧な状態にさらされます。値段もあってないようなものだし。大事なものと不要なものがごちゃまぜになった時、人間の命もゴミと同じようになっちゃうような気がしました。でも同時に、何がなんだかわからないものに囲まれて(囲まれずとも)、つまらないことにゲラゲラと笑ってる瞬間は、確実に幸せなんだということも伝わってきました。

 「金があれば●が買える、だから幸せになれる(●がないのは不幸せだ。金が全てだ)」といった風説を信じ込まされて、ひたすらそれを求めて突っ走った末に何が残ったのかを、立ち止まって見つめる勇気が必要なのだろうと思います。

 ここからネタバレします。

 前半は、ひきこもりがちな娘(永井若葉)のために劇を見せようとするハイバイお得意の劇中劇シーン(演目は手塚治虫『火の鳥・未来編』)。劇自体はもちろん、人に見せるためのショーの体裁さえ整えられないオバチャンたち。人の話を聞かない、勝手に誰かと関係ない話を始める、全員で独り言を同時に話してしまう・・・。予想をもれなく上回る失態ぶりに、次々と爆笑させられました。
 でも同時に思うんですよね、私も同じだよなって。人と会話をしているようでいて、実は全く相手の話を聞いていなかったり(聞いたフリをして自分の話をしようとしてたり・汗)。これが無自覚だったりするから恐ろしいですよね。

 後半は、演出家・品川ユキコ(岩井秀人)の指令に従った娘(永井若葉)が、オバチャンたちをリサーチするという枠組みの中、富子(有川マコト)と山本(岩瀬亮)の人生を回想していきます。富子と山本以外の役者さんも、彼女たちの心の声を語ります。

 富子の人生。親に搾取されるので長崎(?)の実家を出て、名古屋の工場に行くが、伊勢湾台風で工場が大破。銀座にあこがれて夜行列車で東京へ。電車で偶然会った人の誘いでパン屋に勤めることになり、常連客だった料理人見習いの男と結婚。1度だけ銀座に行ったときに、あまりのまばゆさに感動して、命がけで働くことを決意。夫と中華料理屋を開業し、男の子を生む。しかし忙しい毎日の中で子育てはそっちのけ。夫が脳卒中で死亡したため、店を売って小金井に移るが、息子は出て行ってしまった。

 山本の人生。不動産業を営む夫が土地を転がし、家族で湯水のように金を使っていたが、バブルが崩壊したため自分(妻である山本)の母親から金を借りることに。夫は仕事のことを何も話してくれない。自分が必死で母親から借りた300万円も、夫は一瞬で使い果たした。それも「焼け石に水」のようだ。娘は会社員になったが、夜にひとりごとを言い続けるようになる。小学生の頃に度を過ぎる贅沢をさせたせいで、理想と現実のギャップに耐えられなかったのか、精神を病んでしまったのだ。

 『グランド・フィナーレ』でも感じたのですが、岩井さんは「子供が、子供らしい時期を過ごすことができないことが、子供の病気の原因だ」と考えていらっしゃるのではないでしょうか。富子の息子は子供時代に親に甘えることができなかったのでしょうし、山本の娘は小学生なのに銀座のクラブで遊んだりしたため、「子供らしい時期」を奪われたのだと思います。

 岩井さん演じる劇団の演出家・品川ゆきこの登場シーンが少なかったのは残念。品川ユキオのファンなので(笑)。
 岩井さんとは小金井つながりでもある松井周さんの、サンプル『通過』と重なるところがありました。特に装置はそっくりですよね。

 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演(舞台下手より):岩井秀人、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、徳永京子(演劇ライター)

 ケラさんが積極的にお話されて、とても面白かったです。岩井さんはケラさんの舞台に立つご予定があるそうです。楽しみ!

 ケラ「(自分の作劇方法は)散文でリアリスティックに始まるが、最後はポエティックになる。たとえば映画『自転車泥棒』のように。」

≪東京、大阪≫
出演:金子岳憲、永井若葉、坂口辰平、岩井秀人(以上ハイバイ)、有川マコト(絶対王様)、岩瀬亮、斉藤じゅんこ、小熊ヒデジ(てんぷくプロ/KUDAN Project)
脚本・演出:岩井秀人 舞台監督:西廣奏 照明:松本大介(enjin-light) 音響:長谷川ふな蔵 衣装・小道具:mario 記録写真:曳野若菜 記録映像:トリックスターフィルム 宣伝イラスト:岩井秀人 宣伝美術:土谷朋子(citron works) 制作:三好佐智子 坂田厚子 主催:ハイバイ・有限会社quinda 提携:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場(東京)
【休演日】6月9日(火)【発売日】2009/05/02 前売:2,800円 当日:3,300円(整理番号付自由席) 6月5日~8日の回には予約特典あり!
http://hi-bye.net/

