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Shinobu's theatre review
しのぶの演劇レビュー
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2011年08月20日

マームとジプシー『コドモもももも、森んなか』02/01-07 STスポット

 マームとジプシーは藤田貴大さんが作・演出される劇団です(過去レビュー⇒)。今回も初日前にチケットは完売。追加公演も完売したそうです。当日券あり。上演時間は約1時間50分。

 開幕した途端、キました・・・!俳優が自分自身から離れて少年少女役に徹することで、日常の出来事が異化されて普遍に。幼児の叫びは全人類を代弁しているようでした。

 ⇒舞台写真
 ⇒『しゃぼんのころ』劇評(徳永京子)
 ⇒『ハロースクール、バイバイ』劇評(荻野達也)
 ⇒インタビュー『ここだけのはなし ~柴幸男×藤田貴大の場合
 ⇒CoRich舞台芸術!『コドモもももも、森んなか
 ※ずいぶん前に書いたレビューですが、アップするのが遅れました(2011/08/20)。

 あらすじから書き始めることが、この作品を語るには手落ちな気がしますので、ネタバレ以降で。

 これまでの2作品では“中高生の学校生活への郷愁”という側面が私には大きすぎて、観察する視座から離れられなかった(のめり込めなかった)のですが、今回は始まるなりいきなりドカ!っと、ブス!っと、ガクガク!っと揺さぶられ、早くも落涙。3分ぐらいしか経ってなかったんじゃないかな(苦笑)。

 セリフがとても早口で聴きとれません。でも別方向から、別の視点から同じシーンが何度も繰り返されるので、何が語られ何が起こっているのかが徐々にわかってきます。「早口で聞き取れなかったことが知りたい」という興味をエンジンにして集中できました。ただの繰り返しではなく演じるごとに音量も語気も変化しますから、それこそ早口でしゃべり続けること自体の面白さもあって、全く退屈しませんでした。

 多数の視点から描くことで物語が立体的に味わえる感覚です。実は世界は無数の視線にさらされて存在していますし、1人の人間を形作るのは本人だけでなく、その人を見つめる視線、記憶もその構成要素ですよね。劇場で一緒にこの舞台を観た他の観客の方々のことも、この作品とともに私の記憶に残ると思います。

 役者さんへの負荷が大変高いです。「これはハードです」と観客のくせに断言しちゃいます。役者さんたち、凄いです。特にモモ役を演じた召田実子さんは、ピカソの絵に描かれるライオンのような、猛獣に見えました。極めて純粋素朴で、欲望に忠実で、目的のためなら野蛮な行為も辞さない、生命力のかたまり。でも心がある。
 泣き叫んだり、怒りをぶちまけたり、甲高い声で早口で主張をまくしたてたり、そういう強いベクトルが見える行為が、野蛮であればあるほど純度の高さにほれぼれし、美しくて見入ってしまいます。

 ここからネタバレします。

 ≪あらすじ≫
 小学生の長女、次女、そしてまだ保育園に通う三女の生活風景。姉2人が末っ子を交互に送り迎えをしている。母親はなかなか家に帰ってこない。父親も不在のようだ。
 ≪ここまで≫

 母はおそらくスナック経営者で趣味はパチンコ。深夜になっても家には帰らず、三人姉妹をほぼほったらかし。でも末っ子が1人で出かけることが多かったり、突然いなくなる(死んでしまう)ことから、もしかすると末っ子は不治の病に冒されており、母親はその世話と治療費を稼ぐことで精いっぱいのシングルマザーだったのかも、と想像。
 やがて父のいる東京へ旅立つ長女。次女は(母親がいない間の)留守番は私がいるから、と長女に告げる。

 終盤に「キャロル・キングの『つづれおり』が流れていたから母の店だとわかった」という次女のセリフがあります。幼いころに何度も聴かされたから覚えていたんですね。実はこのアルバム、開演前の開場時間に流れていました。私はこのアルバムが大好きで、昔は全曲歌えるほど聴き込んでいました(今はもう無理だけど)。だから開演前はちょっと変な感じがしていたんです。白い床に寝転がったり、無言で遊んだりしている少女たちとはアンマッチだったから。でも腑に落ちました。

 最初と最後に母の影を感じさせたのは、「このお芝居全体が母の思い出だった」という演出だと受け取れると思います。そういえばタニノクロウさん演出のイプセン作『野鴨』も、最初と最後に口数少ない父親が一人で座っている場面があったんです。少年少女の生をギラギラと鮮やかに描き、同時にそれを親の視線でパッケージングしたのは見事だと思います。

つづれおり
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キャロル・キング
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コドモたちのちぐはぐなカラダとココロ、それとすこしだけ、ミライ。
坂あがりスカラシップ2010対象公演
出演:青柳いづみ(役:次女) 伊野香織 荻原綾 北川裕子 斎藤章子 高山玲子 とみやまあゆみ 召田実子(役:三女モモ) 吉田聡子 大石将弘(ままごと) 大島怜也(PLUSTIC PLASTICS) 尾野島慎太朗 波佐谷聡
脚本・演出:藤田貴大 舞台監督:森山香緒梨/加藤唯 照明:吉成陽子 照明オペ:明石伶子 音響:角田里枝 宣伝美術:本橋若子 制作:林香菜 共催:坂あがりスカラシップ(急な坂スタジオ・のげシャーレ・STスポット)
【発売日】2010/12/26 ご予約2000円/当日券2200円
http://mum-gypsy.com/archive/post-19.php

※クレジットはわかる範囲で載せています。順不同。正確な情報は公式サイト等でご確認ください。
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Posted by shinobu at 2011年08月20日 13:51 | TrackBack (0)