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2010年06月17日

【レポート】芸団協2010「ラウンドテーブル『劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!』」【6】04/30-05/01芸能花伝舎1-1

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劇場法(仮称)RT【6】

 『劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!』【6】は、2日目に行われた参加者によるグループ・ディスカッションにおいて、グループごとに出た意見のまとめです。一部、1日目の大和さんへの質疑応答も含めました。
  ⇒劇場法(仮称)RT【全体のまとめページ

 ■劇場法(仮称)についての最初の印象
 ■劇場法(仮称)はまだ提案段階
 ■芸団協の「劇場法(仮称)の提言」および「ビジョン2010」ついて
 ■もっと全国的な議論を
 ■地域格差
 ■第1類型「創造する劇場」と第2類型「鑑賞機会を提供する劇場」
 ■人材育成の場としての劇場
 ■教育機関としての劇場
 ■責任者の資格およびその任命方法などについて

■劇場法(仮称)についての最初の印象

 ・劇場側からみると、とても今の状態に即していて良い。
 ・劇場法(仮称)には基本的に賛成。制定されていない法律について、これだけの大人数が議論を行っていることが重要。
 ・文化予算が増えて、競争が増えて、淘汰が行われて分配されるのは、正しいことなのではないか。
 ・芸術団体および劇場側の人間が自立しなければいけないと感じた。助成(お金)を受ける人は受けて、受けない人は受けなければいい。自分たちで考えて選択をする。劇場法(仮称)が定められたら、最終的にそれを運用する側の意識が大切。

 ・法律というもの自体に疑問がある。芸術はしばられるべきではない。
 ・具体的な話が見えてこない。個別の状況にあてはめて考えられないので不安。
 ・民間で自由にやっている側からすると、外に置かれている気がする。
 ・公共と民間だと、民間が切り捨てられはしないか。
 ・劇場法ができたことで、今までの団体助成をなくされては困る。いままで培ってきたものをなくしてしまうのが、いわゆる行政のやり方じゃないのか。

 ・今までの日本の官や公共というと、やはり“お上”(逆らえないもの)のイメージがあった。でも今は公共だからこそ、例えば国にけんかを売るような内容の作品でも作ることができると思う。国は支援はしても、作品の性質は問わないのだから。税金をもらって国を批判することもできないわけじゃないと思う。

 ・国家予算を文化に多く投資している国は、文化を国家戦略として使っている。例えば(近隣では)中国、韓国など。そういうビジョンがなければ、国が文化にお金を払うという発想に対して、国民の理解が得られづらいのではないか。文化にお金を使う人がこんなにもいるのだと示さなければ、昨年の事業仕分けのようなことが起こる。芸術は個人の責任だと言われてしまう。芸術家の自由を守りたいと強く思う人の気持ちもわかるが、「だったら自己責任でやればいい(援助なしでがんばれ)」と言われかねない。だから、国家戦略としてのヴィジョンがあるのだと伝えるためにも、劇場法(仮称)は必要である。


■劇場法(仮称)はまだ提案段階

 ・法律を作るプロセス、仕組み、考え方について、日本人はあまり理解していないようだ。例えば平田オリザさんと芸団協がそれぞれに発言すると、対立していると思い込んだり。劇場法(仮称)はまだ決まっていない案だとわかれば、無駄な誤解が減るのではないか。


■芸団協の「劇場法(仮称)の提言」および「ビジョン2010」つい

 ・「ビジョン2010」については、一般の方にもわかるように、もっと具体的で分かりやすい指標が必要ではないか。「劇場法(仮称)の提言」で27ページにフランスの例が挙げられている。10代の観客をどれだけ増やすかという指標が明確でわかりやすい。誰が観ても「これが目標だ」とわかる具体例をもっと入れてほしい。 

 ・芸術家個人を守るための、「芸術家法」が補足としてあってもいいんじゃないか。
 ・国内のものでしかない。外に発信していくビジョンが見えない。


■もっと全国的な議論を

 ・これまで及びこれからの人たちが協力し合える環境をつくっておかないと、法律が出来ても意味がない。枠組みを作る前に、何を目指すのかを知る機会をつくってほしい。アーティスト側だけでなく劇場側の意見も聞いて、みんなで目指すものを知る機会をつくることが先だ。全国各地で同じ議論ができるようにすべき。

