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Shinobu's theatre review
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REVIEW

2011年06月11日

SPAC『真夏の夜の夢』06/04-05静岡芸術劇場

 SPAC・静岡舞台芸術センターの「ふじのくに⇔せかい演劇祭2011」が開幕しました。トップバッターは今回のフェスで最も早く前売り完売になった『真夏の夜の夢』です。野田秀樹さんと出会って演劇を志したというSPAC芸術総監督の宮城聰さんが、初めて野田戯曲を演出されました。⇒記者発表

 私はこれまで何本もの野田作品を劇場で観ていながら、野田さんが、絶望の淵にいながら極限まで研ぎ澄ました言葉を発し続けている、素晴らしい詩人であることを知りませんでした。野田さんに謝りたい気持ちです。そして宮城さん、ありがとうございました!

 この舞台が終わった後、『タカセの夢』を観るために舞台芸術公園に行きました。緑がいっぱいの山を歩いきながら、ここには妖精がいる、鳥のさえずりは彼らの声なんだと、本当に思いました。大の大人がそんなお人好しで夢見がちなことを本気で信じられたのは、演劇の、詩の魔法のおかげです。

 たった2ステージの公演でした・・・どうか再演を!

 ⇒日比野啓さんの演劇批評
 ⇒CoRich舞台芸術!『真夏の夜の夢

 ≪あらすじ≫ 公式サイトより
 創業130年の割烹料理屋「ハナキン」。その娘・ときたまごには許婚がいた。板前のデミである。デミはときたまごを愛していたが、彼女は板前のライに恋心を寄せていた。ときたまごとライは<富士の麓>の「知られざる森」へ駆け落ちする。それを追いかけるのはデミと、彼に恋をしている娘・そぼろ。森では妖精のオーベロンとタイテーニアが可愛い拾い子をめぐって喧嘩をしている。オーベロンは媚薬を使ってタイテーニアに悪戯をしようと企み、妖精のパックに命令する。ついでにそぼろに冷たくするデミにも媚薬を使おうと思いつく。しかし悪魔メフィストフェレスが現れ、パックの役目を盗みとる。そこに「ハナキン」に出入りしている業者の面々が結婚式の余興の稽古にやって来て、事態はてんやわんやに……。
 ≪ここまで≫ 

 俳優が客席を向いてセリフを語るSPACならではの演出方法は、最初はとっつきづらいかと思います。でも徐々に「形式に沿っているからこそ、言葉が耳に届く」と思うようになりました。ダジャレも笑えましたし、小さめの声でゆっくりと心情を語る場面では、その人物の身体が透き通って、言葉だけが宙に浮かぶように感じました。

 舞台にはのぼり棒のようなパイプが何本も建っていて、はしごみたいに役者さんが登れるようになっています。高い場所で静止してポーズを取ると絵画のよう。棒と身体が縦横に交わるのは二次元のグラフみたいです。立体的な衣裳をまとった妖精が現れて平面と立体が交差し、横幅や奥行以外の、いわば四次元の広がりを想像させます。
 打楽器を中心とした音楽がかなり長い間流れていました。役者さんがかわるがわる演奏しているんですね。生演奏とよく練られた発声とのコンビネーションは贅沢です。ただ、宮城さんの舞台でよく感じることなんですが(⇒)、同じリズムの盛り上がり部分が多すぎる気がしました。

 原作には登場しないメフィストフェレスがパックに成り代わり、物語は予想外の方向へ。『真夏の夜の夢』とは違った物語が交わってきます。メフィストフェレス役の渡辺敬彦さんが素晴らしかった!!決まったセリフ回しと動きの“異物感”が効果的で、映画「バットマン」のジョーカーを思い出しました(ジャック・ニコルソンかヒース・レジャー)。