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 22:03 | TrackBack

流山児★事務所『ブロードウェイ・ミュージカル「ユーリンタウン」』05/29-06/28座・高円寺1

 演出家の流山児祥さん率いる流山児★事務所が、創立25周年を記念してブロードウェイ・ミュージカルに初挑戦されました。杉並区の公共劇場である座・高円寺のオープニング公演でもあります。⇒囲み取材&稽古場見学レポート

 総勢40人以上の出演者による歌と音楽、ステージングに興奮!テーマ曲がまだ頭に残っています♪それがユーリンタ~ウン♪(だっけ?) 上演時間は約2時間45分(途中休憩15分を含む)。

 通常の劇場入り口ではなく、搬入口から客席へ。いきなりピチピチのセクシー警官に迎えられて、目がクラクラ(笑)。露出度高いッス!
 土日は劇場内外で「ユーリンタウン祭」が開催されます。阿波踊りやエイサーもあるらしい!⇒出演日程表

 ⇒「トイレ」巡る恋と革命 ミュージカル「ユーリンタウン」遠山悠介、関谷春子(産経ニュース)
 ⇒CoRich舞台芸術!『ユーリンタウン

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより。(役者名)を追加。
 舞台は、地球上の干ばつにより、節水を余儀なくされた近未来のある街。誰もが有料公衆トイレの使用を義務付けられていた。“立ちション”などをすると警官ロックストック(千葉哲也)らに逮捕され、誰もが恐れている「ユーリンタウン」に送り込まれることになっている。全てのトイレを管理しているのはUGC社。この法律はUGC社長クラッドウェル(塩野谷正幸)が賄賂で作り上げたもの。

 貧民街では今朝も、金がなくてトイレを使用できないホームレス達が大騒ぎ。しかし管理人ペニー(伊藤弘子)は容赦がない。そんななか、ペニーの助手ボビー(遠山悠介)の父親(大久保鷹)が“立ちション”をし、「ユーリンタウン」に送られてしまう。ボビーは失意の中、美しい娘ホープ(関谷春子)に出会い、自分が今何をすべきかに気づく。それは自由を求めて「革命」を起こすこと。街は大混乱。ボビーがついにクラッドウェルらと対峙した時、ホープが彼の愛娘だと知る・・・そして?
 ≪ここまで≫

 『ユーリンタウン』は2002年に日生劇場で宮本亜門さん演出版を拝見しましたが、その時はなぜこのミュージカルがアメリカでヒットしたのかがわかりませんでした。でも今作はとっても面白かった!!
 巡査部長ロクスッポ役の千葉哲也さん、ちびサリ役の坂井香奈美さんが、役を演じる以外に狂言回し的な役割も果たされます。劇の外側に居る立場から観客に話しかけたり、大胆なネタばらしをしてしまったり(このミュージカルの結末は・・・など)。観客は常に物語を外側から観る視点を持って、いわば冷静に登場人物たちの行く末を見守っていくことになります。

 『ユーリンタウン』はつまり「ションベン街」って意味ですので、猥雑っていうか・・・下品!、なシーンもありますが(笑)、それもまたこの作品の味だよねって思える可愛らしさ。そもそも私が生きてるこの街こそ、汚物まみれだよねと納得させられました。

 正方形のステージをL字型に客席が囲みます。私は会場に入って左側の2階(中2階?)席。上から下を覗くので、セクシー警官の女優さんの胸の谷間たちが次々と目に飛び込んできてですねぇ、女の私でも目がギラギラしちゃうよ(笑)。あ、でも2階からは生バンドが見えなくて残念。入り口から見て正面の席がいいな~。桟敷席の人は大迫力だったことと思います。

 2階といっても舞台はとても近かったです。東京ではミュージカルといえば1000席以上の大劇場で観ること多いですから、この公演はチケット代も4500円とオトクで、贅沢だと思います。ミュージカル界のスターが出演してるわけではないので、歌唱力やアンサンブルのダンスなどに過度の期待はしない方がいいですが、大勢のキャストがステージを埋め尽くし、全員で踊って合唱するシーンは鳥肌もの。特に第1幕最後のシーンが素晴らしかったです。