【写真↓4/30の講座の休憩時間】
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■地域格差

 ・中央集権にせず地域間格差をなくし、皆で文化を活性化していくことが求められている。だから劇場法(仮)は有効だ。
 ・地方格差をなくすのは良い。時間のかかることだが少しでも進むのは良いこと。
 ・偏っていたものがこの法律で平等になるのは喜ばしい。ただ「平等」という言葉が、それをいえばすべて問題解決するように(オールマイティーのように)聞こえるのが不安。

 ・質の高いものを地方でも格差なく観られるようにと願うのは、作り手側の理論。地方に作品を持ってきても、誰がその集客をするのか。いいものを作っただけでは人は集まらない。地方の劇場と芸術家がどう連動するのかが見えづらい。
 ・作り手側の観点が強くなりがちだが、地域の人たちにどうかかわって、巻き込んでいくかという視点が必要だろう。

 ・地域の公共劇場の現状として舞台スタッフが不足している。例:1劇場に専属スタッフが4名しかいない。
 ・地域格差については、それぞれのニーズに合わせた要望が反映されてほしい。
 ・地域を巻き込む手段の例:新潟りゅーとぴあの県民ミュージカル、東京芸術劇場の若い世代への支援会員制度など。


■第1類型「創造する劇場」と第2類型「鑑賞機会を提供する劇場」

 ・劇場を認定するシステムがわからない。誰がどういう条件で決めるのかを明確にするといいのでは。
 ・どんな公立施設が、第1類と第2類のどちらの対象になるのか(ならないのか)が、わかりづらい。
 ・例えばある県が「創造する劇場」にも「鑑賞機会を提供する劇場」にも立候補しなかった場合、その県の芸術団体はどうすればいいのか。
 ・フランチャイズ団体の在り方を決めるべきかどうか。決めるなら具体的にどうするか。
 ・創造する劇場でなく単純な貸し館になったとしても、貸し館費用の支援がある。劇場費を下げることで、創作環境が変わればいいと思う。
 ・劇場が自主製作する主催事業だけで年間スケジュールを埋められるわけがないので、芸術団体との連携関係が当然必要になってくる。


■人材育成の場としての劇場

 ・劇場の教育機関としての役割や人材育成について、どこを目指すのかわからない。誰(どこ)が決めるのかも合わせて具体的に、明確にしてほしい。

 ・劇場法(仮称)が実際に施行された先の状況が想像できない。芸術監督や経営責任者などのTOPの人たちだけでなく、現場の制作者やテクニカルスタッフ、そしてもちろんアーティストを、どうやって育成、雇用していくのか。

 ・ある一定の生活がきちんと担保できる制度ができるのと同時に、劇場が創作もできるようになり、アーティストも自分の発表が出来たらいいと思う。ただ、地方の公共劇場は東京の小劇場にくらべると大きな空間が多い。東京から多数のアーティストが地方に行ったとしても、空間をちゃんと使える人が少ないのが現状では?そのためにアーティストと劇場が連携して、演出家、作家、俳優を育てていくことができるのではないか。


■教育機関としての劇場

 ・子供の芸術鑑賞機会が年1回というのは少ないんじゃないか。
 ・子供の鑑賞機会をつくるのはいいことだ。学校ではできない芸術体験を、劇場がもっと請け負えるようになれればいい。
 ・学校にアーティストを派遣するなど、劇場が学校や地域と関わるやり方をもっと作るべき。
 ・劇場はスター・システムでしかできないことと、戦えばいい。有名人が来れば観客が集まるのとは別の方法がある。


■責任者の資格およびその任命方法などについて

 ・芸術監督の選抜方法をどうするのか。芸術監督の任命の仕方に具体的なガイドが必要。
 ・芸術監督の資格は?学芸員とか?
 ・資格制度が導入されると、たたきあげの人がはじき出されないか。
 ・芸術監督の仕事を監査するシステムが必要なのではないか。
 ・芸術監督の仕事が失敗だった時の責任を、地元に残したくない、しこりを残したくない。

 ・責任者が2人じゃなく3人(経営、芸術、技術)なのはいいことだ。
 ・責任者の任期は必ず必要。任期は何年が妥当か。3年以上だと長すぎて、循環しなくなるのではないか。でも実務をこなすためには3年は短い。任期に入る前に2年間の準備期間を取ると良いかもしれない。