 野田さんの作品を観る時、複雑なストーリーに追い付けなくなっても「わー、すごいなー!」と演出に魅せられて、終演時には勝手に満足していたりします(私の場合)。でも今回は、言葉遊びもストーリーも理解できました(たぶん)。物語の力、言葉の力が、世界を変え得るのだと、本気で思うことができました。ただしそれは決して目には見えないのですが。
 
 ここからネタバレします。セリフは正確ではありません

 そぼろが飲み込んだ「森よ滅びろ」という言葉が、メフィストフェレスと契約を結んでいました。内田樹さんのブログにもありましたよね。人間の思いは、言葉にならなくとも世界とつながっていて、現実に影響を及ぼします。

 メフィストフェレスの涙が妖精たちの「姿を見せるマント」の灰を流してしまい、また妖精たちは人間の目には見えなくなります。でもその灰は地面に落ちて沁み込み、草木がそれを吸い上げて、やがて緑の葉から光とともに降り注いでくれる。彼らは木に宿っているのです。妖精たちは「木の精」。つまり「気のせい(想像力)」。

 そぼろが物語を語る場面で、メフィストフェレスは何かを必死に書く動作をしていました。つまり彼は野田さんなんですね。
 そぼろは森に迷い込んだ「不思議の国のアリス」で、このお話は彼女が観た夢だったという結末。ただの“夢落ち”ではなく、一人の人間の想像や意志が、どれほど豊かで力があるかを示してくださったと思います。

 妖精たちの衣裳は新聞紙でできていました。震災直後、私が知りたいことを書いてくれなかった新聞。そぼろがとぐろをまいたウンコみたいな形の(本当に・笑)新聞のかたまりを両手で持ち上げて、デミとライに向かって怒る場面では、ゴミになった言葉のかたまりが武器になったように見えました。ただ、宮城さんは新聞をゴミだとは思っていらっしゃらないと思います。ゴミで妖精の全身をつつむはずはないですから。

SPAC「ふじのくに⇔せかい演劇祭2011」6/4(土)~7/3(日)
【出演】〈メインキャスト〉そぼろ:本多麻紀 ときたまご:保可南 板前デミ:菅原達也 板前ライ:泉陽二 割烹ハナキンの主人:大高浩一 仲居おてもと:布施安寿香 福助:小長谷勝彦 オーベロン:貴島豪 タイテーニア:たきいみき パック:牧山祐大 メフィストフェレス:渡辺敬彦
〈出入業者〉 氷屋:加藤幸夫 豆腐屋:関川哲生 酒屋:牧野隆二
〈妖精たち〉 夏の精かしら:いとうめぐみ 年の精:瀧澤亜美 あたしの精:赤松直美 石井萌水 木内琴子 目が悪い精:山下ともち 吉見高 耳が悪い精:佐藤ゆず 若宮羊市 妖精:眞野梨江
演出:宮城聴 原作 W・シェイクスピア 小田島雄志訳『夏の夜の夢』より 潤色:野田秀樹 音楽:棚川寛子 舞台監督:村松厚志 照明デザイン:岩品武顕((公財)埼玉県芸術文化振興財団) 照明:樋口正幸 松村彩香 舞台美術デザイン:深沢襟 舞台美術助手:鈴木里恵 西沢理恵子 佐藤洋輔 音響:小嶋純真 衣裳デザイン:駒井友美子 衣裳:満田年水 棚橋美幸 岡村英子 市川晶子 舞台:武石守正 渡辺明 ヘアメイク:梶田キョウコ 石橋芳子 許田雪恵 英語字幕翻訳作成:エグリントンみか 英語字幕翻訳協力:アンドリュー・エグリントン 英語字幕操作:岸本佳子 制作:仲村悠希 谷口裕子 協力:NODA・MAP 製作:SPAC (財)静岡県舞台芸術センター
一般大人4,000円/大学生・専門学校生2,000円/高校生以下1,000円
http://www.spac.or.jp/11_fujinokuni/nightsdream
記者発表⇒http://www.shinobu-review.jp/mt/archives/2011/0414230505.html

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年06月11日 16:51 | TrackBack (0)