 公開オーディションで主役に選ばれた遠山悠介さんと関谷春子さんのコンビは初々しくて、恋に落ちた2人が見つめあうシーンの清純なムードに胸キュン♪ ただ、遠山さんは歌が得意ではないようでした。役者さんなのだから多くを求めてはいけないと知りつつも、関谷さんがお上手なのでどうしても比べてしまいました。長い公演ですので、がんばってもらいたいです。遠山さんは新国立劇場演劇研修所を修了したばかり。関谷さんは東宝ミュージカルアカデミーに所属されています。

 休憩時間は劇場内ロビーをてくてく歩いて過ごしました。建物全体は、倉庫がパカっと開いたような開放的な印象。らせん階段の空間が広くて素敵!上の階から下を眺めるのが楽しかった♪

 ここからネタバレします。

 日本の政治家(麻生総理、中川大臣、小沢民主党元党首など)を登場させるシニカルな歌は、ラップ調だった気がするのですが、歌詞が聞こえなくてとっても残念。ステージングも音楽も楽しかったゆえ、意味をわかりたかった・・・。

 「ユーリンタウン行き」とはつまり死刑のこと。UCC(うっしっし)社の高層ビルのてっぺんから突き落とされるのです。ビンボー(遠山悠介)も父親に続いて死刑になり、ビンボーの遺志を継いだホープ(関谷春子)は、自分の父親であるUCC社の社長クラウド(塩野谷正幸)を死刑にします。暴力の報復が連鎖しちゃうんですよね。
 その場でホープがUCC社の次期社長に就任し、水を無料で自由に使えるようにします。するとすぐに深刻な水不足に見舞われて、街は崩壊してしまうのです。冷血クラウドは市民を搾取していたけれど、街を水不足から守ってはいたんですよね。愛と理想を朗々と説きながら、ホープは市民を自滅の道連れにしてしまいます。とても皮肉な結末です。


 ≪ポスト・パフォーマンス・トーク≫
 出演:松本哉(素人の乱)、流山児祥、ほか

 松本哉(まつもと・はじめ)さんはとても愉快で勇気がある方だと思いました。六本木で鍋パーティーをしようとして、最後はどうなったのか聞きたかったな~。
 松本「街を混乱させるのが好き。」
 松本「今の街には隙間がない。余裕がない。」
 流山児「演劇で街を劇場化させたい。」

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流山児★事務所創立25周年記念公演スペシャル「-URINETOWN The Musical-」/座・高円寺 春の劇場03
【出演】千葉哲也・大久保鷹・三ツ矢雄二・塩野谷正幸・曾我泰久・伊藤弘子・関谷春子(ホープ)・遠山悠介(ボビー)・栗原茂・石橋祐・坂井香奈美・植野葉子・有希九美・木内尚・横須賀智美・上田和弘・小林七緒・里美和彦・平野直美・木暮拓矢・武田智弘・諏訪創・阿萬由美・鈴木麻理・山下直哉・・青葉みちる・秋葉ヨリエ[燐光群]・石本径代・井上裕朗・井村タカオ[オペラシアターこんにゃく座]・奥山隆[オフィス3○○]・菊池祐美子・鈴木啓司[劇団銅鑼]・清水泰雄・滝香織・鄭光誠[新宿芸能社]・中山圭[イッツフォーリーズ]・箱田好子[劇団昴]・平野トン子・舩山智香子・松井亜紗美・茉莉以・森加織・横山央[江戸糸あやつり人形座]・渡邊亮・稲増文 【演奏】Reed:小藤田康弘 Tuba:古本大志 Drums:萱谷亮一 Piano:荻野清子
【脚本・詞】グレッグ・コティス 【音楽・詞】マーク・ホルマン 【翻訳】吉原豊司 【台本】坂手洋二 【演出】流山児祥 【音楽監督】荻野清子 【訳詞・演出補】浅井さやか 【振付】北村真実【殺陣】岡本隆【美術】水谷雄司 【照明】沖野隆一 【音響】島猛 【衣裳】胡桃澤真理 【舞台監督】廣瀬次郎 【演出助手】畝部七歩 【ユーリンタウン祭り演出】伊藤靖朗 【宣伝美術】アマノテンガイ Flyer-ya 【宣伝衣裳協力】宮村泉 【舞台写真】横田敦史 【起案・上演権取得交渉】吉原豊司 【制作】岡島哲也 米山恭子 【制作協力】ネルケブレインズアンドハーツ 【提携】座・高円寺/NPO法人劇場創造ネットワーク 【主催】流山児★事務所
全席指定 一般:4,500円  学生割引:3,000円 Ryu'sClub会員:3,600円
http://www.ryuzanji.com

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 21:10 | TrackBack