 ・同じ芸術監督という役職であっても、野村萬斎さんの仕事と宮城聰さんの仕事が違うだろう。劇場によってあまりに違うと、選ばれたアーティストは困ると思う。“芸術監督・プロデューサー”という風に役職名が2つが重なっただけで、もうわからない。まだまだ議論の余地があると思う。希望としては何かガイドになるものが欲しい。

 大和「芸術監督については、ただいま実態の調査中。任命の手続きやその人に与えられる役割、そして責任と権限を明文化する必要がある。」

 米屋「芸術監督は地域の理事会が選ぶ。静岡舞台芸術センターと杉並区の座・高円寺は首長が選んだ。でもそれらは例外的で全国に5例もないのではないか。多くは自立した組織で最高意思決定機関である理事会で決める。ただ、これは手続き論にすぎず、本当にその人材が地域住民から支持されるかどうかは地域それぞれ。芸術監督が地元の人なのか、地元出身者なのか、東京からの紹介なのかも千差万別。あくまでもこの法律の提案は“地域主権”のうえにあるものである。」


芸団協ラウンドテーブル「劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!」
主催:社団法人日本芸能実演家団体協議会
http://www.geidankyo.or.jp/12kaden/04pro/manage/gekijo_rt100430html.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 20:42 | TrackBack

【レポート】芸団協2010「ラウンドテーブル『劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!』」【3】04/30-05/01芸能花伝舎1-1

 『劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!』【3】では、東京芸術劇場副館長の高萩宏さんのお話をまとめました。
  ⇒劇場法(仮称)RT【全体のまとめページ

 高萩さんは野田秀樹さんと劇団夢の遊眠社で長年一緒に劇団活動をされていた方で、昨年「僕と演劇と夢の遊眠社」を上梓されました。

僕と演劇と夢の遊眠社
高萩 宏
日本経済新聞出版社
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 ■実演芸術のある生活のメリットを社会に訴えていく
 ■芸術施設を“効率的に運営する”のは語義矛盾ではないか
 ■伝統の文化を次へとつないでいくこと
 ■日本はチケット代が高すぎる
 ■日本は文化のフリー・ライダー(タダ乗り)
 ■芸術に携わる者の説明責任

■実演芸術のある生活のメリットを社会に訴えていく

 私はもともとは劇団に所属しており、そこから民間劇場に移って、今は公共劇場(世田谷パブリックシアターから東京芸術劇場)で働いている。劇団よりも劇場にいる方が、長期的な企画に取組めたり、劇場の持っている可能性を引き出したりと、色んなことがやりやすくなった。でも公共劇場は決して芸術家のものではない。たとえば、建物としての世田谷パブリックシアターは世田谷区のもの。だから、ステークホルダーである、住民はもちろん、自治体の方々、議会の議員さんとも、うまくやっていかなければならない。

 昨年の事業仕分けの議論を見てもわかることだが、実演芸術がどのくらい現代の社会に役立っているのかが、世間にあまり伝わっていないのだろう。
 子供のころからしっかり実演芸術に触れて、その楽しさを知ることができれば、実演芸術の創造性、表現力からコミュニケーション能力を養い、そして社会との関係をしっかり取り戻すことができる。そういったことをちゃんと実施し、劇場が存在する社会的意義を訴えていくことが大事。
 実演芸術に興味のない人たち(日本人の7~8割)に、実演芸術の拠点があっても良い、舞台芸術に少しは税金が使われてもいいんだ、と思ってもらわないといけない。そうじゃないと我々に先はない。


■芸術施設を“効率的に運営する”のは語義矛盾ではないか

 劇場法(仮称)については、世田谷パブリックシアターで働き始めたことから、是非作ってほしいと思っていた。世田谷だけのものでなく、国のものであり、世界のものである感覚が必要。まず「設備が整っている公立文化施設は劇場である」と認めてもらうこと。指定管理者制度の仕様書には「効率的に運営すること」と書かれているが、スポーツ施設や駐車場に効率を求めるのは良いとしても、芸術施設を「効率的に運営する」のは語義矛盾ではないか。だからせめて、単なるアマチュアの発表用の公民館と、技術の責任者・芸術的責任者・経営の責任者がいて専門に舞台芸術作品を作ったり、提供する施設を区別してもらいたい。

 東京芸術劇場は実際のところ、指定管理者制度になったことでスタッフがかなり減ってしまった。貸し館をするだけならなんとか回せるが、自主事業をするとなるととても人手が足りない。でも、定員の枠があって職員をこれ以上増やすことができないので、今は自主事業ごとに新たに委託したりしている。劇場法(仮称)が成立し、助成制度も変われば、劇場でのスタッフの働き方なども改善されると期待している。

 認定を受けた劇場の中で自主事業などの活動には、劇場を設置した自治体からだけでなく、国などからも支援をもらい、民間・個人の寄付を受付け、さまざまな支援を受けつけられるようにする。
 公益法人改革もかなり大きい影響がある。公益法人になれば税制優遇もあるので、寄付金も集めやすい。東京都歴史文化財団は4月1日に公益認定を受けた。


■伝統の文化を次へとつないでいくこと

 舞台芸術について言えば、日本は能、歌舞伎、文楽などの海外が憧れるような遺産を持っている。我々は島国の中でそれだけの文化を培ってきた。経済力だけじゃなく、それらの素晴らしい遺産を持っている民族であり、知恵も価値も可能性もあるんだと発信していくべき。
 また、ただ保存するだけじゃなく、次へとつないでいくこと。情報革命の中にある現状に合わせた舞台作品を作る能力がある、文化力があるんだと見せることで、日本の発言力が増していくのではないか。


■日本はチケット代が高すぎる

 日本はチケット代が高すぎる。それを言っていかなければいけない。売れている公演もあるかもしれないが、チケット代が高すぎることによって、観るのを妨げられている人たちはすごく多い。高いチケットだから宣伝をせねば売れないので、ますます高くなっている。
 ピナ・バウシュを1,000円で観られるドイツと、15,000円も出さないと観られない日本では、絶対に何かが違う(ドイツでは芸術施設でかかる経費の9割が公共の支援で成り立っている)。


■日本は文化のフリー・ライダー(タダ乗り)

 平田オリザさんが言っていたことでもあるが、日本の文化は他の先進国が作った同時代の芸術活動(外国の舞台芸術など)に、タダ乗りしているところがある。自国の伝統の文化の保存、現代を映すような芸術活動にちゃんと税金をつかって作っていない状態は、先進国が現代の先端的芸術分野を支えていることを考えると、フリー・ライダー(タダ乗り)状態といえるのではないか。先進国に追いついて経済大国になった今、そこは埋めていかなきゃならない。

 10年後、20年後、30年後を考えると、将来の日本社会はかなりきわどいところに来ているのではないか。今のまま、公共的にはフリー・ライダーでいると、高額のチケット代に支えられている歌舞伎は、残って行けないかもしれない、という恐怖がすごくある。日本が持っている世界に誇れる文化をどう継続していくのか。そこは、人材育成、興行形態などの制度を変えていくしかない。僕は、この情報化社会の中で実演芸術が生き残っていくためには、まずは劇場が(公立文化施設から)きちんと役割を果たさなければならないと思っている。そのためにも劇場法(仮称)が必要。


■芸術に携わる者の説明責任

 日本の文化芸術を擁護したいと思うなら、舞台芸術関係の人でも、音楽、美術などの他の芸術ジャンルの人とも、文化政策について話が出来なければいけない。もちろん芸術分野以外の世界にも、芸術分野の必要性を説いていくことが必要。ちょうど今、事業仕分けで、古くから残っている色んな団体への助成金を大胆に切り刻んでいる。「今、この分野に税金を使っていいんだ」という話をしないとだめ。

 これから実演芸術を仕事にしていきたいと思っているのなら、是非自分たちのやっていることにどういう社会的・今日的意義があるのかを、言葉にしていく作業をしていただきたい。それから他の分野の人たちと、どんどん話をしていくこと。自分たちの将来を守る言葉を持ってもらえたらと思う。


芸団協ラウンドテーブル「劇場法(仮称)で何が変えられるのか?!」
主催:社団法人日本芸能実演家団体協議会
http://www.geidankyo.or.jp/12kaden/04pro/manage/gekijo_rt100430html.html


※クレジットはわかる範囲で載せています。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 18:56 | TrackBack